貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~ 作:寒天ゼリヰ
大都市だけあって、ヴァルトブルク正門に設けられた検問はじつに厳重なものだった。完全武装の衛兵が何人も並び、通過希望者をひとりひとり念入りに検査している。
それに加え、希望者自体の数も実に多かった。行商人やら、巡礼者やら、旅芸人やら……様々な職業の人々が長蛇の列を作り、手続きを待っている。それを見て、これは長丁場になりそうだなと覚悟を決めたものだが……。
「おや、御坊様。お久しぶりです!」
列に並んで早々、警備の衛兵がステラさんに挨拶をしてきた。どうやら顔見知りらしい。
「しかし、なぜこちらの列に? 御坊様は居住権をお持ちでしょうに」
「いえ、此度は彼女の付き添いでしてな」
そう言って、ステラさんはぼくの肩を叩く。彼女呼びはかなりむずがゆいが、性別を偽らなきゃいけない以上仕方のないことだ。早く慣れればいいんだけど。
「ご紹介いたしましょう、フェルト・イナバ・フォッケル殿です。優れたウィッチの才覚の持ち主でして、冒険者ギルドに推薦しようとお連れいたしました」
「ど、どうも……」
「ほう! 御坊様がそこまでおっしゃられるとは。よござんす、そういうことでしたらぜひこちらに……」
衛兵さんはニッコリと笑い、ぼくたちを裏口に案内して通してくれた。い、いいのか? いろいろと……手続きとか……。
「大丈夫なんですかね、こんなことして」
「検問はあくまで犯罪者や危険人物の排除を目的としたものゆえ、問題はありませぬ。自慢ではありませぬが、拙僧はそれなりの信頼を勝ち得ているのですよ」
「ダメじゃん……目、節穴じゃん……」
コイツ覗き魔ぞ?
「そんなことより、いまは冒険者ギルドですぞ! ぐずぐずしていては日が暮れてしまいます」
ステラさんは強引に会話を打ちきり、ぼくの手を引いて歩き始めた。この人、さっきからごく自然な態度でぼくの手を握りまくっている。それだけならまだいいが無意味にニギニギしたりするのはやめて欲しい。
「これが内街か」
やめろといっても無駄そうなので、すべてを諦め壁の内側を見回す。
ならぶ建物はレンガ造りの立派なものばかり。道行く人々の身なりも良い。雰囲気そのものが外街とまるで違う。格差社会感じちゃうね。
などと考えているうちに、目的地についた。冒険者ギルド、ヴァルトブルク支部だ。レンガ造り、三階建て。面積もかなり広そうだ。
大通りに面した一等地(たぶん)にこんな大きな施設を作れるあたり、冒険者ギルドという組織の立ち位置や規模感がなんとなく察される。少なくとも、一山いくらのゴロツキに日雇い仕事を斡旋するだけの施設には見えない。
「さあさあ、こちらへ」
手を繋いだまま、ステラさんは勝手知ったる様子でギルドへと入っていく。ぶ厚い木製のドアを開くと、まず目に入ってきたのは高級ホテルめいた豪勢なエントランスだった。
「うわっ……なにこれ……」
想像とだいぶ違う。冒険者ギルドって、なんか小汚いイメージあったんだけどな。チンピラ同然の荒くれ者どもがたむろしてるような感じで……。
……いや、普通にいるわ小汚い荒くれ。目付きの鋭い全身傷だらけのビキニアーマー戦士とか、謎にトゲトゲの装飾がついた革鎧を着用したモヒカンとか。うわあ、なんだこの場違いな連中。
「ウィッチというのは大半が現役貴族か零落した貴族の末裔ですからな。それを管理する組織となると、相応の格式が求められるのです。……ただ、しょせん冒険者は領地や官職を持たぬ身。みなが裕福かと言えば、そうでもなく……」
ぼくの疑問を察したのだろう、ステラさんがそんな耳打ちをしてくる。
そうなんだ……そういえば、母上ももと騎士だという話をしてたな。じゃあなんであんなド辺境の開拓村に住んでいたのかというと、ちょっと謎だが。詳しく聞く前に死に別れちゃったんだよね……。
「ラッツァーティ様! なかなかお戻りにならないので心配しておりましたよ」
そこで、ギルド職員らしき若い女性が駆け寄ってきた。ホテルマンを思わせるシンプルだが上品な制服をキッチリと着こなしている。
「おお、ホルツヴァート殿。ご心配をおかけしたようで申し訳ない。依頼以外にもちょっとした用事がありましてな」
ステラさんはいつもの詐欺師めいた笑みでそれに応じ、ぼくのほうを見る。
「で、その用事というのが、こちらのフェルト・イナバ・フォッケル殿です。依頼の達成報告と一緒に、彼女の冒険者登録もお願いしたい」
「ほう、冒険者登録ですか。では、メンターはもちろんラッツァーティ様でよろしいのですね?」
「むろんです。彼女の身元と実力は拙僧が保証いたしましょう」
話がすいすい進む。ホルツヴァートさんというこのギルド職員も、細かい質問などまったくする様子がない。よほどステラさんが信用されているということだろうか……? 覗き魔のくせになんでだよ、催眠アプリでも使ってるのか?
現実的に考えると、金級冒険者という地位がそれだけ高いと言うことだろう。あるいは、ステラさんの実家が大貴族とか。貴族が次女三女を僧院に入れるなんて珍しいことではないから、普通にあり得る。
「かしこまりました。……お初にお目にかかります、フォッケル様。わたしは冒険者ギルド、ヴァルトブルク支部のアレクサンドラ・フォン・ホルツヴァートと申します。今後ともよしなにお願いいたします」
「ど、どうも……フェルト・イナバ・フォッケルです」
完璧な所作で一礼するホルツヴァートさん。う、うわあ、気後れするぅ……。こっちは田舎者のクソガキですよ、もうちょっと雑な扱いでもいいと思うんですが。
「それでは、ただいま準備をして参りますので少々お待ちください」
ホルツヴァートさんはそう言って奥へ引っ込んでいった。本当に話が早い。
「ぬふふ。恩着せがましいことを言いますが、これは金級たる拙僧の推薦だからこその扱いですぞ。推薦者がそこらの銀級なら、処理を後回しにされて『また後日お越しください』なんて言われることも珍しくない」
「本当に恩着せがましいですね……いやありがたいんですけど。感謝はしますよ本当……」
「拙僧もこういう言い方はしたくないのですが、好感度は稼ぎたいですからなぁ。背に腹は代えられませぬ」
「好感度なんて稼いでどうする気ですか……」
私に乱暴する気でしょう! エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!
……冗談抜きでその可能性が排除できないのが怖い。なにしろこの世界において男性は性的に〝食われる〟側だ。しかもぼくは貴重な男性ウィッチと来ている。油断したら本当においしくいただかれてしまうかも。
余計なしがらみがなければそれも楽しめたかもしれないのにな~! 全部あの腐れ傭兵団がいけない。あいつらぶっ殺すまで安眠できないもん、ぼく。キレそう。
「ぬふふふ……これは今の状況とはまったく無関係の妄言ですが、美味しい料理を作る時は下ごしらえにこそ一番力をいれる必要があるそうです。いやあ、至言ですなぁ」
ふっとぼくに顔を寄せ、耳元でそう囁くステラさん。背中にゾワリと冷たいものが走った。こ、この人、本気でぼくを食べようとしている……!
「冗談です。ぬふふふ……」
幸いにも、彼女はすぐに身を引いてくれた。その表情は一見普段通りにみえるが、糸目が微かに開きスミレ色の瞳が露わになっている。ヒェッ……肉食獣の目付きだ……。
「お待たせいたしました、ランツァーティ様、フォッケル様。登録の準備が出来ましたので、こちらにおいでください」
そこへタイミングよくホルツヴァートさんがやってきた。ステラさんは何事もなかったかのように「おお、かたじけない!」と応じる。た、助かった……。
……ん? いやでも、冒険者登録が終わったらステラさんの自宅に行って泊るんだよな。あれ、ヤバくない? これ、いわゆるカモネギという奴では……。うわ、やっぱりショタコンドスケベ僧侶なんか信用するんじゃなかった。うわあ……。