陸でもアビサルハンターを作ろう!(先史文明人監修) 作:最大の敵はウルピ
「おや、フィールドワークに来てみれば。ずいぶんと面白いことをしていますね」
それは偶然だった。深海司教の一人を襲撃し、その実験場から成果を回収していた時のこと。
彼らが「"祝福の子"を守れ」だの「我らの楽園を齎せし者」がどうのと言っていた。てっきり、使者ことシーボーンのことだと思っていたのだけれど……
「角はないですけど、サルカズの女の子ですね。見た目は私よりちょっと上って感じでしょうか。鉱石病の兆候もなしと。彼らに関しては詳しくないんですが……SPCT」
『ブラッドブルート。サルカズ十王庭が一つ、鮮血の王庭。基本情報を共有しますね』
手術台に縫い留めるように長大な杭で腹を貫かれた彼女の周囲は、溟い青に輝いていた。明かりのない海底洞窟の中で、彼女から溢れる"血"こそが光源である。一糸纏わぬ白の少女がぼんやりと照らされる様は、どこか神秘さすら纏っていた。
「
うわごとのようにぽつりと吐き出される言葉。無数の注射痕や暴れた痕跡の残る手術台からは、よくある実験体の一人と思うかもしれない。
「吾、ですか。自己認識は確立したままなんですね。血液から情報を読み取るだけあって、大群の呼び声を単なる外部入力として処理しているのでしょうか」
ゴーティが言った通り、吾という自己を認識している。溟痕を作り出していることから、おそらくはシーボーン化しているのにも関わらずだ。
「汝は、あの下賤な者と違うな……吾の、この杭を……抜くのだ……」
「わかりました!」
好奇のままに、ゴーティは少女に刺さった杭を引き抜く。手術台でぐったりと倒れ込んだ彼女の傷は、自らより流出させた溟痕によって癒された。
「ぁ、あぁぁぁ……なんだ、これは」
どうやら、彼女は自身の身に起きた変化を知覚していなかったようだ。鮮血は溟い青を讃え、君主の如き紅に戻ることはない。
「汝は、汝は何か知っているのか! 話せ!」
「もう回復したんですか」
掴みかかる少女だが、その力のあまりゴーティの服を引き裂いてしまう。その勢いで地面へと倒れ、咄嗟に着いた手が床をひび割れさせる。虚ろな赤目に宿る困惑を解消させようと、彼女は眼前の裸に剥かれた少女へ目を向けた。
「……それで。汝は何者だ」
「私は、ゴーティ・フラウィス。ここの研究成果を奪いに来ました!」
「う、奪い……いや、吾もその恩恵を受けた一人である以上、それは良い。それよりだ。汝は研究成果と言ったな。であるならば、吾の身に何が起きたかを語るが……いや、よい。血を寄越せ。それで事足りる」
手術台から降りて、手近な椅子に腰かける。横に座れと促せば、ゴーティは従った。私としても、断らせる理由はない。
「そうですね。一から説明するのも面倒ですし……んっ」
ブラッドブルードの少女がゴーティの手を取り、その手首に傷をつける。血に触れ、少し眉を顰めた後に表情を緩めた。
「ふふ……ははは……っ、くははははは! そうか、そうか! は、ははは……は……」
「──全く、よもや吾が巫術を使えなくなっているとは。この溟き血より眷属を作り出すこと、他者の血を糧とすることこそできているが」
溟痕からもシーボーンは生まれる。血の方は、ブラッドブルードとしての感覚とシーボーンの同化が合わさった結果だろう。ここまで元の種族の特性が残るのは珍しいが……
「吾が血に混ざらんとするのは赦す。我もまた、雑駁な"サルカズ"だ。気に食わぬが、吾自身の力がそれを解消するに及ばぬうちは受け入れるしかない。それがどれほど自らを貶めるかを理解していても」
「しかし、しかしだ。吾を変え、吾自身を剝奪せんとする試みに対しては、その血を排することによって抵抗せねばなるまい」
指した先には、溟痕と同じ色をした血晶。もしかして瀉血?
「感覚で臨界点ギリギリに留まったんですか! やっぱりバカにならないものですね、個人のセンスって」
実験体として、シーボーンの細胞は少しずつの投与だったのだろう。そうして侵された血を排出したりして完全な同化を防いだということか。
「今もなお、吾を取り込まんとする囁きは聞こえてくる。古き巫術はともかく、科学技術に関してはさほど詳しくないが。ゴーティといったな。汝ならこれを止められるのだろう?」
「今は機材が足りませんけど、将来的には必ず! 実際、私もやらなきゃ同じように変容を遂げちゃいますから」
利害が一致しているのだと、合意は形成された。頷くゴーティへ、ブラッドブルードの少女は笑みを返す。
「吾を、ヘルガと呼ぶがよい」
「そういえば、ヘルガさんはなぜイベリアに?」
「血より知見を得られるのならば、世界を巡らぬ道理がどこにある。サルカズの傭兵が血を流す戦場で、如何にして銀槍のペガサスや蒸気騎士の屠り方を学べるというのだ」
「あるいはカズデルに……かの地に不穏な気配の漂う今、敢えて異族と言おうか。異族の血が流れるとして、それは吾を強大にせんとする糧足り得るか?」
「いずれも、否。他者の戦争の中で殺し合う同族や、諍いで殺される程度の異族の血に期待などせん」
サルカズであるという判別は、主に角で為される。ブラッドブルードの外見はそれを有しておらず、自身は感染者でない。であればそうして諸国を見て回るのも比較的容易であったとヘルガは語る。
「吾を攫った者。彼奴等は妙な血をしていた。よもや吾を侵そうとしてくるとは。その対処に手間取っていた隙に……忌々しいが、囚われたのだ」
「でしたら、このあとはどうするんです?」
問いかけに天井を見上げ、長考している。ゴーティはさらっと流していたけど、サルカズの王庭に属していてアーツが使えなくなるの、だいぶ問題じゃないだろうか。できることは変わっていないとはいえ、今までの鍛錬が全部否定されるようなものだし。
「……鮮血の王庭は、浄化を追い求めた。源石の影響から脱したという意味では、吾は一つの解を得たと言えるだろう」
「王庭に属する者は血に限らずとも、主君に捧げられぬものなどありはしない。かの囁きは気に食わぬが、いいだろうとも」
「吾は、自らの信ずる道を進む。それが誤った進化の道であるならば、それによって王庭の者は別の純化を選ぶことができるのだから」
ただ、まあ。そもそもとしてシーボーンになるギリギリで踏みとどまれるだけの理性を持っているのだ。心配はいらない。
「汝等にも付き合ってもらうぞ。仮に、吾の道が正しければ。とても、とても長い付き合いになるであろうからな」
「よろしくお願いしますね、ヘルガさん!」
ヘルガは自らの答えを以て、余裕を取り戻したのだろう。優美さと嗜虐を湛えた笑みを浮かべている。
「殺戮と征服こそが、ブラッドブルードの古からの伝統である。汝等の目指す先は吾の望みであるが故、その道行を共にしようではないか」
『私のことも認識したんですね。声は聞こえないでしょうけれど、会話しているところを読み取ったのでしょうか?』
確かに、長い付き合いになりそうだ。
「とりあえず、服を……サイズがちょっと合いませんね。ズボンはともかく、上が」
「当面は、胸に適当な布を巻いて白衣を羽織っておけばよかろう。それこそ先に破り捨てたような。あとは、適当な都市で服を買えばよい。その時は吾がその服を着て、汝は鞄の中にでも入っておけ」
……それはクルビアに帰るための服を調達するところから、という意味も含めて。
帰ってからは、鮮血の王庭が着るのに恥ずかしくないものをと、EPOQUEの服を何着か躊躇いなく注文していた。……あのブランド、けっこう値が張るんだよね。似合っていたからいいけど。
ゆかいななかまたち
スペクター/SPCT
ルゥ先輩が好き。実現する可能性のない希望はある種の嘘だが、実現する可能性があると知っているので再会を諦めない。1083年(ライン生命医科学研究所設立)以前にライン生命の就職に向けて行動できるのが強み。
ゴーティ
道徳がどうかしている。宇宙を再構築するのに浪漫を感じたので計画に賛同した天才。原型:深溟のミキサー/験潮の斥死者/小核のデポジッター
ヘルガ
道徳がどうかしている。ブラッドブルードが