貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第十七話 発見

 三体のオークを奇襲で片付けたあと、ぼくたちは例の獣道を一路南下し始めた。敵の本隊にぼくたちの存在が露見すれば、警戒態勢が取られてしまう。そうなる前に一気呵成に仕事を終わらせる必要があった。

 

「おっと、止まってください。あそこ、ちょっとクサいですね。迂回していきましょう」

 

 しかし、その道中は決して平坦なものではなかった。鳴子や落とし穴、くくり罠などのトラップがあちこちに仕掛けられていたからだ。

 トラップは巧妙に偽装されており、見破るのは容易ではない。しかしこちらには猟師のエッダさんがいる。

 わな猟もやるという彼女の眼力は実に素晴らしいものだった。僅かな違和感から罠の存在を察知し、逐一ぼくたちに教えてくれる。

 

「いやぁ、本当にありがたい。斥候役(スカウト)はパーティの生命線ですな」

 

「へへへ、まあそれがアタイの仕事ですんでね」

 

 そんな会話を交わしながら進むこと、一時間。とうとうぼくたちは目的の場所へとたどり着いた。すなわち、オークの野営地である。

 

「あー……やっぱり凄いことになってら」

 

 茂みに隠れながら、ぼくはちいさく呟いた。視線の先には、野営地と呼ぶにはいささか立派すぎる姿となった集落がある。

 二メートルほどの高さまで盛り上げられた土塁。いくつもの物見櫓。幾重にも張り巡らされた頑丈な柵。うん、これはもはや砦だ。

 

「あいつら、いつの間にこんなモンを……」

 

 エッダさんも唖然としている。

 この辺りの地域にオークが現われるようになってから、まだ三月も経っていないのだ。そんな短期間のうちにこんな立派な拠点を建設しているのだから、まったく大したものだ。

 

「オークって、穴掘りが大得意なんですよね。このくらいの砦なら半月くらいでサクッと作っちゃう」

 

 あいつらって、体はデカいし体力も膂力も人間離れしてるからさ。まあ、そりゃ土木工事とかお手の物だよね。重機いらずって感じ。

 

「しかし、この規模の拠点を建設しているとなると……敵の総数はかなり多そうですな」

 

「最低でも五十以上は居そうですねえ」

 

 流石に百の大台には乗ってないと思うけど、それにしたって尋常な数じゃあない。厄介だな。

 

「ちょっとした軍隊なみじゃないですか」

 

 口元をひくひくさせつつ、エッダさんがうめく。

 

「こりゃあ、もう、辺境伯様に援軍を出してもらう他ないのでは。冒険者様の一隊だけでどうにかなる規模じゃないですよ……」

 

 モンスターの駆除はもっぱら冒険者の仕事だが、個人の手に余るような規模になると軍隊が出動することもある。

 今回の依頼主イザベラ様も、最悪の場合は直属の主君である東方辺境伯様に応援を頼むつもりだと語っていた。ぼくたちへの依頼がオークの殲滅ではなく、あくまで拠点の捜索なのもそのためだ。

 

「しかし、軍隊は腰が重い。出動を要請しても、すぐには動いてくれませんよ。最低でも半年は待たされるのではないでしょうか」

 

 ステラさんが顎を撫でながら言う。

 

「しかも、やつらは一度ロッテナウ村に直接攻撃をかけています。幸い、前回はあくまで偵察が目的だったようですが……逆に言えば、次回は本腰を入れてくる可能性が高い。残された猶予はそう多くはないですよ」

 

「……前回はなんとかなったし、次も勝てると思いたいんですが」

 

「それは希望的観測というものです」

 

 いつになく厳しい口調のステラさん。ぼくはそれに口を挟まず、オークの砦を睨み付けた。

 丸太で作られた城門の前には、四体の門番がいる。櫓にも弓兵が配置されてるみたいだな。えーと、ここから見えるだけで……最低七体か。

 当然、土塁の内側にも少なくない数のオークが詰めているはず。そいつらが一斉に出陣してロッテナウ村に攻め寄せたとしたら? ……うーん、かなり厳しい戦いになりそうだ。

 ぼくたちからすれば雑魚モンスターに過ぎないオークも、非ウィッチ(コモナー)にとってはかなりの強敵だ。とくに白兵戦ともなれば、複数でかかっても勝つのは難しいと聞く。

 

「ぼくたちだけでなんとかできないでしょうか?」

 

 少々の思案ののち、ぼくはおもむろに提案した。

 

「……ふむ。それはつまり、拙僧とフェルト殿、そしてエッダ殿の三名であの砦を攻略できないかと。そうおっしゃっているわけですね?」

 

「要するに、そうです」

 

「無茶だろ! それは!」

 

 エッダさんが悲鳴じみた声を上げた。

 

「そりゃ、お嬢ちゃんも御坊様もメチャクチャ強いよ! そりゃあ認めるさ。でもな、合戦みたいな規模の戦いじゃあ、腕っ節だけではなんともなんねぇ」

 

「それは、まあ」

 

「ウィッチったって無敵じゃないんだ。ウチの村の先代領主様もそれはそれはお強いお方だったが、いくさの最中に流れ矢に当たってお亡くなりになっちまった。合戦ではそういうこともままある」

 

「正論ですね」

 

 静かな声で、ステラさんがエッダさんに同意した。

 

「実際、野戦で数体の敵を相手にするのと、拠点に詰めた大勢の敵と戦うのではだいぶ勝手が違います。対人でも、対モンスターでもね」

 

「承知しています」

 

 言われるまでもないことだった。ぼくは静かに頷く。

 

「だからステラさんに聞いてるんです。金級冒険者のあなたの目から見て、この作戦に賞賛はありますか? 五十体だか六十体だかのオークと、ぼくたち。強いのはどちらでしょう?」

 

「……」

 

 ステラさんは、答えない。無言で眉間に手を当て、深くため息を吐く。

 

「…………率直に言いましょう。行ける気がします」

 

「御坊様!?」

 

「いやねぇ、だってねぇ、強いですもんフェルト殿。正直なところ、あんな貧相な土塁なんか障害にもならないでしょう? あのビューンと飛ぶヤツを使ったら」

 

「文字通りひとっ飛びですね」

 

 憤進法はちょっとしたジェットパックなみの推進力がある。それを横方向ではなく縦方向に使えば、あんな低い壁なんか簡単に飛び越えることができるだろう。

 

「問題は継戦能力です。この数をどうにかしようと思えば、長丁場にならざるを得ませんからね」

 

「小一時間は問題ありません」

 

「問題ないというのは、どういうレベルでの話でしょう。複数のオークと問題なく戦える、というのが最低条件ですが」

 

「噴進法込みで全力戦闘出来る時間がそのくらいなんですよ。逆に、それを超えると完全に戦力外になっちゃうと思います。ご覧の通りあまり燃費……効率の良い術式ではありませんから」

 

 正確にいうと術式ですらない。生の魔力を放出してるだけだから。イメージとしてはガソリンを燃やさずそのまま水鉄砲みたいに噴射してるようなものかな?

 

「……」

 

「ダメそうですか?」

 

「…………いや、ダメではない。もちろんダメではないんですが」

 

 眉間に深い皺を寄せ、首を左右に振るステラさん。えっ、ダメじゃないならなんなんですかその反応。

 

「思ってたのよりだいぶ規格外だったというか……いや、まあいいです。ならばわざわざイザベラ様や辺境伯様のお手を煩わせる必要もありません。奴らはここで叩きのめしてやりましょう」

 

「ほ、本気なんですか? 御坊様」

 

 エッダさんは本気でドン引きしている様子だ。僅か三名で数十体のオークが詰めているであろう砦を攻めようとしている訳だから、この反応も当然のことだろう。

 

「むろん、本気です」

 

 一方、ステラさんは完全に腹を決めたようだ。顔にはいつもの胡散臭い笑みが戻ってきている。

 

「先ほども申しました通り、軍に討伐をお願いしたのでは時間がかかりすぎます。いま、ここでやるしかないのです」

 

「冒険者を増員するにしたって、だいぶ余計なお金もかかりますしね」

 

 ロッテナウ村はお世辞にも裕福とはいえない集落だ、領主のイザベラ様すら質素な生活をしているほどなのだから、新たな冒険者を雇うのもなかなか厳しいハズ。

 

「やりましょうよ、エッダさん。ロッテナウ村を守るためには、それが一番いい」

 

 辺境の開拓村なんて、吹けば飛ぶような存在だ。それはぼく自身がいちばんよく理解している。火種は可及的速やかに潰しておくべきなのだ。

 

「……そこまで言われちゃ、しょうがねえ。わかりましたよ」

 

 しばしの逡巡ののち、エッダさんは決然とした表情で言った。こうして、ぼくたちの砦攻めが始まったのである。

 

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