貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~ 作:寒天ゼリヰ
ホルツヴァートさんに案内され、僕たちは小部屋に連れて行かれた。どうやら普段は応接室として使われている部屋のようで、面積こそ手狭なものの調度品は妙に豪奢だ。中央にはアンティーク調のテーブルと猫足椅子が置かれ、壁際には絵画や生け花などが飾られている。
「なんか、妙に大げさじゃないですか? たんなる仕事の登録のはずですよね、これ」
猫足椅子に腰を下ろしてから、ステラさんに耳打ちした。下にも置かぬ扱いとはこのことだろうか。しかし、どうにも違和感を覚える。エントランスにいたあのイカニモ系荒くれたちもこれと同じような扱いを受けているのだろうか……?
「我々、冒険者ギルドはただの日雇い仕事の斡旋所ではありませんから」
内緒話のつもりだったが、どうやらホルツヴァートさんには筒抜けだったらしい。対面の席に座った彼女はニッコリと笑いながら答えた。
「冒険者ギルドの設立当初、ウィッチと貴族はほとんどイコールの存在でした。ゆえに、われわれはウィッチの皆さまを貴族として遇します。大きな魔力を持つとは、それほど尊いことなのです」
「な、なるほど」
ウィッチとは、魔力を持って戦う術を持つ者のこと。その戦闘力は
一説によれば、平均的なウィッチひとりで
「もっとも、それは戦乱の時代のお話。平和な現代においては、魔力よりも金子のほうが重視されておりますがな。職にあぶれ零落し、
腕組みをしつつ、ステラさんが皮肉げに笑う。まるで江戸時代みたいだぁ……。
「ラッツァーティ様のおっしゃることも事実ですが、我々冒険者ギルドはいついかなる時もウィッチの皆さまの味方です。何か困ったことがありましたら、お気軽にご相談ください」
「具体的に言うと、金貸しですな。しかしとんでもない暴利なので間違っても頼ってはなりませぬぞ」
耳元でボソッと恐ろしい助言をしてくれるステラさん。やっぱり裏があったか。笑顔で新設を押し売りしてくる奴ってたいていロクなもんじゃないものね。まあ、それを言ったらステラさんもその同類なんだけど。
「フェルト殿の生活については、メンターたる拙僧が面倒を見ますゆえご心配なく」
「さようですか」
空疎な笑みが交差する。居心地の悪い気分を覚えつつ、ぼくはコホンと咳払いした。
「おおっと、失礼。本題に戻りましょう。……そうですね、まずは冒険者というお仕事の概要についてお話しましょうか。既にご存じのこととは思いますが、そういう規約になっておりますので」
「いえいえ、よろしくお願いします」
ご存じどころか、ぜんぜん知らない。前世知識をもとにした漠然としたイメージはあるけど、それが合っているかどうかはわからないし。思い込みで余計な失敗をする前に正しい知識を学んでおいたほうがいいだろうね。
「ふふふ、そう言っていただけると説明のし甲斐がありますね」
薄く笑ってから、ホルツヴァートさんは冒険者業の概要を語り始める。
……とはいっても、意外なことにその内容はぼくの脳内イメージと大差はなかった。冒険者は軍隊の出張るほどではない暴力案件を請け負う代行業で、おもにモンスター(この世界にもそういう生き物がいる)の討伐がメインの仕事だ。
ただし討伐以外にも役割はあるようで、旅人の護衛や希少な植物・鉱物の採取にも駆り出されることがあるらしい。
こうした案件は依頼という形で分割管理されており、冒険者個人やパーティなどが自主的にそれを請け負う形で遂行する。まあ、言ってしまえばパブリックイメージ的な〝冒険者ギルド〟そのままの感じだね。
「冒険者は、これまでの実績に応じてランクが与えられます。上位のランクになるほど、受諾できる依頼の自由度が上がると思ってください。ランクの低い、すなわち実績と信用を積んでいない者に、重要な案件を任せるわけには参りませんからね」
「そりゃあそうですよね。……ランクというと、ステラさんの金級とか、そういうモノのことですよね」
ちらりと隣を窺うと、ステラさんが胸元にかけた金色のタグを指先で弾いてみせた。
「はい。具体的に説明しますと、ランクは鉄・青銅・銀・金の四種類に分かれます。後ろに行くほど、位階が高くなるわけですね」
ホルツヴァートさんはテーブルの上に四種類の金属タグを並べた。それぞれ、ランクの名称通りの金属で出来ているようだ。こりゃ分かりやすくていいね。
「いちおうこの上に
「つまりは、金級こそが実質的な冒険者最高位というわけですな」
これ見よがしに金タグを見せびらかしながらステラさんが言った。それ実は真鍮製だったりしません?
……まあこの破戒僧はさておいて、ランクについてはよく分かった。そういえば、前世で読んだ小説でもこういう説明を受ける下りを百回くらい読んだ気がする。懐かしいなぁ。
「そうなると、新入りのぼくは鉄級からスタートということになるんですかね」
「いいえ、残念ながら」
ちらりとステラさんを一瞥してから、ホルツヴァートさんが首を左右に振る。説明してないんかい、とでも言いたげな顔だ。
「冒険者ギルドに登録されたばかりの方に支給される身分証はこちらです」
そういって彼女が卓上に出したのは、簡素な木製の札だった。……えっ?
「木級冒険者、ということですか?」
「いいえ。残念ながら、冒険者という職業は登録してすぐになれるというものではありません。なんといっても、危険かつ繊細な仕事ですからね。技能も心持ちも伴わない名ばかり冒険者を粗製濫造してはギルドの沽券に関わります」
「分かりやすく説明すれば……そう、鍛冶職人に弟子入りしたとして、すぐに鍛冶職人を名乗るわけにはいかぬでしょう。その点は冒険者もまったく同じでしてな」
ステラさんが訳知り顔で補足した。言われてみればその通りだけどさ……。
「ですから、ギルドは登録者に一年の見習い期間を設けています。冒険者として十分な技能を有するもの、すなわち銀級以上の冒険者に師事し、必要な能力を身につけてもらうわけですね」
な、なるほど……。考えてみれば合理的なシステムだ。新入り冒険者のパーティが無謀にもゴブリンの巣穴に突撃して全滅、みたいなことになると目も当てられないしね。
このあたりは、冒険者とウィッチがイコールで結ばれているこの世界ならではの事情かもしれない。ウィッチの数というのは以外と少ないからね。そこらでポンポン死なれては困るのかも。
「一年以上の師事、ですか……」
問題は、その〝師匠〟役だ。察しの悪いぼくだって、ここまでくればだいたいの流れは困る。そうか、さっきからステラさんがたびたび口にしているメンターという言葉はこれのことか……!
「さよう。ぬふふ……ここから一年、みっちりねっちり教育するつもりでおりますので。二人三脚で頑張っていきましょうぞ? フェルト殿」
ハートマークでも浮かんでいるような声音で、ステラさんが言う。い、一年! このスケベ坊主と一年一緒に過ごさないと、冒険者になれないの!? 嘘でしょ……!
ああ、すべて察しがついてしまった。これはステラさんの策略だ。大した説明もせずに冒険者ギルドにぼくを連れ込み、強引に長期間コンビを組まざるを得ない状況に追い込む! ああ、なんてことだ。変質者の執着を見誤っていた……! このクソ坊主、やりやがった!
「……」
思わず白目を剥きそうになったが、ここまで来て「やっぱ冒険者になるの辞めます」とは言いづらい。首を左右に振り、ゆっくりと息を吐く。
「……さて、説明についてはこんな物でしょうか。続いて、登録試験のほうに移らせていただきます」
痛ましい物でも見るような目付きでぼくを一瞥してから、ホルツヴァートさんは机の上のギルドタグを片付けた。そしてその代わりに、握りこぶしよりも二回りほど大きな水晶玉を取り出す。
「試験?」
「ええ。といっても、簡単なものです。冒険者というのは基本的にウィッチのみが就く職業ですから。登録に当たっては魔力の測定が必須となっているのですよ」
測定。ああ、これも前世で読んだ小説にあった気がする。
「この水晶玉が魔力の測定具です。こちらのナイフで指を傷つけ、水晶玉の上に血を垂らしてください」
「アッハイ」
血、血ね。分かりやすくて良いじゃない。ここまで来たら毒を食わば皿までだ。受け取ったナイフで左薬指の中ほどを薄く切る。とくに躊躇とかそういうのはない。ぼくはこれまでの修行生活でずいぶんと怪我慣れしていた。
垂れてきた血を、言われたとおり水晶玉に垂らしてみる。すると……
「うわっ、眩しっ!?」
突然、水晶玉が輝きを放った。具体的にいうと……プロカメラマンが使う大型のストロボライトくらい? よくわからないが、とんでもない光だった。
「グワーッ!?」
「あなやっ!?」
どうやらこの事態はふたりにとっても予想外だったようで、ステラさんとホルツヴァートさんも目を押さえてもだえ苦しんでいる。なんなのマジで……。
結局、みなが落ち着きを取り戻すまでには五分ほどの時間が必要だった。ホルツヴァートさんは何度も目をゴシゴシと擦り、首を何度もかしげる。
「な、なんだったんです、今の」
「そりゃあ、フェルト殿の魔力がそれだけ多かったということでしょうな。しかし驚いた。拙僧の時でさえ、ピカッと軽く輝く程度だったというのに。正直嫉妬を禁じ得ませんなぁ」
どうやら、光ること自体は正常な動作だった様子。つまり異常だったのは輝度のほうか。なるほどぼくの魔力はよほど多いらしい。
まあ、正直これは予想通りだった。なんといっても、ぼくの父上は男ウィッチなのだ。男ウィッチの子は莫大な魔力を持って生まれてくる。伝説の通りと言うわけだね。
……しかし、男ウィッチってのは滅多に生まれてこないハズなんだけどなぁ。二台連続して、というのはいったいどういう確率だろうか。
少なくとも、宝くじで一等を当てる程度には幸運なはず。まあ、個人的にはそんな幸運より両親の死なない未来のほうが欲しかったけどね。
「わたしもこれほどの魔力の持ち主は初めて見ました。ラッツァーティ様、これほどの逸材をいったいどこで……?」
考え込むぼくを尻目に、ふたりの会話は続いている。
「それは、秘密です」
ステラさんはミステリアスに微笑み、人差し指をまっすぐ立てて唇に当てた。実に意味深な態度だ。……実際は覗きをしている最中に捕まっただけなんだけれども。
「さ、さようですか」
そんなことなど思いもよらないホルツヴァートさんは、ゴクリと生唾を飲んだ。なにやらステラさんの迫力に飲まれているご様子。いやはや、まったく、大した詐欺師っぷりだなぁ。
「と、ともかくこれで登録試験は合格です。フォッケル様、こちらの書類にサインを」
「アッハイ、分かりました」
ぼくとしては、魔力云々よりも一年の見習い期間のほうがよほどショックだ。半ば呆然となりつつ、ぼくは契約書にサインした……。