暗殺教室の熱が再燃しているので、さらに投稿です。
「今日も駄目だった⋯⋯⋯」
一人帰路につき、駅近のスーパーに寄ってマイバッグを両手に抱える司だが、その様子はいつもより暗い。その理由は、数日前から開始した殺せんせーとの一日一回のゲームに、一度も勝てないでいるからだ。
「絶対負けないからあんなゲーム提案しただろ、あのタコッ」
司は騙された気分になりながら、ここ数日の勝負を振り返るように記憶から掘り起こす。
「さて、始める前に勝負のルールを細かく説明します」
「当てれば良いんじゃないの?」
ゲーム初日、放課後の裏庭で司はゲームの準備運動をしていたが、トルコ帰りでやって来た殺せんせーがゲームの前に改まった様子で説明を始める。
「昨日も言いましたが、ゲームは先生にダメージを与えたら君の勝ちです。服に当てたり、殴っても意味がありません」
「それは聞いてるけど」
「安全のためにも武器は対先生用ナイフとエアガンのみです。後はそうですね。先生はその場を動かないだけで、触手や上半身は動かします」
「その体に上半身と下半身で分かれてることに驚きを隠せないよ」
タコみたいな見た目をしている殺せんせーに間接や骨があるのかすら疑わしいが、きっと気にしたら負けだ。聞いてもどうせ⋯⋯⋯
『知りたければ、殺してから確かめてください』
とか言って誤魔化してくるのが容易に想像出来る。
「他にルールはないんだよね?」
「えぇ、後は好きに殺しにきて構いません」
「勝ったらとりあえずスーパーの特売に付き合ってもらうから」
「もちろんです、約束は守ります。勝てたらですがね」
黄色い頭を緑の縞模様に変化させて笑う殺せんせーに、司はふと思い出す。
(そういえば、緑の縞模様は相手を舐めてる時って渚が言ってたってけ。色々気まずくて話してないから弱点メモの内容全然知らねーし)
以前から渚が書いていた弱点メモを思い出し、司は準備運動のしている体の動きを止めてしまう。
(カルマのやつは前とおんなじ感じだけど、あっちもあっちで気まずいんだよな)
「どうしました司君。そんなに長い時間腰を反ったら痛めますよ」
腰を後ろに反らした状態で固まっていた司に殺せんせーが気づき、上の空の状態だった司に声を掛ける。声を掛けられたことで思考から戻った司は慌てて準備運動を続ける。
(やべぇやべぇ、ちょっと考えすぎた。今はゲームに勝ってさっさとスーパー行かないと)
「こっちは準備オッケーだけど、先生はいい?」
「いつでもばっちこいです!」
「野球用語伝わんないって」
軽口を叩きながら対先生用ナイフを片手に殺せんせーに近づく。その距離は1mもなく、誰もいない裏庭に静かな緊張感が走る。
「司君が先生に攻撃を始めたら、ゲームスタートとします」
すでに殺せんせーの声は聞こえておらず、司の頭はどうやって当てるか埋まっていた。一応色んな手段は考えてきたが、うねる触手にナイフを当てる練習なんてしたこともないし、ぶっつけ本番で試すしかなかった。
「じゃ、よーい⋯⋯⋯⋯⋯パンッ⋯⋯スタート!」
掛け声より先にズボンのポケットに突っこんでいたエアガンで殺せんせーの頭を狙う。触手を狙うのも考えたが、流石に当てにくいに触手は恐らく人間の腕に当たる部分なので、避けやすいだけだと判断した。
ついでに掛け声よりも速く撃ったが、そんなわかりやすいブラフに殺せんせーが引っかかる訳もなく、頭の形状を変えてニュルっと躱す。
その間に肉薄した司は頭を狙ってナイフを振るうが、巨体に見合わぬ軽やかさでひらひらと全て避けていた。
「ほらほら、こんな遅い先生に当てられないようじゃ。暗殺どころかご飯も夢のまた夢ですよ!」
緑色の縞模様を浮かべひらひらと揺らぎながら煽る殺せんせーに、司は執拗に顔を狙い続ける。同じような攻防が繰り返され残り10秒を切ったその時、司が動いた。
右手に持っていたナイフと左の袖に隠していたナイフを、同時に別々の触手に投擲する。頭ではなく触手を初めて狙われた殺せんせーは驚きながらも躱すが、それでは終わらない。
腰の後ろに隠していた三本目のナイフを取り出し、屈むような体勢で殺せんせーの足元に潜り込んだ司は、真上にある頭へと投擲する。
「にゅやぁ!」
驚いた声を出しながら後ろに逸れて三本目のナイフを避ける殺せんせーに、司は渾身の手札を切る。
「これで!」
司は屈んだ体勢の状態からジャンプし、真上に投擲していたナイフを掴んで、その勢いのままに全力でナイフを振り下ろした。
ナイフは殺せんせーの頭蓋を突き刺さる⋯⋯⋯⋯はずだった。
「はい、ゲーム終了です」
「⋯⋯⋯は?」
司は何が起こったのか分からなかった。間違いなくナイフを頭に振り下ろしたはずだが、司は何故か地面に寝転がって空を見上げている。
「素晴らしい戦略でした司君。最後の10秒で仕掛けるのは予想されやすい正攻法ですが、分かっていても終わり際というのは油断する瞬間です。他にも細かい心理誘導を組み込んでいましたね?」
「⋯⋯⋯当ててみてくださいよ」
試すように聞いてくる司に、にゅやりと笑みを見せた殺せんせーは細かく説明を始めた。
司の戦略の肝は、複数の心理誘導にあった。まず頭を執拗に狙い殺せんせーに避けさせる。うねる触手よりも当てやすい場所だが、狙いがわかりやすいと当然避けられる。
敢えて執拗に狙うことで、油断または警戒を誘うための第一撃。
次に警戒された場合のために、袖に隠していたのを含めた二本のナイフを使って触手を狙う。これは頭を執拗に狙うことをブラフと警戒している相手に触手が本命と錯覚させるための誘導だ。
これが警戒しても、油断しても引っかかるように細工した第二撃。
それすら警戒して躱すのであれば次だ。背の高い殺せんせーの足元は必然的に死角になりやすい。足元に潜り込めば、気付いても更に殺せんせーは警戒心を大きくする。そこで隠していた三本目のナイフを真上に投擲する。
だが、これは本命のための布石。第四撃目のための第三撃だ。
最後は真上に跳んで投擲したナイフを使った第四撃。仮に殺せんせーが司が隠していたナイフを把握していたとしても、問題ないように計算された幻の四本目のナイフだ。
足元に潜り込んだのは、足元に視線を誘導して視界から外れるためだし、屈んでいたのは視線だけじゃなくジャンプの時に膝が沈む瞬間を悟らせないための仕込みだった。
油断と警戒を誘う第一撃に、触手を狙って本命の本命を隠す第二撃。本命と誤認させ、第四撃のための布石の第三撃。トドメの第四撃まで練られたのが司の戦略の全貌だ。
「と、このように君は複数のブラフと心理誘導と組み込んだ戦略を最後の10秒に詰め込みました。改めて素晴らしいの一言です。
中間テスト前の烏間先生の話をしっかり活かした暗殺でした」
「全部お見通しだったんですか?」
「当然です、先生ですから」
殺せんせーは明るい朱色の丸を顔に浮かべ、触手で優しく司を頭を撫でる。
「君の才能はまだまだ発展途上な上に錆びついている。そんな暗殺者を手入れするのが、先生の仕事です。
たがら全力でぶつかってきなさい。君の才能の全てを、先生は全力で受け止めます」
「先生ってさ、心でも読めんの?」
「いいえ、私は君の全てを知っている訳ではありません。ただ、錆びついたナイフというのは、やがて君の身体を蝕んでいく。そんな君を、とても見ていられなかった」
「比喩表現多すぎて意味分かんないよ⋯⋯⋯負けたから帰る」
仰向けで寝転がっていた状態から起き上がると、かばんを持って逃げるように帰路につく。あの時の殺せんせーの言葉の意味は、未だによく分かっていない。
それからも放課後にゲームを続けているが、結局初日が一番惜しかった。あれから一度も勝てていない毎日。
「なんか良いように掌の上で転がされてる感があるんだよな。見通しが甘かったかなぁ、今更降りるのも癪だし、せめて一回は勝ってから勝ち逃げしたい」
安易に受けてしまったゲームに早速後悔している内に、目的地に到着する。両手に持ったマイバッグを片手で持ってポケットから合鍵を取り出すと、扉を横に開けて平屋に入る。
靴を脱いでいると、ドタバタとした足音が近づいてくる。靴を整えながら後ろからの衝撃に備えていると、案の定二重の衝撃が司の背中を襲った。
「司おそーい!」
「司おそい!」
まだ幼い少女と少年が司にタックルしてきたのだ。ここに来るといつもそんな感じなので気にしてないが、これから大きくなる二人のことを考えると受け止められるか若干の不安があった。流石に成長すればやめるであろうと思いたいが、今のところタックルをやめる気配は全くと言っていい程なかった。
「俺は忙しいから、遊ぶのは悠馬が帰ってきてからな」
「え〜遊ぼうよ」
「そうだよ。少しくらいいいじゃん」
「悠馬がバイトから帰ってきた時に飯がないと可哀想だろ?お兄ちゃん想いの二人なら我慢出来る」
「「⋯⋯は~い」」
この二人は悠馬⋯⋯
弟と妹の面倒が見れない悠馬と磯貝母の代わりに面倒をみている。学校ではあまり話してないが、司の交友関係の中では一番親密な関係だ。
悠馬は頭が上がらない様子だったが、悠馬に似て聞き分けが良くて素直な子供の世話くらい大した苦労でもなかった。
「悠馬が帰ってきてやること終わったら、人生ゲームやるか」
「ほんと!?」
「泊まってくの?」
「泊まりはしない」
「「え〜!」」
「えーじゃない。悠馬が返ってくる前に宿題しとけ」
「「ぶ〜」」
小さな磯貝たちの非難に聞こえないフリをしながら、マイバックの中にある食材を冷蔵庫に置き、今日必要な食材を取り出しておく。
「ねぇ司、今日のご飯ってなぁに?」
妹の菫の方が、可愛らしい仕草をしながら上目遣いで聞いてくる。身長差があるから上目遣いなのは当たり前なのに、今日はどうしてかあざとさを感じてしまう。違和感を覚えた司は、一応聞いてみる。
「なぁ、その仕草誰かに教えてもらったりしたか?」
「大人のおねぇさんに教えてもらった!」
気付いてくれたことが嬉しいのか、菫は満面の笑みで答えてくれる。そこからは話を聞いて欲しかったようで、続きを答え始めた。
「あのね、綺麗なおねぇさんが男の子が喜ぶにはコレが良いって言ってたの」
「ちなみにそのおねぇさんって金髪の人?」
「うん!外国人の人!」
(まさかとは思うが、ビッチ先生じゃないよな?どういう状況なら小さな子供にそんなテクを教える事態に発展するんだ?流石に偶然だと思いたい)
「名前とか言ってたか?」
「えっと、難しい名前だったよ?イリーナ・イエラなんとかって言ってた。すごく綺麗な人だった!」
「そ、そうか」
(確定だ。金髪で色仕掛けのテクを持ってて綺麗な外国人なんて、この辺りならビッチ先生しかいない。何やってんだよあの人⋯⋯⋯)
小学生に変なテクニックを教えている英語教師に呆れていると、菫の方は急にモジモジとして両手の指を遊ばせながら、何か言いたげな様子だ。
「えっと、えっと、司は嫌だった?」
「いや、全然嫌じゃないよ。ありがとな」
「うん!」
不安気な顔で聞いてくる菫に対して、司はあざといからやめて欲しいと言えるメンタルは流石になかった。ありがとうと伝えるとパァっと明るくなった菫がスキップをしながら居間に戻っていく。
(よし、この件は悠馬に任せよう。兄妹なんだし、その方が良いよな。うん)
あの二人に嫌われたくなかった司は、悠馬に問題を押しつけることにした。元々兄妹なんだし良いだろと、誰が聞いてる訳でもない言い訳をしながらエプロンを着て夕食の調理に入るのだった。
「ただいま〜」
「「おかえり~」」
悠馬が帰ってきた声と和也と菫の声がキッチンにまで聞こえてくる。そろそろ調理も終わるので、丁度いい時間だ。
「今日も悪いな司、面倒見てもらって」
「その分夕食と明日の弁当分の食費が浮くんだからお互い様だろ?それと伝えるなら謝罪じゃなくて、感謝な」
「そうだな、いつもありがとう司」
「どういたしまして、丁度出来たから手洗ってこい」
「お母さんみたいだな」
「飯抜きにするぞ」
「はいはい」
苦笑しながら嬉しくもない褒め言葉をもらい、お母さんメンタルで飯抜きすると脅すと、悠馬は適当に流しながら洗面所へと向かっていく。
貧乏くらいしか欠点がないイケメンな悠馬は、未だに本校舎の女子からもらっているらしい。こないだもらったことを聞いたが、アイツは告白を受けるつもりはないのだろうか?
貧乏が欠点として大きいのは大人からだ。中学生なら金が掛からない付き合い方くらいあるだろうに、逆に『家族のために頑張ってる磯貝君かっこいい』みたいなことにもなりそうだが、何故か告白を了承したことはない。
本人は時間がないからと言っていたが、本当にそれだけなのか怪しい所だ。
メインを乗せた大皿とお茶碗にご飯をよそってお椀にはスープを入れていると、和也と菫が調理が終わったことに気付いたのかキッチンにやってくる。
「私、てつだう!」
「俺も、俺も!」
「じゃあ自分の分のご飯持っていってくれ」
「「は~い!」」
自分のお茶碗を持っていく二人と一緒に、自分と悠馬の分のお茶碗とお椀に全員分の箸を居間に持っていき並べていると、手を洗い終わったであろう悠馬が大皿を運んできた。
「美味しそうな匂いだとは思ってたけど、今日はロールキャベツか」
「やったぁ!ロールキャベツ!」
「和也、慌てなくても逃げないからちゃんと座って」
はしゃぐ和也に悠馬が注意し、全員が席に着くと手を合わせた。
「「「「いただきます」」」」
「美味しいなこのロールキャベツ。よくこんなに沢山作れたな?」
「今日はキャベツが安かったんだよ。春キャベツだからロールキャベツにしようと思ってさ。中も工夫してるんだぞ?」
ロールキャベツの中身は、豚挽き肉・タダでもらったおから・細かく刻んだ椎茸・微塵切りにした玉ねぎを入れ、そこに近所のインド人が営むカレー屋からタダでもらったスパイスをいくつか入れて、ロールキャベツ用のダマの完成。
おからで量を水増しし、スパイスと椎茸で旨味をプラスした肉玉は、コンソメスープを吸ったキャベツとの相性が抜群だ。
「朝に食べてもヘルシーなスパイスロールキャベツ。それが今日の分と明日の朝、俺たちの弁当を含めると一人前300円ってとこだな」
「これだけ量で一人300円って、すごいな。それに、ロールキャベツを巻いてるのって昆布だよな?」
「こないだ魚の皮と余ってた昆布でふりかけ作ったろ?まだ昆布が余ってたから使ったんだ。コンソメスープもロールキャベツに使うために作ったやつだし、見た目より金は抑えてある」
「洋食屋で出てきそうだな。司印のスパイスロールキャベツって感じで」
「⋯⋯⋯今度洋食屋にアイデア出して伝手を作っておくか。カレー屋の時も似たようなことしたし、アリか?」
冗談で言った提案を真剣に考え始めた司に、苦笑いで聞かなかったことにする。美味しいと無言で食べる和也と菫が二個目のロールキャベツを食べ始めたのを見て、磯貝も食べ進めるのであった。
磯貝の妹と弟の名前は調べても出てこなかったので、オリジナルになりました。
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