貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第十四話 領主

 辺境開拓村の暮らしというのは、決して楽なものではない。それは統治者でさえ例外ではなく、ぼくの故郷などでは領主様が自らクワを持って畑を耕していたほどだ。

 おそらく、このロッテナウ村でもそのあたりの事情は似たようなものだろう。この素朴な領主屋敷を見れば、ある程度想像がつく。

 にもかかわらず、領主イザベラ・フォン・バール様による饗応は実に気配りの行き届いたものだった。その態度は明るく朗らかで、一切の毒がない。食事が終わる頃には、ぼくはすっかり彼女に好感を抱くようになっていた。

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか」

 

 使用人がテーブルの上を片付け終えると、領主様はおもむろにそう切り出した。先ほどまでの明朗闊達な表情はなりを潜め、その目には真剣な色がある。

 

「我々の事情はおおむね依頼票に書いた通りだ。近ごろこの辺りでオークの出没が相次いでおり、行商人や放牧中の家畜が襲われる被害が頻発している。それどころか、先日など我が村が直接襲撃されてしまった」

 

「それは」

 

 ステラさんの顔が引きつった。

 オークというのは、豚鬼とも呼称される人型モンスターの一種だ。体格と膂力に優れ、知能も人間に引けを取らない。

 どれくらいデカくて強いかといえば……だいたい相撲の力士くらいかな。それが武装して徒党を組んでいるのだから、その厄介さは軍隊でさえ手を焼くほどだ。

 

「幸いにも大した被害もなく撃退できたが、次も同じように勝てるかといえばかなり怪しい。備蓄の火薬をほとんど使い果たしてしまったからな……」

 

 深くため息を吐き、領主様はお茶を一口飲んだ。

 

「この村に常駐している現役のウィッチは、私と従者の二人だけ。足りない戦力は領民からの徴募兵で補うほかないが、非ウィッチ(コモナー)の身でオーク相手に白兵を挑むのは無謀が過ぎる。火縄銃抜きで防衛を行うのは不可能だ」

 

 この世界でも、鉄砲はすでに発明されている。とはいってももちろん現代的な連発銃ではなく、戦国日本で使われていた火縄銃とほとんど同じ技術レベルのものだ。

 この手の鉄砲は一発撃つごとに再装填が必要だし火種の管理も面倒だが、扱いやすくて高威力なので非ウィッチ(コモナー)兵用の武器として重宝されている。

 ……もっとも、ぼくたちウィッチは滅多に使わないけどね。自前で火の玉なんかを飛ばすなり肉体強化して切り込むなりしたほうが手っ取り早いからね。

 

「敵の数はいかほど居るのでしょうか? いちおう、この村に到着するまでにオークを二身体ほど仕留めているのですが」

 

「仕事が早いな」

 

 領主様の口角が上がる。ロッテナウ村への旅路で、ぼくたちは一度オークに襲撃されていた。まあステラさんが馬上からの魔法で簡単に蹴散らしちゃったんだけど。

「オークの頭数は、最低でも三十くらいはあると思う。村襲撃の際の戦力がそのくらいだった」

 

「最低でも、というところがミソですな。オークは存外に賢い。偵察もなしにいきなり全兵力を投入するような真似はせぬでしょう。前回の襲撃はたんなる威力偵察ということも考えられます」

 

「実際、そうだ。こちらが火縄銃を一斉に撃ちかけると、奴らはさっさと撤退してしまった。あの引き際の良さは様子見が目的だったと考える方が自然だろう」

 

「……三十体どころか、その倍くらい居てもおかしくなさそうですね」

 

 思うところがあり、思わず口を挟んでしまう。

 

「あいつらって、先に野営地を築いてから襲撃行動しますよね。この規模となると、野営地というよりちょっとした砦みたいになってるかも」

 

「奴らの習性を考えると、その可能性は高いだろう。……フェルト君と言ったか? 見習いだという話だが、なかなかよく調べているな」

 

「調べたというか、実体験というか……。剣の師匠のもとで修行をしてた頃、よく実戦形式の訓練としてオークと戦わせられてたんですよ」

 

「……修行で? オークを!?」

 

 何か物凄い顔をしながらステラさんを見る領主様。ステラさんは慌てて首を左右に振る。

 

「拙僧は違いますぞ! 拙僧はあくまで冒険者としてのメンター、師匠ではありませぬ!」

 

「そ、そうか……。えー、こほん」

 

 咳払いをしてから、イザベラ様はテーブルの上に羊皮紙を広げた。ロッテナウ村を中心に描かれた小さな地図だ。

 

「これまでの目撃情報から推察するに、奴らの野営地は村の南方に築かれているのは間違いなさそうだ。君たちには、その正確な所在を探って欲しい。これが私の依頼の第一目標だ」

 

「探すだけで良いのですか?」

 

「いくら金級とはいえ、単独でオークの砦に攻め込むのは無茶だ。無理に殲滅しろとは言えない」

 

 領主様はハッキリと首を左右に振る。

 

「ただ、ある程度の数を減らしてくれればありがたい。こちらに手強い助っ人が現れたとなれば、奴らも標的を他に移してくれるだろうからな。それが依頼の第二目標だ」

 

「ふむ……」

 

 考え込むステラさん。これは……アレだな。『撃退するのはいいが、別に倒してしまっても構わんのだろう?』って感じの顔だ。

 

「そういう事でしたら、拙僧らにお任せあれ。やれるだけの事はやらせていただきます」

 

「心強い!」

 

 ほっとした様子で胸を撫で下ろす領主様。実際、オークが近所でウロチョロしてる状況では領民たちも安心して生活できないだろうしね。これは早急に解決すべき問題だ。

 

「とはいえ、仕事にかかるのは明日からでいい。我が屋敷に部屋を用意させよう。今日のところはゆっくり休むといい」

 

「よろしいのですか?」

 

「疲れた状態では良い仕事など望めない。いくさの前には可能な限り兵を休ませるべきだ。……用兵の基本だよ」

 

 ニヤリと笑ってウィンクして見せる領主様。本当にフランクな人だなぁ。

 

「あっ、すみません。その前に一つよろしいでしょうか? 本件とはまったく関係のないコトなのでしょうか」

 

 仕事の話が終わったとみて、話題を変える。ちらりとステラさんをうかがうと、小さく頷いてくれた。ぼくがどんな話を切り出すつもりなのか察している様子だった。

 

「ああ、構わない。どうしたのかな?」

 

「こちらの紋章に見覚えはございませんか?」

 

 懐から出した紙をイザベラ様に見せる。そこに描かれているのは、例の地平線に沈む夕陽を意匠化したマークだった。

 

「いいや、見たことがないな。何のシンボルだね? これは」

 

「ぼくの故郷を滅ぼした傭兵団が掲げていた紋章です」

 

 領主様のまぶたがぴくりと動いた。どうやら興味を惹かれた様子だ。

 

「剣呑だな」

 

「ありふれた話ではありますが」

 

 前置きしてから、事情を説明する。ぼくの故郷がこのロッテナウ村と同じような開拓村だったこと。何の前触れもなく傭兵団に襲撃され、全滅の憂き目にあったこと……。

 

「なるほど、よく分かった。他人事とは思えない事件だな」

 

 腕組みをしながら唸る領主様。実際、こうした襲撃で滅ぶ村落は決して珍しくはない。辺境地域ならばなおさらだ。

 

「よく教えてくれた。くだんの傭兵団については、こちらでも調べておく。なにか情報があったら知らせよう」

 

「よろしいのですか?」

 

「他人事ではないと言ったろう。君には悪いが、我が村がそれと同じような目に遭っては敵わない。昔の話とはいえ、注意しておくに越したことはないだろう」

 

 領主様は物憂げな様子でお茶のカップを口に運んだ。その目はテーブルの上に置かれたままの例の紋章に釘付けになっている。

 

「……裏で山賊稼業を働く傭兵団など、珍しくもないが。しかし、このシンボルを見ているとどうにも不穏な心地になってくるな。強いのか、そいつらは」

 

「ええ、とても」

 

 渋い顔で、ぼくは頷く。

 

「とくに、頭目らしき騎士はかなりの手練れのようでした。剣術だけではなく、炎の魔術も操っていましたね。……ぼくの母もひとかどの剣士でしたが、ヤツには敵わず」

 

 思い出すだけで身震いがする。巨人めいた体躯、漆黒の全身甲冑。陣羽織(サーコート)にはあの紋章が刺繍されていた。

 

「ヤツのことを、ぼくは落日の騎士と呼んでいます。顔も、名前もわからないもので」

 

 あいつ、フルフェイスの兜を被ってやがったんだよな。せめて顔が分かればもっと探しやすいのに。

 

「手がかりはこのシンボルだけというわけか。なかなか難儀だな」

 

「だからこその冒険者稼業です。冒険者であれば、諸国を巡りつつ仇を探すことも難しくありませぬゆえ」

 

 そこまで黙って話を聞いていたステラさんが、おもむろに口を開いた。

 

「フェルト殿は拙僧の身内も同然。その仇ともなれば拙僧自身の仇と同じ。仇討ちには力の限り協力する所存ですぞ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 ありがたいけどさぁ……身内という言葉に妙に力を込めるのやめてくれない!? なんかゾワゾワするんだけど!

 

「ハハハ……師弟仲が良いようで何よりだ……」

 

 あっ、イザベラ様もちょっと、いや、だいぶ引いてる。同性とはいえ(実は異性なのだが)、ガキ相手にこんな粘着質な目を向けてたらなぁ……。いやたとえ同性でも変だわ。やっぱりダメだこの人……。

 

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