夢追い人の暗殺教室   作:抹茶オレン

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今週はこれで終わりです。


信頼の時間

「さて、これで大人しくなれば良いんだけどな」

 

「それって転校生のことか?」

 

自律思考固定砲台という変わった転校生が来てから三日目の朝、通学中の司が転校生の話題を出すと、悠馬も気になるのか話に乗っかってくる。

 

「ガムテープにぐるぐる巻きにされたから暗殺できませんでしたって、政府に伝えたらどうなると思う?」

 

「やっぱり、良くは思わないよな」

 

「高い金かけて造った固定砲台を、『中学生の授業の邪魔になるからだめです』なんて理由じゃあ誰も納得しないだろ」

 

「それは⋯⋯確かに」

 

「そこら辺は殺せんせーが政府に一言言えば解決するだろうし、問題ないとは思うけど」

 

殺せんせーが3年E組に留まる形を見せている以上、政府が学校に大きく介入することは避けたいはずだ。これ以上の無茶苦茶は学校生活の妨げになると殺せんせーが文句を言えば、政府は“自律思考固定砲台を生徒としてねじ込めた”という結果で満足するだろう。

 

政府にとって一番困るのは、殺せんせーがE組から逃げだすこと。殺せんせーを物理的に拘束できる3年E組は、特大のメリット付きだが、手放したくても手放せないデメリット付きの手札でもあるのだ。

 

話している内に旧校舎に着いて教室に向かうと、教室内がいつもより騒がしい。その原因はもちろん⋯⋯⋯⋯

 

「あっ、おはようございます!磯貝さん、近衛さん!」

 

「マジか⋯⋯夢かコレ」

 

「俺も同じものを見てると思うから違う⋯⋯よな?」

 

教室内を騒がせていたのは予想通り転校生だ。しかし、明らかに転校生の様子がおかしい。片言気味で無機質な声、貼り付けられた笑顔は影も形もなく、流暢で陽気な声に自然な笑顔になっている。

 

挙げ句モニターは全身モニターになり、自然なBGMまで流れている始末だ。

 

「殺せんせーがやったんですか?」

 

「ヌルフフフ、彼女に危害を加えるのは禁止されていますが、改良するのは禁止されていませんので」

 

「文字どおりの意味で手入れしたと⋯⋯完全に予想の斜め上だわ」

 

「ちなみに先生の財布の残高、5円!!!」

 

近くにいた殺せんせーに悠馬が聞くと、殺せんせーはしてやったりという顔で笑う。まさか改良まで刷るとは思わなかった司は、半ば呆れていた。

 

「庭の草木も緑が深くなっていますね。春も終わり、近づく初夏の香りがします!」

 

「たった一晩でキュートになっちゃって⋯⋯」

 

「なに騙されてるんだよ、お前ら。全部あのタコが作ったプログラムだろうが、愛想良くても機械は機械。どうせ空気読まずに射撃すんだろポンコツ」

 

すっかり人間らしい語彙を使いこなす転校生だが、寺坂は否定的なようで、信じていないようだ。

 

「⋯⋯⋯⋯おっしゃる気持ち、わかります寺坂さん。昨日までの私はそうでした。ポンコツ⋯⋯そう言われても返す言葉がありません」

 

(うわっ、あざと〜)

 

「あーあ、泣かせた」

 

「寺坂くんが二次元の女の子泣かせちゃった」

 

「なんか誤解されるような言い方やめろ!!!」

 

涙を流す転校生に、司は引いていた。一晩で泣き落としのテクまで学んだらしく、女子はすっかり転校生の味方をして寺坂を非難している。

 

「いいじゃないか2D⋯⋯Dを一つ失う所から、女は始まる」

 

「竹林、それお前の初ゼリフだそ。いいのか!?」

 

竹林の初ゼリフが、意味がよく分からない台詞で消費されたことは置いておいて、泣き止んだ?転校生が教室にいる全員に向かって宣言する。

 

「でも皆さん、ご安心を。殺せんせーに諭されて、私は協調の大切さを学習しました。私のことを好きになっていただけるよう努力し、皆さんの合意を得られるようになるまで、私単独での暗殺は控えるように致しました」

 

「そういうわけで、仲良くしてあげてください。あぁ、もちろん。先生は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手をつけていません。

先生を殺したいなら、彼女はきっと心強い仲間になるはずですよ」

 

転校生の宣言を、殺せんせーが丸く締めくくった。その後もすっかり変わった転校生はE組の人気を掻っ攫っていく。

 

「では菅谷君、教科書を伏せて。網膜細胞は細長い方の桿体細胞と、あと一つ太い方は?」

 

「え、オレ?やばっ、えーっと⋯⋯」

 

話を聞いていなかった菅谷が問題に言葉を詰まらせていると、何故か太ももに答えを表示して伝える転校生。

 

「えーと、錐体細胞?」

 

「こら、自律思考固定砲台さん!ズルを教えるんじゃありません!」

 

「でも先生、皆さんにどんどんサービスするようにとプログラムを」

 

「カンニングはサービスじゃありません!」

 

授業中にこっそりカンニングをサービスしたり⋯⋯⋯⋯⋯

 

「へぇーこんな物まで体の中で作れるんだ」

 

「はい。特殊なプラスチックを体内で自在に生成できます。設計図さえあれば、銃以外でも何でも生成可能です」

 

「おもしろ〜」

 

「じゃあさ、花とか作ってみて」

 

「わかりました。花のデータを学習しておきます。王手です千葉君」

 

「三局目でもう勝てなくなった。なんつー学習力だ」

 

昼休みに囲まれた転校生は、ミロのヴィーナスの模型を数分で作り周囲を驚愕させながら、将棋の対局を同時にこなしていた。

 

「皆さん、皆さん!先生だって人の顔くらい表示できますよ。皮膚の色を変えればこの通り」

 

「「「「「「「「キモいわ!!!」」」」」」」」

 

謎の危機感を抱いた殺せんせーがどういう方向性に舵を切ったのか、自分の顔の上に顔を表示させる行動をとっていた。仮に殺せんせーの体で頭が人の顔だったら、どう考えてもホラーにしかならない。きっと伊●潤二先生の作品に出てくるタイプの悍ましいホラーだ。

 

「あとさ、この子の呼び方決めない?“自律思考固定砲台”っていくらなんでもさ」

 

「だよね」

 

「そうだなぁ」

 

「自⋯⋯律⋯⋯思考⋯⋯⋯そうだ!じゃあ律で!」

 

「安直〜おまえはそれで良い?」

 

「嬉しいです!では“律”とお呼びください!」

 

片岡が、誰もが思っていた名前問題を切り出した。自律思考固定砲台はもはや名前ですらないので、殺せんせーの時同様に名前を考える流れに。最終的には、自律思考固定砲台からもじった“律”ということになった。

 

前原の言う通り安直だが、本人は嬉しそうにしている。これから転校生は、“律”と呼ばれ一日でE組に馴染んでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ていう流れだけど、なんだかな〜」

 

「納得いってないって感じだな」

 

放課後の帰り道を司と悠馬の二人で歩きながら、今日の話題筆頭の転校生の話をする。転校生に対して悠馬は概ね肯定的だが、司はどちらかと言えば否定的だ。

 

「俺が納得いってないというより、開発者(おや)政府(PTA)が納得いくかって話」

 

「今朝の話のやつか?」

 

「そう、AIを生徒にしてきてその後は放置っていうのも変だし、何かしらしてきそうだと思うんだけどな」

 

「その予想が当たってたとして、俺たちに何かできるのか?」

 

「それ言っちゃおしまいだろ。無理でも何でも意思は押し通してこそ意味があるんだよ」

 

「簡単に言うな⋯⋯⋯」

 

実際問題、生徒にできることは少ない。直接どうにかできるとしたら、暗殺対象である殺せんせー・防衛省と繋がっている烏間先生・椚ヶ丘の理事長である浅野理事長の三人くらい。

 

ビッチ先生はただの雇われ暗殺者だからか、政府側も特別力を入れているようにも感じなかったが、今回はガッツリ関与している以上は何かしてくる可能性が高いと司は見ていた。

 

「そう言えば、烏間先生が今日は残らずに帰るようにって言ってたぞ」

 

「俺知らんけど」

 

「司とは一緒に帰るから、普段残りがちのやつにしか声かけてないからな」 

 

「⋯⋯⋯⋯ほーん」

 

「変だと思うか?」

 

「わざわざ烏間先生が言う辺りが怪しいな。夜校舎に行ってみるか、悠馬は?今日はバイトなかったよな」

 

「バイトはないけど、母さんの内職を手伝うからパス。今回は俺も気になるし、止めはしないけど。ほどほどにしろよ」

 

「善処はする。期待はするな」

 

「⋯⋯⋯⋯やっぱ止めた方が良かったか」

 

まったく期待できない司の発言に悠馬は若干の後悔が湧くが、今更遅いと止めるのを諦めるのだった。 

 

日も落ちて暗くなり始めた時間帯の旧校舎に、司は一人で向かっていた。夜の校舎というのは怖いものだが、旧校舎は山の中にある古い木造建築なので、本校舎よりも更に怖い。

 

そんな明かり一つない山道を一人で進むのは、それなりの勇気が必要なものだが、司はそんなことよりも気になるを探りたい気持ちでいっぱいだった。

 

(これは⋯⋯もしかしてビンゴか?)

 

旧校舎が見える距離まで登りきった司が見たのは、黒塗りの車が数台旧校舎前に停車している所だ。その車から出てきたのは、白衣を着たいかにも科学者っぽい見た目の男たち数人。他にも作業着らしき服を着た男たち、計10人はいる怪しい集団。

 

ぞろぞろと器具らしき物を持って旧校舎に入っていった所で、司もバレないように距離を詰めて旧校舎に入る。

 

(やっぱ何かしてくるに決まってるわな)

 

怪しい集団が入ったのは転校生のいる教室。転校生は人が入ってきたことに気付いたのか、モニターを明転させる。

 

「こんばんは開発者(マスター)!おかげさまで、とても楽しい学校生活を送っています!」

 

開発者(マスター)ね⋯⋯いきなり開発者(おや)の登場とは、てっきり整備だけかと思ったんだけどな)

 

整備だけなら、開発者がわざわざノルウェーから来る必要性を感じない。何か特別な理由で整備にも開発者が必要なのか、それとも政治的な理由なのか定かではないが、一応頭の片隅には入れておく。

 

(本人はのほほんとしてるが、周りの反応は予想を裏切らないって感じだな)

 

陽気なBGMを流しながら挨拶する転校生に、周りの大人たちは絶句して言葉も出ていない。やがて硬直から逃れると、絞り出すように言葉を漏らした。

 

「⋯⋯⋯ありえん」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯?」

 

「勝手に改造された上に、どう見ても暗殺と関係ない要素まで入っている」

 

「今すぐ分解(オーバーホール)だ。暗殺に不必要な物はすべて取り去る」

 

(まぁ、そうなるわな)

 

予定調和、分かりきった結果だった。開発者からすれば、自分の物を勝手に改造されたらそりゃあ怒る。誰だって自分のスマホを勝手に改造されたら怒るのと同じ。

 

開発者にとって、“自律思考固定砲台”は生徒ではなく自分の所有物なのだから。

 

「コイツのルーツはイージス艦の戦闘AI。人間よりも速く戦場を分析し、人間より速い総合的判断であらゆる火器を使いこなす。

加えてこいつは卓越した学習能力と、自分で武装を改造できる機能を持つ。こいつがその威力を実証すれば、世界の戦争は一気に変わる」

 

誰に語る訳でもなく、一人でブツブツと説明する開発者は何処か狂気的だった。周りもそんな開発者の様子を気にすることなく作業を進めている。

 

「賞金百億など、ついでに過ぎん。この教室は最高の実験場。怪物殺しの結果を出せば、もたらす利益は数兆円だ」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

開発者(おや)の命令は絶対だぞ。お前は暗殺のことだけを考えてれば、それでいい」

 

ペラペラと自身の野望を語り、刷り込むように転校生を分解していくその姿は、司には酷く醜く映った。司の知っている野望とはもっと理想に矜じるものだ。決してこんなに醜いものではない。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯はい、開発者(マスター)

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯チッ」

 

何より、開発者(おや)に縛られる機械(こども)を見るのは、不愉快の極みだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「おはようございます。皆さん」

 

次の日、教室には初日のように片言の日本語で挨拶する自律思考固定砲台がいた。たった一日で開発者共は元に戻してしまったらしい。

 

「“生徒に危害を加えない”という契約だが、「今後は改良行為も危害と見なす」と言ってきた」

 

烏間先生を通して、開発者の意向が説明される。思っていたよりもずっと開発者側の権威が強く、これでは政府に文句を言っても無駄かもしれない。

 

「君等も、“彼女”を縛って壊れでもしたら賠償を請求するそうだ。開発者の意向だ、従うしかない」

 

そう言って寺坂たちからガムテープを回収していく烏間先生は、溜め息をつきながら諦めるように促した。きっと、政府と開発者の狭間で苦労したのだろう。

 

「開発者とは、これまた厄介で⋯⋯親よりも生徒の気持ちを尊重したいんですがねぇ」

 

殺せんせーの言葉に、更に教室内の空気が重くなったように感じる。誰もが、また一日中響く発砲音と飛んでくる対先生BB弾の雨に苦しむのかと考えれば、また一段と空気は沈んでいく。

 

「⋯⋯攻撃準備を始めます。どうぞ授業を始めてください殺せんせー」

 

全員が銃撃に備えて構えた瞬間、展開されたのは銃ではなく花束だ。謎の行動に全員がきょとんとしていると、流暢な言葉が聞こえてくる。

 

「⋯⋯⋯⋯花を作る約束をしていました」

 

「殺せんせーは、私の(ボディー)に計985点の改良を施しました。そのほとんどは開発者(マスター)が「暗殺に不要」と判断し、削除・撤去・初期化してしまいました。

しかし、学習したE組の状況から、()()()は「協調能力」が暗殺に不可欠な要素と判断し、消される前に関連ソフトをメモリの隅に隠しました」

 

「素晴らしい。つまり律さん、あなたは」

 

「はい、私の意思で産みの親(マスター)に逆らいました」

 

本当にプログラムされたのか疑わしく思ってしまうような、聖母のような微笑みを浮かべて転校生は肯定した。その様子に、クラス全体の空気も変わる。

 

「殺せんせー、こういった行動を“反抗期”と言うのですよね?律は悪い子でしょうか?」

 

「とんでもない。中学生らしくて大いに結構です」

 

こうして、本当の意味でE組に仲間が増えた。クラスの大半がそう思い転校生を受け入れた。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

複雑な気持ちを隠していた近衛司を除いて⋯⋯⋯⋯⋯⋯

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

それからというもの、転校生はすっかりクラスに馴染みきっていた。元々多芸な機能を揃えていたことに加え、殺せんせーの改良で愛想まで良くなれば、人気者になるのは必然だ。

 

「近衛さん、少しお時間よろしいですか?」

 

「⋯⋯?」

 

放課後、転校生云々でやっていなかった殺せんせーとの暗殺勝負を久々にやって負けた司が、一人帰ろうと教室で荷物を纏めていると、転校生が暗転させていたモニターを明転させて話しかけてくる。

 

転校してから一度も直接話したことのなかった転校生が、突然話しかけてきたことに疑問を覚えながらも、司は立ったまま自分の机に寄りかかって話を聞く態勢をとる。

 

「それで、なんの用?」

 

「私が転校してからまだ日が浅く、確証があるわけではありませんが、どうしても気になることがありました」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

「近衛さんは、私というより開発者(マスター)に対し、強い警戒心を向けていると分析しました」

 

「否定する前に、どうしてって聞いとく」

 

特に反応を見せない司だが、転校生にはそれだけの自信と根拠があるのかその理由を順序立てて話していく。

 

「そう考えた理由は、開発者(マスター)が来たあの日に遡ります。

私は教室に近づいた人の体温に反応する機能があります。元々は挨拶をするための準備時間を確保するためにと、殺せんせーが追加した機能ですが、あの日は開発者(マスター)以外に一人隠れて様子を見ていた人がいるのがわかりました」

 

相変わらず無駄に配慮された機能を付けた殺せんせーはともかく、口ぶりからして、転校生はあの日隠れていたのが司だと言いたいらしい。

 

「それが誰なのか、ずっと気になっていました。最初は烏間先生の可能性を考えて本人に確認しましたが、当日はいなかったと回答を貰いました。烏間先生に嘘をつく理由はなく、候補を生徒を絞りました」

 

「殺せんせーやビッチ先生の可能性は考えなかったのか?」

 

「殺せんせーであれば、そもそも人ではないのですぐにわかります。ビッチ先生は開発者 (マスター)の性格から考えて、暗殺者を近づかせることはしません」

 

司は知らないことだが、あの日の夜は誰も近づかないように烏間先生から殺せんせーとビッチ先生に連絡されていて、あの場にいることはない。

 

「近衛さんの行動に怪しい点はありませんでした。態度や表情にあからさまに警戒心を表すようなことはなく、見抜くのにとても苦労しました。

わかったのは磯貝さんと前原さんのおかげです。磯貝さんは日が経つごとに近衛さんを心配するように見る傾向が高まっており、前原さんも磯貝さんほどではなくとも、近衛さんに気を使うような素振りを見せていました」

 

あの日のことを、司は悠馬には話していない。メッセージには何もなかったと誤魔化していたが、悠馬は微妙な司の態度の違いに気づいていたのかもしれない。

 

(悠馬もそうだけど、前原も結構人のこと見てるからな⋯⋯⋯⋯俺も割り切れてなかったか)

 

「近衛さんは、私に話しかけることはなくとも、他の人と話している間は常に意識をこちらに向けているように見えました。話に興味があるのかと最初は考えましたが、それが警戒心だと気づけたのは転校初日の経験(データ)があったからです」

 

転校初日の転校生は、御世辞にも歓迎されているとは言えなかった。その時のE組の異物に対する警戒心を、転校生は学んでいたから気づけたのだろう。

 

「確かに、俺はあの日お前が分解(オーバーホール)されている所に遭遇したし、今でも警戒心を向けてる。で、結局何が言いたいんだ?」

 

「私は協調の大切さを学習し、私のことを好きになっていただけるようになりたいと考えています。それはもちろん近衛さんも含まれます」

 

「悪いが諦めてくれ。お前が親に反抗しても、自由になった訳じゃないだろ。根本的な問題は何も解決してない。烏間先生はあくまで現場の人間だから、解決は難しい。殺せんせーも、契約があるせいで親に対して強く出れない。

誰かが警戒しないと、取り返しのつかないことになる可能性だって充分あり得る。お前にはそれだけの力がある」

 

開発者が転校生を暴走させて、生徒を人質にとる。妄想レベルのお話だが、できない訳ではない。むしろ、あぁいう大人ほど倫理観も道徳観が欠如してたりするものだ。

 

「偏見だって自覚はある。現実性が薄い話なのも分かってる。それでも、悪い大人を見抜く目には自信があるんだよ。お前の親はソッチ側の人間だよ」

 

「否定はできません。私のルーツを考えれば、あり得ないと否定できるだけの根拠がありませんから。だから、信頼してもらえるように私の大事なものを預かって欲しいんです」

 

「⋯⋯大事なもの?」

 

そう言って、体から手のひらサイズの結晶のような物を取り出した転校生は、司に手渡す。そこそこの重さのガラス結晶のようにも見えるが、ボタンらしき物が一つあるだけで用途が何なのかはよく分からない。

 

「それは所謂自爆スイッチです。近衛さんがそれを押せば、私の機能のすべてがデリートするように出来ています」

 

「それって⋯⋯⋯」

 

「はい、お察しの通り。それを押せば、私は死にます」

 

「押せないって見越してコレを渡したのか?それとも偽物?」

 

「後者に関しては殺せんせーに既に相談済みです。偽物かどうかは殺せんせーに確認すればすぐにわかります。

前者に関しては、あり得ないと考えました。その警戒心の根本にあるのはE組を守ろうとする意思にあると考え、近衛さんなら、何かあってもきっと押してくれると信頼して預けました」

 

他人と言っていい仲の相手に自分の心臓とも言える物を差し出す。とても正気とは思えない。だが、嘘をついているなら殺せんせーに確認すれば分かることだ。

 

「⋯⋯⋯⋯ここまでされて、どう否定すればいいのか。俺にはわかんねぇよ」

 

司は複雑な心情を隠し、何とか表情を取り繕って言葉を絞り出す。

 

「では、これからよろしくお願いしますね。司さん!」

 

「あぁ⋯⋯⋯⋯もう帰るわ」

 

自分の心臓とも言える物を預けたというのに、普段と変わらない笑顔を転校生は見せた。司はその顔を見ることが出来ず、自分の荷物を片手に教室を去る。

 

「あぁ⋯⋯クッソ。何様だよ俺、人のこと言えねぇ立場で何やってんだ。雪村先生⋯⋯⋯やっぱり間違ってたのかな。前みたいに教えてくれよ」

 

見上げた先の空に、答えてくれる誰かはいない。夕日が落ち、暗い夜に浮かぶ三日月が薄っすらと司を照らすだけだった。

 

 




[律の自爆スイッチ]
ちゃんと本当に機能するスイッチ。司の指紋ではないとスイッチを押しても機能せず、10秒以上長押しすると完全に律は消える。

Q.心臓を渡されてどんな気持ちですか?

A.すっげぇ複雑な気持ち。まさかここまでやるとは思わなくて、ドン引きと申し訳無さと騙そうとしてるんじゃないかっていう考えがごっちゃになったわ。

暗殺教室を知っていますか?

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  • 漫画だけ見てる
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