貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第十話 仕事

 しばらくぶりの休日は、あっという間に過ぎ去った。買い物をして、調達してきたベッドや日用品を部屋に置いて、ついでにちょっと掃除なんかして、それでおしまい。

 気付けばもう夕方だ。新居の下見どころではなかったし、もちろんゆっくり休んでいるような時間もなかった。ああ、せっかくの休みが……まあそれなりに楽しかったからいいか。

 で、その翌日。朝食をとってから、ぼくたちは冒険者ギルドへと向かった。いよいよ、初仕事というわけだ。

 

「なんかこう、相変わらず冒険者ギルドって感じじゃないですよね、ここ」

 

 相変わらず、冒険者ギルドのエントランスは高級ホテルめいた雰囲気に包まれている。そんな場所でいかにも荒くれらしい連中がワイワイやってるものだから、違和感が凄い。

 

「まあ、ヴァルトブルクですからな。地方の支所とは違いますよ」

 

「なるほど」

 

 田舎はもっと質素な感じなのか。個人的にはそっちのほうがありがたいかもしれない。ここはちょっと豪勢すぎる。

 

「それで、冒険者ってどうやって仕事を請けるんでしょう? 掲示板に依頼が貼り付けられているとか?」

 

「よくご存じですな」

 

 薄く微笑み、ステラさんはエントランスの片隅に視線を向けた。そこには大きな掲示板が設置され、多くの冒険者たちで賑わっている。

 

「ですが、あそこに張り出されている依頼はもっぱら緊急度が低いものです。ランク的にも、せいぜい銀級以下が対象ですな」

 

「ああ、そうか……自由受付だと、どうしても売れ残りの依頼が出ちゃうから」

 

「さよう。拙僧のような金級冒険者は、あちらの依頼は滅多に受けませぬ。下位ランクの者たちの仕事を奪うことになりかねませんし、他にもっと切実な依頼もありますゆえ」

 

 そんなことを話していると、ギルド職員の一人が寄ってきた。先日ぼくの登録を担当してくれたホルツヴァートさんだ。

 

「おはようございます、ラッツァーティ様、フォッケル様。お仕事の受注ですか?」

 

「おはようございます、ホルツヴァート殿。ええ、まさしく。良さそうな依頼はございますかな?」

 

「もちろんですとも! ご用意いたしますので、あちらの応接室でお待ちください」

 

 などと言って通されたのは、先日と同じ小部屋。驚いた、依頼を選ぶためだけに個室が用意されるとは。

 

「ちなみに、掲示板依頼はふつうにエントランスの受付で受諾する方式ですぞ。今回のような措置が取られるのは金級以上の冒険者か指名依頼等の特殊な案件のみです」

 

「はぇ~」

 

 つまりVIP対応ってわけだ。そう考えると、金級ってのは本当に高い地位なんだな。銀級以下とは明らかに扱いが違う。

 ……一年の見習い期間が終わったあとは鉄級からスタートだっけ? そんな下っ端、どうせロクな扱いじゃないだろうなぁ。ステラさんの下で見習いやって、ほんとうに勉強になるんだろうか? かえって良くない癖がつきそうな気がする。

 

「独り立ち後のことを考えると、掲示板依頼の受け方なんかも教えてもらったほうがよさそうですね」

 

「独り立ち?」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

 

 間抜けヅラで見つめ合っていると、応接室のドアが開いた。入ってきたのは、いくつかの書類を手にしたホルツヴァートさんだ。

 

「お待たせいたしました。ラッツァーティ様向けの依頼を三つほど拾って参りましたよ」

 

 席に着くと、ホルツヴァートさんはまずテーブルに大きな地図を広げた。ヴァルトブルクを中心に描かれたかなり詳細なものだ。欄外には赤字でデカデカと『持ち出し禁止』と書かれている。

 

「まずは一つ目。これは、我らが東方辺境領の領主、オストラント辺境伯ジークリンデ様じきじきのご依頼です。ヴァルトブルク北の伐採場で甲鱗虫(ワーム)が出現し、作業が滞っているようでして。これを討伐せよというご命令ですね」

 

甲鱗虫(ワーム)。そいつは大物ですな」

 

 ステラさんが唸った。甲鱗虫(ワーム)は地中に棲息する虫型モンスターで、外見はミミズに似ているがその体長は最大で十メートルにも達する。

 積極的に人を襲ったりはしないが、こいつが出てくると地盤沈下や崩落なんかが多発してかなり危険だ。

 

「そういえば、フェルト殿は甲鱗虫(ワーム)についてはご存じですかな」

 

 ふと気付いた様子で、ステラさんがぼくに囁く。指導役(メンター)として、ぼくに冒険者としての知識を教育してくれているのだろう。

 

「ええ、もちろん。美味しくないですよねアレ」

 

「えっ?」

 

「こほん……よろしいですか? ラッツァーティ様。説明を続けますよ……。事が事ですから、ギルドとしても重点解決案件と位置づけています。伐採が滞れば、燃料や建材の価格高騰は避けられない。市民生活にも多大な悪影響を及ぼすでしょう」

 

 やれやれと言いたげな様子で首を左右に振るホルツヴァートさん。ああ、そうか。領主様直接のご用命だものな。上から「さっさと解決しろ」と圧力をかけられているのだろう。

 

「報酬は三万ジルバ、相場よりかなり高めです。いかがですか? ラッツァーティ様」

 

「考えておきましょう。が、とりあえず今はほか二つの依頼についてもお聞かせ願いたい」

 

 ホルツヴァートさんの懇願めいた視線をするりと躱し、ステラさんは澄ました顔で答える。

 いやぁしかし、三万ジルバか。さすが金級用の依頼、凄い額だ。田舎なら、千ジルバもあれば大人ひとりがまる一年間どうにか暮らしていけると言われている。日本円に換算すると……三千万円は軽く超えるだろうな。

 

「承知いたしました。……二つ目はバーゲンベック商会からのご依頼です。内容は、ヴァルトブルクから帝都ニヒトベルクへと向かう隊商を護衛してほしいというもの。拘束時間はかなり長いですが、報酬は敵襲の有無に関係なく三千ジルバで悪くはありません」

 

 ぼくはちらりと卓上の地図を確認した。帝都ニヒトベルクはその名の通りこの国の首都で、帝国のド真ん中に位置している。ヴァルトブルクからの距離は、徒歩で二週間といったところだろうか。

 

「運が良ければ帝都へ行くだけで三千ジルバと。ははは、丸儲けですな」

 

 あまり興味のなさそうな様子で笑うステラさん。顔色も変えずにこんな話をするあたり、この人じつはかなりの上流階級出身なのかもしれない。

 

「自分で持ってきてなんですが、この手の依頼はあまりラッツァーティ様のご趣味には合わないでしょうね。……さて、それでは三つ目のご依頼を説明いたしましょう」

 

 ホルツヴァートさんがこほんと咳払いする。ステラさんがあまり金銭に頓着しない人間であることをよく理解している態度だった。

 

「こちらの案件の依頼主は、ロッテナウ村の領主騎士様。……ああ、やはりご存じないお顔ですね。わたしもこの案件で初めて耳にした村です」

 

 苦笑しながら、ホルツヴァートさんが地図の一点を指差す。ヴァルトブルクから東に二百キロ、深い森に囲まれた場所に、その村はあった。

 近場には都市らしい都市はひとつもない。いや、それどころか農村さえ見当たらない。ぼくの生まれ故郷に負けず劣らずの辺境ぶり、典型的な開拓村だね。

 

「近ごろ、このロッテナウ村に繋がる唯一の街道でたびたびオークの襲撃が起きているそうでして。これを解決して欲しいとのことです。報酬は五百ジルバ、はっきりいって割はかなりよろしくありません。現場も遠方ですし」

 

「このご依頼、受けましょう」

 

 なんの躊躇も逡巡もなく、ステラさんは確かな声で請け合った。

 

「唯一の街道とおっしゃいましたな。これが遮断されてしまえば、村人のかたがたの生活が立ち行かなくなってしまう。早急に解決せねばならぬ問題です」

 

「そうおっしゃると思っておりましたよ。……個人的には、甲鱗虫(ワーム)討伐のほうを受けて頂きたいのですが」

 

 ホルツヴァートさんが苦笑する。そりゃそうだ。ギルドとしては、大貴族様肝いりの案件のほうを優先して処理したいだろうしね。

 

「そちらに関しては、拙僧がしゃしゃり出ずともすぐに受託者は見つかるでしょう。報酬はもちろん、辺境伯様直接のご依頼ともなれば名誉も十分。腕に覚えのある者ならばすぐに食いつくはず」

 

 いつもの胡散臭い笑顔でステラさんが説明した。いかにも裏がありそうな態度だが、たぶん言葉通りの意味だろう。なんでこの人こんなにワルっぽく見えるんだろうね……キツネ顔のせい?

 

「相変わらずですね、ラッツァーティ様は。ええ、ええ、承知いたしましたとも。では、オーク討伐依頼のほうを受理しておきますね」

 

 いかにも不満げな口ぶりのホルツヴァートさんだが、その表情はどこか愉快げな。彼女も、ステラさんのこういう性格を好ましく思っているのかもしれない。

 

「さて、そうと決まれば話は早い。さあフェルト殿、出立の準備を急ぎましょう」

 

 こうして、ぼくの初仕事が始まったのだった。

 

 

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