貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第三話 都市

 プロイス帝国の東部に広がる広大な未開拓領域、東方辺境領(オストラント)。その領都として知られる都市が、ぼくたちの当面の目的地、ヴァルトブルクだ。

 

「うおっ……でっか」

 

 やっとのことでたどり着いたヴァルトブルクを目にしたぼくの第一声が、これである。ぼくは現代日本人としての記憶を持つ転生者だが、それを込みにしてもこの街はずいぶんと立派だ。

 まず目立つのが、街をぐるりと囲む黒い石壁だった。外部の脅威から身を守るための防衛施設だろう。しかし驚くべきことに市街地は壁の外にも広がっている。なんだかタライから溢れた水のような風情だ。

 

「そうでしょう、そうでしょう。ふふふ、拙僧もこの街を訪れた時には同じ感想を抱きましたよ」

 

 ニコニコと笑いながら、ステラさんが言う。まあ、この人は基本的にいつだって薄笑いを浮かべてるけど。愛想が良いのは結構だけど、なんか逆に胡散臭くなってるんだよね。詐欺師スマイルというか。まあ実際は詐欺師じゃなくて性犯罪者なんだけど。

 

「西部の方々からは田舎扱いされがちな東部ですが、近年の発展は著しいものがあります。辺境伯様の善政の賜物ですな!」

 

「はあ、なるほど」

 

 半ばぼんやりとした心地でぼくは答えた。山奥の秘境育ちにこの光景は刺激的すぎる。世界って広いんだなぁ。こんなので復讐相手はちゃんと見つかるんだろうか……。

 

「……とりあえず、まずは冒険者ギルドに向かうんでしたっけ」

 

 あれこれ思い悩んでいても仕方がない。千里の道も一歩からだ。ぼくはそう気を取り直し、ステラさんのほうを見る。

 冒険者とやらになるためには、ギルドで登録を受ける必要があるらしい。で、その上であれこれと依頼を斡旋してもらい、その対価として報酬を受け取る。なるほど、だいたい想像通りの仕事内容だ。

 

「ですな。まっ、お疲れのようでしたらいったん宿を取ってギルドには明日行く、という手もありますが」

 

「いや、別に……大して疲れてもないんで」

 

 時刻は昼前。昨晩は野宿で朝から歩き通しだが、とくに疲労感は覚えていない。前世だったら疲労困憊だっただろうけど、いまのぼくは十三歳の若人だからね。しかもウィッチは魔力のおかげで一般人よりも遙かに体力がある。体調的には万全と言っていいだろう。

 

「あっ、でも、よく考えたら宿は早めに確保しておいたほうがいいのかな。部屋が埋まっちゃったら困る……」

 

 田舎町の宿屋ならそういう心配はないんだけど、ここは大都会だからな。油断をしていると街中で野宿する羽目になるかもしれない。それは流石に簡便だ。

 

「それに関しては心配いりませぬ。拙僧はふだん、この街を拠点に活動しておりましてな。家代わりに安アパートの一室を借りているのですよ」

 

「へえ、そうなんですね……ちょっと待って、ナチュラルにぼくを自宅に連れ込もうとしてませんか?」

 

「お気づきになられましたか」

 

「なられましたかじゃねーよ!」

 

 なんで覗き魔の家に泊らなきゃならないんだ。飛んで火に入る夏の虫以外の何者でもないだろそれ。

 

「しかしですね、フェルト殿。ご存じのことかと思われますが、安宿というのは大部屋での雑魚寝が基本なのです」

 

 そういえば、そうだった。旅立ってから基本的にずっと野宿だったから忘れてたよ……いや宿代がもったいなくてさ。ぼく野外でも普通に寝られるタイプだし。

 しかしよくよく考えてみると雑魚寝はマズイ。ぼくは性別を偽らねばならない立場だからだ。着替えやらなにやらのことを考えると、プライベート空間は絶対に欲しい。

 

「むろん個室がないわけではございませぬが、そうした宿はたいてい高い! 差し出がましいことを申しますが、金子のほうは大丈夫なのですかな?」

 

「むむぅ……」

 

 唸りながら、懐から財布を取り出す。革袋を開いてみれば、中には錆びた銀貨数枚と銅貨がいくらかあるだけだ。

 ちなみに、この路銀の出所は師匠からもらった餞別だ。お金のほかにもあれこれと用立ててくれたので、本当にありがたい。今ごろなにしてるかなぁ、師匠……。

 

「その点、拙僧の家ならば何の心配もございませぬ。もちろん、〝友人〟のフェルト殿から宿代を徴収するような真似はいたしませぬからな」

 

「宿代以外の部分が心配でたまらないんですが」

 

 おもに貞操とか。……ん? よく考えたら襲われても別にそれほど困らないな? ステラさん、性格はともかく顔は美人だし。むしろ役得じゃない?

 いや、いや、でもぼく十三歳だからな。そんなガキに欲情するような人間はやっぱダメだわ。何されるかわかったもんじゃない。ぼくが彼女と同年代だったら普通に大歓迎だったのにな。ふつうに残念なんだけど。つまりすべてはこのショタコンが悪い。

 

「大丈夫です! 何度も申しますが、拙僧は聖鐘教の聖職者。戒律を破るような真似はいたしませぬ。実際、これまでの旅でも覗き以外に不埒な真似はしなかったでしょう? 信頼してくだされ」

 

「覗きが不埒な行為であるという自覚はあったんだ」

 

 まあ、確かにステラさんの言うことにも一理ある。野宿中とかかなり警戒してたんだけど、別になんの手出しもしてこなかったからな。

 ……でも、どうかなぁ? たんにこっちの警戒が緩むまで待ってただけということも考える。ぼく、野宿中ずっと刀抱きしめてたし。ガードが下がったところを見計らって一気に……ということもありえるか?

 

「いや、別に無理にとは申しませぬよ? これはあくまで善意の提案、ほかの選択肢を選ばれたところで文句を言うつもりはございませぬ」

 

「むむむむ……」

 

 実際、宿代が節約できるのは助かる。冒険者になるったって、即日で大金が稼げるとは思えないもんな。少なくともある程度生活が安定するまでは支出は最低限に抑えたいところだ。

 

「……わかりました、ステラさんのところでご厄介にならせていただきましょう。ありがとうございます」

 

 半ばやけくそでお礼を言うと、ステラさんはネッチョリとした笑みでそれに応じた。……信用ならねぇ~! いくらお金がないからって短慮だったかな……。

 

「ともかく、さっさと街に入りましょう。話はそれからです」

 

 なんとなくの後悔を覚えつつも、ぼくたちは歩を進めることにした。

 

「ヴァルトブルクには、大きく分けてふたつの区画があります」

 

 それからしばし立ったころ、僕たちは城壁の外に広がる街を歩いていた。都会だけあって建物の数は多いが、どうにも雰囲気がおかしい。

 道こそ石畳の敷かれた立派なものだが、その左右にならぶ家々はどれも薄汚れた平屋の木造で、バラックめいたボロ小屋さえある。

 行き交う人々もなにやら粗末な身なりをしており、道端で煮炊きや沐浴をしている者すらいた。なんだか荒んだ雰囲気だ。

 

「すなわち、壁の内と外。前者を内街、後者を外街と呼びます」

 

 頼みもしないのに観光案内めいたことを喋り始めるステラさん。まあ、興味はあるし話を聞いてみることにするか。

 

「ここは外街というわけですね」

 

「さよう。ただし、街といってもそれはあくまで通称。行政的にはここは街ではありません」

 

「あー……」

 

 人は住んでいるが、街ではない。なるほど、だいたい察しがついてきたぞ。

 

「ヴァルトブルクの市民権は持っていないが、ほかに行くところがない。そうした人々が許可を得ず壁の外に居住しはじめたのが、この外街の成り立ちです」

 

 いつもの胡散臭い笑みを引っこめつつ、ステラさんは薄汚れた町並みを一瞥した。

 

「今でも、ここに住んでいる方々の大半はヴァルトブルク市民ではありません。行政的にはね」

 

「なるほど。……つまり、あれですか。治安が」

 

「そう、そうなのです」

 

 ステラさんはゆっくりとため息を吐く。

 

「勘違いしてほしくはないのですが、外街の皆さまのほとんどは慈悲と助け合いの心をよく理解した善良な方々です。卑劣なやり口で私腹を肥やす上流階級の人間よりも、よほど心が清い。ですが……」

 

「……」

 

「今日の糧を得るため、正道から外れざるを得ない人。そして、そうした方々を食い物にする真性の悪党。そうした者たちが数多く存在するのは、誤魔化しようのない事実でして」

 

 有り体に言えば、スラム街ってことだね。まあ、大都会にはこういうのは付きものか。中近世めいたこの世界のこと、まともな社会福祉とかもないだろうし。

 

「あまり、外街に深入りするのはやめておいたほうがいいと」

 

「さよう。現実問題として、余計なトラブルは避けるべきです。まっ、街道付近は衛兵隊による巡回がありますからな。白昼堂々人さらいをするような阿呆はおりませぬ。街中に入りさえしなければ安全といって良いでしょう。……昼間のうちはね」

 

 夜になったら危ないわけか。こわいねぇ……。

 

「冒険者になれば、内街への居住権を貰えます。外街はあくまで通り過ぎるだけの場所、そう思っていただければ」

 

「なるほどね。……ん? 冒険者になれば壁の内側に住めるんですか。なら、どうして外側の人たちは……」

 

 まあ家賃的な問題はあるんだけど、とりあえず冒険者になれば居住者としては認められるんだよね。この制度、いろいろと穴がないかな?

 

「冒険者というのは、そう簡単になれるものではございませぬ。まず前提条件として、ウィッチかそれに準じる戦闘能力を持っていることは必須です」

 

「あっ、そうなんですね」

 

「そもそも冒険者という制度自体、戦乱の時代が終わって職を失ったウィッチたちに仕事を与えるために生み出された職業ですから。コモナー、すなわち魔力を扱う術を持たぬ方々に対しては、門戸が開かれているとはいいがたいわけですな」

 

 なるほど、江戸時代初期の浪人対策のような感じか。この世界の歴史とかぜんぜん勉強してこなかったから、なかなか興味深い。

 

「それに加え、ウィッチなら誰でも冒険者になれるというわけでもありません。紹介状が必要です」

 

「えっ」

 

 紹介状。ぼくは唖然とした。そんなもの持ってないんだけど。

 

「あ、あの……師匠からもらった免許じゃ、ダメ?」

 

 懐から紙を取りだし、ステラさんに見てもらう。免許、といっても運転免許ではない。武術の師範が弟子に与える一人前の証明書だ。

 

「ほほう、発行者は……イナバ・レンコ? 寡聞にして存ぜぬお名前ですな。冒険者資格をお持ちの方なのでしょうか」

 

「いや、どうでしょ……冒険者ギルドっていつ頃発足した組織なんですか?」

 

「ええと……確か、百二十年ほど前ですな」

 

「あっ、ダメだ。あの山にこもり始めたの百五十年前って言ってたし」

 

「百五十年前!?」

 

 ステラさんが素っ頓狂な声をあげた。周囲の注目が一気に彼女に集まる。それに気付き、ステラさんはこほんと咳払いをした。

 

「も、もしや、フェルト殿のお師匠様は長命種であらせられる……?」

 

「らしいです。極東の島国生まれの……妖狐族だったかな? 身体的特徴はステラさんに似てますが、尻尾が何本も生えてるんですよね」

 

 長命種。文字通り、一般ヒト族よりも遙かに長い寿命を持つ種族のことだ。その存在は広く知られているものの、数が少ないので実際に目にしたことのある人間は少ない。……らしい。師匠情報なのでいまいち信憑性ないけど。

 しかし、妖狐族かぁ。ぼくもよくよくキツネなお人と縁のある人間だな。ステラさんも狐人族だし。外見上は尻尾の数くらいしか差が無いけど、実際はまったく別の種族なんだよな……へんなの。

 

「さようですか……ハハァ」

 

 ステラさんは露骨に冷や汗を掻き、視線を彷徨わせた。しかしすぐに再び咳払いをし、言葉を続ける。

 

「ま、まあ、それはさておき、この免許ではおそらく冒険者ギルドは納得しないでしょう。ですがご安心あれ、貴殿には金級冒険者による紹介状があるのですから」

 

「それってつまり、ステラさんですよね」

 

「いかにも。ふふふ、フェルト殿は良縁に恵まれましたなぁ! まっ、大船に乗ったつもりでいてくだされ」

 

 恩を売ることに余念がないなぁ、この人! 取り立てされるのが本当に怖いんだけど。そのうちケツの毛までむしられそうだな……。

 

「さあさあ、まもなく街の正門です。冒険者ギルドは内街にありますゆえ、まずは関所で街に入るための手続きをせねばなりません。ご面倒でしょうが、しばしの辛抱ですぞ」

 

 やたらと高いテンションで、ステラさんはぼくの手を引き早足で歩き始める。……ナチュラルな身体接触ぅ!

 

 

 

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