《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“鋼の災禍” Ⅱ

 そうしてロックから引き受けたのは、要するに『見張り番』だった。

 

 迷宮都市は基本的に、切り株の年輪のように、内から外へ広がるのが常だ。中央に迷宮を据えて、その周りに人が集まり家を建てて、家を守るために防壁を築き、人が増えてくればその外を開拓し――という工程が、大なり小なり繰り返されていく為である。

 

 まして一〇〇年の歴史を持つ【ランペット宝樹迷宮都市】だ。その開拓規模は世界的に見てもなかなかのもので、未攻略層の多さから今もなお旅人や移住者が増え続けている。彼らを受け入れる為の土地開拓は立派な、公共事業の一つなのだ。

 

 街を囲う防壁は主に不法侵入者や野良の魔物が入ってこないようにする為の物だが、乗り越える手段がないわけではないから、当然、見張りは必要になる。

 

 そして都市最大規模のクランである【猛る王虎】を始めとした大型クランは、治安維持の一環として、クラン所属の若手にこの仕事を任せていた。

 

 何か問題が起こることは稀とはいえ、万が一のことがないよう、気を抜くことも許されない、という絶妙な塩梅の任務である。

 彼らからしてみれば持ち回りで時々回ってくる、退屈だが金にはなる面倒な業務、ぐらいのものだった。

 

 しかし、である。

 記念すべき七〇階層突破を前に、こんな街外れの僻地に居たい若手探索者がどこにいよう。

 拠点で待機していたい、何かあったら駆けつけたい。そして討伐成功と階層攻略の報を真っ先に知り、仲間と共に喜びを分かち合いたい、と、そう思うのが普通だろう。

 

 そこにふらっと湧いてきたのがイツキというわけだ。

 

 即金を必要としている若手に仕事を回しつつ、身内に休みを与えられる、というロックの目論見で、イツキたちはこうしてぐだぐだとしているのであった。

 

 位置的には都市の南西端。壁の途中に外部との出入り用に設けられた門があり、分厚い木の扉を開けば、一面に広がる切り株の群れがあった。

 

 扉を出て左右それぞれ三〇〇メートル程度の位置を起点に、わずかにカーブを描きながら高さ三メートルほどの、簡易的な防壁が築かれ、更にその合流地点に、都市外に出るための門が備え付けられていた。

 

 都市を上から見れば半円状の瘤のような形状をしているその区画は、新しい農地……を開発する為の拠点……を作っている最中の、いわば拠点開拓地とでも言うべき所だ。

 

 一度イツキも防壁を登ってみたが、目を凝らしても、平原が地平線まで広がっているだけで、その奥にはもう山しか見えない。

 

 アンゼリセと共に宝樹の枝から眺めた時は、もっと遠くまで見えたものだが……。

 

「…………これでやる気だすの無理くない!?」

「日当は一人頭二〇〇〇〇ディオール出るんだろ? 良い稼ぎじゃないか」

「そうなんだけどさぁ」

『まあまあ、ピクニックみたいなものだと思いましょうよぉ。日差しもあったかいし、風もあるし……私、このままお昼寝できそうで…………きゃんっ』

 

 ガイン、という鈍い音は、呑気なことをいうワーブの頭にティックが投げた石が命中した音だった。

 

「ワーブ。真面目に、やれ」

『はいい……』

「ははは、やーい石投げられてやん痛ぇっ!」

「お前もだ馬鹿」

「ごめんなさい……」

「はぁ……別に迷宮に限ったことじゃないんだぞ、異常事態(イレギュラー)ってのは」

 

 まだいくつかの石を手元で弄びながらも、ティックの視線は注意深く、遠くの地平線を眺めている。

「七〇階層攻略の成否を待って、都市全体が緊張してる。その状態で、見張りはいつもとは違う不慣れなメンツが担当してる。この状態で異常事態(イレギュラー)が起きたら、下手すれば大惨事だ……ほら、如何にもなにか起こりそうだろ?」

 

 そう言われればぐうの音も出ず、真面目に見張りをするか、とイツキとワーブが顔を見合わせたその時。

 

「これ、そなたら、仕事をサボってはおらぬか?」

 

 背後から、聞き覚えがある声がした。

 振り向けば、藁で編まれたバスケットを片手で持って、ふふん、とどこか得意げな表情をしている……アンゼリセの姿があった。

 

「おっ、アンさんじゃ~~~~ん!」

「馴れ馴れしさが極まってきたのう!」

「何しに来たんだよ~~~暇だったのかよ~~~」

「暇でもないわ!」

「俺は暇だよぉ~~~~~~~~~~~~~!」

「仕事をしろ!」

 

 殴られた。

 

「なんで顔出して五秒で拳を振るわねばならんのじゃ……」

「アンさん、暴力ってのは何も解決しないんだぜ……?」

「そなたに限ってはマジで何も言われたくないわ!」

 

 それはさておき、イツキははて、と首を傾げた。

 

「ならば何故このようななにもない僻地に……?」

「別にわらわだけではないわ」

 

 アンゼリセがちら、と後方に視線を寄せたので、イツキもそちらを見ると、見覚えのあるシスターが、こちらに駆け寄ってくる所だった。

 

「もう、アンゼリセ様ったらどんどん先に行かれて……皆さん、お疲れ様です」

「あれ、オルレアじゃん」

 

 遅れてやってきたオルレアだった。アンゼリセと同じバスケットを、それぞれ片手ずつに持っている。

 

「お昼時ですので、お弁当をと思いまして…………」

『お弁当!?』

 

 ばっ、と特定の言葉に反応して体を振り向かせたのは、ワーブである。

 重鎧を着込んでいても隠しきれない喜びが伝わってきて、数秒後に我に返り、兜を両手で押さえた。きっとあの中では激しく赤面しているのだろう。

 

「ついでに手を抜いておらぬか様子を見に来たわけじゃ。壁外の監視は地味だからか手を抜く輩が多いからのう」

 

 今まさに手を抜こうとしていたイツキからすると、耳が痛い言葉だった。

 

「ティックを見習え、あやつは油断しておらんぞ。わらわたちが来てもずっと外を見ておる」

「哨戒がそれなりに大事な都市にいたもので。ご無礼をお許し下さい、女神アンゼリセ」

 

 防壁の上からそう告げるティックに、アンゼリセはうんうん、と頷いた。

 

「そなたマジであの態度の一割でいいから見習ってくれんか!?」

「ばっ、そんな事したら俺、真人間になっちゃう!」

「真人間になるのはよいことなのでは……はい、こっちはイツキ様の分です」

「お、サンキュー!」

 

 差し出されたバスケットを受け取ると、想像していたよりもずっしりとした重さがあった。そのままワーブもバスケットを受け取って礼を述べると、ちら、と壁上のティックを見た。

 

『アニキ、お弁当どうする?』

「お前たちが食べ終わったら交代していただく。繰り返すけど気を抜きすぎるなよ」

「そんな…………この陽気にこの静けさにお弁当……もはや俺の気分はピクニックだっていうのに……!」

「もう一回石投げるぞお前」

 

 ティックの投石はそこそこ痛いので、イツキは大人しく食事にありつくことにした。

 フタを開けると、中に入っていたのはバケットタイプのサンドイッチがみっちりと詰まっていた。葉物にハムにチーズと、贅沢な量の具材が間に挟まっている。

 

「………………オルレアさん」

「? どうかなさいましたか?」

修道院(ウチ)の財政でこんな贅沢サンドを用意していただいて大丈夫なんですか……?」

 

 冷や汗を流しながら尋ねたイツキに、オルレアは苦笑しながら言った。

 

「お礼はアンゼリセ様に。材料を全て用意してくださったのですよ」

 

 ギギギ、と首を動かして、アンゼリセを見る。

 フフン、と腕を組み、胸を張って、得意げに笑う女神がそこにいた。

 

「どうじゃ? 女神の施しじゃ。大感謝をせよ、大感謝を」

「アンさん……! アンタって女神(ひと)は……!」

「はーっはっはっはっは! ……ま、ロックが押し付けた仕事じゃし、街はこれから大賑わいじゃ。昼飯ぐらい豪華でもよかろうよ」

「ざっす! あざっす! いただきます!」

「おいひいれふぅ……!」

 

 イツキが頭を下げている間に、ワーブはいつの間にか武装を解いて、もう籠の中身を食べ始めていた。味も美味らしく、目尻に涙すら浮かべている。

 

 早速、イツキも一つ、手にとってかじる。パンの密度はイツキが知るそれよりも詰まっていて、噛み心地は大分違うが、その分腹に溜まりやすい。ハムの塩気とチーズの甘みのバランスもちょうどよく、非常に美味しい。

 

 思ったより腹が空いていたらしく、あっという間に一つ目を平らげた所で、イツキはあれ? と首を傾げた。

 

「アンさん、こんな所まで来て大丈夫なん? 都市の外にでれないんじゃなかったっけ」

「ん? ああ、厳密に言うと、わらわは人々が『ここがランペット迷宮都市の中である』と認識している所までは行けるのじゃ。じゃからまあ、このあたりが限度じゃな、それ以上進むと……」

「進むと?」

「だんだん倦怠感、頭痛、吐き気、節々の痛みなどが生じ、それでも無理して離れるとじわじわと身体機能を失っていき、やがて体が動かなくなるのじゃ……」

「思ったよりエグい仕組みなんすね……………………あの」

「なんじゃ」

「俺が焼肉屋とかトイレ出すのに【転送門(トラベルゲート)】通るじゃないスか、あれ大丈夫なの……?」

 

 アンゼリセの説明だと【転送門(トラベルゲート)】は『離れた別の場所に移動する』能力らしいが、その理屈で行くと焼肉屋に入った瞬間、アンゼリセが即死する可能性もあったのでは……?

 

「わらわたちは『このラインを越えると危険だ』というのが本能的に備わっていての。ゲートを見ればその先が安全かそうでないかぐらいはわかるのじゃ。そなたのゲートは別の場所に移動するというより、その場の座標に異空間を生成する能力なんじゃろうな」

 

 冷静に考察を告げてから、アンゼリセは大きな声で叫んだ。

 

「その場の座標に異空間を形成する能力ってなんじゃーーーーーーーーーーーー!」

 

 今までの不満がたっぷり詰まった咆哮だった。

 

「おいおいアンさん、なんだよそんな……俺の能力に過去似たような事例がないかのような物言いは……」

「過去似たような事例がないんじゃ!」

「そういえばオルレア、チビたちを祭りに連れてくんじゃなかったっけ?」

 

 二つ目のサンドイッチを齧りながら、するっと話題を切り替えると、ええ、とオルレアは頷き、

 

「午後になったら、アンゼリセ様と一緒に皆を迎えに行きます。ヴェルミー様も合流してくださいますし、こちらのことはご心配なく」

「あれ、なんで姐さんまで?」

「イツキ様にこちらの仕事をふる事になってしまって、引率は大変じゃないかと仰って下さいまして……」

「…………なんか俺って単独で行動すると各方面に迷惑かけてる感じ?」

「おお、そなた、やっと自覚が芽生えたのか……」

 

 アンゼリセの物言いに苦笑を隠せないものの、どこか楽しげに、オルレアは言った。

 

「日頃から気にかけてもらって、本当に感謝のしようもありません。どこかでお礼をしませんとね。イツキ様にも、お土産は買っておきますので」

「ヤッター! お仕事頑張りまァーす!」

 

 万歳三唱して両手を上げるイツキ。

 

「……なんだかちょっといい空気じゃないですか? アニキ」

 

 自分の分をぺろりと平らげたワーブは、ティックの分のバスケットを、防壁の上まで手を伸ばして渡した。

 籠を受け取り、蓋を開いたティックは、小人族にとっては量が多すぎる内容物の一つを、ワーブの伸ばしっぱなしの手に握らせながら、ぼやいた。

 

「そう思うなら割り込んでこい。同じパーティで男女関係が発生するとマジでしんどい」

「………………」

 

 ワーブは防壁の上に立つティックの足を掴んで、軽く揺らした。

 

「お前、馬鹿っ、バランスが、お前っ」

「………………」

「なにか主張があるならせめて口にしろ!」

「あの二人仲いいよな」

 

 そんなやり取りを眺めながら、他人事のようにイツキは言った。




各種イラストは文庫版同人誌の作成にあたってイラストレーターさんに依頼して作成してもらったもの(一部好意の落書きあり)です。
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