夢追い人の暗殺教室   作:抹茶オレン

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烏間先生には病弱な妹がいたそうですね。初めて知った時、思わず声が出ました。


旅戻りの時間

旅館に戻り夕食と入浴を済ませた司は、風呂で火照った熱を取るために旅館の窓を開けて涼んでいた。

 

「今日は精神的に疲れた⋯⋯⋯」

 

「司くんじゃん。どうしたの?こんな所で」 

 

今日の起きたことを思い出して溜め息をついていると、かなり久し振りの声が聞こえてくる。横をみると、そこにいたのはいちごオレを持った赤羽カルマだ。

 

停学以降は完全に疎遠となり、三年生になってからも特に関わりはなかった。少しは気まずい空気になるはずなのだが、カルマは以前と変わらない飄々とした様子で司に話しかけてきた。

 

「そっちも大変だったみたいだね」

 

「大変というか、俺が自分から問題に突っ込んだだけなんだけどな」

 

「夕食食べ終わった後にさ、ロビーで烏間先生と一緒に誰かと話してたよね?」

 

「あれは茅野と神崎以外に誘拐されてた他校の生徒と、その担任だよ。なんやかんやで助けたから、その感謝を改めてって感じで来たんだよ」

 

「よく警察沙汰にならずに済んだね。他校まで犯罪に巻き込まれたら、結構大変じゃない?」

 

「烏間先生の方からどうにかしてくれたらしい。夕方の間に解決させたんだと」

 

「ふ~ん」

 

カルマとの会話は、司が思っていたよりもずっとスムーズに進んだ。カルマが余所余所しくないせいか、司もわりと何時もと変わらない態度で話せている。

 

「そっちは大丈夫だったのか?」

 

「まぁね。殺せんせーもいたし、修学旅行のしおりが思ったより役に立ったから」

 

「茅野と神崎は特に何ともなかったんだよな?」

 

「茅野さんは首を掴まれたらしいけど、それ以外は手首をちょっと痛めたくらいだってさ」

 

「そっか⋯⋯⋯⋯⋯」

 

本人たちの様子はチラッと見た程度だったが、精神的な傷を負っているようには見えなかったし、おそらく大丈夫だろう。何かあっても、殺せんせーもフォローに回ってくれる。

 

「ねぇ、司くんってあの二人と仲良かったっけ?」

 

「茅野も神崎とも仲が良いってほどではないな。多少話したことはあったけど」 

 

「ならさ、なんでそんなに心配してんの?司くんって、他人にあんまり興味ない感じだったじゃん。そんなお人好しみたいなキャラだった?」

 

からかうように聞いてくるカルマだが、その目は司の一挙手一投足を探るように鋭い。

 

「深い理由はねぇよ。このE組が気に入ってるから、ちょっと不安だっただけ」

 

「ふ~ん。てっきり何か深い理由でもあるのかと思ったけど、案外普通だね」

 

「悪かったな、普通で」

 

カルマはそれ以上追求することはなく、それ以降は風呂上がりは何を飲むかの話になりながらも男子の大部屋に移動すると、何やら一枚の紙を囲んでいる男子陣が大部屋に入ってきた司とカルマに、一斉に目線を向ける。

 

「面白そうなことしてんじゃん」

 

「二人とも良いところで来たな」

 

「お前らクラスで気になる子とかいる?」

 

「皆言ってんだ、逃げられねーぞ」

 

どうやら、クラスで気になる女子ランキングをやっているらしい。カルマがいち早く興味を示すと、木村と前原が退路を断つように聞き出そうとしてくる。

 

「⋯⋯うーん。俺は奥田さんかな」

 

「お、意外。なんで?」

 

(確かに意外だけど、失礼だからやめような前原)

 

男子だけしかいないからか、失言をかます前原に司は内心だけで注意しておく。

 

「だって彼女、怪しげな薬とかクロロホルムとか作れそーだし、俺のイタズラの範囲が広がるじゃん」

 

「絶対くっつかせたくない二人だな⋯⋯⋯⋯」

 

この場にいるカルマ以外の全員の意思が合致したところで、標的はカルマから司へと移った。

 

「近衛はどうなんだよ。あんま女っ気ねーけど、一人くらいはいるだろ?」

 

「ビッチ先生とか?」

 

「なんで疑問形?てか、それはズルだろ。ビッチ先生はなしな」

 

「ちなみになんでビッチ先生?」

 

悠馬も気になるのか、前のめりになって聞いてくる。何故と言われても、なんとなく良いと思ったからが本音だ。ビッチ先生みたいな露出が多くて派手なタイプは好みではないはずの司だが、どうもビッチ先生の何かが琴線に触れているような気がするのだ。

 

「見た目以外の何かとだけ言っとく」

 

言語化できないので、適当に誤魔化しておく。こうすれば勝手に妄想を膨らませて満足してくれるだろう。

 

「ビッチ先生なのに胸でも顔でもないのか⋯⋯⋯⋯。お前、ホントに男なのか?」

 

「お前は各方面に失礼だよ」

 

絶句した岡島が信じられないような物を見る目で司を見る。性欲くらい司にもあるし、見た目をまったく気にしない訳でもない。ビッチ先生に関しては見た目以外の何かに好感を持ったはずなのだ。

 

「で、ビッチ先生以外は?」

 

「まだ聞くのかよ。もう良くね?」

 

「良くねーよ!助けた女子からアピールされてたじゃねーか。ライバルの好みを知っておくことも、モテるための秘訣なんだよ!」

 

「そんな不名誉なライバルは辞退したいし、助けた女子生徒からは怯えられてたの間違いだろ」

 

「でも、バスで一人とは結構話してたよな?その子は怯えてたって感じでもなかったし」

 

前原の適当発言を周りが信じる前に否定したが、悠馬が前原の援護射撃を行う。いつも味方の悠馬は、今日ばっかりは敵になってしまったようだ。

 

(今度の夜ご飯の白米を少なくして、その分朝の白米を大盛りにしてやる)

 

司がこれ以上反論したところで意味はなく、興味を唆られる話題が出た飢えた思春期たちは、新たな話に夢中になり始める。

 

「まじで?そんな羨ましい展開になってたのかよ」

 

「フィクションみたいだな。ドラマとかでありそうなベタな展開だ」

 

「くっそ~羨ましい!俺も颯爽と助けて惚れられてぇ〜!」

 

もはや実際に惚れられたかなど、誰も気にしていない。あれこれと想像力を働かせて話が盛り上がっていた。

 

「皆、この話は男子だけの秘密な。知られたくない奴が大半だろーし、女子や先生には絶対に⋯⋯⋯⋯」

 

悠馬が男子全員に聞こえるように部屋全体を見渡しながら説明していると、唐突に言葉が止まる。悠馬はある方向を見て固まっていて、それに釣られて全員がその方向に視線を向ける。

 

そこには、大部屋の入り口の襖の隙間から覗き見る殺せんせーがいた。顔をほんのりピンクにさせて何やらノートに何かをメモると、ゆっくりと襖を閉めた。

 

しばらくの静寂と硬直の後、ハッと事態の深刻さに気付いた前原が叫ぶ。

 

「メモって逃げやがった!!殺せ!!!」

 

その叫びと共にほぼ全員が対先生ナイフとエアガンを持ち、羞恥と殺意と抱いて逃げた殺せんせーを追いかける。

 

「待てやこのタコ!生徒のプライバシー侵しやがって!!」

 

「ヌルフフフ、先生の超スピードはこういう情報を知るためにあるんですよ」

 

全員が大部屋を出て殺せんせーを追っていったことを確認した司は、一人別方向へと歩みだした。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

男子たちが恋バナ?をしている頃、女子の大部屋では一班で起きた事件を話していた。

 

「へ〜片岡さんたちの班も色々大変だったんだね」

 

「大変というか、自分から問題に突っ込んだって感じなんだけどね。その後旅館に戻ってきた近衛君と磯貝君は何故か仲直りしてるし、心配したこっちが馬鹿みたいに思えてきて⋯⋯」

 

「あるよね〜喧嘩していたはずなのに、いつの間にか仲直りしてるやつ」

 

「きっと殴り合いの末に友情を深めたのね⋯⋯」

 

「不破さん、それっていつの時代の不良漫画?近衛君はともかく磯貝君が殴り合いの喧嘩してるのは想像できないよ⋯⋯」

 

「でも渡月橋っていうコ○ンで有名な橋と河川敷も⋯⋯」

 

「他作品の話はやめようね不破さん。後、探偵漫画なのか、不良漫画なのかごっちゃになってわかんなくなってるよ」

 

「どうしたの茅野っち!?他作品って何!?」

 

某少年探偵の話をし始めた不破さんの話を冷静に遮る茅野に、メタいツッコミをする茅野に驚く岡野。そんな風にガヤガヤと盛り上がっている大部屋にビール片手にビッチ先生が入ってきた。

 

「ほらガキ共、意味ないでしょうけどもうすぐ就寝時間よ」

 

「そんなぶっちゃけていいんですかビッチ先生?」

 

「ガキは大人の言うことなんて聞かないのよ。明日に響かなければ見逃すから、自己管理くらいしなさい」

 

「ビッチ先生太っ腹〜」

 

「なんならビッチ先生も話そうよ。お菓子もあるしさ」

 

「な、なによ。あんた達、やけに気前が良いじゃない」

 

ぞろぞろと囲まれて大部屋の中まで誘導されたビッチ先生は、その後も八ツ橋をツマミにしながらビールを煽る。ビッチ先生の話に、女子たちは全員興味津々だ。

 

「えぇ〜!?ビッチ先生まだ20歳(はたち)ぃ!?」

 

「経験豊富だからもっと上だと思ってた」

 

「ねー」

 

「毒蛾みたいなキャラのくせに」

 

「それはね、濃い人生経験が作る色気が⋯⋯誰だ今毒蛾つったの!!」

 

「ツッコミ遅いよ」

 

「酔ってるんでしょ、ビッチだから」

 

「ビール一杯で酔う訳ないでしょ!?ナメんな!」

 

ビッチ先生の色気からは想像できない年齢に、生徒たちが辛辣な言葉を口にする。ツッコミが遅いだの、酔ってるだの理不尽なボケを言われるくらいには、ビッチ先生はE組に溶け込んでいた。

 

話が一通り落ち着いたところで、ビッチ先生が少しだけ物憂げな顔になりながら、千枚漬けを片手に全員に言い聞かせるように語り始めた。

 

「女の賞味期限は短いの」

 

「あんた達は私と違って⋯⋯危険とは程遠い国で産まれたのよ。そのことに感謝して、全力で女を磨きなさい」

 

「「「「「「「「⋯⋯⋯⋯⋯」」」」」」」」

 

「ビッチ先生がまともなこと言ってる」

 

「なんか生意気〜」

 

「舐め腐りおって、ガキ共!!」

 

ビッチ先生はものすごく良いことを言ったはずなのだが、普段のキャラからは想像できないまともな発言のせいか、生意気扱いされてしまう。

 

「じゃあさ、じゃあさ、ビッチ先生がオトしてきた男の話聞かせてよ」

 

「あ、興味ある〜」

 

矢田と倉橋からの提案に、他の女子たちも身を乗り出して話を聞く態勢になる。世界一のハニートラップのプロの仕事の話なんて、誰だって気になる話題に全員を息を呑むように真剣な様子だ。

 

「フフ、いいわよ。子供にはシゲキが強いから覚悟しなさい。例えばあれは17の時⋯⋯⋯⋯」

 

今日一番の興味の惹かれ具合に苦笑しながら、ビッチ先生を囲むように円になって座り話を聞こうとする女子生徒と殺せんせー。

 

「っておいそこォ!さにげなく紛れ込むな、女の園に!」

 

「いいじゃないですか、私もその色恋の話聞きたいですよ」

 

「そういう殺せんせーはどーなのよ?自分のプライベートはちっとも見せないくせに」

 

女の園にも侵入した殺せんせーが参加しようとするが、中村莉桜(なかむらりお)がプライベートをまったく見せようとしない殺せんせーに抗議する。

 

「そーだよ。人の話ばっかズルい!」

 

「え?」

 

「先生は色恋の話とかないわけ?」

 

「え?」

 

「そーよ、巨乳好きなんだし、片想いくらいあるでしょ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

ビッチ先生の色恋話から、完全に殺せんせーにの色恋話に興味が移り、ジリジリと吐かせようと迫る女子たち。殺せんせーは冷や汗をかきながら沈黙し、目に見えぬ速度でその場から消える。

 

「逃げやがった!捕らえて吐かせて殺すのよ!!」 

 

ビッチ先生の号令と共に、女子たちも対先生ナイフとエアガンを持って殺せんせーを追いかけるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

男女揃って旅館の中を走り回り殺せんせーを追いかける中、司は目的の部屋の前にいた。

 

「烏間先生、今大丈夫ですか?」

 

「ん?近衛君か、どうした?」

 

教員用の個室に入ってきた司に、烏間先生はパソコンの作業を止めて司に向き直る。

 

「今日の件で、ご迷惑お掛けしました」

 

「そんなに畏まらくていい。君のクラスメイトを心配する気持ちは尊重している。君が自分で反省しているのであれば、俺から何か言うことはない」

 

「一つ、聞いてもいいですか?」

 

「なんだ」 

 

「烏間先生は、もし誰かが誘拐された場合。危険でも自分で助けるか、それとも確実に安全であろう他の人の助けを待ちますか?」

 

「それは、今日の話をしているのか?」

 

「まぁ、そうです。殺せんせーはどっちも否定しなかったけど、俺には正解がある気がするんです」

 

司は言葉に出来ないだけで、あの場でどうすれば良かったのか明確な答えがある気がならないのだ。そんなモヤモヤした気持ちを抱えて、なんとなくの気持ちで烏間先生に聞いてしまった。

 

「俺に聞いている時点で、君の答えは決まっているようなものだろう」

 

「そうなんですか?」

 

「仮に(殺せんせー)があの時君の立場だった場合、どうしたと思う?」

 

「あっ⋯⋯⋯!」

 

その状況を想像した時、司には殺せんせーの行動が簡単に予想できた。殺せんせーは生徒が危険に迫っていると知った時、他に助けに行っている人がいたとしても、その場で待機しているような人ではない。

 

「奴は間違いなく君のように助けようと行動したはずだ。だが、今回君が磯貝君に止められた理由が分かるか?」

 

「俺が危なかっしいからとかですかね」

 

「それもあるだろうし、心配しているのもきっとあるだろう。それでも残酷なことを言うのであれば、信頼がなかったとも言える」

 

磯貝悠馬は非常に優しい生徒だ。仮に司が殺せんせーのようにマッハ20で動けたとしても、きっと心配したはずだ。しかし止めはしただろうか?

 

タラレバで極端な話だが、実際にあり得たかもしれない話だ。悠馬に悪意などないし、司もそれはよく理解している。だとしても、そんな可能性に不満を覚えてしまった。

 

「近衛君」

 

「⋯⋯はい」

 

「善意が人を助けるとは限らない。悪意が人を傷つけるとも限らない。どちらも感情でしかなく、実際の行動が伴わなければ状況が悪化することだってある」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯はい」

 

「放課後、ほぼ毎日奴と何かしているだろう」

 

「えっ⋯⋯?」

 

唐突に変わる話についていけない司が呆然としていると、烏間先生が予想にもつかないことを提案する。

 

「君が望むなら、個人的な格闘訓練をつけることが出来る」

 

「いいんですか?暗殺には必要ないですよね?」

 

「暗殺にはほぼ必要のない技術だろうが、君には必要だと判断した。あまり個人を特別扱いするようなことはしたくないが、勝手な行動で危険を冒した罰則⋯⋯⋯ということにでもしておこう」

 

少しだけ微笑んで提案してくれた烏間先生に感謝しながら、司ははっきりと口を開いた。

 

「お願いします、教官」

 

「教官ではなく、先生と呼びなさい」

 

暗殺修学旅行の肝心な暗殺はトラブルで中止になったが、この修学旅行はE組にとって数ある思い出のに一つとして記憶に残る。地球滅亡まで後一年と残されていないが、生徒たちの確かな成長があった。

 

 




[磯貝悠馬]
原作通り、貧乏くらいしか弱点がないイケメン委員長。近衛司とは中学一年の九月辺りに引っ越してきた頃から挨拶する程度の仲だった。

仲を深めたのはお互いがE組になった時からで、それからは合鍵まで渡す程の仲になった。弟と妹も懐いているので、バイトに忙しい悠馬の助けになっている。

司の危なっかしさの理由を知っているので、諌める側につくことが多い。修学旅行では危険なのに突っ込もうとする司に、つい感情的になってしまっている。

今まで司が作った料理の中で一番美味しかったのはカレー。悠馬のお母さんはこの事実を知って、とんでもないショックを受けたらしい。

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