貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~   作:寒天ゼリヰ

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第七話 思惑

 ステラ・ラッツァーティは敬虔な僧侶である。

 ……決して嘘ではない。西に貧しき病人あらば行って無償で治療してやり、東の村でモンスターが暴れていると聞けば僅かな報酬で討伐する。金級冒険者という地位にありながら生活に必要な最低限の金銭以上は手元に残さず、残りはすべて寄付してしまう。

 その生き様は教団からも冒険者ギルドからも高く評価され、若さに見合わぬ名声を築きつつあった。……しかし、彼女は罪を犯してしまった。覗きという罪を。

 

(や……やってしまったッ!)

 

 彼女は後悔した。言い訳をするならば、ステラは決してその卑猥な目的でフェルトに近づいた訳ではない。深い森の中で人の気配を察知し、興味半分で近づいただけだ。その結果、フェルトの水浴び現場に遭遇してしまったのである。

 

(しまった、早く離れねば)

 

 ステラは最初そう思った。これでも彼女は真っ当な倫理観の持ち主であったから、これは当然のことである。男性、それも年端のいかぬ少年の裸身をまじまじ見るなど、とんでもないことだ。

 

(これは……)

 

 ところが、彼女の足は一歩も動かない。目も、フェルトの裸身を捕らえて放さない。ステラは完全に金縛り状態に陥っていた。本能が理性を超越してしまったのである。

 薄い胸板、細い手足、薄紫色の長い髪、そして何より意志の強さを窺わせる目……ステラは脳が焼けるような心地を味わっていた。

 恋人はいない、出来たこともない。(エロ)本も読まない、娼館にも行ったことがない。そういう人間に、この光景はあまりにも刺激的過ぎた。

 

「誰だ!」

 

 そして結局覗きがバレ、ボコボコにされた。彼女も自分が一方的に悪いことは理解していたから、もちろん抵抗はしない。お説教も甘んじて受け入れた。流石に、教会へ通報するのだけはやめて欲しかったが。しかし、問題はもうひとつあった。

 

(この少年……スケベ過ぎる……!)

 

 お説教の間も、ステラはずっとそのことばかりが気になっていた。水に濡れた華奢な肉体と、それを包むオリエンタルな紅白装束。なんと扇情的な装いだろうか。正直、全裸よりも卑猥だ。

 

(顔立ちは西方人のそれなのに、服装は東方人風……このギャップがたまらない……)

 

 ステラはいい加減イライラしてきた。いや、嘘だ。イライラではなくムラムラしていた。挙げ句の果てに、らしくないことをしてしまう。逆ギレだった。

 

「だ、だって仕方ないじゃないですか! エロいものはエロい! 神とて姦淫そのものは否定していないのです!」

 

 実際、神は姦淫を否定していない。聖職者の結婚だって禁じられていないし、むしろ子沢山を推奨している。戒められているのは不貞だけだ。

 ステラは極めて真面目かつ優秀な聖職者であり、とうぜん聖典の内容はすべて暗記している。それを鑑みてみると……ひとつだけ、今の自分の行いが罪にならない方法があった。この少年と、夫婦になれば良いのである。

 天啓だと思った。責任さえキチンと取るのならば、自分は〝正しい〟僧侶のままでいられる。それに、この少年の容姿は彼女の好みど真ん中だった。

 問題は性格だが、覗き魔(つまりはステラだ)を躊躇なく追い回して叩きのめす判断といい、叱るときの剣幕といい、かなり強気で勝ち気なタイプのように思える。そして、ステラはこういう年下の男の子が大好きだ。

 もしこれが覗かれた恐怖で泣き崩れるような子だったら、ステラは情欲より先に罪悪感を刺激されていたことだろう。しかし彼はそれとは正反対の反応を示した。安心して興奮することができる。素晴らしい。

 

(この子を、口説こう)

 

 ステラの決意は固まった。聞けば、彼の年齢は十三歳らしい。ちなみにステラは二十歳だ。

 

(何の問題もない! お父様とあの女の年齢差の半分以下だ!)

 

 母三十歳、父十五歳の時に出来た子が、ステラだった。つまりはショタコンのサラブレッド、血は争えない。彼女はこれまでの人生でも例を見ないほど燃え上がっていた。

 

(そうと決まれば話は早い)

 

 ステラの頭脳が高速回転し始めた。フェルトを自分のモノにすると決めたとはいっても、力尽くでそれを成す気はない。きちんと彼の好意を得て、双方合意の上で結婚したかった。

 彼女の両親の夫婦仲は決して良いものではなかったから、絶対にそれと同じ轍は踏みたくないのだ。まずは彼の好感度を稼ぐべし。

 ただ、なにしろ出会い方が出会い方だ。正攻法で口説くのは厳しい。だがやりようがないわけではなかろう。たとえば、そう、不良が雨の日に捨て犬を拾うようなメソッドを使うとか……。

 

 

……

 

………

 

(よーしよしよし、よし! 大成功ですな!)

 

 現在、ステラの計画は万事計画通り進行していた。冒険者見習い制度を利用し、一年もの間フェルトを自分の元に縛り付ける策は上手く行った。自宅に連れ込むことにも成功している。まさにパーフェクトゲームだ。

 とはいえ、ここまで来るのにだいぶ強引な手を使ったから、フェルトの心証は正直かなり良くないだろう。もちろんステラもそれは理解していた。

 

(でも、どうせ最初の覗きの時点で心証はサイアクなのです。こうなったら、かえって行くところまで行ってしまった方がかえってマシ!)

 

 ステラはそう判断していた。確かに印象は良くないだろう。しかし、それはあくまで〝両親の復讐〟という彼の目的に長期的に関わり続けるための措置だ。決して、家に連れ込んで手籠めにしてやろうだとか、そういうあくどいことを考えている訳ではない。

 復讐。そう、復讐である。問題はそこだ。フェルトには、何を差し置いても達成せねばならぬ目的がある。これがある限り、彼にはその他のことに神経を割いている余裕はないだろう。たとえば、恋愛とか。

 ステラにとって、とうぜんこれは宜しくない。両親の仇とやらには可及的速やかに死んでもらう必要がある。

 聞けば、相手は貧しい開拓村を襲うような外道傭兵団らしい。同情の余地など微塵もない相手だから、復讐に協力したってなんの良心も痛まない。むしろいい気味だ。

 

(だから、フェルト殿のメンターになる必要があったんですね)

 

 とはいえ、旅先で偶然出会っただけの人間が、いきなり復讐に協力するというのは流石に変だ。

 ならばいっそ、無理に目的を隠しだてせず下心を前面に押しだしてでも彼の人生に関わるべし。これがステラの基本方針だった。好かれるためには、ときに嫌われる覚悟も必要なのである。

 

「さあて。少し早いですが、そろそろ休みましょうか」

 

 夕食の片付けをしつつ、ステラはそう言った。その顔は驚くほど上機嫌だ。

 それはそうだろう。好意を持っている相手と、自室でお泊まり。これに興奮しない人間はそういない。

 

「はぁ、そうですね」

 

 いっぽう、対面のフェルトは気もそぞろな様子。しかしそれも仕方のないことだろう。彼としては、この部屋に連れ込まれたのは実に不本意な出来事なのだ。

 

(そろそろ、淑女なところを見せねばなりませんね)

 

 フェルトの態度を観察し、ステラは思考を巡らせる。必要な布石はおおむね打ち終えた。これ以上強引な真似をする必要性はないし、あまり調子に乗りすぎると今の評価を挽回できなくなってしまうかもしれない。立ち回りを変えるべき時が来たのだ。

 

「ベッドはフェルト殿がお使いくだされ。拙僧は床で寝させていただきますゆえ」

 

 ステラの部屋にある寝具は、シングルベッドが一つだけだ。どちらか一人は床で寝る必要がある。

 

「いえ、ぼくは床でも大丈夫です」

 

「まあ、そうおっしゃらず」

 

 損得勘定を抜きにしても、ステラには男性を差し置き自分だけ快適な思いをする趣味はなかった。ニコニコと笑いつつ。ベッドを勧める。

 

(ああ、しかし、本当に良いですな。心が弾む)

 

 ステラは内心で独りごちた。何が良いかって、香りが良い。慣れた自宅の空気に、異性の香りが微かに混ざっている。それがこれほどまでに人を興奮させるものかと、ステラは密かに驚いていた。

 

(これは頭を冷やさねばなりませんな。下手なことをすれば、興奮しすぎて余計な粗相をしてしまいそうだ)

 

 そんな心の動きを自覚し、ステラは自身を戒める。彼女はたびたび『神の教えに反する気はない』と言っているが、これは本気だった。

 婚前交渉? とんでもない。それは法典において名指しで禁止されている。いまや有名無実化したルールだが、僧侶がそれを破るわけにはいかない。

 一見奔放に見えるステラだが、本来の彼女はあくまで敬虔な僧侶だ。先日の覗き行為にしたって、実のところ自己嫌悪は確実に覚えていた。

 そんな自分を、〝覗きは聖典で禁じられているわけではない〟という言い訳で正当化しているのが今のステラなのだ。だからこそ、明文化されたタブーは犯せない。彼女はそう自分を強く戒めていた。これ以上外道に堕ちるわけにはいかない。

 

「そうですか。……じゃあ、一緒に寝るってのはどうです?」

 

 ところが、そんな彼女の決意の前に突如暗雲が立ち込める。一瞬、ステラは彼が何を言っているのかわからなかった。

 

「ええと、あの、その、聞き間違いでしょうか? 一緒に……寝る? あの、あの、それは……」

 

「つまりは同衾ですね」

 

 誤解の余地のない口ぶりで、フェルトは断言した。

 

「幸い、ぼくは小柄ですから。この大きさのベッドでも、問題なくふたりで寝転べるかと」

 

「わ、悪い冗談ですな。未婚の男女が同じ寝床に入るなど……」

 

 ステラの声は震えていた。別に、彼と同衾するのが嫌なわけではない。いや、むしろ逆だ。だが、いまそれをやるのはかなりマズイ。ただ同じ部屋に居るだけでこれほど興奮しているのだ。それ以上のことをすれば、理性が持つ自信がない。

 

「先ほど、自分でおっしゃったではありませんか。『見る以上のことは絶対にしない』、と。ならば良いではありませんか?」

 

「いや、確かに申しはしましたが。いや、いた、むろん嘘を言っているつもりはございませぬ。フェルト殿に手を出すような真似は、決して」

 

「じゃあ、安心だ。……はっきり言いますね? これからしばらく共同生活することになるひとに、不審の目を向けたくないんですよ。信頼できない人と一緒に過ごすなんて嫌だ。絶対に」

 

 おそろしく真剣な目付きで、フェルトはステラの目を真っ直ぐに見据えた。

 

「信頼させてください。ぼくに、あなたを」

 

 要するに、これは踏み絵なのだ。賢明なステラは即座に彼の意図を察した。ステラが自身の宣言を貫ければヨシ、そうでなければ……。

 

「……わかりました。ならば結構。そういうことでしたら、お任せあれ」

 

 ステラは覚悟を決めた。よく考えれば、フェルトはまだ十三歳の少年なのである。そんな幼気な子供が、両親の仇を討つための旅をしている。尋常な覚悟ではないはずだ。それを利用するからには、こちらもそれなりの誠意を見せねばならぬ。

 

(しかし……しかし、添い寝か。この狭いベッドに? 男女ふたりで? 厳しい、これは厳しいぞ……)

 

 怪しい動きをひとつでも見せれば、ステラとフェルトの関係は完膚なきまでに破壊されるだろう。そうなれば、彼女の望みは今後決して叶うことはなくなるはず。一巻の終わりというわけだ。……こうして、ステラの長い夜が始まったのである。

 

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