《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“鋼の災禍” Ⅴ

 兜越しだと、うまく空気を吸い込むのは難しい。

 それでもワーブは、かつて自身を鍛えてくれた隣家に住んでいた師匠の教えを、忠実に守った。

 

 ――大戦(おおいくさ)の前には、思い切り息を吸え。

 ――それで体に力がみなぎる。何にも負けぬという覚悟が決まる。

 ――小さなワーブ、可愛いワーブ、誰もお前に強さを求めてはいないだろう。

 ――それでも戦うというのなら、盾を構え、誰かの前に立つというのなら。

 ――忘れるな、お前が膝をついた時、死ぬのはお前の後ろに居る者だ。

 

 遠くにあったはずの砂煙が近づいてきても、ワーブは恐怖を感じなかった。

 自信なんてない。誰になんと言われようと、自分で自分を認められていない。 

 

 けれど、最も信頼する、最も頼りにしている人が、自分をここにおいたのだ。

 その信頼に応えたいという気持ちだけは、絶対に折れない。

 だから、大盾をガン、と打ち鳴らし――自身のアビリティを発動した。

 

 

「【敵意集中(マウントタウント)】!」

 

 

 《金属鎧》と《大盾》、二種類以上の防具系スキルに加えて、生命力と防御力に補正を与える《タフネス》や《堅牢》を鍛えることで発現する、ワーブの《技能樹(スキルツリー)》にただ一つ存在する上位スキル《ガーディアン》。

 

 自らを犠牲に仲間を守る事に特化した前衛にとって、必須とも呼べるアビリティを取得でき……壁役を務めるのならば、これが出来て初めて一人前と言える。

 

 ―――巨大な図体から放たれる、恐ろしいまでのプレッシャー(、、、、、、)

 

 本能的に、こいつを殺さねばならない(、、、、、、、、、、、、)と感じさせる、問答無用の圧力。

 

 横に広がりながら迫りくる、蟻たちの動きが変わる。

 小さな個体も大きな個体も、お互いの体がかちあい、ぶつかり、もつれ合って動きが止まり、後続の個体に蹴り飛ばされることも厭わずに、ただ一箇所――ワーブにめがけて突っ込んでくる。

 

 文字通り敵対者の意識(ヘイト)を自身にかき集める、それが【敵意集中(マウントタウント)】の効果だ。

 相手が高い知性を有する――例えばそれこそ人間であれば効果は薄いが、本能に寄って動く魔物相手であれば、ほとんどの場合、有効に作用する。

 

 背にした扉は、ちょうどワーブと同じくらいの高さだった。

 大盾を両手で構えれば、横幅も似たようなもので、つまりワーブがこの場から動かない限り、鋼鉄蟻が中へ入ることもない。

 

 既に頭上のイツキとティックが、それぞれ雷槌と雷石の投擲によって攻撃を始めている。ワーブを狙って団子になった部分にぶち当てることで効率よく、多数の鋼鉄蟻が吹き飛んだ。

 

 それでも、降り注ぐ雷を越えて、ワーブの下に第一陣が到達した。

まず盾にまとわりつく。ガリガリと表面を噛み始める個体も居るが、すぐに壁のようなものだと気づいて、上から横から内側に潜り込んでくる。

 

 

『伸びて、縮め魔鎖(グレイプニル)!』

 

 

 盾を蹴ると同時に、ほんの少しだけ魔鎖(グレイプニル)を伸ばし、即座に縮めることで張り付いた個体を吹き飛ばす。それでも次から次へとなだれ込んでくる大小の個体が、手甲足甲に牙を食い込ませる。

 

『こん、なの、全然っ!』

 

 咬合力に負けて歪み始める装甲に対し、ワーブは全身に力を込めた。

 

『痛く、ありませーーーんっ!』

 

 盛り上がった筋肉が内側から鎧を押し戻し、形状を維持しながら手足を振るって追い払う。大盾と甲殻、金属と金属がかち合って甲高い音を立てる。ひときわ大きな個体が他の蟻を踏み台にするりと眼前まで顎を伸ばし、ワーブの兜に食らいついた。

 

『グッ』

 

 みしみしと頭を締め付けられる。この顎の力に負けたら、噛み砕かれて死んでしまう。

 

『舐め――ないで、くだっ、さいっ!』

 

 それでも恐れを感じない。軽く頭を引いて、思い切り叩きつける。逆に牙をへし折って、そのまま盾で踏み潰す。

 既に周りの音は聞こえない。ティックの指示も聞こえない。眼の前の状況に対処し続けるだけになってしまっていて、それでも微塵も闘志は揺るがない。

 

 後、何分くらいこうしていられるだろう。長く保たないのは間違いない。

 それでもワーブは戦いが始まってから、未だ一歩もその場を動いていなかった。

 

 

 

 驚異的な防御力と精神力で、未だ【敵意集中(マウントタウント)】の効果は継続しているものの、 群れの数が思ったより多く、ワーブの消耗が激しい。

 

 オルレアが扉越しの【治癒の光(ヒールレーア)】をかけ続けてはいるが、肉体より先に防具が保ちそうにないのは誤算だった。

いくらワーブが頑丈でも、まだ生身で鋼鉄蟻の顎を受けきれる程の強度はない。

 

「くそっ!」

 

 たっぷり用意したはずの雷石も、底が見えてきた。塊の中にスリングショットで投げ入れて弾ければ、それだけで何十匹もの蟻が面白いように吹っ飛んで行くが、実際に仕留められるのは多くて五、六匹で、大半はまだ生きている。

 

「うおおおおらあああ!」

 

 威力の桁が違うのは、イツキの【雷槌】だ。一度放てばボカンと爆音を立てて、鋼鉄蟻が吹き飛び、周囲の個体にも伝播していく。五〇匹ほどが一度で吹き飛び……空いた空洞を、すぐさま他の蟻が埋めた。

 

 二人合わせて、大小合わせて五〇〇匹近くは倒しただろうか――しかし防壁の上から《鷹の目》で見る限り、その倍の蟻がまだ残っている。

 

 万事休す、という言葉が浮かぶ。

 

 そしてイツキの【雷槌】も、何の消費もないわけではない。魔法とは異なる能力ではあるが、溜め込んだ電気がなくなってしまえばそれまでだ。

 

「イツキ、後何回――――」

 

 撃てそうか、と確認しようとした時、不意にイツキが、その場に膝をついた。

 

「っ、どうした!?」

 

 ついに限界が来たか、とティックが最悪の想定をしたが、イツキは首を横に振った。

 

「せ――――」

「せ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「背中が――――熱い―――!」

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ!?」

 

 背中に熱を感じるのは、《技能樹(スキルツリー)》成長の予兆だ。ティックだって経験はある。

 しかし戦闘中に、しかも身動きが取れなくなるほどの、というのは聞いたことがない。

 

「なんとかならないのか!?」

「わかんねえ! 普段はアンさんがなんとかしてくれてたけど……!」

 

 元々ハチャメチャなスキル構成をしていることは知っていたが、こんなところでも常識外なのか。ただでさえまともでない《技能樹(スキルツリー)》だ、このまま身を任せていたらどうなるか知れたものではない。しかし状況は予断を許さない――――。

 

 

「――――イツキ、背を向けよ!」

 

 

 戦場に、声が響いた。

 

 

 

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