貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~ 作:寒天ゼリヰ
オーク砦の攻略作戦は実にシンプルなものだ。初手で最大火力を叩き付け、あとは流れに任せる。これだけ。
いや、仕方ないんだよ。戦力として数えられるのは実質的にぼくとステラさんだけで、エッダさんは半ば非戦闘員みたいなものだ。
しかもぼくら二人は一緒に組んで戦うのはこれが初めてであり、連携を取る練習なんて一度もしていないと来ている。複雑な作戦を立てたところでとても実行できない。
「
ステラさんの凜々しい声と共に、ビーチボール大の球状雷がオーク砦の正門へと飛ぶ。バチバチという異音と共に、門番役の二体のオークが一撃で感電死した。
「ヤーッ!」
それと同時に、ぼくも噴進法を発動。これまた城門に突撃し、黒焦げになった木製の大扉を蹴りで粉砕する!
「突入……成功!」
刀を抜きながら、周囲を見回す。
土塁の内側には竪穴式の小屋がいくつも建ち並び、まるで村のような様相を呈している。数ヶ月でこんなものを作るのだから、オークどもの土木建築能力はまったく凄まじい。
「――――ッ!」
ひどく慌てた様子のオーク兵が何かを叫び、蛮刀を抜いた。相変わらず何を言っているのかはわからない。
一説によればコイツらを創造した〝外なる神〟の用いていた言語だとかなんとか。まあ、いまはそんなことどうでも良いけど。
「数は、たくさん!」
敵の兵力を確認しようと思ったけど、多すぎて数えきれないや。しかも、竪穴式住居の中からワラワラと新手が出現中だ。うーん、かなり多いぞ。
「ハイヤーッ!」
再度噴進法を使い、手近なオークに肉薄。刀を振り抜きその巨体を両断する。
「ギッ!」
一際大柄なオークが拳を振り上げると、弓持ちのオークがこちらに一斉射撃を仕掛けてきた。近くに味方のオークがまだ残ってるっていうのに、なかなか荒っぽい真似をする。
「遅い」
でも、無駄だよ。稲葉流の剣士は鉄砲の弾よりも速いんだ。矢なんて当たるはずがない。魔力を噴射して指揮官っぽい大柄オークに突撃、その首を刎ね飛ばす。
「ギッ! ギッ!」
「ブブーッ!」
騒いでいるオーク集団に突入、そのまま草でも刈るような調子で切り刻む。中には刀や槍で反撃しようとしてくるヤツもいたけれど、問答無用で斬り捨てた。
奴らの動きはぼくにとっては遅すぎる。はっきり言って脅威じゃない。まあ、油断は禁物だけどね。
「
オークたちに更なる厄災が襲いかかる。無数の稲妻の群れが奴らの一団の頭上から降り注いだのだ。たちまち、一ダースばかりのオークが黒焦げになって絶命する。
「遅れ申した!」
ステラさんがやってきたのだ。彼女は右手で人差し指と中指を構えつつ、右手には杖を握っている。
その白魚のような指が空中に印を描くと、生じた風の刃がオークの首を切り落とした。相変わらず素晴らしい術式構築速度だ。
「後ろをお願いします!」
ぼくの強みは足の速さだ。逆に言うと、囲まれるなどして身動きが取れなくなるとかなり厳しいことになってくる。オーク相手に正面から力比べはしたくない。
しかし、頼りになる後衛が居てくれれば、そうしたリスクはかなり低くなるだろう。ステラさんの加勢は実際有り難い。
「いくぞ……!」
噴進法でジクザグに機動しながら、手近なオークを斬って斬って斬りまくる。一撃で倒し損ねても、頓着しない。
『一対多数の戦いにおいては、決して足を止めるべからず。一人の敵に気を取られすぎてはならん。ひたすら動き続け、攪乱しながら敵の数を減らすべし!』
脳裏に蘇るのは師匠の教えだ。実戦によって裏打ちされたその言葉は、ぼくのなかでしっかりと息づいている。
「むっ」
突進するぼくの前に、蛮刀を構えたオークが立ち塞がる。避けたいが、無理だ。噴進法の加速は凄まじいがそれゆえに小回りがきかない。
「チィ!」
ならば切り倒せばよろしいと刀を打ち振るうが、受け止められてしまう。そのままぼくはオークの巨体に衝突し、団子になって地面を転がる羽目になった。
「フェルト殿!」
ステラさんが声を上げるが、心配ご無用。ぼくは衝突の瞬間、左手で脇差しを抜きオークの喉元に突き刺していた。ヤツは既に絶命している。
こういう強引なやり方で突撃を止められるのは、決して珍しいことではないからね。当然カウンターの方法も心得ている。これくらいできなければ稲葉流の免状は貰えない。
「問題ありません!」
叫び返しながら飛び起きる。そこへ即座に槍を構えたオークが突っ込んできた。うーん、息を吐く暇もないとはこのことか。いったい何体いるんだろうな、あいつら。
ひとまず噴進法は使わず、横ステップで槍突撃を回避。すれ違いざまにその首を刎ねる。
「――」
「おおっと」
矢がいくつも飛んできたので、噴進法で退避。魔力が切れたら一巻の終わりだね、こりゃ。噴進法が命綱だ。まあいつものことだけど。
動き回りながら周囲の様子を確認する。
既にかなりの数のオークを倒しているけれど、敵はまだまだいるようだ。しかもまるで戦意が折れておらず、憤怒の表情でこちらを睨み付けている。
オークの総数は五、六十体くらいと予想してたけど、この様子じゃあもっと多かったみたいだな。いやぁ、キッツい。こっちは一撃食らったらお終いの紙装甲剣士だ。なにか一つでもミスをすれば即死しかねない。
「
その時、ステラさんが二発目の大技を放った。雷の玉は決して大きなものではないが、絶え間なく放電し周囲の全てを稲妻に巻き込む。一撃で十体以上のオークが感電死した。
「ステラさん!」
でも、この手の大技って隙が大きいんだよね。乱戦の真っ最中にそんなもの撃って大丈夫かな?
なんて心配してたら、案の定だ。蛮刀を振り上げた一匹のオークが、その巨体に見合わない俊足でステラさんに迫る。
これはマズい。即座に噴進法を用いて迎撃に入るが……
「拙僧は――」
その瞬間、ステラさんが杖の柄頭に手を当てた。かと思えば、襲いかかったオークの体が両断される。振り抜いた手には細い直刀が握られていた。……仕込み杖か!
「――白兵も、大得意ですので」
こりゃあ、凄い。まじまじと見ていたわけではないとはいえ(乱戦虫に一箇所を注視しているような余裕はない)、このぼくが目で追えない速度の抜刀術とは。金級冒険者は立てじゃない、ということか。
「余計なお世話でしたか」
「いえいえ。しかし、援護はあくまで拙僧の役目。こちらのことは気にせず、フェルト殿は存分に暴れられるがよろしい!」
ニヤリと笑いつつ、ステラさんは稲妻の術式でオークを打つ。遠近両用、どんなレンジでも戦えるってことか。なんとも心強い。
「助かります!」
心の底からそう叫んだ。
いやさ、噴進法で飛び回る都合上、稲葉流ってあんまり援護とか連携とかには向いてない流派なのよ。肩を並べて戦うことができないからさ。
その点、ステラさんは理想的な後衛だ。自衛はお手の物だし、なんなら自分で前に出ることもできる。これならばこちらも気兼ねなく暴れられるってわけだ。
「よし……!」
この調子なら、問題なく勝てそうだ。そう思ったところで、違和感に気付く。敵の攻勢が止まったのだ。
オークどもは武器を構えたまま、遠巻きにこちらを睨み付けている。ただし、撤退する様子はない。あくまで攻撃をやめただけだ。
「フェルト殿、あれを!」
ステラさんが砦の最奥を指差して叫んだ。そこには、周囲の掘っ立て小屋とは明らかに違う大きな建物がある。今、その出入り口から何かが現われようとしていた。
「……大物が出てきましたね」
どうやら、この砦に潜んでいたモンスターはオークだけではないらしい。姿を現したソレは、豚鬼とは明らかに異なる身体的特徴の持ち主であった。
身長三メートルを超える、筋骨隆々の巨躯。化け物じみた大きさの乳房。そして何より、牛そのものにしか見えない異様な顔。その特徴的な容姿から導かれる名前は、ただ一つ。……ミノタウロスだ。