《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“鋼の災禍” Ⅰ

 

 各クランが誇る選びぬかれた精鋭たちが万全に準備を整え、七〇階層の主へ挑む、まさにその当日。

 

「暇だぁー………………」

 

 イツキはとても暇だった。

 雲一つない晴天の空の真下で、両手足を広げてごろりと地面に寝転がって、うだうだと管を巻くぐらいには。

 

「気を抜くな、一応仕事だぞ」

 

 ティックの注意が、頭上から飛んでくる。見れば、都市を囲む防壁の上に乗って、その高い視力でもって周囲を警戒しているところだった。

 

「こんな仕事だとわかってたら引き受けなかったのに……!」

 

 ◆

 

 

 時はしばし遡り、昨日のこと。

 迷宮には潜らない、という方針が決まり、オルレアの助けもあって家賃問題は解決したものの、先立つものは必要だし、稼ぐに越したことはない。

 

 そんなわけでイツキはアンゼリセ以外で唯一使える伝手であるヴェルミーの所へ向かったのだった。

 

「ちーっす! ヴェルミー姐さん、何か仕事紹介し――――って、あれ?」

「あら、イツキちゃん、おはよう」

 

 酒場のカウンターに肘をつくヴェルミー、そして座っている二人の先客が居た。

 

「お、なんだ、坊主じゃねえか」

「あー! クソバカ生意気不敬小僧なのだわ! その刀を返すのだわ!」

「思いの外に滅茶苦茶言われてる!」

 

 まさかの、ロックとグイネアだった。

 

「嫌だぁ! この刀は渡さねえ! もう体の一部なんだい!」

「じゃあ《不壊(アンブレイカブル)》の加工代を払うのだわ! 一五〇〇万ディオール!」

「えええええええええちょっと待って、これ、そんなすんの!?」

 

 一日一五〇〇ディオールの家賃をどう工面していくかみたいなことを考えてやってきたのに、まさかこんな次元の違う桁が乗っかってくるとは。

 

「稀少な素材と熟練の職人を要する最上位の加工よ! お前みたいな駆け出しのひよっこがホイホイ持ってていいようなものではないのだわ!」

 

 グイネアの言い分ははっきり言って正しい、イツキが持つには分不相応であることは百も承知である。

 百も承知なのだが、それを飲み込んでしまうと、ようやく手に入れたまともな武器から徒手空拳に逆戻りだ。

 

「まあまあグイネア様、ここは一つぐっとこらえて」

「ロック! お前が甘やかすからいけないのだわ! 身内にだってこんな真似しないでしょうに、いくらミーシャンと同じ《流れ人(エトランゼ)》だからってクラン外のよそ者に――――」

「俺に考えがあるんですって、いいですか? ごにょごにょごにょ……」

 

 中年のおっさんが、幼い少女の耳元に口を近づけて内緒話をするという、見た目だけだと結構問題ありそうなシーンが目の前で展開されて、イツキは今のうちに逃げるかどうかを本気で検討した。

 

「つまり……この小僧を…………して……独占…………」

「ふむ…………それは……悪くは……だわ……」

「だから後で………………利用……………最終的には…………」

「なんか不穏な単語だけがちょっとずつ漏れ聞こえてくるんだけど!」

「………………ふん、いいのだわ。そう言うことなら見逃してあげる。ロックに感謝することね!」

 

 内緒話が終わると、グイネアはそのままぴょん、と席を降りて、キッ、とイツキを一瞥すると、つかつかと歩いていってしまった。

 追わなくていいのか? と視線だけでロックに問いかけると、肩をすくめて、手元のコップを煽った。

 

「大丈夫大丈夫、ああは言っちゃいるが、グイネア様は不機嫌が表に出てる内は平気なんだよ。本当に怒らせてたらあんなんじゃない」

「どんなんになるんすか?」

「すごいぞぉ、あれだけ感情表現豊かなグイネア様が、無表情でちらっと見て、あとはもう一切眼中に入れねえんだ、怖ぇのなんのって」

「そりゃ確かに嫌っすねえ」

「…………しばらくはアンゼリセ様を見る度にあんなんだったんだよなあ。本当、ここ数年のことだよ。やっと名前を出しても癇癪を起こさなくなったのは」

「そりゃまた……うーん、まあ、そういうもんかあ」

「お、その様子だと、アンゼリセ様から何か聞いたか?」

 

 複雑そうな顔をするイツキを見て、何かを察したらしい。

 

「ま、ちょっと昔色々あったことぐらいは」

「そっかそっか、いやぁ、随分と信頼されてるねぇ。困ったもんだろ? 当事者の俺が気にしてねえってのに、肝心のアンゼリセ様が気負っちまって」

「アンさん、結構背負いすぎる所あるみたいで…………なんて?」

「あら、そこまでは聞いてなかったんだ」

 

 ヴェルミーが目を細めて、どこか陰のある笑みを浮かべた。

 

「邪龍シグムタとの戦いで亡くなった二人は、ロックの祖父母なのよ」

 

 アンゼリセ曰く、ランペット宝樹迷宮最初の冒険者、【猛る王虎】の設立者の二人。

 

「そして五五階層の戦いで亡くなったのがその息子のユリガーさん、つまりロックのお父さん」

「…………あの、結構重たい話なんですけどしれっと聞いちゃって大丈夫だった!?」

「ははははは! 坊主以外は誰でも知ってらぁ!」

 

 焦るイツキとは裏腹に、豪快に笑い飛ばすロック。

 

「なるほどなー、道理で、やたらおっさんがアンさんに馴れ馴れしいわけだ」

「いやお前ほど馴れ馴れしくはないけどな?」

「ええー、そうかなぁ」

「……これはほんっとうにマジの忠告だが、東と北の迷宮神様にそれやったら、弁明の余地無く首が飛ぶからな、やめとけよ?」

「ひえっ」

「キャンディ様はご自分で戦う武闘派で、シコロル様は本人はのんびりしてるけど、周りの子たちが熱狂的な信者(ファン)だものねえ」

 

 まだ見ぬ二人の迷宮神も、なかなかに個性的であるらしい。しばらくは会えなくてもいいや。

 

「ま、話を戻すとだ。俺の弔いは、この迷宮を攻略することでしか成し得ない……ってことで、大事な戦いの前はここで景気づけすることにしてんだ」

「えー、じゃあ俺、滅茶苦茶邪魔しちゃった感じっすか?」

「いやぁ、もう拠点に戻る所だったよ、本番は明日だしな……それよりどうだ、坊主、カタナの使い心地は」

「正直めっちゃいいっすね。助かってます」

「ははは、そりゃ何よりだ。…………俺にデカい貸しが出来たってことでいいよな?」

「すげぇ嫌な予感がする前フリ!」

「今すぐどうこうってわけじゃねえって。ま、返してもらう時はちゃんと言うから心配すんなって」

 

 いずれ支払いが請求されることだけが確定していて、具体的に何を支払うべきかわからない状態で放置されるのは凄く辛い部分があるが、これに関してはイツキが受けた借りが大きすぎるので何も言い返せないのも事実であり。

 

「それより、イツキちゃん、なにか用事があったんじゃないの?」

 

 冷えた水をカウンターに置きながら、ヴェルミーが尋ねた。

 

「あ、そうだった! ヴェルミー姐さん、なんかバイト紹介して!」

「あら、なんでまた」

「パーティの方針で“芽吹きの暦(サンティリオ)”の間は迷宮に潜らないことになったんだけどシンプルに金がねえんです!」

「あはははははははははは!」

 

 両手を叩いて大笑いするヴェルミーだったが、イツキにとっては笑い事ではない。

 

「でもねえ、“芽吹きの暦(サンティリオ)”って街全体が休みモードに入っちゃうからあんまりねえ」

「駄目かぁー! …………はっ、そうだ! 姐さん、今、ちまたで痺れると噂のバーテンを一人雇ってみる気はないか?」

「自分を売り込む根性は買うけどダーメ。イツキちゃんは見てる分には楽しいけど一緒に仕事するのイヤ」

「すいません大人のお姉さんにそう言う事言われるとシンプルに傷つくんですけど!」

「あら、ごめんなさいね。でも調子乗ってコップとか割りそうじゃない?」

 

 それは確かに割りそうだな、と自分でも思ったので、イツキはそれ以上何も言えなかった。

 

「ふうん……そう言うことなら一個、坊主にもできる仕事があるぞ。それも結構高日当」

「マジ!?」

 

 会話を聞いていたロックが、不意にそう告げて、イツキはばっと顔を向けた。

 

「ロックゥ? グイネア様も言ってたけど、あまり他所のクランの子に入れ込まないほうがいいんじゃない?」

「や、違うってヴェルミー。お互いにとっていい話なんだよ。むしろこれに関しちゃ、俺はクランの仲間のために坊主を利用しようってんだ」

「利用されるって言い回しが若干気になるけど、このイツキ・アカツキ! 割に合うなら悪いこと以外は何でもやるぜ!」

「坊主のそういう所、俺ぁ結構好きだぜ? そんじゃあ本題に入ろうか――――」

 

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