《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“芽吹きの暦” Ⅸ

 

「………………………………」

 

 問われて、イツキはへらへら笑いを止めて、口を閉じた。

 ただ、ふらりと歩き出したので、オルレアは慌てて後を追った。

 

「………………」

 

 黙ってしまったイツキの背を見て、問うべきではなかった、とオルレアは、内心で後悔した。

 帰りたいかどうか、なんて、そんなの。

 

 ……帰りたいに決まっているではないか。

 

 イツキが現れるより以前、アンゼリセが思い出話として語ってくれた、《流れ人(エトランゼ)》の話を思い出す。彼らは、総じて――――――。

 

「……………………わかんねー!」

「ひゃっ」

 

 五分ほど歩いただろうか、そこまで思考が至った時――突如、イツキは大声で叫んだ。

 不意打ちの声にびく、と体を震わせ、袋の中の芋が一つ、ころりと転がった。

 

「あ、ごめんごめん!」

 

 小麦の大袋を担いだまま、器用にしゃがんで芋を拾い上げ、そのままオルレアが抱えた袋に戻す。

 

「い、いえ、こちらこそ、その……失礼なことを」

 

 イツキが立ち上がる頃には、まさしく苦笑い、という表情をしていた。

 

「いや、別に怒ってたわけじゃねーんだ。帰れるかどうかを考えたことがなかったっつーか……想定してなかったっつーか……どうなんだろうな、はは」

 

 言葉を濁すイツキに、オルレアは何も言えなかった。

 

「ていうか、オルレアはどんな願い事があるんだよ。その技能(スキル)が欲しいってことは、あるんだろ? 何か」

 

 それは多分、話題を切り替える為の戯言で、それは秘密です、と返せば、きっと話は終わっていだろう。

 だが、オルレアは今、イツキの触れてはいけない場所に踏み込んだ自覚があった。

 問うてはいけないことを、問うてしまったという、後悔があった。

 だから、シスターの身でありながら……懺悔のつもりで、言った。

 

「私、叶えたい願いがあるわけではないのです」

「……へ?」

 

 にこ、と笑顔を作る。

 多分、上手にできていることだろう。

 なぜならオルレアにとって、それは紛れもない本音と、本心なのだから。

 

「《創神顕現(レーア・フェイエル)》は、創造神様を、()()()()()()()()技能(スキル)ですから、私は、お越しいただいた、創造神様の――――」

 

 この道を志した理由、非効率も非合理も飲み込んで、祈りを捧げ続ける理由。

 より困難な道を歩み、経験を積み重ねるべく、探索者として迷宮に潜り続ける理由。

 もしもイツキが語る世界のように――創造神が人々の信仰の中にだけ存在し、実在を確信できない存在であったら困ってしまう、最大の理由。

 

 

 

「その横面を、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「……………………………………」

 

 いつもどこかヘラヘラしているイツキが、今度こそ口をぽかんとあけて、呆然としていた。

 先程までの申し訳無さはどこへやら。

 アンゼリセにすら語ったことのない、不敬極まりないその目的を、誰かに言ったのが初めてで……勢いに任せて、つい、力がこもってしまった。

 

「だって、納得いかないではないですか! 私も、あの子たちも、何か悪いことをしたわけではありません、ですが……親を失い、今は不自由な生活を送っています。本来であれば得られるはずだった愛情も、教育も、何もかも奪われて!」

 

 何に? そうだ、迷宮だ。

 創世神話に語られる、《マリス・レーアの大洪水》。

 〝失敗作〟を洗い流し、新たに創造されたこの世界は、()()()()()()()()()()()()()

 

 迷宮都市を中心とする以上、世界中で発生し続ける社会問題……迷宮孤児(オーファン)

 迷宮がなければ、そもそもお前たちは生まれてこなかっただろう、とか、そういう理屈の話ではない。

 まだ一四歳だったオルレアが、神父様が亡くなって後を託された時、不安と悲しみにくれる子供たちの顔を見て、抱いた感情のせいだ。

 

「この世界を作れるほどに、何でもできるというのであれば、助けてくれればよいではないですか! ですが、創造神様が御手を差し伸べるのは、限られた選ばれた方だけなのです! 神父様ですら、叶わなかった……っ!」

 

 世界がこの形であること自体、一つの奇跡なのだとして。

 大きな視点で見れば、充分平和なのだとして。

 それはこの子たちが……あるいはオルレア自身が抱いた悲しみや寂しさに対して、何の納得ももたらさない。

 

 そう、納得したいのだ。実在を信じ、祈りを捧げ、僅かな可能性に、生涯を費やしてでも…………一言、尋ねたいことがあるのだ。

 

「もしもあの子たち境遇を、仕方ないことだと、必然なのだと仰られるのであれば」

 

 ……納得行かなかったら。

 鎚矛(メイス)を思い切り振りかぶって、一発ぶん殴ってやるのだ。

 それで不敬だと処断されても、知ったことではないのだ。

 

「その為に私、《フルスイング》スキルだけは鍛えているのです」

 

 どうでしょう? とイツキに目をやると、相変わらず、口は開いたままだったが。 

 やがて、くく、と喉の奥から込み上げてくる笑いを、隠さずに。

 

「お、おもしれー女…………!」

 

 そう言って、大笑いした。

 

「……本当に、本当に内緒ですからね? 絶対ですよ」

「ははははははは! わかった、言わない、俺、誓う」

 

 わずかに陰ったイツキの表情が元に戻り、ほっと胸を撫で下ろす。

 …………アンゼリセ曰く。

 

『こちらの世界へ掬い上げられた、()()()()()()()()……それが、《流れ人(エトランゼ)》じゃ』

 

 《流れ人(エトランゼ)》は例外なく、元の世界で死んでしまった人間、なのだと。

 《創神顕現(レーア・フェイエル)》が実際に観測されたのは、歴史上でも数えるほど。

 そしてその記録の中に……『死者の蘇生』は、存在する。

 

「お、出迎えご苦労ー!」

 

 修道院が見えてきた。子供たちに群がられるワーブと、その肩の上で呆れているティックの姿。イツキが一足先に駆け出す姿を目で追って……ああ、そういえば、子供たち以外で、誰かにおかえり、と迎えてもらうのは、いつ以来だっただろうか。

 

 …………いつも、賑やかだけれど、どこか物悲しさを感じる我が家は、今日から少し、明るくなりそうだった。

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