《急成長》スキルから始まる異世界人の《技能樹(スキルツリー)》が何かおかしいんじゃが!?   作:天都ダム∈(・ω・)∋

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“鋼の災禍” Ⅷ

「痛っ、てええええええええええええええええ!」

 

 “鋼禍(カーリサー)”の牙が食い込んだのは、アンゼリセの細い首ではなく、それを突き飛ばしたイツキの右腕だった。

 先ほどまで戦っていた鋼鉄蟻(メタルアント)とは比較にならないサイズの大顎による咬合力は、容易に二の腕の肉を貫き、骨を砕き、ひしゃげさせた。

 

「イ、ツキ――――!」

 

 アンゼリセが二の句を告ぐ前に、“鋼禍(カーリサー)”の視線が女神を捕らえた。

 間違いなく、アンゼリセを狙っている。その間にあるすべてのものは単なる障害物でしかなく、興味を示さない。

 

「っ、だああああああああああっ!」

『ギイイイイイイイイイイイ!』

 

 どうやら配下とは違って、“鋼禍(カーリサー)”には声帯があるらしい。

 バチバチバチ、とイツキが右腕から解き放った電気を嫌がり、悲鳴を上げて顎を開き、拘束を解く。

 

「っぐぁ――――!」

 

 反射的に腕を抑えるイツキだったが、“鋼禍(カーリサー)”は止まらない。すぐさま姿勢を整えると再びアンゼリセに向かって突撃した。

 尻餅をついたまま、まだ立ち上がれていないアンゼリセに、逃げる余地などない。

 

「――――【慈悲の光(アフェクション)】!」

 

 割り込んだのは、オルレアの一声。

 あらゆる儀式を省略し、発動した【慈悲の光(アフェクション)】は、目には見えない不可視の障壁となって、アンゼリセと、術者であるオルレアを覆った。

 

 オルレアが望み、最近になってようやく芽生えた《守護》スキルの真骨頂。

 信仰厚き者にしか与えられぬ、あらゆる災いから身を守る防御魔法。

 

『ギィイイイイイイイイイイイイイイイイ!』

 

 本来であれば三〇層の《階層の主》であった“鋼禍(カーリサー)”の大顎による一撃を受けても、かろうじて砕け散らないほどの堅牢さは、まさしくオルレアが積み重ねてきたものの集大成だった。

 

「お"っ――――――」

 

 喉の奥から、濁った声が零れ出た。思考を司る脳の部分がチカチカと明滅して、ぐるりと視界が回って、衝撃が全身の神経を伝い、鼻からぼたり、と赤い雫が落ちた。

 障壁の強度は――扱う者の祈りの強さと、精神力に比例する。

 

(まだ、まだ、まだ…………!)

 

 飛びかけた思考を、無理やり引き戻す。

 手を組む、祈りの言葉を唱える。

 

「『星の果て、祈りの先、奇跡の一片』――――」

 

 時間を稼いだ所で、何の意味もないかも知れない。

 

『ギシャアアアアアアアアアアアア!』

「あ"……ぐっ、ゔ――――」

 

 再び“鋼禍(カーリサー)”が牙を剥いた。障壁にみしりと亀裂が入る感覚。

それは、オルレアの精神(こころ)が同じ傷を受けた事を意味する。

 

 途絶えかけた意識の中、オルレアの視線は、自然とイツキへ向いた。

 右手を噛み砕かれながらも、左手は腰の刀の柄を握り、歯を食いしばって……まだ、戦おうと足掻いている。

 

 酷い傷だ、治してあげたい――ああ、でも、この祈りを中断するわけには。

 

(――オルレア)

 

 ふと、頭の中で、泡が浮かぶように、過去の記憶が蘇ってくる。

 身寄りを失った(おやにすてられた)オルレアを引き取り、育て、祈りの言葉を教えた、祖父の言葉。

 

(呪われた子、忌まわしい子。穢らわしくも(おぞ)ましい、薄汚れた悪魔の子)

(お前は、祈ることを止めてはいけないよ)

(生涯をかけて、自分を犠牲にして、人を助け続けなければならないよ)

(せめてそれぐらいのことをしなければ――――お前が生まれた罪は(そそ)げない)

 

 わかっています、知っています、だから、こうして祈っています。

 ああ、でも。

 あんなに痛そうに、あんなに辛そうにしているのだから。

 ……良いのでは? だって、もう次は耐えられない、心が壊れてしまう。

 

 せめて、あの苦痛だけでも、取り除いてあげられたら……許してもらえるのでは(誰に、何を)

 だって疲れてしまった、もう、休んでしまいたい。

 

 最後に人を助けて、()()()()()()()()()()()――――。

 

 “鋼禍(カーリサー)”の牙が障壁を喰い破るまで、ほんの僅かに与えられた一瞬を、引き伸ばした時間の中で行った、長い長い思考の果てに、オルレアが指を解きかけるのと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――うわあああああああああああああああああっ!」

 

 

 

 生身のワーブが横から“鋼禍(カーリサー)”に向かって突撃し、身を揺るがすのはほぼ同時だった。

 

 

 

『ギィイイイイイイイイ!』

「オルレアさんっ! 大丈夫ですかぁっ!」

「っ!」

 

 その衝撃と声で、オルレアは我に返った。

 亀裂の入った心を、かろうじて繋ぎ止めて、正しく現状(いま)を見る。

 ワーブが“鋼禍(カーリサー)”と取っ組み合っている、体を鋭い手足の先端で切り裂かれても、止まらず、力を込めて、その場に縫いとどめている。

 埒が明かないと判断したのか、“鋼禍(カーリサー)”は顎を開いて、ワーブの肩に喰いついた。

 

「ぐ、ううううううう!」

 

 それでも。

 それでも、なお怯まない。止まらない。進ませない。

 

「私の、後ろに、いる人たちをぉ!」

 

 喰い込む牙を必死に抑え込みながら、小さな巨人は咆哮した。

 

「ぜったいにぃ! 守るんだぁっ!」

 

 じりじりと、“鋼禍(カーリサー)”が食い下がっていく。一度顎を引こうとして――それが出来ないことに気付いた。

 

 ワーブは牙を引き抜こうとしているのではなく、動かさないように、牙が抜けないように、抑え込んで……固定(、、)している。

 

 

「オル、レア」

 

 イツキが、オルレアの名を呼んだ。

 

「――――頼む、右腕、治してくれ……!」

「っ」

「俺が、なんとかするから――――諦めるな…………!」

 

 己に残された魔力はわずか。思考は未だゆらぎ、傷つけられた精神(こころ)も不安定。

 けれど、オルレアは再び、祈りの形に手を組んだ。

 一言一言ゆっくりと、言葉を紡ぎ、唱えた。

 

「『夜の涙、星の雫、月の光の粒を一滴』」

 

 非効率で、扱いづらく、流行とは真逆の道を征くシスター。

 それが、オルレア・リーンケージに与えられた、世間からの評価。

 

「『慈悲を受け止める手のひらはここに』」

 

 けれど、一度時間を確保して……その祈りが届いたならば。

 

「――――【治癒の光(ヒールレーア)】!」

 

 ……穿たれた肉を、断ち切られた腱を、砕かれた骨を。

 その場で回復できるほどの……治癒力を誇る。

 

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