貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第十二話 旅立

 ヴァルトブルクから目的地のロッテナウ村までの距離は、約二百キロ。現代日本なら半日もかからない距離だが、この世界ではそうもいかない。少なくとも片道だけで数日はかかるだろう。

 とはいっても、ぼくやステラさんは旅慣れしている。さっさと荷物をまとめ、昼前には街の外へと繰り出していた。

 

「フェルト殿は乗馬は初めてですかな」

 

 立派な体格の乗用馬に跨がったステラさんが、こちらを振り返って聞く。ぼくは彼女の背中にしがみつきつつ頷いた。

 

「馬に乗れるようなご身分ではなかったもので……」

 

 馬は、高価(たか)い。貧相な農耕馬でさえかなりの額だ。いわんや軍で使われるような乗用馬ともなると、庶民の年収ウン年ぶんくらいするらしい。一般人のぼくにはまったく無縁の存在だ。

 

「ほほう、それはそれは。良い機会です、この旅で馬の乗り方を教えて進ぜましょう」

 

 ステラさんはニコニコ顔だ。実際、その騎馬姿は堂に入ったものであり、馬の扱いも手慣れている。

 ただし、今ぼくたちが乗っているこの馬はステラさんの所有しているものではない。冒険者ギルドから有償で借りたものだった。上位冒険者には馬を個人所有している者も少なくないが、ステラさんは必要な時だけこうして借りているのだという。

 

「ど、どうですかね……うまく操れる自信、ないんですけど」

 

 馬に乗るのは、前世を含めても生まれて初めてだ。正直いって、結構こわい。なにしろとんでもなく背が高いのだ。なんだか大人に肩車でもされているような気分になる。

 その上、びっくりするくらいバランスを取るのも難しい。歩くたびに激しく揺れて、なにかの拍子に転がり落ちてしまうんじゃないかと気が気ではない。

 いや、仮に転がり落ちたとしても、受け身を取る自信はあるんだけど。それはそれ、これはこれ。不安定な場所にしがみつき続けなきゃいけない時点で、なんだか不安なのだ。

 

「ふふふ。今日のところは、馬に慣れるだけで十分ですよ。落馬だけは注意して、しっかりと拙僧の身体に捕まっていなされ。遠慮はいりませぬ」

 

 そこまで言ってから、ステラさんはニヤリと笑った。

 

「仮に、それで身体のヘンな部分に触れてしまっても、拙僧は気にいたしませぬ。ええ、まったくもって気にしませぬとも、ええ。ご自由にどうぞ」

 

「は?」

 

 なに言ってるんだ、この人。本当に胸とか揉むぞ? ……揉むほどないな、ぺったんだ。まあそのぶんスレンダーでスタイルはいいんだけど。

 

「あっ」

 そんなことを考えていたら、馬が身震いした。あわててステラさんにしがみつく。もちろん感触を楽しむ余裕などない。

 

「その調子、その調子。ふふふふ……」

 

 わ、わざと揺らしやがったな、このエロ法師……!

  ……こんな感じで、ぼくたちの旅は始まった。馬に揺られつつ、街道沿いに東進していく。

 初日はとくにイベントらしいイベントは起こらなかった。ヴァルトブルク周辺は軍や冒険者の影響力が強く、治安は安定している。街道の上を進む限りモンスターはもちろん野盗の類いとも遭遇することはまずない。

 ただし、問題がまったくないというわけではなかった。

 

「お尻痛い……」

 

 慣れない乗馬で、とにかく尻が痛む。鞍はクッション性皆無だし、歩いているだけなのに振動は凄いし、肉体への負担は驚くほど大きかった。これなら徒歩のほうがよほどマシだ。

 

「それはいけない! 拙僧が治療して進ぜよう」

 

「揉むな! 尻を!」

 

「あなやっ!」

 

 小休憩のたびにステラさんがにじり寄ってくるものだから、鬱陶しいことこの上ない。どうにかならないものか。とりあえず蹴っ飛ばしておく。

 

「むむむ……」

 

 それに加えて、食事も悩みの種だった。ただの観光旅なら宿場町に寄って美食を楽しむ余裕もあるのだろうが、今回は急を要する旅だ。とにかく進めるだけ進み、日が暮れるとテントもなしに道端で露営する。

 それはいい。野宿には慣れている。問題は食事だった。この国における携行糧食の代表選手はビスケットだ。これがたいへんに不味い。

 ビスケットというと甘くてサクサクの茶菓子を想像するけど、この時代のソレは穀物粉を焼き固めたレンガのようなシロモノだ。味のほうもお察しである。

 

「むぐぐぐぐ……」

 

 手のひらサイズのそれに頑張ってかじり付くが、文字通り歯が立たない。

 いや、顎を魔法で強化すれば、ビスケットどころか本物のレンガだってかみ砕けるんだけどね? ただの食べ物相手に魔力なんか使ったら、なんだか敗北感があるじゃないか。

 

「はっはっは、苦労されておりますな。なんなら拙僧が口移しで食べさせてさしあげましょうか」

 

「キッショ」

 

「……あまり強い言葉を使わないでいただきたい。泣きますぞ」

 

「泣けば良いんじゃないですか」

 

「うわあん」

 

 軽口を叩きながら、どうにか食事を終える。顎が痛い。シンプルに不味い。明日はせめてスープか何かを用意してふやかして食べよう。

 その後は毛布代わりのマントにくるまって就寝した。地面の上で寝るのには慣れている。こちらはあまり苦痛ではない。天気も気温も悪くなかったしね。

 さて、その翌日。幸いにも天気は快晴だった。雨の旅ほど辛いものはないから、非常にありがたい。

 街道とかいっても未舗装だからね、このあたりの地方。ちょっとの雨でもう泥の海だ。汚いし、不快だし、足は取られるし、ロクなことはない。晴れ最高。いや、曇りのほうが有り難いかな。

 

「うんうん、良い天気ではありませんか。日頃の行いのお陰ですかな」

 

「はっ」

 

「流石に鼻で笑われるのは傷付きますぞ!」

 

 バカみたいなお喋りをしながら出立する。最近、この人の扱いが分かってきた気がする。なんか、雑に扱ったほうがかえって嬉しそうなんだよね、ステラさん。口では嘆きつつも、もうニッコニコだ。ショタコンの上にマゾとかちょっと救いがたいぞ。

 まあ変態はさておいて、問題は周辺状況だった。昨日だけで六十キロは進んだこともあり、あたりの情景はずいぶんと様変わりしている。

 ヴァルトブルク近郊は広大な田園地帯で、非常に見晴らしがよかった。ところがこのあたりは道の両脇がすぐに鬱蒼とした森になっており、まったく見通しが利かない。

 

「いやな雰囲気ですね」

 

「ええ、絶好の襲撃ポイントですな。もっとも、この先の道中はずっとこのような感じでしょうが」

 

 手綱を手に、ステラさんが答える。声音はいつも通りだが、その目は油断なく周囲を見回しているようだ。

 この世界において、森は賊徒やモンスターの領域といって良い。いきなり何か危険な存在が飛び出してきてもおかしくないのだ。どれだけ警戒してもしたり無いということはないだろう。

 

「辺境領の面目躍如、というところです。治安がたもたれているのは、せいぜいヴァルトブルクの近くだけ。あとは魔の領域にぽつんぽつんと人の拠点が点在しているに過ぎませぬ」

 

「いやな土地ですね。生まれ故郷ですけど」

 

 この土地では、何かの拍子に村ひとつが消滅することなど珍しくない。理由はモンスターの襲撃だったり賊の襲撃だったりする。ぼくの故郷を襲ったような悲劇は、ごくごくありふれたものなのだった。

 

「ですが、その闇を切り裂き、光を灯すのが我ら冒険者の仕事です。部外者はあれやこれやと申しますが、誇りに思うに価する職業だと思いますぞ」

 

「なるほど、わざわざ割の悪い仕事で辺境に出向く人物らしい物言いですね」

 

「ふふふ、尊敬していただいても宜しいのですよ?」

 

「尊敬して欲しいならまずそのショタコン性癖と怪しげな雰囲気を直してください」

 

「……性癖はともかく雰囲気については拙僧のせいではないような」

 

 そうは言ってもなぁ。なんか、土壇場で裏切りそうな顔してるんだよね、この人。たぶんおそらく気のせいなんだろうけど。たぶん。

 

「そもそも拙僧が斯様な劣情を抱くのも、もとはといえば……むっ」

 

「おや」

 

 そこで、ぼくとステラさんはほとんど同時におなじ方向へと視線を向けた。剣呑な気配を感じ取ったのだ。

 

「襲撃、ですかな」

 

「間違いありませんね。ん、この足音……中型の四つ足。数も多い」

 

 分析をしていると、前方の森の中から何かが飛び出してきた。オオカミの群れだ。ただし、その頭には鋭いツノが生えている。一目で尋常の獣ではないとわかる風体だった。

 

「ホーンウルフか。見飽きた顔だ」

 

 ホーンウルフ。じつに安直な名前のモンスターだ。外見もだいたい名前の通りだが、体格だけは普通のオオカミよりもふた回りほど大きい。

 しかも、凶暴性もなかなかのもの。群れで狩りをし、ときに大規模な隊商をも壊滅させる。個体数が多い割に厄介なモンスターだった。あと味が不味い。

 

「迎え撃ちますか」

 

 敵の群れは完全にこちらの進路を塞いでおり、突破はまず不可能だろう。退くのもよろしくない。連中は退路に伏兵を仕込む程度の知恵がある。ならば選択肢は強行突破のみ。

 まずは敵情を観察する。数は視認できるものだけで十四匹、ただし森の中にはまだ気配がある。後詰めというわけだ。……まあ、雑魚なんて何匹いようが大した問題ではないが。

 

「ええ。ですがここは拙僧にお任せを」

 

 馬から飛び降りようとしていたぼくを制止し、ステラさんが空中に複雑な印を描く。

 

氷柱弾(アイシクル・バースト)!」

 

 朗々とした声が響くや、ステラさんの指先の空間からおびただしい数の氷柱が打ち出された。それらは算段となりホーンウルフの群れに襲いかかる。

 

「キャン!」

 

 血が噴き出し、悲鳴が木霊する。ホーンラビットどもはほぼ全頭が身体のいずこかを氷弾に撃ち抜かれ、無残な姿を晒している。まさに壊乱と呼ぶべき様相であった。

 

「ハイヤッ!」

 

 ステラさんは軍馬に拍車を入れ、駆け足でホーンウルフどもの転がる路上を通り抜けた。迎撃は受けない。動ける敵は一匹たりとも残っていないようだった。

 

「ひゃあ、流石は金級冒険者」

 

 この人が戦うのを見るのは初めてだが、これは凄い。魔法の発動速度、精度、ともに人並み外れている。

 ぼくに同じ事ができるかといえば、絶対に無理だろう。そもそもぼくは強化系の魔法に特化したウィッチで、火の玉や氷柱を飛ばすような魔法は習得さえしていない。

 ……魔女(ウィッチ)にあるまじきスキルビルドだな。まあ、この世界じゃそういうのも珍しくないけど。魔法が使えたらなんでもウィッチなんだよ、こっちじゃ。

 

「できれば後詰めや別働隊も片付けておきたいところですが、いちいち相手をしていたらいつまで経ってもロッテナウ村にたどり着けませぬからな。ここは強行離脱といきましょうぞ」

 

 ドヤ顔を披露するかとおもえば、ステラさんの態度は硬いままだった。さすがに戦闘中にふざけるような真似はしないらしい。もう一度馬に拍車を入れ、急ぎ戦場を離脱する……。

 

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