貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~ 作:寒天ゼリヰ
うんざりするほど頻繁にモンスターが現れる鬱蒼とした森を進むことしばし。出立から四日目の昼ごろ、ぼくたちはようやくロッテナウ村に到着した。
村といってもそこは物騒な辺境のこと。その外見はなんだか軍事施設のような物々しさがある。村の外周は堀と太い丸太で作られた柵に囲まれ、いくつもの物見櫓が建っていた。
一方、村の郊外は畑が広がっている。森は遠くに見えるばかりで、村の周囲ではほとんどの木が切り倒されていた。開拓の成果といったところだろうか。
「誰か!」
騎乗のまま村に近づいた僕たちを、門番らしき女たちが呼び止める。
彼女らは麦わら帽子のような形の簡素な鉄帽被り、短めの槍を携えていた。ただしその服装は軍服ではなく野良着で、あまり兵士らしくはない。
「拙僧は冒険者のステラ・ラッツァーティと申す者。こちらは見習いのフェルト・稲葉・フォッケルです」
さっと馬から降り、ステラさんが返答した。もちろんぼくも下馬する。馬に乗ったまま挨拶するとかなり偉そうに見えるからね。貴族でもない限りやらないほうがいい。
「オーク討伐の依頼を受け、冒険者ギルド・ヴァルトブルク支所より参りました。こちらが証書です」
そのまま、ステラさんは懐から一枚の書状を出し門番に見せる。書面にはでかでかと冒険者ギルドの紋章がスタンプされていた。
「おおっ、話は聞いております! ささ、こちらへ」
固い表情をしていた門番たちだが、証書を見るなり相好を崩した。木製の大門を開き、村の中に迎え入れてくれる。
「なんだか、懐かしい感じだ」
門をくぐるなり、ぼくは小さくそう呟いた。町並みがあまりにもぼくの故郷によく似ていたからだ。未舗装の道路、藁葺きの木造建築。村の中心部に建っている石造りの尖塔は教会のものだろう。
「たしか、フェルト殿も開拓村の出身でしたな」
「ええ、ここよりもだいぶ北のほうでしたが」
場所はちがえど、開拓村なんてどこも似たような景色をしているものだ。
道行く人々の雰囲気にも覚えがある。大半が野良着姿の若者や中年ばかりで、老人の姿はほとんどない。辺境の暮らしは実に過酷だ。大半のヒトは老境を迎える前に身体を壊して死んでいく。
しかし、何より懐かしいのはこの空気だろう。堆肥の臭い、木を燃やす匂い、土の匂い……。お世辞にも芳しいとは言いがたいこの空気を、ぼくは肺一杯に吸い込んだ。
「こちらが領主屋敷です。依頼の詳細につきましては領主様よりお聞きください」
村の中央広場までやってきたところで、案内役の門番さんがそう説明した。彼女の指差す先には木造二階建ての小さな邸宅がある。ロッテナウ村の領主様はこの屋敷に住んでいるらしい。
……領主の邸宅にしては、簡素だな。正直あまり大きくないし、かなり薄汚れている。ただし屋敷の周りには堀と石垣が張り巡らされているので、防御力はかなりありそうだ。質実剛健って感じ。
「やあやあ、よく来てくれた」
跳ね橋を通って屋敷に入ると、赤いマントを羽織ったオオカミ獣人の女性がぼくたちを出迎えてくれた。歳の頃は三十代中ごろといったところだろうか? 格好は平服だが、腰には長剣を佩いている。
「私がこの村の領主、イザベラ・フォン・バールだ」
「金級冒険者、ステラ・ラッツァーティです。こちらは見習いのフェルト・稲葉・フォッケル」
先ほどと同じような挨拶を繰り返す。しかし、この人が領主様か。正直、あまりそういういうふうには見えない。服装は質素なものだし、装身具の類いも身につけていないようだ。ヴァルトブルクの人混みに紛れれば一般人にしか見えないだろう。
まあ、開拓村にはよくある話だ。ぼくの故郷の領主様もこんな感じだった。こういう人たちはたいてい爵位を持たない騎士で、治めているのも村ひとつがせいぜいというところ。昔の日本でいうところの地侍のような立場にある人々だ。
「噂はかねがね伺っている。貴殿のような高名な冒険者に依頼を受けてもらえるとは、実に幸運だ! 日頃の行いの良さというやつかな、はっはっは!」
そういって、領主様は豪快に笑った。その口ぶりに嫌味な雰囲気は一切ない。なかなか付き合いやすそうな感じの人だな。
「じつは、ちょうど食事の準備が出来たところでね。依頼の説明がてら、昼食をご馳走させていただけないか」
「それはありがたい!」
「助かります!」
ステラさんとぼくが同時に身を乗り出す。いや、本当にありがたいよ。クソ不味い携帯糧食には飽き飽きしてたんだ。
「まっ、田舎ゆえ大したおもてなしはできんがね。わっはっは!」
そう大笑いしてから、領主様はぼくたちを食堂に案内した。
外から見るとあまり大きくはない領主屋敷だが、食堂はなかなか広い。軽く二、三十人は収容できるだろう。
ただし調度品の類いは古びたタペストリーが飾られているくらいで、椅子やテーブルも素人の手作り感が漂う簡素なもの。どちらかといえば、大衆酒場の宴会場のような風情の部屋だった。
「お待たせいたしましたー!」
席に着くと、生成り色のワンピースに白いエプロン姿の男たちが料理を持ってやってくる。歳は少年から中年まで様々だが、みな小柄で童顔だった。
……いや、べつにこれは領主様の趣味というわけではない。この世界の男性って、身長も体格もあんまり大きくならないんだよね。まさにぼくもそういうタイプだし。まあ中には筋骨隆々の長身男性もいるけど、かなり珍しい。
「おおーっ!」
まあ、いまはそんなことより昼食だ。食卓に並べられた料理を見て、思わず感嘆の声が漏れる。大皿に盛られた茹でジャガイモと、これまた茹でたソーセージ。どちらも湯気を上げている。空腹を刺激する香りがふわりと広がっていた。
「ヴァルトブルクの料理屋に比べればいささか見劣りするやもしれんが、とにかく量だけはたっぷりある。どうぞご遠慮なく召し上がってくれ」
「いえいえ、むしろ過分なくらいです」
「ここ数日、ずっとビスケットと干し肉ばっかりでしたもんね」
食べ物にはあんまり頓着しないほうなんだけど、流石にあの乾物地獄は辛かった。堅いし、味気ないし、本当にロクなものじゃない。それと比べれば茹でた芋やソーセージなんて天国みたいなものだ。
もうすっかりお腹がペコペコだったので、食前の祈りをさっと手早く済ませて料理にありつく。まずは茹でジャガイモを頬張った。
「うま!」
いや、本当に旨い。ジャガイモ自体は前世でもよく食べ慣れたあの淡泊な味わいだが、バター代わりに乗せたラードがとても良い仕事をしている。
この国のラードって精製度合いが甘いせいかちょっと獣くさいんだけど、それがかえってジャガイモの味わいによくマッチしてるんだよね。いくらでも食べられそうだ。
ちなみに、この国におけるジャガイモは百年ほどまえに渡来してきた歴史の浅い野菜だったりする。しかし痩せた土地でもよく育つので、あっという間に普及してしまった。今ではパンに次ぐ第二の主食としての地位を確立しているほどだ。
「おっ、これは……」
続いてソーセージ。ソーセージといっても、いわゆるウィンナーのような小さなものではない。太さも長さもかなりご立派なヤツ。
それを大口を開けて囓ると、肉汁が口いっぱいにじゅわりと広がった。あー、これはいけませんな! 昼からこんな豪勢なもの食べても良いんだろうか。
「これは凄い。生ソーセージですか」
ちょうど同じ物を食べたステラさんが領主様に質問する。ついでに言うと、聖鐘教の僧侶には肉食を禁じる戒律はない。さらに飲酒もオッケー。かなり戒律が緩めの宗教なんだよね。
「ほほう、わかるか」
「薫香がありませぬゆえ。いやはや、有り難いですな。ヴァルトブルクでもなかなか食べられるものではございませんから」
「ふふふ! 田舎の特権というヤツだ。生ソーセージは鮮度が命だからな」
「うまぁい!」
二人はあれこれ話しているけれど、そんなことはどうだっていい。夢中で芋と肉を口に運ぶ。
あっ、付け合わせの
「いやぁ、良い食べっぷりだな! ご馳走した甲斐があったというものだ」
「ははは……食べ盛りですからね」
こんな感じで、昼食は和気あいあいといった雰囲気で進んだ。仕事の話は、一切出ない。
……ぼくらの任務は、村を脅かすオークの討伐。その話ともなれば、いやが上にも辛気くさいものとなってしまう。飯時にわざわざ食事の不味くなるような話題は出す必要はない、という領主様の配慮であることは明らかだった。