《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!? 作:天都ダム∈(・ω・)∋
アンゼリセの目算では、単体での能力を比較するなら鎧姿に分があると見ている。
あの大盾を片手で扱える筋力は並の練度ではない、酒場の力自慢たちが蹴散らされたのも納得できる。もし事前にあの膂力を見ていたら、誰も勝負など挑まなかったことだろう。
ただ、この辺りの『常識的な感覚』がイツキに通じないことも、アンゼリセは薄々かわかってきている。何より――――。
「一撃で勝負決まっても文句言うんじゃねえぞ!
鎧姿の防御を貫通する『雷』を、イツキは生態ではなく攻撃手段として有している。
強く握った拳を縦に構え、大きく振り上げてから数秒の
その
即ち、敵の頭上に生まれた雷雲から襲いかかる、一条の雷である。
迷宮内だろうが関係なく放たれるそれは、直撃すれば大ダメージを免れない。イツキが現在、武器を持てずとも迷宮で戦っていけるのは、ひとえにこのアビリティあってのことだ。
対する鎧姿は、雷雲が生じた瞬間、手にしていた右の大盾を思い切り頭上に掲げた。
数秒の間を置いて、空気を割るゴロッ、という音と共に、雷が一直線に落ちる。
まさしく【雷槌】と呼ぶに相応しい一撃、人の身で操れる最大クラスの自然脅威。
光の槍が盾に触れ――その表面でバチバチと音を立てた。
鎧を通じて全身を巡るはずだった電流は、しかし流れることなく勢いを削がれ、光が空気中に散っていく。
「な、何ィイイイイイイイイイイ!?」
「やられ役のチンピラみたいな声出すのうそなた」
『電撃対策もなしに挑みに来るわけがないだろう……!
【ランペット宝樹迷宮】のような大迷宮なら、中層以降は雷を扱う魔物が大なり小なり必ず現れる。
よって探索者達は雷対策が必須となる。つまり対抗手段の開発も盛んになる。
「やべえ、滅茶苦茶根に持たれてる!」
パーティによっては魔法で対策したり、アクセサリを揃えたりするが、鎧姿は装備に
と、アンゼリセはここまで考えて、うむ、と頷いた。
イツキ、終わったな……。
まあ骨ぐらいは拾ってやるか、一度痛い目見といたほうがいいな、わらわ毎度えらい目にあってるしな、という私情をサンドイッチのように挟み込んだ結果、アンゼリセは特に何も言わなかった。
『今度はこちらの番だ。覚悟しろ電気鰻野郎!』
「やべえ早くも定着し始めてる! へぇーんだその図体でそっから何ができうわあああああああああああ!」
鈍重だろうと煽り散らかしたイツキめがけて、鎧姿は防御に使った方とは反対側の大盾を、
イツキからすれば、巨大な金属の壁が、いきなり高速でぶっ飛んできたに等しい。
両手足を駆使して這いずるように地面を駆けて、間一髪回避に成功したイツキだったが……。
「待て待て待てあたったら死ぬだろそれは!」
質量と勢いに押された盾が地面を深くえぐった
『ち、すばしっこいな』
イツキの抗議を聞き流しながら、鎧姿は左手をぐい、と引いた。じゃらじゃらと金属音を立てながら、蹴り飛ばした盾が手元へと戻っていく。
(なるほど、面白い装備じゃな)
蹴飛ばした方の盾は、鎧姿の手甲から伸びる細い鎖で接続されていた。
蹴り放った時は無尽蔵に伸びて、手首を引いたら
『お前の攻撃も、触れられなければ怖くはない。降参するなら今の内だが?』
いわば先端が盾になった
それもこれも、鎧姿の突出した膂力故ではあるが、それを考えれば意表を突かれてなお攻撃を避けきった、イツキの反射神経を褒めるべきか。
「んだとテメェー! 触るぞォー! 触っちゃうぞォー!」
『やってみろ』
鎧姿が左手の手首を返し、鎖を更に短く持った。地面から離れた大盾は、その勢いのままぐるぐると回転を始める。それがゴウゴウと空気を裂く轟音になるまで、一〇秒もかからなかった。
『触れるものならな』
重量に遠心力が加わり、凄まじい勢いで振り回される大盾は、もはや視認すら難しい勢いを得ていた。かろうじて平たい円盤のようなものを、視認できるかな? ぐらいの加速。
「……………えーっとぉ」
あの質量があの速度で動いているのだから、直撃すればそれはもう――――。
「…………人死には禁止なんですよねアンさん!?」
「審判に助けを求めるなら実質ギブアップでよいか?」
「この審判役に立たねぇー!」
『もう投げていいか?』
「お手柔らかにお願いしゃーーーーす!」
振り下ろされた盾が大地に突き刺さった瞬間、ボバ、という爆発音と共に、えぐり取られた土砂を盛大に巻き上げた。あれで土を耕したら荒れ地を畑にするのも楽そうだ、とどうでもいいことをアンゼリセは思った。
「どわあああぁああああ!」
一方、狙われたイツキはそりゃあたまったものじゃない。雷なんかよりよっぽど恐ろしい、質量による殺意が振ってくるのだ。
ほうほうの体で地面を這いずって、かろうじて回避はできたようだが、衝撃で巻き上げられた土砂が重力に引かれて降り注ぐ頃には、鎧姿は伸縮する鎖で盾を手元に引き戻し、その勢いで再び回転をつけ、次の攻撃を放っている。
「待て待て待て待てこの…………っ!」
ボバッ、ボバッ、ボバッ、と、連続で振り下ろされる盾と、逃げ惑うイツキ。
ここまで防戦に追い込まれると、流石に厳しいか。
直撃さえすれば勝負を決められるであろう【雷槌】は、どうしても発動に数秒の〝溜め〟がいる為、逃げ回っていては使えないし、仮に時間が作れても鎧姿はモーションが見えた瞬間、右手の盾を掲げるだけ対策が可能なのだから。
「せめて銃……いや刀の一本でもあればさァァァァァ!」
『降参する気になったか?』
幾度かの攻撃を行った後、再び盾を引き戻し、更に回転を強めながら、鎧姿は告げた。確かに反撃手がないのであれば、ここらが収め時だが。
「誰がするかバァァアアアアアアアアアアアカ!」
イツキは盛大に煽り返した。どうやら負けを認める、という潔さは持ち合わせていないらしい。
「俺が一番嫌いなのは負けること! 二番目に嫌いなのはピーマンと玉ねぎだ!」
「子供かそなた」
「だからよぉ……やられっぱなしじゃいねえぞ!」
ちょこまか動き回っていたイツキは、とうとう足を止めて右腕を振り上げた。バチリ、と火花が散り、力が満ちていくのがわかる。
やられるぐらいならやり返す心つもりか、だが――――。
『なら仕方ない……なっ!』
鎧姿が盾を振り下す方が、わずかに早かった。鎖の伸縮を利用し、狙い違わぬ位置に大質量が叩きつけられた。
轟音と共に砂が舞い上がり、視界が遮られる。
だが、逃げ惑うイツキの姿はもはや見えなかった。盾の下で潰れているか、あるいは真っ二つになっているか……。
惜しい奴を亡くし……いや、惜しかったかな、もうちょっと優しくしてやってもよかった気はするが…………まあいいか。イツキは死に、鎧姿は反則負け。誰も救われぬ悲しい結末になってしまったものだ……。
しんみりしたアンゼリセが、一応生存を確認しようとしたその時。
「――――――――いよっしゃ掴んだァーーーー!」
馬鹿の絶叫が聞こえてきた。