《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!? 作:天都ダム∈(・ω・)∋
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「………………………………」
問われて、イツキはへらへら笑いを止めて、口を閉じた。
ただ、ふらりと歩き出したので、オルレアは慌てて後を追った。
「………………」
黙ってしまったイツキの背を見て、問うべきではなかった、とオルレアは、内心で後悔した。
帰りたいかどうか、なんて、そんなの。
……帰りたいに決まっているではないか。
イツキが現れるより以前、アンゼリセが思い出話として語ってくれた、《
「……………………わかんねー!」
「ひゃっ」
五分ほど歩いただろうか、そこまで思考が至った時――突如、イツキは大声で叫んだ。
不意打ちの声にびく、と体を震わせ、袋の中の芋が一つ、ころりと転がった。
「あ、ごめんごめん!」
小麦の大袋を担いだまま、器用にしゃがんで芋を拾い上げ、そのままオルレアが抱えた袋に戻す。
「い、いえ、こちらこそ、その……失礼なことを」
イツキが立ち上がる頃には、まさしく苦笑い、という表情をしていた。
「いや、別に怒ってたわけじゃねーんだ。帰れるかどうかを考えたことがなかったっつーか……想定してなかったっつーか……どうなんだろうな、はは」
言葉を濁すイツキに、オルレアは何も言えなかった。
「ていうか、オルレアはどんな願い事があるんだよ。その
それは多分、話題を切り替える為の戯言で、それは秘密です、と返せば、きっと話は終わっていだろう。
だが、オルレアは今、イツキの触れてはいけない場所に踏み込んだ自覚があった。
問うてはいけないことを、問うてしまったという、後悔があった。
だから、シスターの身でありながら……懺悔のつもりで、言った。
「私、叶えたい願いがあるわけではないのです」
「……へ?」
にこ、と笑顔を作る。
多分、上手にできていることだろう。
なぜならオルレアにとって、それは紛れもない本音と、本心なのだから。
「《
この道を志した理由、非効率も非合理も飲み込んで、祈りを捧げ続ける理由。
より困難な道を歩み、経験を積み重ねるべく、探索者として迷宮に潜り続ける理由。
もしもイツキが語る世界のように――創造神が人々の信仰の中にだけ存在し、実在を確信できない存在であったら困ってしまう、最大の理由。
「その横面を、
「……………………………………」
いつもどこかヘラヘラしているイツキが、今度こそ口をぽかんとあけて、呆然としていた。
先程までの申し訳無さはどこへやら。
アンゼリセにすら語ったことのない、不敬極まりないその目的を、誰かに言ったのが初めてで……勢いに任せて、つい、力がこもってしまった。
「だって、納得いかないではないですか! 私も、あの子たちも、何か悪いことをしたわけではありません、ですが……親を失い、今は不自由な生活を送っています。本来であれば得られるはずだった愛情も、教育も、何もかも奪われて!」
何に? そうだ、迷宮だ。
創世神話に語られる、《マリス・レーアの大洪水》。
〝失敗作〟を洗い流し、新たに創造されたこの世界は、
迷宮都市を中心とする以上、世界中で発生し続ける社会問題……
迷宮がなければ、そもそもお前たちは生まれてこなかっただろう、とか、そういう理屈の話ではない。
まだ一四歳だったオルレアが、神父様が亡くなって後を託された時、不安と悲しみにくれる子供たちの顔を見て、抱いた感情のせいだ。
「この世界を作れるほどに、何でもできるというのであれば、助けてくれればよいではないですか! ですが、創造神様が御手を差し伸べるのは、限られた選ばれた方だけなのです! 神父様ですら、叶わなかった……っ!」
世界がこの形であること自体、一つの奇跡なのだとして。
大きな視点で見れば、充分平和なのだとして。
それはこの子たちが……あるいはオルレア自身が抱いた悲しみや寂しさに対して、何の納得ももたらさない。
そう、納得したいのだ。実在を信じ、祈りを捧げ、僅かな可能性に、生涯を費やしてでも…………一言、尋ねたいことがあるのだ。
「もしもあの子たち境遇を、仕方ないことだと、必然なのだと仰られるのであれば」
……納得行かなかったら。
それで不敬だと処断されても、知ったことではないのだ。
「その為に私、《フルスイング》スキルだけは鍛えているのです」
どうでしょう? とイツキに目をやると、相変わらず、口は開いたままだったが。
やがて、くく、と喉の奥から込み上げてくる笑いを、隠さずに。
「お、おもしれー女…………!」
そう言って、大笑いした。
「……本当に、本当に内緒ですからね? 絶対ですよ」
「ははははははは! わかった、言わない、俺、誓う」
わずかに陰ったイツキの表情が元に戻り、ほっと胸を撫で下ろす。
…………アンゼリセ曰く。
『こちらの世界へ掬い上げられた、
《
《
そしてその記録の中に……『死者の蘇生』は、存在する。
「お、出迎えご苦労ー!」
修道院が見えてきた。子供たちに群がられるワーブと、その肩の上で呆れているティックの姿。イツキが一足先に駆け出す姿を目で追って……ああ、そういえば、子供たち以外で、誰かにおかえり、と迎えてもらうのは、いつ以来だっただろうか。
…………いつも、賑やかだけれど、どこか物悲しさを感じる我が家は、今日から少し、明るくなりそうだった。