《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!? 作:天都ダム∈(・ω・)∋
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「……っ、女神アンゼリセ!?」
下からオルレアに持ち上げてもらい、なんとか防壁のてっぺんに手がかかった。
なんとかぐいと体を持ち上げて、登り切る。小さな体の息が荒れるが、それどころではない。
「なんで戻ってきたんです!」
「多分こうなると思ったからじゃ! こやつの《急成長》スキルを、一度にまとめて使えば使うほど異常成長するんじゃ、さっきからぶっ放し続けじゃろ!」
「それはそうですが、しかし……!」
ティックの懸念はもっともだ、むしろ正しい。それでもだ。
「案ずるな! どうせ世捨て
イツキの服を強引にめくって、《
「どの道、ジリ貧なのじゃろ! だったらこやつの覚醒にかけよ!」
「アンさん……っ! 何しに来たんだよ逃げてくれよ!」
「黙っとれ! わらわを助けたかったら、そりゃあもうとんでもないスキルの一つでも、目覚めさせてみよ!」
目を閉じて、指に集中させる。イツキが培ってきた【
奇妙な成長をせぬように、あえてせき止め、既存スキルの成長を促すよう分岐させていた根を、新たなスキルの萌芽へと誘導、そこから生じる無数の可能性を、アンゼリセは感じ取る。
……アンゼリセの《
かつては【猛る王虎】の者たちに施してきた、いつか己が自由になるために。
それが罪だと気づいてからは、この力を使うことすら、恐れるようになっていった。
なんて愚かだったのだろう、アンゼリセが本当に人の子を守りたいのであれば、逃げるのではなく、向き合って、生きて帰れる可能性を少しでも上げる為に、力を使うべきだったのに。
(――――――ああ)
イツキの背には、無限の可能性が広がっている。それこそ、星のように。
それが《
その内の一つを選び取れば、また生まれる可能性も、消える可能性もあるだろう。
文字通り際限のない、数多幾多の可能性の中から、今、求められているもの。
イツキが欲するもの、アンゼリセが見つけられるもの。
その力を手繰り寄せ、芽吹かせた――――その瞬間。
「………っ、アンさん!」
イツキの声に、はっと目を開く。気づけば、一匹の
「しまっ――――」
ついにワーブが前線を支えきれなくなってしまった。まだ無事なのか? 生きているか? その疑問に答えが出る前に、
ぐしゃ、と肉を噛み砕く音と共に、鮮血が飛び散った。
「――――ティック!」
体を間に割り込ませ、牙をその身に受けたのはティックだった。
大型の
肉が裂け、血が溢れ、ぼたぼたとこぼれ落ちる、どれだけ贔屓目に見ても、重傷だ。
そのまま、ギギギ、と顎を閉じて肉体を両断しようとする
「おい」
ティックは震えるそれぞれの手で掴むと……ぴたりと、牙の動きが止まった。
「…………いい加減にしろよ、虫けらが」
ミシミシ、ギチギチと音を立てて、閉じかけた鋏が、ゆっくり開き始めた。
金色の瞳がギラギラと輝き、幼く見える相貌に、獰猛な怒りが浮かぶ。
「お前らはいつだってそうだよな! 来てほしくない時ばかり来やがって……!」
終いにはべき、と音を立てて、完全に顎が破壊されて悶える
ティックの《
しかし二つだけ、その軸から逸れた、例外のスキルが存在する。
体力を消耗しているほどに身体能力が向上する《背水》。
傷を負えば負うほど、出せる力が増す《決死》。
以前、イツキの電撃にやられたワーブをティックが担いで帰れたのは、ひとえにこの二つが相乗効果をもたらした結果だった。
まして今は、かなり深い傷を負っている。この状態であれば、力だけならば一時的にワーブを上回っているかも知れない。
「――――っ、さっさとやれイツキ! ワーブが危ない!」
「…………おう! いいよなアンさん!」
「わかっておる! 思い切りいけ!」
ついに芽吹いたそのスキルの名を、アンゼリセは知っている。
いや、知っているのは名前だけだ、“それ”がスキルとして発現したなど、聞いたことがなかった。
イツキが両手を掲げると、空中に二つの黒い渦が生じた。
《焼肉食べ放題》でお馴染みの【
ただ、それを見た瞬間、アンゼリセはゾクリと背筋が凍った。
――あの門の向こうに行ったら、アンゼリセは命を保てない。
それが実感として理解できる――つまり今までのものとは違い、門はどこか遠くの場所に接続されている。
それはどこか? 何を呼び出すのか? アンゼリセは――知っている。
ごぼ、と音が溢れた瞬間。
「――――――いっけえええええええええええ!」
門に――ワーブに群がっていた
『きゃあああああああっ! な、なんですかこれぇ!』
同時に、ワーブの悲鳴が聞こえてきた。良かった、まだ生きている、叫ぶ余裕もある。
「その場から動くな! 耐えるんじゃ!」
アンゼリセが檄を飛ばす……その間にも、水流は更に勢いを増し、鋼鉄蟻の群れをまとめて飲み込んでいく。
「な、なんのスキルなんだこれは!」
ティックが叫ぶ。アンゼリセも、気持ちはよく分かる。
このスキルに関して、もはや分類することに意味があるかどうかもわからないが……あえてするのであれば、こうなる。
かつて魔物に溢れた世界を洗い流し浄化した、創造神の御業の再現。
あらゆる迷宮の原点、新世界が創られる、その前夜。
聖典に語られし、まさに神話の再現。
即ち、
その第一アビリティ【
…………一番気になるのは、これが《
なんかそう思うと、これも水栓に流れていくなにかしらに見えてきて……やめよアンゼリセ、流石に不敬じゃ。創造神様、これはあの馬鹿の仕業なのでわらわは違うのじゃ。
そんな内心の言い訳を、創造神に聞かれてしまったのか。
「す、すごい――――行けるぞ! 行けるぞイツ……キ?」
興奮したティックが真横を見ると、イツキがたら、と冷や汗を流していた。
「………………ど、どうしたイツキ」
「やべ」
「え?」
「閉じそう」
「……は?」
イツキの視線の先、門からでてくる水の勢いが、目に見えて衰え始めた。
というか、門がどんどんと小さくなっている。そうこうしている内に大洪水というか大放水、大放水がただの放水、やがて打ち水ぐらいの勢いに目減りしていって。
「………………」
門が閉じた。
水流に飲まれた
確かに大量の水が押し流してはくれたが、そもそも場所がただっぴろい平原だ。水が貯まるわけでもなく、流れるだけ流れていってしまっていた。
「…………もう一度やれイツキ!」
「お、おう! 開け! 門!」
再び両腕を掲げ叫ぶが、声がしーん、と響くのみだった。
「無理じゃ……今のアビリティは一日一回の使用制限があった……」
スキルが芽生えた瞬間を観測していたアンゼリセにはわかる。往々にして強力な能力には、ある程度の使用制限が生じるものだが、まさか、こんな所で。
「…………お、終わった……?」
ぼそ、とティックが呟いたその時。
「イツキ様! 雷です!」
オルレアの声が、イツキの背を叩いた。
「へっ!?」
門の背後でワーブの回復を続けていたはずのオルレアは、今、数歩下がって壁上の三人が見える位置にいた。
「神話に伝わる大洪水は、
「海水――――――ああ! そっか!」
イツキは、再び右腕を、大きく振り上げた。
それを見て、何をしようとしたのか察したのだろう、ティックは眼下のワーブに向けて叫んだ。
「っ、ワーブ! 魔鎖を伸ばせ!」
『っ、伸びろ
指示通り、伸びる鎖がティックの手に絡む。まだ傷が残る体だからこそ、《背水》と《決死》が与える底力によって、強引に握り込み、支え。
『――――縮め
今度は鎖を縮め、その質量に、ティックは耐えきった。
上が支えるのであれば、勢いよく上昇する。後に残ったのは――――。
「文系だから忘れてたぜ! そういや塩水は――――――」
バチ、と音を鳴らして、黒い雷雲が、再度動き始めようとする
「――――電気を通すんだよなぁ!」
雷槌の一閃が、無慈悲に落ちる。
それは浄化の洪水に濡れた鋼鉄蟻の体を、雷が駆け抜けていく。
地表全てを焼き尽くすさんばかりの、大閃光。
キィィィ――――! キィィィイ――――!
やがて……しゅう、と、蒸発と共に黒煙が上がる頃。
もはや一匹たりとも、動く個体はいなくなっていた。