《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“芽吹きの暦” Ⅳ

 

 手入れを放棄した結果、朽ちるがままにされているアンゼリセ神殿と、肩を並べられるぐらい……その修道院はボロボロだった。

 

 ぱっと見ただけで壁にも屋根にも穴が空いていて、そこかしこに手作業で修理した痕跡がうかがえる。

 ともすれば廃墟に見えそうな場所だが……建物自体は大きく、広く、元々立派だったことが伺える意匠の名残があり、真新しい柵で囲われた広い庭には、放牧された数匹の山羊が、もさもさと草を食んでいた。

 

 そして、中央に位置する聖堂には、幼い子供を中心に沢山の人が集っていて……つまり、ちゃんと人が暮らしていて、修道院としての機能を果たしているのだった。

 

 若いシスターが紡ぐ神話を、その場にいる人々は、ただ静かに聞き入っている。

 

 川を流れる清流に自然と耳を澄ましてしまうように、一音一音がその場の空気に溶け込むような……割れた窓ガラス越しに姿を見つけて、勢いよく声をかけようとしたイツキですら、溢れ聞こえたそれに思わず耳を傾けてしまうくらい、柔らかく、そして優しい声だった。

 

「……はい、おしまい。続きはまた明日」

 

 古く、ボロボロの、分厚い本をパタンと閉じて、語り部であるシスター……オルレアがそう告げると、めいめいに人々が立ち上がる。

 

 とは言え、教会を去っていくのは数名の老人くらいのもので、大多数を占める子供たちは、座ったままおしゃべりを続けていたり、元気が良いものは走り回ったり、オルレアの修道服の裾を掴んでもう一度、とせがんだり、様々だった。

 

 見た感じ、ほとんどの子供は一桁くらいの年齢だろうか。オルレアを除いて一番年上っぽいのでも十歳かそこいらだろう。

 はいはい、と慣れた様子で子供をあやす様を見ながら、んー、としばし考え。

 

「ちぃーーーーっす! オルレアさんいますかァーーーーーー!」

 

 結局、正面からぶち当たることにした。

 立て付けの悪い分厚い扉を勢いよく開け放ち、大声で名乗りあげながら修道院に侵入。

 

「きゃあ! イ、イツキ様!?」

 

 突如として現れた乱入者に、当然だが驚きの声を上げるオルレア。

 ちょっとびっくりさせてやるつもりだったので目論見自体は大成功、だったのだが。

 

「誰だテメェー!」「オルレア姉ちゃんに近寄んじゃねェー!」「でてけェー!」

 

 イツキにとっての予想外は、子供たちの反応だった。

 

「いてっ! いてっ! 何だ! コラ! やんのか!」

 

 石やレンガはもちろん、よくわからんガラクタまで。

 とりあえず落ちている物を投げている様子だが、子供の力とはいえ、直撃したら洒落にならなそうなものもある。

 

「こらっ! お客様になんてことするの!」

 

 という、あまり覇気の感じさせない声とは裏腹に、オルレアの拳が子供の頭を真上から叩いた。ボゴッ、ボゴッ、ボゴッ、というかなり痛そうな音がした。

 

「ぎゃぁーっ!」「オルレア姉ちゃんが怒ったー!」「逃げろー!」

 

 途端にざざ、と周囲で動向を見守っていた者も含め、全員潮が引くように逃げていった。統率された一つの生き物のような、見事なチームワークだった。

 

「もう、あの子たちったら……すいません、イツキ様、お怪我は……?」

 

 子供を叱り飛ばした姿とは、打って変わって申し訳無さそうな顔をして、そそくさと近づいてくるオルレアに、イツキはへーきへーき、と笑い飛ばした。

 

「当たってねえし、仮に当たったとしてもガキが投げた石など俺は痛くねーし」

「あの子、《投擲術》と《急所狙い》スキルを持ってますよ」

「急に今俺が生きてるのは運が良かっただけな気がしてきたんだけど」

 

 この世界の全人類は等しく《技能樹(スキルツリー)》を有しているのだと、先ほど認識を新たにしたばかりだったのに。

 

「きつく言って聞かせますので……ほんとうにもう、あの子たちったら」

 

 ひたすら頭を下げてくるオルレアに、どちらかと言うとイツキのほうがいたたまれなくなってくる。手持ち無沙汰で頬をかいていると、おずおずと顔を上げたオルレアは、居た堪れなそうな表情のまま言った。

 

「それで、その…………どうしてこちらへ?」

「ああ…………いや、待ってくれ。この場所はヴェルミー姐さんから聞いたのであって、決してやましい方法で住居を突き止めたのではないのでゲスが」

「いえ、別にそれは疑問に思ってはいませんが……アンゼリセ様もご存知ですし」

 

 この世界ってストーカー被害とかあるのかなあ、何かしら罪に問われたらちょっとやだな、と思っていたイツキは内心で安堵の息を吐いてから、ぐ、と親指を立てながら、いい笑顔で告げた。

 

「報酬は弾むから、この盛り上がってる迷宮に乗り込んで、いっちょ荒稼ぎしようぜって誘いに来た!」

 

 もうちょいなんか言い方があるだろ。

 と、アンゼリセがいれば言いそうな誘い文句に、オルレアは少し困ったような笑みを見せて、小さく頭を下げた。

 

「申し訳ありませんが……私、しばらく、探索にお付き合いするのは難しいです」

「あー…………」

 

 何故? と問うまでもなかった。少し視線をオルレアの背後に向ければ、壁の影からこちらを気にして、小さな子供たちが顔をのぞかせている。

 

 イツキから見て、ごく普通の子供もいれば、獣の耳が生えている子供、耳の長い子供、やたらずんぐりした子供……様々な種族の子供たちが、そう……敵だ、敵を見る目でイツキを見ている。

 

 というか、さっき石を投げてきた奴も居るな。

 

「あのチビ共絡み?」

「はい、もうすぐお祭りがあるので……」

祭り(フェスタボーゥ)?」

「都市が新規階層の攻略で盛り上がると、いろんな出店が出るんです。パレードや、サーカスのような出し物も。普段、あの子たちには色々と我慢をしてもらっているので、こういう機会ぐらいは……」

 

 オルレアの視線も、ちら、と背後の子供たちへと向けられた。

 

「!」「やべ、隠れろ!」「待ってよクー兄ぃ!」

 

 本人たちは大真面目に身を潜めているつもりなのだろうが、姿も声も当然隠しきれていない。苦笑するオルレアだが、その表情は、なんというか、柔らかい。

 慈しむ、という言葉が、多分一番当てはまるんじゃないかと、イツキは思った。

 

「なるほどな……大体のところは察したぜ」

 

 うんうん、と腕を組みながら、イツキは大きく頷いた。

 あまりに得心いった様子なので、オルレアは対極的に首を傾げる。

 

「……そうですか?」

「ああ、恐らく身寄りのない子供たちの面倒をこの教会で見ているものの、日々の生活に余裕があるわけではないから、一番の年長者であるオルレアが稼ぎ頭となっていて、お金に関してきっちりするようになったんだろうな、ということもわかったぜ……」

「あ、あの、そうやって言われると、その、なんというか」

 

 拳を握ったり、手を振ったり、口をぱくぱくとしたり、つまりは上手いことを言おうとして……結局できず、オルレアはふぅ、と空気を吐き出した。

 

「…………その通りとしか、言いようがないですね、もう……」

「当てずっぽうだったのに言ってみるもんだなぁ……あいたっ」

 

 軽い痛みが走る。オルレアのつま先がイツキの向こう脛を叩いていた。

 

「そこそこの暴力!」

「申し訳ありません、つい足が」

「全然申し訳なさそうに思ってない顔してる!」

「よいではありませんか。イツキ様は微妙に頑丈なのですし」

「別に痛みを感じないワケじゃないんだけどネ!?」

 

 アビリティ【雷帝竜の堅鱗】によってイツキの肌はちょっとした物理攻撃なら弾いてしまうぐらいの防御力を持っているのだが、オルレアのブーツは先端に鉄板が入っている為、勢いつけて蹴られると軽い痛みを感じるぐらいの威力はあるのだった。

 

「わざわざ言うまいとしていた事なのですから、気づかないふりをしていただかないと」

「別に隠すようなことじゃなくない? ……まってまって、凶器(それ)はやめて」

 

 す、とオルレアが普段背中に標準装備している軽金属(ライトメタル)製の鎚矛(メイス)に手をかけたのを見て、イツキは一歩後ろに下がった。

 

「とりあえず事情はわかった、んじゃ無理に誘えないなぁ」

「……よいのですか?」

 

 多少は食い下がられると思っていたのか、意外そうな顔をするオルレア。イツキはいーよいーよ、と軽く手を振った。

 

「迷宮に潜る為に生活するのと、生活する為に迷宮に潜るのは違うじゃん? 俺は根無し草だからしょうがないけど、オルレアにはきちんと家があるってことだよ、良いことじゃん」

「…………そのような」

 

 驚きと、困惑と、少しの動揺と、安堵。

 色んな感情がないまぜになって、口元をもごもごさせてしまうオルレア。

 

「……そのような事を言われたのは、初めてです」

「そう? まぁ仕方ねえって。まあ次来る時は土産ぐらいは持って――――痛ぇ!」

 

 ゴンッ、とイツキの後頭部から良い音がした。

 手で被弾部位を抑えながら振り向くと、普通のガキ、耳の長いガキ、獣の耳が生えたガキ、トリプルガキがそれぞれ石を構えていた。

 

「やっぱり悪もんだあいつ!」「オルレア姉ちゃんをいじめるなー!」「離れろー!」

「あ、あなたたち! やめなさ――――」

「やったなガキども二度目はねえぞコラァ!」

「ぎゃー!」「こっち来たー!」「逃げろー!」

 

 ずざざざざ、と何故か四つん這いになって凄まじい速度で追いかけてくるイツキに恐怖し、悲鳴を上げながら逃げていく子供たち。

 

 一人ぽつんと取り残されたオルレアは、しばしその場で立ち尽くすしかなかった。

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