貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第二十話 戦果

 残敵の掃討はスムーズに進んだ。ミノタウルスを討たれた時点でオーク側の戦意が挫け、撤退をはじめたからである。

 逃げる敵の背中を斬るのはあまり良い気分ではないが、見逃せばいずれまた人に仇成すようになるだろう。心に蓋をして追撃を行う。

 もっとも、逃げに徹する相手を僅か二名で殲滅するのはまず無理だ。案の定十体ほど取り逃がしてしまったようだが、深追いはしない。他にやるべきことがあったからだ。

 

「……やはりか」

 

 放棄された砦の中、残された掘っ立て小屋をひとつひとつ改めていると、案の定だった。縄で繋がれた若い男たちが七名、身を寄せ合うようにして縮こまっている。オークに捕らえられていた捕虜だ。

 

「冒険者です。助けに参りました」

 

 オークを始めとしたヒト型モンスターは、雌しか存在しない。だから繁殖には人間種の男を利用する。

 もちろん、そのやり方は実に強引なものだ。豚頭や牛頭のバケモノに興奮する男なんてそういないからね。

 だから奴らは無理やりヒトの男を攫ってきて、自らの体液を摂取させる。あいつらの体液には媚薬成分が含まれているからだ。その後は、もう、ご想像通りって感じ。悍ましい話だよ。

 

「ああ、良かった……助かった! もうだめかと……」

 

「ありがとうございます、ありがとうございます……!」

 

 拘束を解いてやると、少年たちは目に涙を浮かべて喜んだ。しかし、みながみなそういう反応を示したわけではない。虚無的な表情で虚空に視線を彷徨わせるばかりの者もいる。

 そりゃあそうだろう。薬物で強引にカラダを反応させられ、バケモノの繁殖道具扱いを受けていたのだ。そんな暮らしが長く続けば、心だって壊れる。

 

「ロッテナウ村の住民ではない者も混じってるようですが、ひとまず全員うちの村で面倒を見ましょうか。これも何かの縁ですんでね……」

 

 合流したエッダさんはそう言ってあれこれ手はずを整えてくれた。伝書鳩を使って村に文を出したり、砦内に放棄されていた大鍋を使って湯を沸かしたり(なにしろ男たちはみなひどい格好をしていた。オークに衛生観念なんてものは存在しない)、戦いに参加できなかった代わりとでもいうように気を回してくれる。

 やるべきことを一通り終わらせると、気付けば日が暮れかかっていた。大勢の非戦闘員(しかも中にはマトモに動けないような者もいる)を連れて夜の森を歩くなんて無茶だ。仕方なく、今夜はオーク砦で一夜を過ごすことにする。

 

「やれやれ、流石にくたびれ申したな」

 

 夕食を終えて焚き火にあたっていると、うしろからステラさんに声をかけられた。彼女はそのまま、ぼくのすぐ隣に腰を下ろす。肩の触れあうような距離だった。

 

「本当に。……いろいろな意味で疲れましたね」

 

 ここまでの大立ち回りをしたのは久方ぶりのことだ。全身には粘着質な疲労感がまとわりついている。

 それだけならばまあいいんだけど、気持ちも少し弱っていた。原因はこの呼吸をするたびにむせそうになる死臭だ。

 オーク砦の中にはいまだに数十体の死体が手つかずのまま残っている。濃密な血脂の臭いと、微かな腐臭。

 焚き火の光に照らし出される粗末な家々も、ぼくの気分を憂鬱にさせていた。臭いと相まって、故郷で過ごした最後の夜を思い出す。もちろん、ウチの村の家はこんなに粗末ではなかったけれども。

 

「まさかミノタウルスが出てくるとは、ね。フェルト殿がいなければ危ないところでした。本当にありがとうございます」

 

「どうでしょう? 金級冒険者様なら、一人でもなんとかなったのでは」

 

「買いかぶりなさるな。一対一ならまだしも、オークどもの邪魔が入る状況では十全に戦えますまい。一人でこの状況に出くわしていたら、拙僧は間違いなく撤退を決断していたはずです」

 

 命あっての物種ですゆえ、とステラさんは続ける。その顔は、普段の胡散臭い笑顔とは明らかに異なる憂いの色があった。

 

「ミノタウルスは単騎で村一つを滅ぼせるような怪物ですからな。ここで討てて良かった」

 

「ですね。それは間違いない」

 

 あいつは確かに強敵だった。あの図体であの俊敏性はいっそ卑怯だと思う。噴進法による加速にもキッチリ対応してたしさ。

 そんなバケモノが、ただの開拓村でしかないロッテナウ村に攻め寄せたとしたら? ……はっきり言って、対処はかなり厳しいだろう。

 領主のイザベラ様は歴戦のウィッチのようだが、領民を守りながらでは十全の実力は発揮できまい。たとえ勝てたとしても、膨大な被害が出ることは想像に難くない。

 

「……本当に良かった」

 

 悲劇の再演なんてご免だ。あんな光景はもう二度と見たくはない。世界はひどく残酷で、悲劇の種はどこにでも転がっている。

 そのうちの一つを未然に潰せたと思うと、まあ少しばかりは気分が明るくなるような心地がした。

 まあ、オークの側からしたらたまったものじゃないだろうけどね。今回のコレも、彼女らから見れば一種の〝村焼き〟だろうし。

 そのことについて何も思うところがないわけじゃあないけれど、だからといって見逃せばやられるのはこちらのほうだ。生存競争だと割り切るほかないだろう。

 

「……」

 

 でも、と頭の中で反芻する。落日の騎士、あの襲撃の首謀者は、もっと強かった。なにしろあの母上を苦もなく殺すほどのつわものなのだから。

 ミノタウルスふぜいにこれほど苦戦しているようでは、奴には勝てない。ぼくはまだまだ未熟だ。もっともっと、腕を磨く必要がある。

 仇討ちにもいろんなやり方があるけれど、ぼくはアイツに正面から勝ちたい。それが、武人としての母上にとっていちばんの弔いになるはずだ。ぼくはそう信じている。

 

「ステラさん」

 

「なんです?」

 

 思考が袋小路に入りつつあることを自覚して、ぼくは話題を変えることにした。

 武芸の道というものは一朝一夕で成るものではない。余計な執着は却って剣を鈍らせる、というのが師匠の教えだった。あまり深刻になりすぎないほうがいいだろう。

 

「明日になったら、ここで死んでいるオークやらミノタウルスやらを埋めてやりましょう。妙な病気でも発生しては困りますし。それに……」

 

「モンスターとはいえ、殺めた以上は供養してやりたいと」

 

 本題を口にする前に言われてしまった。驚いてステラさんのほうをみると、焚き火に照らされたその顔には驚くほど慈愛に満ちた表情が浮かんでいる。

 

「わかりますか」

 

「わかりますとも。フェルト殿はそういう優しいお方だ」

 

 静かに首肯して、ステラさんは天を仰いだ。周囲に人工の光がまったくない辺境の夜空には、色鮮やかな星々が自らの美しさを誇るように輝きを放っている。

 

「魂は不滅の存在です。たとえ肉体が滅びようとも残り続け、世界を巡る。願わくば、彼女らの次の生は我らと矛を交えぬ運命であって欲しいものですね」

 

「ですね」

 

 ぼくは焚き火にかけてあった鉄瓶を手に取り、カップにお茶を注いだ。ステラさんが自分のカップを差し出してきたので、同じようにしてやる。

 

「……しかし、ステラさんもたまには僧侶らしいことが言えるんですね」

 

「失礼な! これでも、拙僧は敬虔な聖職者としてそれなりに名が通っているのですぞ?」

 

「世間の評判と実態が乖離するなんてよくある事です。あなたの本性を知っているぼくにそれは通用しませんよ」

 

「本性と来ましたか! ハハァ、これは耳が痛い」

 

「まっ、悪い人ではないのは確からしいですけどね……」

 

 性癖はアレだけどさ。

 

「おっ、デレですか? デレなんですか? これはデレたと見てよろしいか?」

 

「ダメです」

 

 目を爛々と輝かせながら腰を浮かせるステラさん。これがなけりゃあなあ……。

 

 

 

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