《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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《迷宮の神》Ⅱ

 

 イツキに背を向けたまま、アンゼリセは語りだした。

 

「《迷宮の神》の人数は、その迷宮の規模によって異なるが、【ランペット宝樹迷宮】は世界的に見ても上位に入る大迷宮じゃ。《迷宮の神》は、四人生まれ落ちた」

「えっ、アンさんと、あのなのだわチビ以外にもいんの!?」

「そなたそれグイネアの前で言ったら今度こそ殺されるからな」

 

 仮にアンゼリセのことを『なのじゃチビ』などと呼ぶ不届き者がいようものなら、温厚な彼女とて地面に首だけ残して埋めてノコギリでじわじわ斬るぐらいのことはする。

 

「一応、都市の発展に伴って東西南北のエリアをそれぞれ担当しよう、という取り決めがあっての。わらわは南、グイネアは西、という様にな。そなた、今日は西の市場にいたのじゃろ?」

「じゃあ他のエリアでアンさんっぽい奴を見かけても……不意打ちかましちゃ駄目ってこと!?」

「仮にわらわ相手でもするなつっとるんじゃ」

 

 グイネアは四神(よにん)の中でも過激な方ではあるが、流石に無礼一つで拷問死させようとはしてこない、シンプルにイツキが不敬極まりなかっただけだ、マジで。

 

「話を戻すが……《迷宮の神》というのは基本的に歳を取らぬ。なにせ迷宮そのものと命を共有しておるからの。【ランペット宝樹迷宮】が完全に攻略されぬ限り、わらわたちは老いることも死ぬこともないのじゃ。酷い外傷は……別じゃがの」

「…………あの、アンさん」

「なんじゃ」

「それって、誰かが迷宮攻略したらアンさん死んじゃうってこと……?」

 

 恐る恐るといった感じで手を挙げるイツキを見て、アンゼリセはぷ、と小さく吹き出すのをこらえきれなかった。

 

「笑い事じゃないでしょォーーー!?」

「あははは、すまぬすまぬ。そなた、可愛いところもあるではないか……安心せよ、むしろ、逆じゃな」

「逆?」

「迷宮が攻略されぬ限り、わらわたちは迷宮に縛り付けられる……ほれ、都市を覆う壁が見えるじゃろう?」

 

 もうほとんど日は落ちていたけれど、まだ視界を全て暗がりに落とすほどの夜にはなっていなかった。高く積まれた石垣が防壁になっているのが、確かに見て取れる。

 

「わらわがこの体で行けるのは、あの壁の際まで……じゃな。こうして宝樹に登ってみれば、色んなものがあると、見えてはいるのにの」

「アンさん……」

「川をどこまでも下った先には、地平を埋め尽くす青い海と、そこに栄える迷宮都市があるという。なら、山の向こうには? 平原の果ての、その先は? この都市は王国(ウサッチィ)の領地じゃが、わらわは一度たりとも、首都に行ったことはない。わかるかイツキ。()()()()()()()なんじゃ」

 

 この高い高い大樹の枝から広がる、見えているけれど、行くことができない世界。

 それが、アンゼリセの全て。

 

「だから()()()()()は、外の世界に行きたかった。見るだけではなく、知るだけでもなく、自分の足で知らない場所へと行ってみたかった。……【猛る王虎】はな、イツキ。わらわとグイネアが作ったクランなんじゃ」

「へっ、そうなの?」

「人の子がこの迷宮を踏破できるようサポートするのも《迷宮の神》の役目じゃからの。わらわの《才能開花(ブルムファリア)》やグイネアの《覚醒導手(アウェイクナー)》。他の二神(ふたり)にもそれぞれ特別な《技能(スキル)》があったが、直接 《技能樹(スキルツリー)》に干渉できるのはわらわたちだけじゃった」

「はー…………あれ、でもアンさんさぁ」

 

 イツキは首を傾げながら、先程の【虎の寝床】での出来事を思い出す。

 

 

 

『裏切り者のアンゼリセ! もう一度聞くわ、今更何用なのかしら?』

 

 

 

 怒りをあらわにしながら、アンゼリセにそう言い放つ、グイネアの姿。

 

「……口に出すのも憚られるような、とんでもない残虐な裏切り行為をしたって……」

「そこまで悪しざまに言われるようなことはしとらんが!?」

「や、俺もさすがにアンさんがそこまで悪逆非道だとは思ってねえけど」

「若干含みがある気がするが……まあ、先程の様子を見てもわかる通り、グイネアは今も迷宮攻略を第一に考えておる。四クランの合同攻略が実現したのも、あやつが働きかけたんじゃろう」

「アンさんは?」

「見ての通り、何もしとらんよ」

 

 ついに陽光は山の奥へと隠れてしまい、空は夜闇のものとなった。

 勢力図の塗替えを誇るように、ちらちらと見える星の光が、徐々に強くなり始める。

 

「わらわは、やめてしまった。共にこの地から出ようと誓いあった姉妹と、たもとを分かってな。グイネアから見たら……確かに、裏切りじゃろう。今も許してもらえてないことは、先程の一件でよくわかった」

「そっかぁ、まぁそういうこともあるよな」

 

 なるほどなぁ、と鷹揚にうなずくイツキ。

 

 

 

 

 

「………………なんで? とか聞かんのか?」

「聞いてほしいなら聞くけどめっちゃデリケートな話題の気配がするから言葉を濁してもいいかなって気がちょっとしてる」

「言う為にわざわざ連れて来たんじゃ、聞け」

「もうッ、アンさんったら素直じゃなァい!」

「言っておくがそなた一人だとここから降りる手段ないからな」

「俺とアンさんの仲じゃないか、なんでも言ってくれよな!」

「はぁ…………まぁ、そなたがそういう奴じゃから、言っておきたいと思ったんじゃ」

 

 ははは、とか、わぁ、とか、楽しそうな賑わいの残滓が、眼下の都市から聞こえてくる。これだけ高い位置にいても、どうやら音は届くらしい。

 

「自分で言うのもなんじゃが、わらわは誰よりも迷宮攻略に熱心じゃったよ。数多の人の子の《技能樹(スキルツリー)》を育み、名だたる探索者を生み出してきた」

「この俺のような?」

「そなたみたいな奴は過去も未来も一人だけじゃ」

 

 いや、未来はわからんが。

 できればでてこないで欲しい。

 

「じゃが、ある日……二人の探索者が迷宮から帰ってこなかった。もう八〇年近く前になるか……三五階層、当時の《階層の主(フロアボス)》だった蛇龍シグムタ討伐の際に、仲間をかばってな」

 

 迷宮は五・一〇階層刻みに大きく姿を変えるのが通例で、魔物の強さも、宝の質もより強くより上等になっていく。当時のランペットには、探索者も、その装備を作る職人も、彼らが使う施設も……まだまだ、その壁を超える力がなかった。

 

「……人の子が迷宮から帰ってこなかったことは何度もあったが……当時、この都市では間違いなく最強だった二人の死は、大事件じゃった」

 

 【猛る王虎】の創立者であった戦士イコルと魔導士ニリア。

 まだランペットが都市どころか、村の体すら成していなかった時代。

 戸惑う女神たちを、自由にしてやると手を差し伸べてくれた、最初の探索者。

 まだあどけない顔立ちだった頃から、大人になり、子をもうけ、彼らの人生を見守ってきた。そんな様々な出来事を、今でも眼の前にあるかのように、思い出せる。

 

「弔い合戦ということで、更に犠牲を出して、三五層は攻略できたが……」

 

 そこから、迷宮の難易度は飛躍的に増していった。今でこそ都市最強の四大クランと呼ばれているが、当時は【猛る王虎】一強で、他の探索者よりも遙か先を攻略していたことも、仇となった。

 

「それまで犠牲を出さなかった【猛る王虎】の精鋭が、迷宮を進む度に、次々にやられていったのじゃ。攻略は停滞し……その頃から、他の二神もそれぞれのクランを立ち上げ、勢力を強め……群雄割拠の時代が来たのじゃ。ぐんぐん成長するほかのクランを前に、今度は人の子らが焦り始めた。特にイコルとニリアの子がクランを引き継げる程に育った時は、既に三つのクランが同列に並んでおった……」

「……あんまこういう事言いたくないけど、功を焦っちゃった感じ?」

「そなたは、話が早いな」

 

 顔を見られていなくてよかった。今は、少し、歪んでしまっていることだろう。

 

「三〇年前……五五階層の攻略は特に悲惨を極めた。あそこを突破したクランこそが、都市最強じゃと、そんな栄誉の為に、幾人もの探索者たちが挑み、散っていった。わらわは、止められなかったよ。最初の二人の忘れ形見が、妻も子も遺して逝ったのを」

 

 結局、五五階層の主は他のクランが倒してしまったしの、と呆れるように添えた。

 

「……他の仲間がかろうじて持ち帰った亡骸の一部に、泣き縋る家族の姿を見て、わらわはふと思った。思ってしまったんじゃ。()()は、いつまで続くのじゃ?」

 

 答えは、最初からわかっている。

 

「わらわが最初に二人に言ったんじゃ。自由になりたい、だから、一緒に戦ってほしいと。それがどんな意味を持つかも知らぬまま、目を背け続けてきた」

 

 それは、迷宮がある限り。迷宮が……踏破されるまで。

 

「わらわがやっていることは、わらわが望みを叶えようとすることは……これからもずっとずっと、ひたすらに、()()()()()()()()()()()()()()()()と」

 

 魔物と危険に満ち溢れた迷宮に潜れば、当然のように人は死ぬ。

 気づかなかったわけではない、知らなかったわけでもない。

 ただ、目を逸らしてきただけだ。最初の二人が居なくなった後も、その死を無駄にするわけにはいかないと。

 

 自分が戦えるわけでもないのに、《技能樹(スキルツリー)》を育てただけで、訳知り顔で偉ぶって、何かした気になって、彼らが向かう先が死地であることを都合よく見て見ぬふりをして、時には犠牲に涙して、義憤すら抱いた……そんな己をふと振り返り。

 

 それが、どれだけおぞましいことだったのかを、アンゼリセは知ってしまった。

 

「グイネアは言った。『彼らの遺志に報いるためにも、止まるわけにはいかない』と。わらわは、怖くなった。罪深いと思った。これを幾度と繰り返すのかと。これを幾度とやってきたのだと。己の自由の為に、望みの為に。あんな…………」

 

 空が近い、遮るものがない、だからいつの間にか、枝葉が覆う天蓋の向こうに、無数の星が瞬いて、時折、尾を引いて流れていく。

 まるで、誰かの涙のように。

 

「…………だから、わらわは逃げ出した。迷宮に関わるのを止めた。死の責任を背負うことが、恐ろしくて仕方なくなった。街外れの神殿で息を潜め、なるべく人と関わらぬように生きてきた……それが、グイネアの言う『裏切り者』の意味じゃ」

 

 自嘲の笑みを浮かべながら、ようやく、アンゼリセは振り向いた。

 

「どう思う? イツキ、こんなわらわ、を――――――」

 

 普段と比べれば大人しく話を聞いていたイツキは…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………うわぁ…………」

 

 ドン引きしていた。

 




四つ子女神

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