貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第十九話 牛鬼

 ぼくたち人類が種族を問わず人族としてまとまっているように、ヒト型モンスターの中にも異種族間で協力・連携を行うものは少なからずいる。オーク砦の中に現われたミノタウロスは、まさにその協力関係の実例といえた。

 

「やれやれ、驚きましたよ。あんな隠し球があったとはね」

 

 抜き身の仕込み刀を手に、ステラさんがぼくに歩み寄ってくる。その視線の先には、オークたちの〝秘密兵器〟の姿があった。

 ミノタウロスはオークと同じく動物頭の人型モンスターだが、その危険度は桁違いに高い。身長三メートルを優に超える巨人めいた肉体は恐ろしい怪力と無尽蔵のスタミナを併せ持ち、手練れのウィッチさえ苦戦する相手だ。

 ついでにいえば、デカいのは体だけではない。胸も凄まじく大きかった。ミノタウルスは雌しか存在しないモンスターなのである。

 これはオークなど他のヒト型モンスターにも共通した特徴で、奴らはヒト種の男を使って繁殖する。エロゲなんかでよく見る設定と真逆というわけだ。

 

「フェルト殿はミノタウルスと手合わせしたことはございますか?」

 

「ないですね。今回が初見です」

 

「弱りましたねぇ、拙僧もですよ」

 

 そこら中で遭遇するポピュラーモンスター・オークと違って、ミノタウルスはそれほど個体数の多いモンスターではない。ぼくはもちろん、ステラさんもヤツと戦ったことはないようだ。

 

「とはいえ、ここまで来て引くわけにはいかないでしょう? あんなのがロッテナウ村に突っ込んできたら大事になりますよ。鉄砲くらいで倒せる相手じゃない」

 

「然り、ですな。依頼の範囲外ですが、ここで仕留めてしまいましょう」

 

 ステラさんの口角が上がった。ひどく戦闘的な笑みだ。この人、こういう顔もするんだね。

 

「――」

 

「――」

 

 オークどもは例の不可思議な言語で短く会話しつつ、こちらを遠巻きに眺めている。ミノタウルスを矢面に立たせ、自分たちは援護に徹する腹づもりだな。言葉は理解不能だがなんとなくわかる。

 

「オォォォォォォン!!」

 

 ミノタウルスが耳をつんざくような咆哮を上げ、地面を何度も蹴り上げた。そして一気に加速し、こちらへ一直線に突っ込んでくる。

 障害物もお構いなしの直線的な突撃だった。巻き込まれた竪穴式住居が粉微塵に粉砕される。なんてパワーだよ。

 

「こちらで合わせます。フェルト殿お好きなように動いてください!」

 

「承知!」

 

 あんな突撃に巻き込まれてはたまならない。ぼくたちは即座に散開した。

 

雷霆(ストライク・サンダーボルト)!」

 

 戦いの口火を切ったのはステラさんだった。彼女の手から放たれた稲妻は、文字通り電光石火の勢いで空中を奔り、ミノタウルスの顔面に直撃する。

 

「オオオオオオ!」

 

 しかし、無傷! ミノタウルスの醜悪な顔には火傷ひとつついていない。

 

「マジック・プロテクション……!」

 

 強力な魔力を持った生き物には、生半可な攻撃魔法は通用しない。纏った魔力が盾となって魔法そのものを中和してしまうからだ。

 

「白兵でカタをつけるしかないってコトか!」

 

 これを破る一番簡単な方法は、肉弾戦を挑むことだ。マジック・プロテクションで中和できるのは魔法だけ。武器や拳には無力なのである。

 暴走特級めいた突撃を横ジャンプで避け、同時に噴進法を発動する。狙うはミノタウルスの無防備な背中だ。

 

「ガァ!」

 

 しかし、ミノタウルスの側もこの攻撃を予想していたらしい。ヤツは蹄のついた足を地面に突き立て、迅速に方向転換。持っていた金棒でぼくの刀を受け止める。鉄と鉄がぶつかり合い、火花が散る。

 

「こいつ、速い!」

 

 図体ばかりが自慢のウドの大木なら話は簡単なんだけど、どうやらそう上手くはいかないらしい。予想以上に手強い相手のようだ。

 お返しとばかりに振るわれる金棒を、噴進法の逆噴射で避ける。巻き起こった暴風が、ぼくの髪を逆立たせる。おお、怖い。こんなの直撃したら防ぎようもなく即死だな。

 

氷柱槍(アイシクル・ランス)!」

 

 そこへステラさんが援護射撃を飛ばして来た。太い氷の柱がミノタウルスの肩口に直撃するが、かすり傷しかついていない。しかし注意を逸らす程度の効果はあった。

 

「ハッ!」

 

 その隙を逃さず、ミノタウルスの足に斬りかかる。が、これは乱入してきたオークの蛮刀で防がれた。

 

「一丁前に連携を!」

 

 反撃の一太刀をバックフリップ回避しつつ、縦方向回転斬りでオークの頭をスイカ割りめいて叩き斬る。稲葉流、大車輪という技だ。

 

「オォン!」

 

 怒りの形相で金棒の刺突を繰り出すミノタウルス。こいつらにもキチンと仲間意識というものがあるのかもしれない。

 

「させるか!」

 

 これは再びの逆噴射で回避した。そして今度は正方向への噴進法。稲葉流の使い手にしか許されぬ零度方向転換だ。凄まじいGが体全体にかかり、骨肉が軋みを上げる。

 

「ぐっ!」

 

 常人なら一瞬で昏倒しかねないそれを歯を食いしばって耐えつつ、袈裟懸けの一撃をミノタウルスに見舞う。金棒で防がれた。気にせず魔力噴射を続け、ヤツの背後に通り抜ける。

 

「稲葉流、跳ね独楽(コマ)……!」

 

 噴進法を用いた鋭角な方向転換を多用し、四方八方からミノタウルスに攻撃を仕掛ける。その様子はまさに暴れ回る喧嘩独楽の如く。

 

「グォ……!」

 

 さしものミノタウルスも、これにはたまらず防戦一方になる。逆に言うと、高速ランダム攻撃の跳ね独楽をきちんと防御できているということだ。本当にバケモンだよ、この牛。

 

「イヤーッ!」

 

 しかし、この戦いはぼくとミノタウルスの一騎討ちではない。即座にステラさんが地面を蹴り、突撃を仕掛けてきた。肉体そのものが一本の矢になったような、強烈な刺突攻撃だ。

 

「グオオオオオン!?」

 

 仕込み刀が深々とミノタウルスの右肩に突き刺さる。ヤツは唾を吐きながら叫び声を上げ、金棒を取り落とした。

 

「ハッ!」

 

 ステラさんは即座にミノタウルスの身体を蹴り、仕込み杖を引き抜きながら後方に下がる。お手本のようなヒット&アウェイだ。

 

「よぉし……!」

 

 いまのうちにトドメを、と思ったところで邪魔が入った。オーク弓兵が一斉に矢を射かけてきたのだ。

 慌てて噴進法を使い、回避を行う。しかしその隙にミノタウルスは落とした金棒を左手で拾い上げてしまった。

 

「腱を断ちました! 右手はもう使えないハズです」

 

「さすがステラさん……!」

 

 確かにミノタウルスは右腕をダラリと垂らしたままだ。好機は逃したものの、これならば追撃で仕留めることも容易……

 

「ブオオオオオン!」

 

「ええい!」

 

 そこへ突っ込んでくる三体の蛮刀オーク! 一体をなます斬りにするが、もう二体が怯まず蛮刀で斬りかかってくる。ああ、もう、鬱陶しい! これじゃあミノタウルスに攻撃できないじゃないか……

 

「失礼、フェルト殿! 散雷打(サンダーブラスト)!」

 

「ウワーッ!?」

 

 その時、稲妻の束がぼくもろともオークどもを飲み込んだ。壮絶な閃光と轟音がぼくの前身を打ち据える! 「アバーッ!?」オーク二体が即死!

 

「なにするんですかァ!!」

 

 一方、ぼくは無傷だ。マジックシールドはモンスターだけの専売特許じゃない。とくにぼくは魔力保有量が多いので、たいていの攻撃魔法は無力化できる。

 

「失礼と申しました!」

 

「失礼で済むレベル超えてますよ!」

 

 突然の誤爆にミノタウルスは唖然としている。ぼくは噴進法でヤツの足下に急迫し、刀の刃を上に向けた。そのまま刀を掬い上げるように振り上げつつ、真下に向けて魔力噴射を行う。

 ロケットのように打ち上がる勢いを利用し、ミノタウルスの股から頭までを一刀両断! これぞ稲葉流の秘技がひとつ、(のぼ)り龍。

 

「まったく、ムチャクチャをする……!」

 

 声もなく倒れ伏すミノタウルスの骸の横に着地し、周囲を見回す。ステラさんの奇策にはたまげたが、ともかく強敵は倒せた。残るは雑魚の掃除のみ。

 

「さあ、死にたいヤツからかかってこい……!」

 

 刀を構え直し、ぼくは威圧的な声でそう言い放った。オークたちがジリと後ずさる……!

 

 

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