《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“芽吹きの暦” Ⅵ

 

「その、ありがとうございました。子供たちの相手をしてくれて」

 

 最初は演技だったものの、次第に興が乗ってしまい、最終的には刀と盾による殺陣(チャンバラ)が始まってしまい、子供たちの興奮は最高潮を極めた。

 

 ……それだけ盛り上がってしまえば、全てが終わった後、疲れ果てて眠りについてしまうのも仕方ないことだろう。年長組と、あまり騒がずに観戦していた数名を除いて、今は修道院の中で昼寝をしていた。

 

「気にするな、ワーブは子供ウケがいいんだよ。大きいから」

「えへへ……それほどでも」

 

 鎧を脱いだワーブが照れくさそうに頬をかいた。実際、鎧を着ている間はかっこいいと褒めはやされ、非常に上機嫌だった。

 

「つか、なんで二人ともこっち来たん?」

「ギルドに行ったらヴェルミーさんにお前がこっちに来たって言われたからだよ」

「あ、そっか」

「ま、事情はおおよそわかった。無理にオルレアを連れて行くわけにも行かないし、僕らもしばらく休暇だな」

「へ?」「え?」

 

 イツキとオルレアの声が、重なった。

 

「潜らねえの? 迷宮」

 

 オルレア抜きで迷宮探索に挑んだことだって当然ある、というか割合としてはそちらのほうが多いくらいで、稼ぎ時である事は間違いないのだから、イツキはてっきりこのまま三人で突撃するものだと思っていた。

 

「言ったろ。『いかなる事情があろうとも、準備不足で迷宮に挑まない』」

 

 ティックは肩をすくめて、呆れたように言った。

 

「今の迷宮の熱気は普通じゃない。普通じゃない迷宮では経験上……()()()()()()()。だからこっちが万全の状態で挑めないなら避ける。それだけの話だよ」

「で、ですが……」

 

 向こう数年間訪れるかわからない、最大の稼ぎ時。

 オルレアはそれを理解した上で、同行を断ったわけだが、まさか自分がいなければ迷宮に潜らない、とまでは思っていなかったのだろう。

 表情に滲み出る申し訳無さを感じ取ったのか、ティックはひらひらと手を振った。

 

「これは僕の方針の問題だ、君が気にすることじゃない。謝られても返すものはないぞ」

「で、ですが……」

「まあいいじゃん、俺はリーダーの決定に従うぜ」

 

 あっけらかんと言ったイツキは、ごき、と首を鳴らし、

 

「ビバ長期休暇ーーー! うおおおおおお! 趣味にうち込むぜぇぇぇ!」

 

 両手を上げて、高らかに宣言した。子供たちが起きかねない大声だった。

 

「イツキさんの趣味ってなんなんですかぁ?」

「………………………………」

「な、なんで、そこで沈黙するんですぅ!?」

 

 ワーブの素朴な疑問に、イツキはそのままシームレスに肩を落とした。躁鬱が激しすぎる動きだった。

 

「俺、暇な時って刀振り回すぐらいしかしてなかった気がする……ソシャゲは趣味っていうか惰性だったし……一番ハマってたゲームは戦争(ドンパチ)始まったらできなくなったし……」

「よ、よくわかんないですけど、だ、大丈夫ですよ。『巨人に針を持たせるな』ってことわざも、ありますし」

 

 ぐ、と拳を握りしめて、ワーブは力強く言った。

 

「…………ワーブ、それから得られる教訓は?」

「えっと…………誰にでも向き不向きはあるから気にしないほうがって……あいた」

 

 ピシ、とティックが弾いた小石がワーブの額に直撃した。本日、相手を変えて二ヒット目だった。

 

「せめてちゃんと励ませ」

「ご、ごめんアニキぃ……」

「俺に謝ってくんない!?」

 

 休日に特にやることがない事は、向き不向きの話ではないはずだ、きっと、多分。

 そこでふと、イツキは何かに気づき、顔を上げた。

 指を折ってはんー、ぬー、ばー、と悩んでるのか唸ってるのかよくわからん声を出してから、ちら、とティックに視線を向けた。

 

「…………なあティック、“芽吹きの暦(サンティリオ)”って長くて一ヶ月ぐらいだっけ?」

「僕らの攻略階層なら、もう少し早く資源が回復するとは思うが、まあ目安はそうだね」

「うーん、一ヶ月かぁ…………」

 

 腕を組み、悩み始めたイツキを前に、ティックとワーブは顔を見合わせた。オルレアも首を傾げて、はて、という顔をした。

 

「何か問題が?」

「いや、その、お恥ずかしい話なんですがね……」

 

 へへ、とどこか諦めの混ざった引き笑いと共に、イツキは告げた。

 

「………………一ヶ月無収入だと、家賃が払えないかも…………」

「「「あー…………」」」

 

 絞り出すような告白に、全員が同時に納得の声を漏らした。

 

「その、イツキ様はどこで寝泊まりを?」

「ギルドが提携してる一番安い宿を借りてるんだけどォ……」

 

 大きな迷宮都市であればあるほど、それこそティックやワーブのように他所の都市からやってくる者も多い。人の流動が常なので探索者向けの宿の数は多く、最低限雨風をしのぎ凍え死なない程度の寝床であれば、格安で確保することができる。

 

 ……とはいえ、流石に探索を始めて間もないイツキに、一ヶ月何もせずに暮らしていけるだけの蓄えはなかった。生きるためには飯を食ったりしなければならないのだ。

 

 そもそも家賃でいっぱいいっぱいということは“芽吹きの暦(サンティリオ)”の要である『次の冒険の準備』もままならないという意味である。

 

「ちなみにティック」

「僕もワーブも一人一部屋の安宿だから、お前を入れる余裕はない。というか僕の借りてる宿は小人族(リトレリア)専用だから、お前の大きさじゃ入れない」

「駄目かァー! うーん、最悪、日雇いのバイトでもするかなぁ」

「イツキさんの人脈でぇ、当てはあるんですかぁ?」

「ヴェルミー姐さんに頭下げれば何かしら紹介してもらえるかも…………今さり気なく俺のことディスらなかった?」

「でぃす?」

「なんでもないでーす! くそ、時々通じない言葉がある!」

 

 《流れ人(エトランゼ)》であるイツキでも会話と読み書きに問題がないのは、《汎用言語(コモンワード)》なるものが都市で機能しているから、とアンゼリセが言っていたが、翻訳しきれないものに関してはその限りではないらしい。

 

「ま、なるようになるか」

 

 しばらく唸っていたが、最終的にはあっけらかんとそう言い放つ。良くも悪くも、異様に切り替えが早いのがイツキの性格だった。

 

「…………その、イツキ様」

「ん?」

「寝泊まりができれば良い、ということであれば……」

 

 一旦、空気を飲み込んでから、ふぅ、と吐き出して。

 オルレアは、意を決すように告げた。

 

「……うちの修道院を、使っていただいても構わないのですが」

 

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