貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第二話 旅程

 あの最悪の邂逅からしばしあと、ぼくとエロ法師ステラは森を出て海道上を歩いていた。

 

「そういえば、フェルト殿はなぜお一人で旅を? いくらウィッチといえど、そのお歳で一人旅というのはいささか物騒なように思われますが」

 

 唐突に、ステラさんが話しかけてくる。沈黙に耐えきれなくなったのかもしれない。

 

「両親の仇討ちのためです」

 

 物騒なのはお前だろと思いつつ、ステラさんを睨み付ける。まあ、この人は覗きはしたがそれ以上のことはせずに逃げ出したので比較的無害なほうの不審者ではあるが……。

 

「仇討ち、ですか」

 

 返事が思った以上にヘヴィなものだったせいだろう、いささか申し訳なさそうな顔で頬を掻く。まあ、気分はわかるけどそっちが振ってきた話題だから仕方ない。案内を頼むなら誤魔化すわけにはいかない事だし。

 

「ぼくはここからだいぶ西のフォドウという寒村の生まれなんですが、これが傭兵団らしき連中に襲撃されましてね。父母が命を投げ出して逃してくれたお陰でなんとかぼくだけは難を逃れることができましたが……」

 

 思い出すだけで胸くそが悪くなる事件だ。泣きながら両親を埋める墓穴を掘ったあの時のことは、未だに何度も夢に見る。

 

「――なんと、痛ましい。犠牲になった方々のご冥福を心の底よりお祈りいたします」

 

 このときばかりは沈痛な面持ちでステラさんはそう言い、前掛けのポケットからハンドベルを取り出した。丁寧な所作でそれを鳴らすと、ちりんちりんと涼やかな音が響く。これが聖鐘教の典型的な祈祷の所作だ。

 

「ありがとうございます、法師様」

 

 覗き犯とはいえいちおうは聖職者に祈って貰えるのはありがたい。ぼくは彼女に頭を下げた。

 

「……とはいえ、村の皆の安らかな眠りのためにも下手人をただでおく訳には参りません。奴らは、この手で」

 

 腰に差した大小ふた振りの刀を確かめる。仇を討つ、ただそのためだけにこれまでずっと腕を磨いてきたんだ。容赦をする気はない。

 

「僧としては、自力救済には頼らず神の天罰に任せるべきだと言いたいところですが。しかし、そのような上っ面のお題目だけで救われるようなものではありますまい」

 

「そのとおり」

 

 この国では、仇討ちは禁止されていない。法の力が弱く、自力で仇を討つ以外に恨みを晴らす方法がないからだ。

 

「とはいえ、残念ながらいまのところ達成の目処は立っていません。というか、仇どもの所在どころか名前さえわからない有様でして……」

 

 傭兵くずれの山賊団なんてそこらに掃いて捨てるほどいるからね。大したコネもない身では探し出すのも容易ではない。

 

「なるほど、そこで拙僧に白羽の矢が立ったと」

 

 のぞき魔のくせにこういう時の察しはいい。ステラさんはニヤリと笑って薄い胸を叩いた。

 

「結構、そういうことでしたらご協力いたしましょう。何なりとお申し付けください」

 

 実に頼もしいお言葉だが。言ってる人間の人柄が信用できない。ついでに言うとこの人、糸目なせいか妙に胡散臭い雰囲気漂わせてるんだよな。肝心要の時に裏切りそうというか……。

 

「はぁ、まぁ、よろしく頼みますよ」

 

 とはいえ、今は手段をえり好みしている場合じゃないからね。ぼくは小さく息を吐き、懐から一枚の紙を出してステラさんに手渡した。そこには、地平線に沈む太陽をモチーフにしたと思わしき紋章が描かれている。

 

「くだんの傭兵団が旗印として掲げていたマークです。見覚えは?」

 

「いいえ、残念ながら」

 

 ステラさんは心底申し訳なさそうな様子で、紙を返してくる。残念、という気持ちは湧かなかった。正直なところ最初から期待はしてなかったからね。こんな早々に有力な手がかりが得られたら、そっちのほうがどうかしている。

 

「まっ、焦っているわけではないので。ともかく、やるべきことを着実に進めるまでです」

 

「そのための旅ですものね。では、これから向かう先はヴァルトブルクということでよろしいですか?」

 

「え、ええ。ご明察です」

 

 ヴァルトブルクというのは、このあたりの地方でいちばん大きな都市だ。

 

「都会ならば情報も集めやすいでしょうし、路銀の稼ぎ口もあるはず。しばらくはあの街に逗留しようかと」

 

「ほほう、良い考えです。ですが、都会には悪しき人間も多い」

 

「覗き魔僧侶とか?」

 

 ちくりと嫌味を言ったが、ステラさんは華麗に無視した。凄い面の皮の厚さだ。

 

「フェルト殿の剣術は実際すばらしい。ですが、腕っ節だけですべての脅威を防げるものではありませぬ。そこでこの拙僧の出番というわけですな」

 

「自分がショタコン犯罪者である自覚あります? 法師様」

 

「……まあ、それはさておいてもフェルト殿は男性ウィッチ。正体が露見すればたいへん面倒なことになるのは必定です。事情を知った協力者は絶対に必要なのは事実ですぞ」

 

「そりゃあそうですが……」

 

 その協力者が微塵も信用できないんだよな~……。

 ちなみに、ウィッチというのは魔力を使って戦う術を持つ人間のことだ。語源はもちろん〝魔女〟なのだが、この世界には稀にぼくのように男なのに魔力を持っている人間がいる。

 そうした男ウィッチは、じつに生きづらい。男ウィッチの子供は必ず莫大な魔力を帯びて生まれてくるからだ。大貴族に囲われる程度ならまだマシで、文字通り種馬のような扱いを受けることも少なくないらしい。コワイねぇ……。

 

「これでも拙僧は敬虔な僧侶ですから、神に背くような行いは天地神明に誓ってやりませぬ。ご安心召されよ」

 

「逆に覗きはオッケーなんだ……」

 

「聖典には〝汝、夫以外と姦淫することなかれ〟という文言はございまするが、〝汝、覗きをすることなかれ〟という文言は一切ありませぬ。聖典を一言一句誤らず暗唱できる拙僧が申すのですから確実ですぞ」

 

「左様で」

 

 この人と一緒に旅するのがだいぶ心配になってきたな。寝込みを襲ってきたりしない? 大丈夫? しばらくは寝るときも刀を手放せないなぁ。

 

「そういえば、路銀を稼ぐとおっしゃっておられましたな。なにかアテはあるのでしょうか?」

 

 ステラさんは露骨に話を逸らした。まあいいや、追求したところでのらりくらりと逃げそうだし。

 

「まあ、ウィッチの稼ぎ口といえば冒険者でしょう。田舎者ですが、そのくらいは存じております」

 

 冒険者。まあ、こういう世界にはつきものの職業だよね。あまり詳しくはないけど、例によって冒険者ギルドなる組織が管理しているらしい。

 

「ふむ、順当ですな。ところで、実は拙僧、こういうモノも持っております」

 

 ものすごいドヤ顔で、ステラさんが胸元から何かを取り出した。ドッグタグめいた形状の金色の札だ。

 

「金級冒険者のギルドタグです。ふふふ、いわゆる副業というやつですな。いやはやフェルト殿は運が良い」

 

「はあ、金級」

 

 驚きたいところなんだけど、いまいちよくわかんない。金級って凄いのかな? たぶん何らかのランクなんだろうけど。

 

「反応が悪いですな~! 冒険者の階級は、銅で一人前、銀で一流。そして……」

 

 ニチャっと笑い、ステラさんはぼくの肩に寄りかかる。

 

「金は超一流! ですぞ」

 

「そのわりに簡単にぼくに捕まりましたよね」

 

「それは」

 

 ステラさんの唇がニュッと尖る。一見クールで胡散臭い感じの美女なのに、めちゃくちゃ表情豊かだよねこの人。

 

「……言い訳させてもらうと、まさか男の子が魔力を使うとは思ってもみず。それに下手に抵抗して怪我を負わせてしまっても申し訳ないですし」

 

「予想外の奇襲で実力を発揮できなかった、と?」

 

「さよう。嘘だと思われるなら、いちど立ち会いでもしてみますかな?」

 

 べったりくっつきながら、ステラさんが囁いた。このエロ僧侶が、調子に乗りやがって……。

 

「いえ、今日のところは結構です。ぼくも剣士、立ち振る舞いをみれば相手の実力もあるていど察しがつく。たしかにステラさんはひとかどの武芸者のようだ」

 

 発言だけみると典型的な言い訳っぽいけど、どうも嘘ではなさそうな雰囲気がある。実際、ステラさんの所作には鍛錬を積んだ人間特有の無駄と隙の無さを感じた。その割に武器らしいものは持ってないけど。もしかして杖術かなにかを使うんだろうか?

 ……というか、よくみるとこの人の僧衣、スカートに尋常じゃなく深いスリット入ってるな。歩くたび、白い生足がちらちら見えている。というか鼠径部も見えてない? 大丈夫なのこれ、ちゃんとパンツ履いてる?

 

「おや、拙僧の足が気になるのですか。仕方ありませんなぁ! 異性の身体というものは実に興味深いものゆえ。拙僧も気持ちはよくわかりますぞ! どうです、ここはひとつ拙僧と秘密の勉強会を」

 

「ヴァルトブルクに到着したらまず教会に案内してもらっていいですか?」

 

「告発だけはご容赦を! なにとぞ! なにとぞ!」

 

 ダメだやっぱこの人。

 

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