《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!? 作:天都ダム∈(・ω・)∋
◆
ええと、どうしましょう、とりあえず追いかけた方がいいのかしら。
悩み、首を傾げたオルレアの耳に、がしゃん、がしゃん、と金属のこすれる、最近では聞き慣れた音が入ってきた。
「今、子供たちを馬鹿が四足歩行で追いかけていったが……」
「あ、ティック様、ワーブ様」
鎧に身を包んだワーブと、その肩に腰掛けるティックである。
「その……お気になさらず。多分、危険な生物ではないと思うので……」
「あいつ以上に危険な生物はそういない気がするが……」
言われてみるとまあ、手にしたものは燃やすし触ると痺れるし、あと何か女神に不敬を働いたりするし……うん、子供たちがちょっと心配になってきたかも知れない。
『こんにちは、オルレアさん。えっと……アンゼリセ様に伺って来たのですが』
フルフェイス越しのくぐもった声と共に、ワーブが小さく頭を下げた。
肩に乗ったティックは、その揺れに微塵もバランスを崩さない、乗り慣れているのがうかがえる様子だった。
イツキは変なところで、という前置きがつくが、ティックは普通に察しが良い。
巨躯の全身鎧、という風体のワーブが現れたことで、興味と恐怖が半々で釣り合ったのだろう、修道院の中から様子を伺う子供たちの様子を見て、一目で理解したらしい。
「彼らは、
「…………そうです。私も含めて」
迷宮探索は危険と隣合わせである、だからパーティを組むと、自然と信頼関係が築かれていく。それが男女の組み合わせなら恋愛関係に発展することは珍しくなく、その結果、子供が生まれることもまたよくある話だ。
子供が生まれたのを機に、探索者を止めて別の道を歩む者も居るし――そのまま探索者を続ける者も居る。
そして探索者を続けていれば、やはり一定の割合で、命を落とす者がでてくる。
迷宮都市の構造上、遺された子供を引き取ってくれるような親類縁者はいないことがほとんどだ。遺児の保護までを保障に組み込んでいるクランも存在はするが、数が多いとは言えない。
これはランペットにかかわらず、迷宮都市というものが中心になっている世界全体でどうしても生じる社会問題だ。まして規模の大きい迷宮都市は、必然的に
放っておけば治安の悪化に繋がる為、その扱いに関しては、各国各都市が頭を悩ませているのが現状であり……。
「奇遇だね」
肩をすくめたティックの顔には、同情も憐憫も、あるいは共感も見受けられない。いつもどおり淡々と、事実のみを確認する……そんな感じだった。
「全員の面倒を君が?」
「一人で、というわけでは。私が迷宮に潜る間は、年長の子たちが下の子を見てくれますので…………その、驚かないのですね」
「珍しい話でもないからね。予想はついてた」
「そう、ですか」
「で、僕らの用件だが……イツキから聞いたかな」
「はい。申し訳ないのですが…………」
再度、オルレアは誘いを断ろうとした。
イツキはまだ親しみやすさがあるが、オルレアにとってティックはビジネスライクな関係の相手だ。
信用が重なれば仕事をする機会が増え、損なえば接する機会が減っていく。今回は特に儲け話を棒に振るのだから、この方向性の違いは、後々響いてくるかも知れない。
そのリスクを承知の上で、それでもオルレアは、無茶をする気にはならなかった。
ふむ、と少し考え込む仕草を見せるティック。
「…………」「…………」「…………」
なんとなく、オルレアも言葉を返しづらく、結果として沈黙が場を支配した。
遠巻きに様子をうかがう子供たちにも、なんとなく緊張の糸が張っていくのを感じる。流石にワーブに石を投げる勇気がある子はいないと思うが……。
「おうおう、どうしたどうした! 何だお前らも来たのかよ!」
そんな空気を破壊したのは、やっぱり馬鹿だった。
「うわー! イツキ兄ちゃん、何あいつー!」「すごーい!」「でっかーい!」
先ほどイツキに追いかけられていた子たち、
かなりギュウギュウ詰めの状態だが、当人たちは気にならないようで、ワーブを見てきゃっきゃとはしゃいでいる。
え、あれ、怒って追いかけてたはずなのに、仲良くなってる……?
唖然とするオルレアだったが、しかし事態は更に彼女の予期せぬ方向へ転がった。
「ふっふっふ……」
ティックがわざとらしい含み笑いをすると、そのままワーブの肩の上に立ち、よく通る声で高らかに叫んだのだ。
「見つけたぞシスター・オルレア! 積もり積もった借金、今こそ返してもらおうか!」
「え、ええっ!?」
唐突な告発。もちろん、お金の貸し借りをした記憶は、オルレアにはないのだが、しかしなにか言い返す前に、状況はどんどんと進んでいく。
「さあワー
こん、とティックが兜を叩くと、えっ!? というくぐもった声が響いたが、すぐさま両手の肘を曲げて、ガオー、と体を大きく見せながら、頑張って作ったのであろう、低い声を出した。
『ワ、ワールワルワル! シスターを連れて行くワルー!』
かなりの棒読みだったが、体躯から出る迫力と、兜越しのくぐもった声は子供たちに威圧感を与えるには充分だったらしい。
「やめてー!」「オルレアお姉ちゃんを連れて行かないでー!」「た、助けてー!」
特に年少組の子供たちには効いたようで、きゃ、わあ、とか小さな悲鳴が上がった。
「待てい待て~~~い!」
オルレアがいまだついていけない状況の中、ずんずんと間に割り込んできたのがイツキである。左右の肩に乗っていたユノンとアミーを下ろしたが、何故か肩車したクーガーだけは担いだままだった。
「ァガキどもの平和を脅かすゥ~! ふてえ輩は、ァ俺が許さねェ~!」
大きく足を開いて、右手を前に突き出し、首をぐるんと振り回すもので、肩車されたクーガーも大きく回った。なんか楽しそうな悲鳴をあげた。
「やっちゃえイツキ兄ちゃん!」「がんばれー!」「やっつけてー!」
「はーっはっはっは! このワールに勝てると思うのか!」
『ワールワルワルワル! この前の恨みを晴らすワルー!』
「あぶねっ! ちょっと本気のリベンジ入ってるじゃねえか!」
そこでようやく、オルレアは気づいた。
気配を感じる能力に長けるティックが、子供たちを担いでこちらに向かってくるイツキの存在にいち早く気づいて、演技を始めたのだと。
事前に打ち合わせする暇などなかったはずなのに便乗できるイツキもイツキなのだが。
……ワーブさんも、こういうのに、アドリブでいけちゃうんですね。
「やれ! 逃がすな! 潰せ!」
「お前もちゃっかり恨みを晴らそうとしてません!?」
「恨まれる心当たりがあるのか!」
「それなりに!」
ずしんずしんと大地を揺らしながら迫ってくるワーブ、クーガーを肩車したまま飛び跳ねるイツキ。
子供たちの大盛況に釣られて、オルレアも込み上げてくる笑みをこらえきれず、賑やかな歓声の中に溶け込ませるように、小さく笑った。