《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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《迷宮の神》Ⅰ

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおお! お?」

「やぁっと目を覚ましたか」

 

 仰向けの姿勢で目を開けたイツキの視界に、最初に入ってきたのは、呆れたような顔で自身を見下ろすアンゼリセだった。

 

 別に膝枕をしてくれているとかそういうオプションはなく、普通に転がされているので若干体が痛い。

 

「あれ、アンさん? …………はっ、俺は確か……悪逆非道のゴロツキに捕らわれ、凄惨な拷問を受けながらも、命からがら逃げ出してきたようなそうでないような……」

「全部違うじゃろ」

 

 べし、とアンゼリセチョップが放たれた。非力な細腕のそれは、まったく痛くはなかったが。

 

「いや、冗談っす。サンキュ、アンさん、助けに来てくれて」

「それが言えるなら今回は許してやるわ、グイネアのことを説明しておらんかったわらわにもまぁ…………ほんの爪の先の欠片の端っこの隅くらいは責任があるからの」

「俺も、相手がアンさんじゃないって知ってたらもうちょっと回転数を落とす、投げる高さを低くするなどの加減をしたのに……」

「行為そのものが問題なのであって内容の強弱はどうでも良いと思うぞ」

「……あれ、そういえばオルレアは?」

「先に帰した。あやつも忙しいからの。礼はまた今度言ってやれ。それと、ロックからの伝言じゃ。その刀は詫びとして、譲ってくれるそうじゃ」

「へ? …………あ!? か、刀! 刀ァ!? い、いいんですかい? へへ……も、もう返せって言われても返さねえからなぁ!」

 

 ぎゅ、と刀を抱きしめるイツキ。多分人選間違えたぞロック、という言葉をアンゼリセは飲み込んだ。

 

「あとアンさん」

「なんじゃ」

「すっげぇ寒いんだけど、ここどこ!?」

 

 がば、と体を起こしたイツキの視界に入ってきた景色。

 

「やっと気づいたか、馬鹿ものめ」

 ()()を見たイツキがぽかん、と口を開けっぱなしにするのを、どこか楽しそうに、アンゼリセは眺めていた。

 

 

 ――様々な建物がある、めいめいに明かりが灯り始めている。夕餉を作る為にかまどに火を入れたのだろう、そこかしこから白い煙が立ち上り、それが時間を教えてくれる。

 ――市場の人々はまだ活発だ。仕事帰りの職人たちが歌を歌いながら酒場に向かう姿、これから迷宮に潜る探索者が消耗品を買い漁る姿、全てが鮮明だ。

 ――イツキはまだ迷宮都市のことをほとんど知らない。名前も知らない、行ったことのない場所にも、当然、人々の営みが存在する。

――都市を囲う防壁がある。その向こうには、道が切り開かれた場所もあれば、森も、川も、草原も、荒野も、様々な自然が広がっていた。

――そのずっとずっと、更に奥。もはや距離すら測れない大地の奥、立ち並ぶ山脈の向こう側に沈みゆく、この世界でもあり方を変えることのない、夕暮れの太陽が見える。

――遮るものがない、暮れ行く無限の空がある。黒と、紫色と、橙色がグラデーションになって、己の領域を主張するように、どこまでも塗りつぶしている。

 

 

 

 

「全一〇〇階層に及ぶ【ランペット宝樹迷宮】の……ここはちょうど六〇階層半ばぐらいの位置かの。どうじゃ、都市の姿がよく見えるじゃろ」

 

 そうしてようやく、イツキは己がどこに居るのかを知る。

 都市のどんな場所にいても見上げられる、途方もない高さの大樹。

 いつも自分たちが命がけで探索に挑む、高い高い迷宮の外側。

 一本一本が並の巨木の幹以上の太さを持つ屈強な枝の、その上だった。

 

 

 

 

「――……きゃああああああああ! 高いよォオオオオオオオオ!」

「おうっ!?」

「何メートルあるのよォォォォォオ! 落ちたら死んじゃうよォオオオオ!」

「す、すまぬ!? 高いところは苦手じゃったか!?」

 

 体をくねらせながら動揺するイツキに、まさかそんな繊細な神経何ぞ持ち合わせてないだろうと端からその可能性を考慮していなかったアンゼリセが慌てふためいた。

 

「いや、全然平気だけど………………あいたっ!」

「望み通り叩き落としてやろうか!」

 

 急にすん、と冷静になったイツキの後頭部を、例によって張り倒す。

 

「びっくりしたのは本当ですヨ!?」

「そりゃあ悪かったのう」

 

 むす、と、それこそ童女のように頬を膨らますアンゼリセ。

 イツキはさーせん、と軽口を叩きながら、改めてあぐらをかいて、へー、と景観に視線を送った。

 

「つーか、この街もでっけぇなあ」

「そうじゃろ、大きいじゃろ。じゃがな、最初は何もなかったんじゃ。取れる資源もなく、開発するのも面倒故に放置されていた、ただの広い森林じゃった」

「そうなの?」

「うむ…………そなたにはまだ、わらわたち《迷宮の神》がどうやって生まれるのか、説明してなかったの」

 

 アンゼリセはその場でヒョイ、と立ち上がって、イツキに背を向けて、眼下に広がる都市に向かって、大きく手を広げた。

 

「この世界は…………あ、そなた、えーと……世界が球形であることは知ってるか?」

「あ、わかるわかる。なんだ、大地の端っこから滝が流れてる感じの文明レベルじゃないんだ」

「なんか今、世界単位で馬鹿にされんかったか?」

 

 こほん、と咳払いして仕切り直し、アンゼリセは続けた。

 

「とにかく、この世界ではな、迷宮(ダンジョン)というのは()()()()()()。今まで何もなかったところ、誰も知らない秘境の奥。あるいは人里に近い洞窟。採掘中の坑道がいきなり迷宮(ダンジョン)化することもある。全ては創造神の御心のままじゃ。予想も予測も立てられれぬ」

「それだけ聞くとなんか滅茶苦茶厄介な現象に聞こえるんだけど……」

「厄介と言えば厄介じゃな。なにせ迷宮(ダンジョン)からは()()()()()()()。誰も手を付けぬまま放っておけば、やがて迷宮に収まりきらぬ魔物たちが、地上に溢れ出してしまうからの」

「…………アイツラって外でてくんの!?」

 

 イツキが宝樹迷宮で戦った魔物の姿が脳内を駆け巡る。棍棒片手に群れで襲ってくるゴブリンやら、血を吸うというか肉ごと食いちぎってくる吸血コウモリ、炎の毛皮を纏う火ネズミやら鋭い角の一角ウサギ(アルミラージ)、手強かったところだと巨躯のオークや、イレギュラーによって階層を埋め尽くした鋼鉄蟻(メタルアント)たち。一番の難敵は、この前戦った《階層の主(フロアボス)》であるオウガ・クリムゾン。

 

 戦うつもりで心構えをして迷宮の中でやり合うならまだしも、それが例えば、都市の中に溢れ出てきたら、戦えない一般市民だっているのだから……間違いなく地獄絵図になるだろう。

 

「実際に誰にも知られぬまま、魔物を生み出し続けている迷宮もある。逆に言えば『魔物が沢山居るところを進んでいけば未踏の迷宮がある』とも言えるの。それを専門にしている者たちもおるぐらいじゃが……」

 

 空の縄張り争いは、どうやら暗い色が優勢らしい。だんだんと橙色が追いやられて、山の向こうへ消えていく。

 

「……そうならぬよう、迷宮と共に生まれる存在。ここに新しい迷宮が生まれたぞ、放っておいたら大変だぞ、と人々に伝え、集わせ、彼らの迷宮攻略を助ける為の力を与えられた、落とし子たち」

 

微温い風がそよいで、ざあざあと枝葉を揺らす。

 

「それが《迷宮の神》――わらわはこの迷宮と共に生まれたのじゃ」

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