《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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【猛る王虎】 Ⅴ

 

 誰もその動きを捉えられなかった、というと嘘になる。

 戦いを眺めていた見物人の内、体感時間を伸ばすアビリティを有する《弓術》や《投擲術》の上位スキルを持つ者たちは、かろうじて視認することができた。

 

 腰元で構えて、刃を抜いて、斬りつける――――たったそれだけの挙動の、開始と終了の間がほとんど無い、神速の一閃を。

 だから、起こった現象だけを述べるのであれば。

 

「――――――っ!」

 

 【ランペット宝樹迷宮都市】最強の探索者、ロック・ロークは。

 ド新人探索者の攻撃を、()()退()()()()()()

 崩れた体勢、予想だにせぬ速度で放たれた攻撃が生み出した、一瞬の動揺。

 その隙間を、イツキは見逃さなかった。

 瞬時に持ち手の手首を返し、振り抜いた刃の方向を変えると同時に、右斜め上から肩に向けて振り下ろす連撃。

 

「うおっ!」

 

 恐らく反射で、ロックは避けずに木剣を盾にした。

 刀が木剣の半ばまで食い込んで、ちょうどロックの右胸に、刃の先端が向く位置で動きが止まり――――。

 

「――――――」

 

 その柄尻を躊躇なく、左手で叩く。

 杭打ちの要領で、心臓めがけての刺突を放った。

 動作の一つ一つが、文字通りの“早業”だった。繋ぎに無駄がなく、あらゆる体の使い方が次の攻撃へと繋がるよう設計されている――そういう挙動だった。

 

 習熟した装備スキルであっても、こうまで滑らかには動くまい。

 だからこそ、恐ろしい。

 

「………………マァジかよ……」

 

 冷や汗を流すイツキの視線の先には。

 木剣を手放し、放たれた刃の側面を()()()()()()()で受け止めているロックの姿があった。

 

「――――――やべっ」

 

 言葉なく睨みつけてくるロック、完全に固定された刃は、もう突き入れることも引くこともできない。

 攻撃が来る、と体を固くして身構えたイツキに、しかし追撃は飛んでこなかった。

 

 誰もが――それこそ、対戦相手のロックですらも言葉を失っていたからである。

 あれ? と周囲を見回すと、なんというかこう、すごい空気だった。

 いくらアウェイのど真ん中だからといって、ここまで居心地が悪いことがあるだろうか。

 

「………………え、何、この空気何!? やっぱ駄目だった!? 常識的に考えて首狙って居合かますの駄目!?」

「い、いや、多分、そうではない……というか、イツキ、その」

 

 アンゼリセすら、背筋を伝う汗に寒気を覚えながら、恐る恐る尋ねた。

 

「なんじゃ、今のは」

「何って……刃裂乱(ばさら)一心流(いっしんりゅう)居合術(いあいじゅつ)伊之型(いのかた)片葉之葦(かたはのあし)だが……?」

「何の何が何じゃって?」

「あれ、俺、剣術習ってるってアンさんに言ってなかったっけ」

 

 言ってたような気がするような、そうでもないようなレベルの話を、今してほしいわけではなく。

 

 そうこうしている内に、じゅう……と肉が焼け付く音と共に、嫌な臭いがした。

「……うお! 熱っちゃぁあああ!」

 

 ロックが刃から拳を引いた。見れば表面の皮膚が赤く変じている、軽いやけどだ。

 

「あ、さーせん」

 

 イツキが握り続けた魔鎖(グレイプニル)がワーブの腕を焼いたように、イツキが手にした刀もまた、ただ壊れないというだけで熱そのものは無尽蔵に溜め込むらしい。

 刃の部分がカンカンに赤熱し、熱気が周囲の空気を揺らがせていた。

 

 ……結果的に、なんか変な付与効果が生じている……。

 

「…………なあ坊主、お前、それ持ってて平気なのか?」

「こう見えてこのイツキ・アカツキ! どんな武器防具も燃やし尽くす代わりに、炎熱と雷には完全耐性があるぜ!」

 

 なにせ熱源が自分自身なのだから当然と言えば当然なのだが、周囲のざわつきはもう変わった動物を見るような物珍しさからきしょい魔物を見る顔に変わっていた。

 

「バケモンじゃねえか……」「防具も駄目なんだ」「雷耐性は便利じゃ?」「四〇階層フリーパスじゃん」「《技能(スキル)》構成どうなってんだよ」「コスパ最悪か?」

 

「あちちち…………いや、うーん、面白いなぁ、ちょっとお前に興味が湧いてきたよ」

 

 ふぅ、と焼けた拳に息を吹きかけてから、ロックはそのまま顎に手を当て、指で擦った。じょりじょりという硬いひげの音が、わずかに鳴った。

 

「しかしまぁ、回避も防御もしねえといった俺がこの体たらくだ。負けを認めざるをえんなあ」

「……………あれ!? マジ!? 無罪放免!?」

「ちょっとロック! ロックったら!」

 

 未だ溜飲の下がらないグイネアがぴょいぴょいと跳ねて抗議するが、当のロックは悪い悪い、と軽く笑うのみだった。

 

「俺の予想以上にこっちの坊主が食わせもんだったわ。いやぁ、すまねえなグイネア様」

「すまないですませないでほしいのだわー! こ、このクソガキにこのまま帰られたら【猛る王虎】の名折れなのだわ!」

「ていうか、ロックが負けたとか吹聴されても困るよね、このタイミングだと」

 

 とりあえず勝負はついたらしいので、もう出番はなかろうと、拷問器具を片していくナゾンが、ため息混じりにポツリと呟いた。

 

「まあ、それもそうなんだよなあ…………ってことで、坊主」

「あ、はい、なんでしょう、ゲヘヘ、もう帰っていいでゲス?」

「しれっとカタナを持っていこうとするんじゃないのだわ! それと水晶剣の弁償についてはまだ片がついてないのだわー!」

「くそっ! バレたしごまかせなかった!」

 

「オルレア、そなたパーティを組んでなくてよかったのう」

「連帯責任を取らされるところでしたね……」

「俺の身を案じて駆けつけてきてくれたはずの身内から流石に見限られそう!」

「だったらせめてもうちょっとドンと構えてはおられぬか!?」

「アウェイのど真ん中で処刑の危機に陥った時に命乞い以外の何にすりゃいいんだよ!」

「それはまあ確かにそうなんじゃが!?」

 

 ぎゃあぎゃあやり始めたイツキとアンゼリセの姿を見て、

 

「楽しそうだなあ、アンゼリセ様。安心したんじゃないですか、グイネア様?」

「…………なんでわたくしがアンゼリセなんかを心配しなきゃならないのかしら!」

「いえ、なんでもございませんや。あー、いいぜ坊主、元々は俺が渡しちまったのが始まりだ、水晶剣の補填は俺がしよう」

「マジすか!?」

「ちょ、ちょっとロック!?」

「ただし」

 

 その女神からの抗議をあえて黙殺して、ロックは腰の剣に手を伸ばす。

 しゅら、と冴えた刃が鞘をこする音が鳴った。

 

「ここからは真剣(ガチ)だ。俺が坊主を侮ってたのが、まぁ悪かったんだが……グイネア様がこうおっしゃるんでね」

 

 目が据わる、身構える。たったそれだけの動作で、威圧感が跳ね上がる。

 

「っ」

 

 刀身をあらわにした瞬間、何の変哲もなかったはずの剣が、内側から滲み出る仄かな白光を纏い出す。

 ……反射的に刀を構え直したイツキを見て、先程までとは違う……獰猛な笑みで、ロックは告げた。

 

「【猛る王虎】が牙! 女神から賜りし星光宿す果ての欠片、《宝剣レンディル》の担い手! 《虎咆(こほう)》のロック・ローク!」

 

 高らかに己の所属を告げ名乗る事は、探索者にとって真剣勝負の流儀である。

 

「さあ、今一度、名乗れ坊主!」

「はっ、いいぜ、上等決めたらぁ!」

 

 キンッ、と鞘から刀を親指で弾き(こいくちをきって)、イツキは吼え返した。

刃裂乱(ばさら)一心流(いっしんりゅう)三段(さんだん)――――天日国(てんかこく)陸軍所属(りくぐんしょぞく)第三学徒兵団軍曹(だいさんがくとへいだんぐんそう)(あかつき)(いつき)!」

 

 腰を深く落とし、右手を再度、柄に添えて――――。

 

「行くぜ!」

 

 一歩、踏み出した。

 

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