《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“鋼の災禍” Ⅳ

 

「オルレアおねえちゃん、まだぁ?」「おまつりだー!」「おこづかいもらった?」

 

 お出かけ用の服を着て、この日の為にせっせと貯めた小銭を手に、子供たちは祭りに向かう準備を進めていた。

 

「まてまてー、まだ動くなよー!」

 

 オルレアが居ない時は、クーガーを始めとした年長組たちが彼らの面倒を見ることになっている。普段は子供扱いされるが、こういう時は年上風を吹かせられるので、クーガーはこの時間も嫌いではなかった。

 

 特に最近は、家に新しい家族が増えた。最初はオルレアに近づいてくる悪い虫だと思って石を投げたが、話してみれば楽しくて面白いし、頼れる歳の離れた兄が出来たようで嬉しかった。

 

 深夜にこっそりつまみ食いに行くのに誘ってくれたり、体を鍛えたいといったらトレーニングに付き合ってくれたりする所も、親しみを持てる理由の一つだったかも知れない、見つかった時はダブルで怒られるけど。

 

「もうすぐオルレア姉ちゃんが帰って来るからなー」

 

 今日は仕事があるらしいから、一緒に祭りを見て回れないのが残念だけど、その分、イツキには思い切り土産話をしてやろう、と思った。

 

 ◆

 

「こう、ああいう大群をドカンとぶっ飛ばす魔法とかってねえの!?」

 

 イツキの疑問に、ティックは舌打ちを交えて返した。

 

「あるにはあるが、迷宮都市に使用者はほとんどいない!」

「なんでだよ!」

()()()()()()()()()()()()からだよ! 平地で戦争するのと迷宮で魔物を相手にするのじゃ有用な技能(スキル)が違うんだ!」

「あー! だったら、クソッ、せめて進行方向を変えたりとか……!」

「今この段階で、この距離に居る僕らにアイツらに干渉する方法なんてないぞ……!」

 

 位置的に見れば、イツキたちはむしろ安全な場所にいる、それ故に遠く、手が出せない。

 

『ア、アニキ、どうしたら……』

「どうするもこうするも、とにかく報告だ。魔物が迫ってきてることを伝えるしかない」

 

 何も出来ない状況で、何かできることを探し、最善を尽くす。

 

「後はもう、被害を受けないよう、隠れるだけだ。少なくとも女神アンゼリセは絶対に守り抜かないといけない」

 

 ティックの判断は正しい。何も間違っていない。

 けれどそれでは……多分、間に合わない。

 生じるであろう犠牲の中に――許容できないものが、含まれている。

 

 いや、子供たちが巻き込まれるからとか、そういう段階の話でもない。

 オルレアの隣にいる、アンゼリセが見えた。

 まざまざと表情に浮かぶ、不安、焦燥、恐怖――迷宮と共に生まれた女神にとっては、この都市に生きる全ての人々が、等しく同列だ。

 

 失っていい誰かも、受け入れていい犠牲など存在しない。

 それを拒むのであれば、できることを何だって、するべきなのだ。

 

「――――――こっち来やがれアリンコ共ぉおおおおおおおお!」

 

 イツキは高く腕を振り上げて、そして下ろした。

 【雷槌】――射程範囲は、色々試した結果、長く見積もって二〇メートル。

 だからまだ遥か遠くに居る蟻たちに届くはずもなく、無意味な雷が空を切って、ズドンと草原に落ちただけだった。

 

「馬鹿、何やってんだお前!」

「こっちに気を引けるかも知れないだろ!」

「あの虫どもにそんな知能があるか………………あ?」

 

 ティックとイツキが睨み合い…………そして、同時に気付いた。

 

「………………あれ?」

 

 南部の防壁に向かう蟻の群れの中から、小さな塊が道を逸れた。

 まさしくイツキが雷槌を落とした地点に顔を向けて、さらにそれに釣られた後続の群れも、わずかだが後を追ってきた。

 

「…………え、マジで気を引けた? 実は雷好きとか?」

「いや、鋼鉄蟻(メタルアント)は雷苦手だろ。弱点にわざわざ寄ってくるか?」

「ってなると…………」

 

 イツキは再びスマホを構えて、カメラを起動した。

 向こうが寄ってきている分、先程よりは鮮明に画像が映る。

 ルートを逸れた蟻にピントを合わせて拡大し、じーっと凝視する。

 

「……………………あ」

「……一応聞くぞ、何に気づいた」

「…………触角が動いてる」

「触角?」

 

 イツキの知識だと、蟻が群れで行動する時は進路上にフェロモンだかなんだかを散布して、それを追っているんだったか。なら鋼鉄蟻(メタルアント)は? 普通の蟻と同じなのか? 

 機敏に触角を動かす、全身が金属で出来ている蟻、ならば、もしかして…………。

 

「――――なあティック。さっきは何も考えずやっちまったけど……俺がアイツらをこっちに誘導できるかもって言ったら、どうする?」 

「どうするもこうするも…………」

 

 ティックは一瞬群れを見て、それから盛大にため息を吐いた。

 

「一直線に向かう蟻をこっちに誘導できれば、距離の分は時間が稼げる。その間に他の探索者が対応してくれれば、都市の被害を減らせるかも知れない」

 

 くそ、と吐き捨て、ティックは天を仰いだ。

 

「僕らはどうなるかわからないけどな!」

「つまり!?」

「手立てがあるなら今すぐやれ!」

「さすがリーダー! 話が分かる!」

 

 右腕を思い切り空に向けて、人差し指をピンと伸ばし、

 

「さぁ、こっち来やがれええええええええええええ!」

 

 大声で叫んだ。

 

「……………………」

「……………………」

「……………………」

「……………………」

 

 見た目の変化は特に生じす、端から見るとイツキが急にポーズを取って突っ立ってるだけだった。

 

「…………念の為聞くが、今何してる?」

「目に見えない力を放ってこちらに来いと念じてるんだけど……」

「お前を一瞬でも信じた僕が馬鹿だった!」

 

 ティックが天に向かって吼えた、まさにその瞬間だった。

 

「っし! …………来た来た来た!」

「は? あ? ……嘘だろ!?」

 

 嘘ではなかった。遠く砂煙を巻き上げ進む蟻の群れが、その軌道を露骨に変えた。

 

 ……あれだけ大量の蟻は、一体何で以て統率されているのだろう。

 ……何故雷が落ちた方向に、誘導された個体が居たのだろう。

 

「多分だけどアイツら、電波で意思疎通してんじゃねえかな」

 

 それが《流れ人(エトランゼ)》であるイツキにのみ立てられた仮説だった。

 金属の体を持つ鋼鉄蟻は、触覚がアンテナの役割を果たしているのではないか。

 なら……()()()()()()()()()()()、そちらに気を取られて、反応するのではないか。

 

「で、でんぱ?」

 

 当然、ティックの知らない概念である、なんならイツキだって詳しいことはわからない。文系だったし。

 だが、この世界において、スキルは身につきさえすれば、()()()()()()()()()()運用できる。

 パーティを組み、戦いを経て、イツキのスキルは成長を果たしていた。

 

 《WI-FI(ワイファイ)接続》の第四アビリティ【電波ジャック】。

 この世界で何の役に立つのかと思っていたが……。

 イツキの指から放たれた“強い電波”に、鋼鉄蟻たちは惹き寄せられているのだ。

 

「……っ、よくわからんが連中の動きを誘導できるんだな!?」

「ああ! でも遠くに行けとか、こっちくんなってのは無理っぽい! 後もう元の軌道にも戻せねえ!」

「それが出来たら最上だったが……いや、後はアイツらの対処か……ワーブ!」

『はい、アニキ!』

「外に出て囮になれ! 扉を閉めて絶対に通すな!」

 

 それは『死ね』と同じ意味を持つ言葉であるはずだが、ワーブはただ一言。

 

『わかりましたぁ!』

 

 そう告げて、指示通り都市外へと繋がる扉に手をかけた。

 

「オルレアは可能な限りワーブを癒やし続けてくれ! ワーブが力尽きたら、僕らはおしまいだ!」

「っ、そんな……ワーブ様は大丈夫なのですか!?」

『任せて下さい、非力でか弱い私は、頑丈さだけが取り柄ですからぁ!』

「そ、そうですねっ!?」

 

 堂々とそう言い放つものだから、オルレアは二の句が継げなかった。本人がやる気ならば、それに応える他ない。

 

「イツキ、お前は僕と上から雷で迎撃だ、ワーブの負担をとにかく減らす!」

 

 イツキが仕込んだ雷石と、小型投石機(スリングショット)を取り出し、ティックは叫んだ。

 

「いいか! 生き残るにはこの場所で時間を稼いで、増援が来てくれるまで耐え抜く以外にない! 防壁を越えて、開拓地に踏み込まれた時点で終わりだと思え!」

 

 まだまだルーキーを卒業した程度、二〇階層にも至っていない、駆け出し探索者たち。

 そんな彼らが、勝ち目の乏しい戦いに挑もうとしているのを、アンゼリセはただ、見ていることしか出来ない。

 

「……あ! アンさん! なにぼさっとしてんだよ! さっさと逃げて俺らのピンチを伝えてくれよ!」

「じゃ、じゃが…………!」

「だぁーいじょうぶだって。そう簡単にゃ死なねえって、頼んだぜ!」

「…………っ!」

 

 駆け出す女神の背を見送って、改めてイツキは迫りくる群れを見た。もう、五分もしない内に接敵するか、という距離まで近づいている。今からケツをまくるのは、もう無理だ。

 

「……ティック、アイツら、都合よくワーブの所に集まってくれるのかな」

 

 イツキが行った誘導は『大まかにこっち』というだけで、ピンポイントにワーブの下まで向かってきてくれるわけではない。ワーブが抑えきれない分はめいめい壁を乗り越えて、開拓地に入り込み、そして都市の中に向かうだろう。

 

「大丈夫だ、見てろ」

 

 指示通り外に出て、大盾二つを構えた相棒を見下ろしながら、ティックは言った。

 

「あいつはな、何かを守る時が一番強いんだ」

 

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