貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第十六話 実戦

 ぼくたちは、森の奥で真新しい足跡を見つけた。人型種族のものらしいが、かなり大きくしかも裸足だ。おそらく、オークのものだと思われる。

 それを追うこと、しばし。ぼくたちの前に現われたのは、素人目で見てもはっきりわかるほどの獣道であった。

 

「これは」

 

 案内役の猟師エッダさんが、地面にしゃがみ込みながら呟く。

 暗い原生林とはいえ背の低い陰生植物や苔は生えている。それらがしっかりと踏み固められ一本の線を描いている様は、たしかに道以外の何ものでもない。

 

「ふつうの動物が通った跡じゃないですね。足跡や臭いが違う。アタリで間違いなさそうだ」

 

「ふむ……」

 

 ステラさんが前掛けから地図を取りだし、携帯型の方位磁針と突き合せながら思案する。

 地図は領主様が所有していたものをさっと書き写しだだけの簡単なものだが、襲撃事件が起きた地点などの情報があちこちに書き加えられていた。

 

「どうやら、この獣道はロッテナウ村へと向かう街道につっこむ形で伸びているようです。やつらの襲撃ルートのひとつと見るのが妥当ですかね」

 

「逆に言うと、ここを遡れば奴らの拠点を見つけられる可能性が高いわけですか」

 

「ええ、おそらくは」

 

 頷くステラさんだが、その顔には油断のない緊張感が漲っている。

 

「しかし、やつらはただの獣ではなく知恵ある生き物。一筋縄ではいきませんよ。敵対者を騙すための偽の道を作ったり、罠を張ったりするくらいのことは平気でやってのけます」

 

「二ツ足は厄介ですね。やっぱり四ツ足とは違う」

 

 憎々しげにエッダさんが吐き捨てる。

 二ツ足、四ツ足というのは、言うまでもなく二足歩行か四足歩行かの違いだ。

 このような言われ方をしていることからも分かるとおり、オークを初めとしたヒト型モンスターは人間とは認められていない。あくまでそういうカタチをしているだけのモンスターだ。

 はじめて聞いたときにはなかなか面食らった分類法だけど、今では慣れた。現実問題、やつらは人間を積極的に襲う。戦わなければ殺されるのはこちらのほうだ。

 

「とはいえ、今のところ手がかりはこの道だけですから。ひとまずはここを追っていくことにしましょうか。上手く行けば奴らの野営地にたどり着けるやも……」

 

 そこまで言ったところで、ステラさんのキツネ耳がぴくりと動いた。同時に、ぼくも気付く。複数の足音が聞こえる。微かな話し声もだ。

 

「……」

 

「……」

 

 ぼくとステラさんは同時に目配せした。こんな場所で出くわす相手が、ただの一般人であるはずがない。

 

「えっ、どうかされました?」

 

 一方、エッダさんはキョトンとしている。気配に気付いていないのだ。

 ウィッチは単純な筋力だけではなく五感も魔力によって強化されている。猟師といえどもこの差を覆すのは容易ではない。 

 

「静かに」

 

 ステラさんは口元で人差し指を立ててそう囁き、エッダさんの手を引いて近くの巨木の陰へと誘導した。もちろん、ぼくもそれに続く。

 そうしている間にも、声はどんどんと近づいてきていた。身を潜めて様子を窺っていると、木立の間から人影が現れる。

 

「オークだ……!」

 

 豚そっくりの顔、固太りした肉体。間違いない、オークであった。数は三体。全員が毛皮の貫頭衣を着用しており、蛮刀や槍で武装している。

 奴らはどうやらぼくたちには気付いていないらしく、下卑た声で何か雑談をしていた。会話の内容はわからない。ヒト型モンスターは我々とはまったく異なる謎の言語を使う。

 

「どうします?」

 

 ぼくは小さな声でステラさんに問うた。戦うか、見逃すか。それが肝心だ。

 ロッテナウ村のことを考えれば、オークの数はできるだけ減らしておきたい。しかし、下手に攻撃してやつらの警戒を招けば、野営地捜索に差し障りが出るかもしれない。

 

「戦いましょう」

 

 迷いのない声でステラさんが即断した。

 

「オークの感覚は鋭敏です。違和感にはすぐ気がつく」

 

 そこで、オークどもが足を止めた。そのうちの一頭が突然しゃがみ込み、地面に豚鼻を近付けてクンクンと嗅ぐ。何かを感じた動きだった。

 

「こんなところに隠れていたって、時間稼ぎにもなりません。打ち倒すほかない」

 

「はぇ~」

 

 オークってそんなに厄介な生態を持ってるんだ。いつも見つけ次第ぶった斬ってたから知らなかった。

 

「さて、どうします? 拙僧が一人でやっても良いですが」

 

「ここはぼくが。見稽古ばかりでは腕が鈍りそうなので」

 

 道中の襲撃もステラさんが全部攻撃魔法で片付けちゃったからね。彼女と出会ってから、まったくといって良いほど剣を抜いてない。いい加減に身体を動かしたいよ。

 

「えっ、大丈夫かいお嬢ちゃん。いくらウィッチとはいえ、オークは手強いぞ」

 

 エッダさんが口元を引きつらせながら聞いた。ぼくを心配してくれているご様子だ。

 

「これも修行です」

 

「あっ、おい!」

 

 それだけ言って、ぼくは木陰から飛び出した。オーク三頭程度なら、なんの問題もない。それを論より証拠でお見せしよう。

 

「――!」

 

 オークどもがぼくを指差し、何かを叫んだ。例によってなにを言っているのかは分からないが、「敵だ!」とかなんとか言ってるのだろう、たぶん。

 一斉に武器を構えるオークたち。ぼくも腰から刀を抜いた。全身に魔力を充填する。彼我の距離は五十メートルといったところ。うん、射程内だ。

 

「……」

 

 抜き身の刀を担ぐようにして構え、姿勢を低くする。

 オークどもはぎゃあぎゃあ叫びながら突進を開始した。力士みたいな体つきのくせに、その速度はかなり早い。猪突猛進ってやつか。

 

「でも、速さなら」

 

 ぼくのほうが上だ。

 溜めた魔力をリリースし、背部から放出! ロケット推進めいた原理でぼくの身体がフッ飛ばされた。

 一秒に満たぬ時間で相対距離はゼロに。すれ違いざま、ぼくは先頭の一体を袈裟懸けに一刀両断した。

 

「ふっ!」

 

 そのまま強引に着地し、再び魔力でロケット噴射。二匹目のオークを叩き切る。残り一匹。

 

「ギィィ!」

 

 最後のオークは怒りの形相で蛮刀を構えた。が、もう遅い。魔力噴射で方向転換し、これまた一刀両断だ。

 

「三秒半。少し手間取った」

 

 残心を解き、血に濡れた刀身を懐紙で拭ってから鞘に納める。「オークが相手ならば一体を片付けるのに一秒以上かかってはならぬ」脳裏に浮かぶのは師匠の言葉だ。

 

「あ、あの……」

 

 二人のほうに向き直ると、双方唖然とした表情をしている。

 

「何ですか、今の」

 

「何って、何がです?」

 

 エッダさんはともかく、ステラさんまでどうしてこんなにビックリしているんだろう? オークを瞬殺するくらいあなただって出来るでしょうに。

 

「なんか、ビューンってしてませんでした? 普通の跳躍ではなかったですよね、少なくとも」

 

「稲葉流の憤進法という歩法です」

 

 ぼくもね、初めて習ったときはだいぶ面食らったよ。人間がロケット花火みたいに吹っ飛んでいくんだもの。

 

「歩法……いや、歩いてませんよね? むしろ飛んでましたよね?」

 

「歩法です」

 

「さ、左様ですか……」

 

 なんだか納得いかない様子のステラさん。まあ、他流派ではあまり見ない類いの技だからね。この反応もしょうがないのかもしれない。

 

「おっかしぃなぁ……印を切ってないってことは放出系じゃなくて強化系の魔法のハズですが……いやしかしどうやって強化系であんな飛翔を? ウウウーン」

 

「生の魔力をそのまま噴射してるだけなので特に魔法という訳ではないです」

 

「は!?!? そんなことしたら一瞬で魔力が空になりますよ!?」

 

「魔力を使い切る前に敵を倒せば大丈夫です」

 

「いや、理屈としてはそうかもしれませんが」

 

「まあ良いじゃないですか、そんなことは。今はそれより探索ですよ」

 

 即死した三体のオークをちらりと見ながら、ぼくは言う。

 

「奴らが殺されたことが本隊にバレたら、警戒態勢を取られてしまいます。その前に野営地を見つけ出さないと」

 

「……そうですね」

 

 同意しつつも、ステラさんは相変わらず首をかしげていた。そんなに変だったかなぁ? ぼくの戦闘スタイル……

 

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