《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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【猛る王虎】 Ⅲ

 年齢は、四十代半ばぐらいだろうか。手入れなどされたこともないような短い白髪に無精ひげ。実践で鍛え上げられた硬い筋肉には、古びた傷が幾重にも重なっている。背の丈は流石にワーブには劣るものの、一八〇センチ以上はあるだろう、ひと目で古強者であることがわかる偉丈夫……そんな男だった。

 

 二m近い長さを誇る、丸太のような形状の大きな布の塊を担いでいるのは、何かしらの武器を包んでいるのか。しかし、その重量を苦にする様子は、一切なかった。

 

「ロック! ちょうどよい所に戻ってきた!」

 

 駆け寄ったアンゼリセの頭を、大きな手でクシャリと撫でつけて、男……ロック・ロークは快活に笑った。

 

「最近は色々と忙しくて、顔を出せなくて申し訳ない」

「事情もわかっておる。それよりもだな、その……」

 

 言い淀むアンゼリセの様子を見て、大凡を察したらしい。視線で続きを促されたアンゼリセは、がっくりと肩を落としながら言った。

 

「……そこの吊るされてる馬鹿が、グイネアの機嫌を損ねおってな……」

「悪気は! 悪気はなくて! ホントに! マジで!」

 

 再び身を捩り、助命の嘆願を始めたイツキ。網に捕まった魚でもこうは跳ねまい、というぐらいの、全力だった。

 

「はっはっはっ! ちなみに、何したんだ坊主」

「背中叩かれて髪の毛を首に巻かれてぐるぐる振り回されてぶん投げられて、お尻まで叩かれたのだわ!」

「ぎゃははははははははははははははははははは!」

 

 グイネアの告発を聞いたロックの第一声は、大爆笑だった。当然だがグイネアの怒りはさらに燃え上がる。

 

「笑い事ではないのだわ! ぜぇ~ったいに許さないのだわ!」

「……というわけでのう」

「そりゃあグイネア様も怒るわな! 俺だってやらん! すごいな坊主!」

「なんとか許してもらえませんかねェ……」

 

 はっはっは、と笑いながらも、いやぁ、とロックは首を振った。

 

「いやー、ちょっと無理だな。そりゃ、何かしらの落とし前がいるだろ」

「こう見えてこのイツキ・アカツキ、命以外の資産は持ち合わせていないぜ!?」

「じゃあ命で支払うのだわ!」

「そこを! なんとか! 今回に限り!」

 

 迷宮神にクソバカ不敬を働いた事実は如何ともし難く、【猛る王虎】ぐらいのクランともなればイツキが支払えるレベルの金銭で何かが解決するはずもなく。

 

「終わったか……」

「諦めないでよォーー!!!」

 

 更に身を捩るイツキ。アンゼリセの隣に居たオルレアが、小さく手を上げた。

 

「その、どうか命だけは許していただけないでしょうか」

「お前――ああ、確か……顔を見たことはあるわ。リーンケージの葬儀以来かしら」

 

 オルレアの顔を見て、わずかながら考える仕草を見せたものの。

 

「でも駄目なのだわ! さあ、毒キノコを食わせるのだわ! ――――ひゃんっ!」

 

 ナゾンが用意した、ドス黒い色の、明らかに食用ではないキノコを手にしたグイネアを、後ろから片腕でヒョイ、と持ち上げた者がいた。ロックである。

 

「待て待てグイネア様、流石に血なまぐさいのはごめんだぜ。これから七〇階層を攻略しようってんだ。余計な殺生をしたらツキが落ちる」

「こ、こら! だったらわたくしの溜飲をどう下げろというのだわ!?」

「そうさなぁ」

 

 ゆっくりグイネアを降ろし、吊るされたイツキを見上げ、ざりざりと頭を掻いたロックは……無造作に腕をぶん、と振るった。

 

「うおぁっちゃぁ!」

 

 如何なる技か。離れた位置にあった縄が切れて、馬鹿が尻から落ちてきた。

 硬い武闘場の床にしたたか打ち付けて、汚い悲鳴があがる。

 

「グイネア様の要求、アンゼリセ様の嘆願。板挟みを食らう俺としちゃあ、悩ましい所だからよぉ」

 

 そんな様子を横目で見ながら、ロックは担いでいた布を下ろし、中身を広げた。

 丸太の形状を形作っていたものが、ガラリ、と音を立てて現れた。

 それらは幾本もの剣であり、斧であり、槍であり……つまりは長物の武器の数々だった。どれも見ただけで上質な代物であるとわかる、手入れの行き届いた品ばかりだ。

 

「研ぎと鑑定に出してたもんが、いくつか返ってきたんでね……坊主」

 

 ロックはその中の一振りを手に取ると……。

 

「お前も探索者だろ? だったらトラブルはテメェの腕で解決しなくちゃな」

 

 武闘場に敷き詰められた石畳に向かって、無造作にそれを突き刺した。

 

「俺に一撃でも当てられたら、その度胸に免じて、お咎め無しにしてやらんでもない」

「マジで!?」

 

 尻を撫でながら立ち上がったイツキは、ぱぁっと顔を輝かせた。

 

「おうよ、迷宮の女神に誓って、俺ぁ嘘はつかねえさ」

 

 周囲の探索者たちが、にわかにざわつき出す。 

 半数は無理に決まってるだろ、という困惑であり、もう半分はロックがわざわざそんな事をしなくても、という不満だった。

 

「ただし……おいナゾン、アレをくれよ」

「はいはい、もの好きだね」

 

 黒衣の探索者、ナゾンがマントの中から取り出したのは、何の変哲もない木剣だった。

 殺傷能力のない訓練用の装備である、しかし、【猛る王虎】の一員であれば、誰もがそれが意味するところを知っている。

 規律を犯した者に対する懲罰やペナルティ、あるいは容赦ないシゴキ(、、、)の際にロックが使う武器である……つまるところ、これから始まるのは。

 

「お前が一撃当てるか、俺が止めた、というまで勝負はやめねえ、いいな?」

 

 都市最強の探索者が、ド新人相手に行う一方的なお仕置きなのだと。

 

「………………むむ」

 

 仲介を頼んだアンゼリセとしては、非常に口を挟みづらい。しかしグイネアの溜飲を下げるには、イツキがある程度ボコボコにされないと駄目だろう。

 しかし……うん、なんというか。

 

「アンゼリセ様……」

 

 そっと傍らに戻ってきたオルレアが、不安げにアンゼリセの顔を覗き込んだ。

 

「わかっておる……」

 

 アンゼリセもまた、静かに頷いて、天を仰いだ。

 

 

 

 …………あいつ、こういう時に絶対なにかやらかすんだよな……。

 

 

 

 二人の意見が言葉なく一致したところで、イツキがあれ? と首を傾げた。

 

「えーと、おっさんが使うのはその木剣で……じゃあこの剣は?」

 

 ロックが突き立てた剣を前に、イツキがはて、と首を傾げた。

 水晶のように磨き上げられた透明な刀身を持つ片手剣。

 どう見ても高額かつ、強力な武器であることは疑いようがない一品である。

 

「そりゃお前さんの分だ。多少のハンデは必要だろ」

「え? いいんすか? いや、悪いなぁ……」

 

 そこで躊躇いなく与えられた物を手にしてしまうのが、イツキという馬鹿なのだが。

 

「…………馬鹿! 持つなイツキ!」

「えっ? あ、やべ――――――」

「うん?」

 

 武器を持ったらさあ始めるぞ、というぐらいのつもりでいたロックの眼の前で。

 

 ――――――――ジュボッ、ボンッ。

 

 イツキが手にした剣が、一瞬だけ刀身を真っ赤に染めた後、内側から爆発して燃え尽きた。

 

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