《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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【猛る王虎】 Ⅵ

 

「ま、こんなところだろ」

 

 そして、ボコボコにされた。

 先程の一撃はまぐれだったのでは? と思うぐらい、一方的な勝負だった。両手剣の腹でバシバシに叩かれ、転がされ、あっという間に戦闘不能に陥った。

 決着がついてしまえば野次馬も興味を失い始め、しばらくするとめいめいに解散し、人だかりもほとんど消えてしまった。

 

「うぎょぎょぎょぎょぎょぎょ」

「こいつ呻き方気持ち悪っ。それじゃ僕も仕事に戻るんで」

 

 各種器具を片し終えたナゾンもそのまま去っていって、残ったのは倒れたイツキ、とりあえず看護しているオルレア、実行犯のロックと、二人の女神だけとなった。

 

「溜飲は下がったかい? グイネア様」

「………………アンゼリセ、どう? 悔しい?」

 

 ちら、と視線を送ってくるグイネアに対し、アンゼリセはざーとらしく目元を手で覆い、なるべく悔しそうな声を作って、引き絞るように言った。

 

「もう悔しくて悔しくて泣いてしまいそうじゃー」

「だったらまぁ満足してやらなくもないのだわ! そもそもわたくしたちは忙しいの! こーんなド新人共にかまってる暇はないのだわ!」

 

 勝ち誇るグイネア、苦笑するロック。

 このクランでは、割とよくあることなのだな、と、オルレアは思った。

 

「お嬢ちゃんも、付き合わせちまって悪かったな。……その、なんだ、俺ぁよお」

「いえ、イツキ様を助けてくださってありがとうございます、ロック様」

 

 奥歯にものが挟まったような物言いのロックに、オルレアは小さく笑った。

 

「神父様が亡くなった時は、ご迷惑をおかけしました」

「そりゃ、こっちのセリフだろうよ……ちょっと見ない間に美人になったねえ」

「ふふ、ありがとうございます…………【治癒の光(ヒールレーア)】」

 

 会話もそこそこに、イツキに向かって治癒の光を振りまいた。詠唱を省略、祈りもなし、魔力も大して込めていないとなれば、傷の全てを癒やすような力はなく、気付けや痛み止め程度の形でしか機能しないのだが。

 

 それでも、不気味に痙攣を繰り返していたイツキの体は徐々に落ち着きを取り戻し、全身の腫れも気持ち引いていった。その内目を覚まし、歩けるようになるだろう。

 

「やれやれ……グイネア様、そろそろ会議の時間です。俺も後から行くので、お先に」

「ふん、始末は任せるのだわ。でも遅れないように。お前の時間は貴重なのだからね! ロック!」

「心得ておりますとも」

 

 それを聞くと、満足げに頷いて、グイネアも歩き出し…………建物に入る直前で、くるりと振り向いた。

 

「今回は大目に見るけど、次わたくしのクランの敷地に無断で入ったら許さないのだわ! ……そっちのリーンケージの孫は、まあ顔を見せるぐらいは許してやるけれど!」

 

 それは、己の片割れに対する明確な拒絶が、続いていることへの証明でもある。

 

「裏切り者のアンゼリセ! せいぜい邪魔だけはしないことね!」

 

 そうして、扉がパタリと締まり、静寂が訪れた。

 

 

 

 

 

「はぁー………………」

「はぁー………………」

 

 それを確認した後……アンゼリセとロックが、同時に盛大なため息を吐いた。

 

「いや、迷惑をかけたな、ロック」

「ははは、これしきどうってことないですよ。アンゼリセ様の頼みとあらば」

 

 快活に笑いながら、ロックの視線は自らがしばき倒したイツキへと移動した。

 

「……この坊主、イツキでしたか。面白い奴ですね。最初の攻撃もそうだったが……その後も。俺の攻撃を何度か避けられた」

「ほう? 当てるつもりでやったのか?」

「そりゃあ当然……何回か手応えがなかったこともあったかな。正直驚いています、鍛えたら強くなりますよ、相当」

「めごっ、めごっ、めごっ」

 

 話題の中心となったイツキは呻き方が微妙に変わっていたが、まぁ死んではないからいいか、とアンゼリセは何も気づかないふりをした。

 

「……変わったやつではあるの。着の身着のままやってきて、大暴れして……こやつが来てから毎日、気が落ち着かんわ」

「はは、楽しそうですがね、以前と比べたら」

「…………ま、退屈しないのは事実じゃな」

「ごげっ、ごげっ、ごげっ」

「ううん……もう一回【治癒の光(ヒールレーア)】入れておきましょうか」

 

 退屈しない賑やかな日々を提供している張本人は、追い治癒を加えられて追加五〇〇ディオールの出費が発生した所だった。

 

「…………ところで、こいつ担いでいけます? 若いのを貸しましょうか」

「なんとかするわい。流石にそこまで迷惑はかけん」

「はは、申し訳ない……あぁ、そうだ」

 

 先程の戦闘の際、イツキが振るっていた『刀』を拾い、鞘に収めると、んん、と悩む素振りを見せた。

 

「アンゼリセ様、この坊主……おおかた《流れ人(エトランゼ)》として流れ着いた際に持ってた武器を、盗られるなり何なりしたんじゃないですか? それで《技能》だけ残っちまって大惨事、と」

「う、うむ、まあ、そういうことじゃな、おおむね」

 

 まさかよくわからんスキルからいきなり生えてきたとは思うまい。

 事情を知らぬオルレアは、首をきょとんとかしげるのみだった。

 刀とイツキを交互に見比べ、考え、指を折りたたみ……を何度か繰り返した後、よし、と勝手に納得したロックは、その刀を、なんとオルレアに向けて差し出した。

 

「お嬢ちゃん。坊主が起きたら渡しといてくれないか。やりすぎた詫びに、そいつはくれてやるってな」

「え……あ、はい。ええ……?」

 

 差し出されるままに受け取るオルレア。細身の武器に見えても金属の塊である……彼女の腕には、ずしりと重く感じたことだろう。

 持ち運ぶ分には問題ないが、これを振り回して戦え、と言われたら、恐らくオルレアには無理だろう。ましてイツキが放ったような、あの速度で斬りつける事など、想像もできない。

 

「……お話を聞いていた限り、貴重な品なのでは?」

「なぁに、これからぽこぽこ見つかるようにならぁな。付与した以外に特別な効果があるわけじゃあなさそうだし……正直な所、な」

 

 ぽん、と自らの腰に吊り下げた剣を軽く叩いて、ロックは苦笑した。

 

こいつら(、、、、)は嫉妬深いのさ。他の武器に浮気をすると、まぁやきもちを焼くんだな。俺のは壊しちまうほど激しかないが、苦労は身に染みてる。これからも迷宮に潜るってんなら、流石に使える武器の一本はないと厳しいだろ」

「善意はありがたいが……のう、流石に世話になりすぎじゃろ」

 

 後天的に《不壊(アンブレイカブル)》を付与した武器となると、下手すれば単価はイツキが破壊した剣より高額になりそうだ。後からグイネアにバレて差額を請求されたらひとたまりもない。

 

 というか喧嘩売って処刑されかけたのに武器をもらえるのは因果関係がちょっとおかしいのではないか? と思ったが、まあやぶ蛇になるので何も言わなかった。

 

「本来ならそうだけどな、《流れ人(エトランゼ)》ってんじゃあ、ちと気にもかけたくなるさ」

 イツキの前にこの都市に居た《流れ人(エトランゼ)》。

 他ならぬ()()()()()()()()()()()……今は全てを捨てて、この都市を去った女。

 

 今頃何をしているのか、迷宮の神であっても、それを知ることはできない。

 

「ま、起きたらよろしく言っといて下さい。リベンジは暇だったら受け付けるぜってな」

「こやつ下手すると起床二秒で殴り込みに行きそうじゃから、七〇階層の攻略が済んだらな」

「はははは! そりゃあ元気が良すぎるだろ! 是非そうして下さい! ではまた!」

 

 その言葉を最後に、ロックもまた建物へと入っていった。

 アウェイに残された女神とシスターは、お互い顔を見合わせて、

 

「無事にすんでよかったですね……」

「本当にな」

 

 ふう、と息を吐いて、未だに奇っ怪な声をあげる馬鹿の頭を各々小突いた。

 

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