《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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ティックとワーブ Ⅳ

 

「そなたこのままだと《ビリビリ電気鰻男(サンダーメン)》が異名スキルになるぞ」

「え、なにそれ」

 

 酒場でのやり取りの、三日後の事である。

イツキの《技能樹(スキルツリー)》をいじくりながら、アンゼリセはため息を吐いた。

 

特別な(ユニーク)スキルは本来であれば……本来で! あ・れ・ば! そう簡単に得られるスキルではないのじゃが!」

「なんだよ、急に語調を激しく強め、俺を咎めるような物言いをして……」

 

 《急成長》以外の全てが特別な(ユニーク)であるイツキ・アカツキが舐めたことをのたまうので、とりあえず一旦後頭部をはたいておいた。

「異名スキルはある意味、()()()()()()()()()()()()()()じゃ。他者が見る己への認識、世間の人々からどう思われているかが結実し、その印象に沿ったスキルが芽吹く」

 

 執拗に一種類の魔物を狩り続け《○○殺し》と呼ばれる者もいれば、運良く宝箱へ続く隠し部屋を引当て《幸運の星》なんて呼ばれた者も居る。

 

 誰も踏破出来なかった階層を踏破したもの、誰も倒せなかった【階層主(フロアボス)】にトドメを刺した者……伝説級(レジェンダリー)スキルはそれがスキルとして結実するまである程度の()史を要するのに対し、異名スキルは伝説になる前の、現在進行系で紡がれている今を生きる個人を称えるものなのだ。

 

 創世神は世界にあまねく全てを記録し、スキルの種を作り続けている。神が等しく個人に与える、最大の寵愛とも言えるだろう。

 …………そして周囲の認識がスキルとして結実する以上、それは悪評や偏見も同様である。

 

「大衆の前でアレだけ大見得切って『生態』と言いはったんじゃ、覚悟を決めるしかなかろう」

「ええ……じゃあ俺の体がヌルヌルし始めたり……!?」

「いや、どっちかというと帯電体質が強くなるんじゃないかのう…………ちょっと待て、そなた、今はどうなんじゃ。わらわ触れておるが」

 

 背中の肌に直接触れて作業をしているアンゼリセは、一瞬手を引っ込めかけた。

 

「いやー滅茶苦茶溜め込まない限りは一応自分の意志で制御できるから」

「それならいいんじゃが…………あいたっ!」

 

 《技能樹(スキルツリー)》に干渉するのは、そう、いわば外科手術と同じぐらい繊細な作業であるから、施術には高い集中力を要し、外的要因に左右されてはならない。

 まして不意打ち気味に静電気がバチっとするなど言語道断なのだが。

 

「な?」

 

 得意げにいたずら成功、みたいなツラをするイツキの後頭部に、アンゼリセは思い切り拳を振り下ろした。

 

「おぐぁ!?」

「な? じゃないわクソボケ! 手が滑ったじゃろが!」

「えっ!?」

「ちょっと待て微動だにするな今立て直すから」

「どうなるの! あたいどうなるの!?」

「静かにしろ騒ぐな動くな」

「あたいどうなるのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「じゃかましい首を左右に降るなあああああああああああああああ! あ」

「あ?」

「やば」

「アンさん? ………………うおお背中が熱い!?!?」

「新しいスキルを萌芽させてしもうた」

「今日は既存スキルの強化のみってアンさんが言ったんじゃん!」

「余計なことしたそなたが悪い!」

 

 既存のスキル強化に使うはずだったリソースの流れが歪み、新たなスキルの萌芽に注がれる。

 …………まあ、流石に。

 いくらなんでも打率十割ってこたないだろう。

 まともな探索者としての経験も積んでいるのだ、ここらで一つ、真っ当なスキルが生まれてくれれば、それをひたすら伸ばしていけば…………。

 

「で、何のスキルが生まれたんだアンさん!」

「今見るわ、えー、あー…………。あー…………?」

「アンさん?」

 

 前回のわい、ふぃ? なんちゃらと比べても、なんだろう、内容が理解ができない。

 

「お……《温水洗浄付きWC》……?」

 

 耳慣れない言葉を読み上げたその瞬間。

 

「アンさん、それってまさか!?」

 

 イツキが勢いよく振り向いた。

 

 ゴギリッ。

 

 アンゼリセはその頭に手を添えて、首を元の位置にひねって戻した。

 

「動くな。施術中に」

「首が首が首が首がアンさん首が」

「で、これは何じゃ、え? 返答次第によってはこのまま折るぞ」

「急に命を握られてる……!」

 

 とりあえずアンゼリセには理解できないスキルが生まれ、そこから伝説級スキルを習得していく傾向があると見た。芽生えてしまったものは仕方ない。重要なのはこのスキルの【次】に派生させないことだ。

 

「えーっとですけどね、多分、《焼肉》系だと思いますね」

「そんな系統を整備するな。それにしても、食べ物の名前には見えんが……」

「いや、多分またゲート開いて……」

 

 イツキが続きを説明しようとしたその時。

 

 

 

『たのもーーーーーー!』

 

 

 

という、大きく、しかしくぐもった声が、神殿の外から聞こえてきた。

 

「なんだなんだ!? 殴り込みか!?」

「そなた今度は何をやらかしたんじゃ」

「俺のせいなの!? ここアンさんの家でしょ!?」

「迷宮の神が市民に喧嘩を売られるような真似はしとらんわい!」

「わっかんねーじゃん! じゃあ見に行こうぜ! もしアンさん狙いの案件だったら俺にも考えがあるからな!」

「とりあえず施術を中断するから少し待て」

 

 しかし、聞き覚えのない声だった。アンゼリセとて流石に迷宮都市に住まう民全ての顔と声を記憶しているわけではないが、神殿に来るような者であればおおよそはわかるはずだ。

 イツキの《技能樹(スキルツリー)》弄りを終えて、服を着せてから神殿の外に出る。

 

 といっても、ほとんど廃墟のような建物だから、内から外に出た、という感じはあまりしないが……はたして、そこにいたのは。

 

 

『………………』

 

 

 イツキにも、そしてアンゼリセにも見覚えのある人物……全身に分厚い鎧を着込んだ巨躯、先日酒場でイツキに痺れさせられた鎧姿の探索者だった。

 

「…………畜生…………ちくしょうぉおおおおおおおおおおおおお!」

「はぁーっはっはっはっは! どうじゃ馬鹿者め! やはりそなた目当てではないか!」

 

 イツキは膝をつき、アンゼリセは高笑った。客観的に見てこれが神と探索者の姿であるとはちょっと信じたくはない光景だった。

 

『…………あ、あの、続けていいで……いいか?』

 

 呼びつけて出てきたはいいものの、その後自分たちだけで楽しくなっちゃった二人に、鎧姿はかなり困惑した様子だった。当然だが。

 

「悪い悪い、えーっと、俺はイツキ・アカツキ。座右の銘は〝空に輝く一番星〟だ、よろしくな」

「なんじゃそのカスみたいな座右の銘は」

「カスみたいなとか言うなよ! アンさんが異名スキル云々で脅すから必死に考えたんだぞ!?」

「他者の認識が形になるスキルじゃというとろーが。自称したところで何の意味もないわ」

「馬鹿な…………!」

『本題に入っていいか!?』

「本当にすいません! どうぞ!」

 

 またしても楽しい会話をしてしまった。

律儀にツッコミを入れて本題をそらしたアンゼリセの側にも若干責任を感じるので、数歩離れて様子を見る。どうせ他人事だ、好きにしたらいい。

 

『ごほん……単刀直入に言う。俺はあの決着を認めてない』

 

 ズン、と重たい音が響き、軽く地面が揺れた。

 鎧姿が背中に背負っていた物を落としたのだ。

 二メートルを超える体躯をすっぽり隠してしまう、通常のそれよりも遥かに巨大なタワーシールド。

 

 長方形の分厚い金属板を内側に歪曲させた構造をしており、当然、持ち上げるだけでもかなりの筋力を要することは間違いない代物だった。それぞれ片手に一枚ずつ。

 

『俺が勝ったら、あのルビーを返してもらう』

 

 一方的な宣言だった。どんな形であれ一度勝負がついた以上、鎧姿の言い分は道理の通らない難癖である、とアンゼリセは思う。

 

「へっ、なるほどな」

 

 一方、問題のルビーをそもそもヴェルミーに預けたイツキは、正直に話せばここで闘う理由はないはずなのだが。

 

「その男気を買ってやるぜ! 来やがれ!」

 

 どうやら、売られた喧嘩は買うタイプらしかった。

 両者の同意があるのならば、好きにすればいい。アンゼリセは一歩下がって告げた。

 

「人死にはもってのほかじゃ、それだけ気をつけよ。よいな?」

「了解!」

『心得ている』

 

 かくしてイツキ対鎧姿の戦いが、突如として始まった。

 

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