《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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第三話 イツキ・アカツキと迷宮の祭り
“芽吹きの暦” Ⅰ


 ついに七〇階層攻略も佳境を迎え、一週間後の“森の日”に《階層の主(フロアボス)》の討伐に乗り出す、と公式に宣言された。

 ランペットに限らず、こうなった迷宮都市はとんでもない賑わいを見せる。

人々は勝利を祈願して連日盛大なお祭り騒ぎとなり、商人はここぞとばかりに在庫の大盤振る舞い、他の探索者は最後の需要高騰に全力を費やすようになる。

 

 そして……。

 

「ほら、これ頼む」

「ういよ」

 

 ぽい、と投げつけられた小石を受け取り、握りしめると、バチ、と電気が弾けた。

 ティック曰く、この石は属性の力を溜め込む性質を持つそうで、イツキが充電することで、強い衝撃を受けると周囲に雷を蒔き散らかす投擲武器として利用できるそうな。

 

 本来は非常にレアな雷魔法を使える魔導士に頼んで作ってもらわねばならない貴重なものだが、勝手に充電と放電を繰り返すイツキがいれば大量生産可能ということで、よく暇を見てはバチバチと充電を繰り返しているのであった。

 

(……これ売っぱらったら金になるんじゃねえ?)

 

 と思わなくもないものの、ティックがそうしないということは何かしら理由があるんだろう、裏でこっそり捌いて儲けている可能性もゼロではないが、短い付き合いであっても、そういう今後の信頼関係にヒビが入るような真似はしない相手だ、ということぐらいは理解しているつもりだった。

 

「んで……その“芽吹きの暦(サンティリオ)”ってのが来たら、しばらく探索は休みになんの?」

「ああ、一〇階層単位の主が討伐されれば、最前線のクラン以外は大体ね」 

 

 雷石を袋にじゃらじゃらと詰めるが、こんなものは序の口だ。投擲用の短刀、非常用の臭い袋、緊急事態に備えた丸薬、その他諸々。

 ティックはその小さな体のどこに収まるんだ、という量の消耗品を常に持ち歩いている。使わないものも多いが、メンテナンスは怠らない。

 

「なして?」

 

 イツキもその隣で、しゃこー……しゃこー……と刀を砥石に滑らせていた。

 

「うーん、《不壊(アンブレイカブル)》がついててもちゃんと研げんのかな……」

 

 装備の手入れや加工をする設備を一定時間有料で借りることができる『支度場』と呼ばれる施設の一室で、イツキとティックはいそいそと準備に励んでいた。

 

「ランペット宝樹迷宮は変動型、つまり一定期間で迷宮の中身が入れ替わる。道順も罠も宝も資源も、倒されていれば魔物もね」

 

 うんうん、とイツキは頷いた。迷宮に挑戦して一番驚いたことは、昨日と今日で、迷宮の形ががらっと変わっていたことだ。

 必死に道を覚えようと指を折っていた自分を、怪訝な目で見ていた他の新人たちが不思議そうに見ていた事はイツキの記憶に新しい。涙が滲む。

 

「低階層ほど頻度が多くて、上に行くほど少なくなる……だからこの需要高騰で素材が掘り返されて、資源が枯渇しちゃうんだ。そうすると、迷宮に挑む探索者がぐっと減る」

「そりゃそうか、何も拾えなかったら大損だもんな」

「そういうこと。長く君臨した上位層の《主》を倒した時なんかは特に迷宮変動の間隔が空くんだ。その待ち時間に大きく《技能樹(スキルツリー)》を調整したり、じっくり装備を整えたりする期間に入る。それが“芽吹きの暦(サンティリオ)”だ」

 

 土地によってはまた呼び方が変わることもあるが、ランペットは巨大樹に依る迷宮都市であるからか、こういった用語は植物に絡むことが多い、とかなんとか、確かアンゼリセがしたり顔で語っていたことがあったような気がする。

 

「だから商人連中は今のうちに在庫を売りさばこうと必死だし、いざ“芽吹きの暦(サンティリオ)”に入ったあとは在庫が減って肝心のモノがなかったり、逆に足元を見られたりして物資が揃わないことも多いんだ。特に今回、三〇層から上はほぼからっけつのはずだ。長けりゃ一月くらいは休みだね」

「ふうーん……いや、ってことはだ、逆にライバルが少なくて隠し部屋漁るチャンスとかあるんじゃ痛っ!」

 

 ティックが弾いた小石が、イツキの額のど真ん中に炸裂した。

 《投擲》スキルによる狙い違わぬ一投だった。

 

「お前なぁ、探索者が減るってことは、アクシデントが発生した時に助けることも助けてもらうこともできないってことなんだぞ」

 

 呆れたようなティックの声。パーティを組むようになってからわかった事だが、ティックの方針は『極力リスクを回避すべし』だ。

 

 怪しい場所には安全を確保できない限り立ち入らない、マッピング済みの道であっても、様子がおかしければ回り道をする。扉や宝箱は徹底的に調べる。

 

 臆病と言う者もいるし、イツキとしては若干まだるっこしいと感じることも確かにあるのだが、これで回避できた罠の数が既に両手の指の数を超えている事を鑑みると、何も言えなくなってしまう。

 

「本来別のルートを進んだ他のパーティが倒してくれる魔物だって、全部こっちに来るから、下手すると通路で挟み撃ちだってあり得るからな」

「あー、眼の前の敵だけ倒してりゃいいわけじゃないのか」

「時と場合によるけどね、そういうデメリットを飲み込んでまで、探索するだけの価値はあんまりない、ってのが僕の意見だ。最初に言ったと思うけど」

 

 ティックが出したパーティを組む際の条件はいくつかあるが、その中の一つ、彼が最も念押しした項目。

 

「『いかなる事情があろうとも、準備不足で迷宮に挑まない』」

 

 イツキが散々言われた言葉を復唱すると、ティックは鷹揚に頷いた。

 

「そう、迷宮で何か(イレギュラー)が起こるときは、必ず何かが『いつも通り』じゃない時だ。だったらせめて自分たちくらいは『いつも通り』でいるべきだ」

「うっす、了解っす、アニキ」

「だから、俺を、アニキと、呼ぶな」

「年下の巨女にはアニキって呼ばせてるくせに!」

「あれはワーブが勝手に呼び出したんだ! お前に言われると寒気がするんだよ!」

「頼りになるけどちょっと危なっかしい後輩に頼られてアニキドキドキ……ってコト!? アブねっ!」

 

 コト!? のあたりで頬をふわっとかすめたのは、ティックが普段持ち歩いている、平たく細長く、そして異様に鋭い投擲用の投げナイフである。

 

「殺すぞ」

「すいませんでした」

 

 壁に半分めり込んだ投げナイフを引き抜きながら、ティックはため息を吐いた。

 

「とにかく! この高需要の、今が最後の稼ぎ時ってことだ。迷宮に熱がある間に先に進んで、素材をかき集める。このメンバーなら装備が整いさえすれば、早期の二〇階層攻略も夢じゃない。最近は連携も取れてきたしな」

「仲間って素敵! 最高!」

「あとはお前がまっとうな性格をしてくれてたらなあ……」

「なによ! あたいがおかしいっての!?」

「そういうとこだよ」

 

 しかし、こうして男二人で無駄口を叩きながら準備を整える時間は、イツキにとっては非常に心地よいものだった。一人で黙々と荷物を詰めながら、これで大丈夫かなぁ、忘れ物ないかなぁ、必要なものあるかなぁ、と悶々とする日々の辛いこと辛いこと。

 

「……と、言うわけでイツキ。お前に一つ頼みたいことがある」

「おう、なんでもこい」

「オルレアを呼んできてほしい。深く潜るなら彼女の助けがいる。分前を少し増やすから、と伝えてくれ。消耗品はこちらで持つとも」

「了解。んじゃ昼に迷宮前で待ち合わせでいい?」

「ああ。僕もワーブと合流して行く」

 

 ワーブは現在、アンゼリセの下で《技能樹(スキルツリー)》の調整中のはずなので、ここから迎えに行って合流すれば、ちょうどいい時間になるだろう。

「…………あれ、なあティック」

「何だよ」

「そういやさ…………《技能樹(スキルツリー)》って、普通どうやって調整するもんなの?」

 

 イツキの《技能樹(スキルツリー)》は、基本的にアンゼリセの神殿で施術してもらうのが常だ。

 一回でそれなりに時間がかかるし、見てる感じでは完全に技術職の仕事に思えるのだが、この都市の探索者全員……どころか、都市で暮らす一般市民、なんならこの世界の人間は赤子から大人まで全人類が《技能樹(スキルツリー)》を有しているわけで、手作業でやってたらとてもじゃないがおっつかないのでは? という疑問を薄々感じていたのだが、何となく誰かに聞く機会がなかったので、放置していたイツキであった。

 

 一方、ティックは今更そんな事を……という言葉を、ぐっと飲み込み。

 

「……お前が《流れ人(エトランゼ)》だって知らなかったら僕は今すぐこの場から逃げてたぞ」

「薄々そんな予感がしてたからこういうタイミングでしか聞けなかったんだよねェ!」

「妥当な判断だ。ざっくりいうと自分の《技能樹(スキルツリー)》を可視化して、調整する為の道具がちゃんとある」

「そーなの!?」

「大昔はそれこそ、女神アンゼリセのような《技能調律師(スキルコーディネーター)》が必要だったらしいけどね。大体どこのギルドにもある《技能樹環図(スキルマップ)》を使えば……というかここのギルドにも普通においてあるぞ」

「へぇー……全然知らんかった、どおりで皆、探索が終わったらまとまってどっかにいってたわけだ……」

 

 あれ、ちゃんと意味が合ったんだ。そして俺は教えてもらえなかったんだ……という新たな悲しみが湧いてきた。

 

「…………ただお前の場合はちゃんと女神アンゼリセに見てもらったほうがいい、というか、絶対に、使うな。あれはモノによって機能がピンキリなんだ」

 

 パーティを組んだ際に、お互いの腹を割る意味合いを込めて、イツキは自身の《技能樹(スキルツリー)》を全て開示している。ティックとアンゼリセの意見は完全に一致し、『こいつの《技能樹(スキルツリー)》だけは世間に知られてはならない』という結論で合意していた。

 

「と言うと?」

「粗悪品だと大して育てたくもないスキルに【経験(EXP)】が全部持っていかれたり、覚えたくもない技能が勝手に生えたりする。剪定も一般的な《技能樹環図(スキルマップ)》じゃ出来ないし……はっきり言うが、女神アンゼリセの支援を受けられるのは、僕らにとってありがたい話なんだ。あそこまで微細な調整を他所でしてもらったら、どれだけ払わないといけないことか」

「なんか流れでやってもらってたけどそんな大事(おおごと)だったんだ…………」

 

 これからはもうちょっと感謝しよう、と誓いつつ、イツキは研ぎ上がった刀を見た。

 ……うん、研ぎも一応、習いはしたが基本的には見様見真似だけど……鋭さを取り戻している気が、なんとなくする。これでいいことにしよう。

 後片付けをして、刀を鞘に納め、イツキは立ち上がった。

 

「そんじゃ、また後で!」

「ああ、よろしく」

 

 たったそれだけの会話でも、十分心が弾むものだ。仲間がいるって素晴らしい、イツキは心からそう思った。

 

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