《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“芽吹きの暦” Ⅷ

「私はシオネールという……ランペットから南西にある迷宮都市の生まれなんです。名前を聞いたことは、ありませんよね」

「超初耳。ていうか、ランペット生まれランペット育ちだと思ってた」

「迷宮都市は、移民の街ですから」

 

 くす、と笑って、オルレアは続けた。

 

「見渡す限り一面の青い海が広がる、海沿いの綺麗な場所でした。漁が盛んで、お魚が沢山捕れて……あ、でも、イツキ様は、多分立入禁止だと思います」

「えー! なんでなんで、なんでよォ!」

 

 いきなり出禁判定を喰らって、抗議の声を上げるイツキだったが、オルレアは静かに首を横に振った。

 

「雷魔法の使い手は、特別な許可がないとシオネールに入れないんです」

「…………海水は電気をよく通すからってこと!?」

「よくご存知ですね? 私も神父様に教わるまでは知りませんでしたが……」

「文系だったけどそれぐらいは理科の実験でやったよ!」

 

 ぶんけい? と首を傾げながら、オルレアは続けた。

 

「以前、魚を雷魔法で捕ろうとして、その……やっちゃったお方がいらっしゃいまして。都市の大半が浅瀬の海なので……イツキ様が足を踏み入れると、多分、大惨事に」

「うわー、至極真っ当な理由じゃん」

 

 現在、《ビリビリ電気鰻男(サンダーメン)》がもっとも異名スキルに近い男が、絶対に踏み入ってはならない都市であった。

 

「迷宮は海底洞窟を降っていくタイプで、一〇階層まで行くと、透き通った氷で出来たトンネルがあって、内側から海を眺めることが出来たそうなのですが……残念ながら、見たことはありませんでしたね」

「へー、水族館みたいだなあ」

「すいぞくかん?」

「いや、なんでもない……んじゃ、なんでまたランペットに?」

「私の父方の祖父が、ランペットの出身でして……あの修道院を作った、リーンケージ神父というお方で、身寄りを亡くした私を引き取りに、わざわざシオネールまで来て下さったんです」

「じゃあ、じいちゃんを頼って引っ越してきたんだ」

「はい。厳しいお方でしたが……色々なことを教わりました。祈りの捧げ方も、聖句の読み方も、神父様から教わって……ふふ、ランペットに来るまでは、自分がシスターになるなんて思いもしませんでした、まして探索者なんて」

「…………そーなの?」

「ええ、探索者のシスターって、実はとっても少ないんですよ」

 

 イツキからすると、シスター……つまりオルレアがもっとも身近で親しい探索者なので、何となくそう言うイメージはなかった。

 なにより、危険の絶えない迷宮探索だ。傷を癒やしてくれるシスターは、むしろパーティに一人は必須ぐらいに思っていた。

 

「現在、探索者の癒手(ヒーラー)として主流なのは、ワーブさんのような重装備の前衛が、自分で治癒魔法を使うことなのです。私のように……」

 

 麻袋を一度地面において、オルレアは両手を組み、目を閉じた。

 

「《祈り》を捧げ、《信仰》を示せば、治癒の効果は劇的に上がりますが……戦闘中にそんな(いとま)を作るぐらいなら、簡易詠唱を交え、前衛が戦いながら傷を癒やした方が効率的、ですから」

「確かにワーブが自給自足で治療してきたらちょっと泣いちゃうかもしれんが……」

 

 ただでさえタフで頑丈なのに……敵として戦っても厄介な分、味方だと異様に頼もしくはあるのだが。

 それに、前衛が自分で回復してくれるなら、後衛で自己防衛の手段に乏しいシスターを守るよりよほど楽だ。

 

「ですから、治癒に特化したシスターの仕事は、本来、迷宮の中ではなく外なのだと、神父様は仰っていました。危険のない場所で、万全の準備を整えて、重症者の傷を癒やし、救うことこそが、我々の役割なのだと」

 

 つまり、役割としては病院に近いのだろう。確かに理屈的には、深い傷を治せる技能を取れば取るほど、相対的に魔物と正面切って戦うのは難しくなっていくわけで。

 

「ティックがオルレアにこだわってたのはそーいうことか……」

 

 ティック曰く、ワーブは恵まれすぎた身体能力(フィジカルステータス)と引き換えに魔法に関する適正はほぼゼロらしいので、オルレアの言う『効率的な運用』は不可能だ。

 ならいっそのこと、深手を負ってもぐぐっと傷と体力を戻してくれるオルレアの方が、イツキたちのパーティには噛み合っている、ということなのだろう。

 

「あくまで探索者として、の話になりますが、《祈り》を介する《技能樹(スキルツリー)》の構築は非効率だ、とも言われます。実用的な上位スキルにたどり着くまで、経由すべき物が多く、同じ労力を別の事に注げば、もっと強くなれる方法がいくらでもありますから」

「…………」

 

 現時点で、オルレアは一五人の子供たちを養っている。

 金勘定にうるさいのも、その辺りの事情が大きいはずだ。

 言い換えるなら……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、オルレアの《技能樹(スキルツリー)》の構成は間違っている事になる。

 

「神父様が生きておられたら、きっと探索者になることは、反対なさったのでしょうけれど……私はこの道を歩もう、と思いました」

 

 オルレアが目を開け、指を解き、麻袋を抱え直す。

 

「…………………………」

 

 イツキはそんな彼女の様子を、無言でじっと見つめていた。

 

「……あの、イツキ様?」

「…………ごめん、俺、ここでなんで? って聞いていい奴!?」

 

 顰め面は、判断に迷った結果らしい。オルレアは苦笑し、言った。

 

「聞いてくださらないと、私、口の挟みにくい大きな独り言を言っただけになってしまいます」

「じゃあ大きな声で聞くぜ! ………………なんで!?」

「ありがとうございます。《信仰》の道を極めた、更にその先に……とある技能(スキル)が発現する……可能性があるのです。歴史上でも、《技能樹(スキルツリー)》に現れたのは極数回だけ、という、稀少なものではありますが」

「《焼肉食べ放題》よりも!?」

「いえ、それができるのはイツキ様だけだと思いますが……」

 

 あまり同列にしてほしくなさそうだった。

 オルレアは空を見上げ、イツキも釣られて顔を上げた。まだ明るいものの、いずれ暗くなっていく、雲一つない、夕暮れ少し前の色。

 

「《創神顕現(レーア・フェイエル)》と言って……文字通り、創造神様に謁見が叶う技能(スキル)です。生涯をかけた信仰への褒美として、たった一度だけ、願いを聞き届ける為に、眼の前に降りてきてくださるのです」

「……………………えっ、マジでモノホンが出てくるの?」

「はい、最後に使われたのは三百年ほど前だそうですが……その際は、視界の果てまで広がる汚染された北の大地を、実り豊かな土壌へと変えてくださったそうです。その地に築かれたティンランド大神殿は、聖地として栄えていますよ」

「へーーーーーー」

 

 ちょっとスケールが大きすぎてあまりピンと来ないが、実際にそんな奇跡を起こしてくれたというのなら、そりゃあ、創造神への信仰も厚くなるというものだ。

 

 少なくともイツキが知る神様仏様は、肝心な時に助けてくれなかった。

 

「と言っても、現実には何千万人という信徒が居ても、謁見が叶わないわけですから……神父様のお言葉を借りれば、満月を袋に詰めようとするようなもの、ですね」

 

 顔を下げたオルレアは、苦笑交じりにそう言った。

 

「良い歳をして、そんな事を……と言われてしまいますから、どうかご内密に。知っているのはアンゼリセ様と、イツキ様だけですので」

「…………そんな秘密を俺が聞いちゃってよかったのォ!?」

「もしバレたら、鎚矛(メイス)でガツン、ですね」

 

 要所要所で実感するが、オルレアは穏やかに見えても、必要であれば暴力の行使を躊躇しないタイプなので、多分脅しではない。本当にやる。

 

「アンゼリセ様が私を気にかけてくださるのも、神父様が元【猛る王虎】のメンバーであったから、なのです。私の“技能樹(スキルツリー)”を見てくれるように頼んでくださいまして」

「……あー、なーるほど」

 

 修道院の建設が、一〇〇年続く都市開発の初期だというのなら、確かに時系列も繋がってくるか。そういや、グイネアやロックも、オルレアの祖父を知ってるようなことを言っていた気がする。

 

 迷宮攻略から身を引いた後も、かつての繋がりに縛られる辺りがなんとも面倒見のいいアンゼリセらしい……いや、これ本人に聞かれたら怒られるかな、と思い。

 

「ま、まぁあれじゃん? もし俺が創造神サマに頼んだら元の世界に帰してもらえたりすんのかな、ははは」

 

 話題を切り替えるために、イツキとしては、軽い冗談のつもりでそう言ったのだが。

 オルレアは、はっと目を見開いて、足を止めてしまった。

 あれ? と思った、次の瞬間。

 

「イツキ様は、元の世界に……帰りたいですか?」

 




フルスイングオルレア

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