陸でもアビサルハンターを作ろう!(先史文明人監修) 作:最大の敵はウルピ
「
デュアルモニター、メカニカルキーボード、ファイルボックス。ブラックで揃ったシステムデスクとワークチェアは、必需品としてそれなりに高いものを買っていた。机と椅子はサーミの有名家具ブランドのもので、置かれているシングルベッドもそのブランドのものだ。
作業中のゴーティを、ベッドから立ち上がったヘルガが覗き込む。サルカズ語、古代サルカズ語、ヴィクトリア語、カジミエーシュ語、ガリア語。旅先で困らないようにと、この部屋で彼女は様々な言葉を用いている。最近は自身の習熟のためエーギル語を用いていたが、こうして彼女が好んで使う古代サルカズ語で話しかけてきたあたり、それはもう済ませたのだろう。
「えぇ、はい。マイレンダー奨学金の申し込みですね。私は、社会的信用はありますから」
『マイレンダーと名が付いている時点である程度の警戒は必要ですが、多少優れている程度の一学生を気にかけることはないでしょう。イベリアへの渡航歴も、故郷へ帰っていると見なされるでしょうから。……イベリア出身のエーギルが、里帰りをしたいかという点もありますが。懐かしむ思いを否定することはないでしょう』
そう、イベリア。そしてそれが、わざわざ手狭なアパートに住んでいる理由でもある。
「イベリアからこっちに来たわけで、公的に貯蓄しているお金はそんなにないんですよ。薬品関連のあれこれも、私自身にはそんなに入ってきませんしね」
「"利益を掠め取られている"の間違いではないか? 吾も汝も、究極的には社会やそれに伴う他者からの評価などどうでもよくなるが。畢竟、それまでは社会に属する必要があるわけだ。そこで吾等に及ばぬ弱者に不利益を強要されるのは好かぬぞ」
『ライン生命への就職後は、研究プロジェクトという形であちらの機材を使えますが。研究や遺伝子嵌合研究に用いるシーボーンは、非公式あるいは直接我々の手によって運ぶ必要がありますからね。イベリアではなく
近いうち、私達はシエスタへ向かうことになる。これは私の知識にしかなく、現在は誰も知り得ないことだが。あの大きな湖の一部は、"海"へと繋がっているのだから。シーボーンの回収ルートにはちょうどいい。そのためにも、旅行のための金銭は貯蓄しておく必要がある。
「というか、汝ならトリマウンツ工科大学に入る程度は造作も無かろうて。吾はよく知らぬが、なにやらトリマウンツの企業に入社する計画なのであろう。さっさと家を借りるなり買うなりせよ。深海教会であったか。あれらから奪った金もあれば、」
そのうち移動都市であるトリマウンツに引っ越すからと、家具は最低限しかこのアパートに置いていない。それが気に食わないのだろう。早急に拠点を手に入れてインテリアを充実させろと言っているわけだ。確かに、深海教会から奪って換金したものや金自体もある。問題は、これが綺麗な金ではないということだが。
「そも、かの連中から一部の実験機材を収奪したのだろう。あれを組み立てる場所も要する」
「言われてみればそうですね。なので、ちょっとした裏技を使ってお金を稼ぎましょう!」
「ほう、裏技とな。賞金首を狩るというわけでもなかろう」
何をするであれ、可能であるという信用はあるのだろう。続きを促す様子に、ゴーティは簡潔な言葉で伝えた。
「石碑を使った未来予知で、騎士競技の予想を当てます」
「イカレておるのか?」
想定していたのとそれなりに乖離した提案だったせいで、ヘルガはあっけにとられている。
「いえ、去年は相当に稼げましたが。やっぱり学費やドローンなどの機材の更新で出費も多かったので」
だいぶ金がかかったのだと語るゴーティ。実際、高性能のドローンは高い。機材の運搬に関しては精密な動作が要求されるので、要求されるスペックと金額も相応のものとなるのだ。
「待て、去年だと? 1081年というと……」
カジミエーシュについて多少なりとも知っていれば思い当たる時期だ。なにせ。
「はい! メジャーで全試合的中と三連単を当てました!」
三年に一度開催される、騎士競技メジャーがあったのだから。1081年は第十九回メジャー本戦が開催され、黒騎士が重装甲の剛騎士と決勝で闘って優勝している。アーツ無しで3連覇することになる黒騎士だが、今回が初のメジャー進出かつ優勝だ。試合中に一切使わないこともあり、払い戻しは凄まじい額となっていた。
「……"黒騎士"。奴は強い。アーツ無しであれほど卓越した戦闘能力を誇るとは」
「アーツが使えなくなった私達にとって、他人事じゃないですよね!」
にっこりと笑うゴーティに、頭が痛いとヘルガは手で額を覆う。
「理性では、鮮血の王庭がより強壮であらんとする道の一つと割り切ったがな……感情という面では、吾はまだこの身に起きたことを納得しきれてはおらぬ」
「あちゃー、神経を逆撫でしちゃったようで」
奨学金の申請を終えて、カジミエーシュ旅行へのページへタブを切り替える。特にガイドや通訳を雇うつもりもないので、単に交通手段の検索だ。
「汝の述べた通り、メジャーの予選やは2年後であるぞ。当然ながら、吾は金策のみを目的としてカジミエーシュに長く留まるつもりはない」
「なので、団体混戦の三連単です」
団体混戦。それぞれの騎士団から一名ずつ選手が出場し、数十人で一斉に試合をするというものだ。出場するのは15組。一対一や二対二の決闘でどちらが勝つかの二択より的中時の払い戻しは大きい。
『去年も言いましたが。文明の力は必ずしも高尚な目的にのみ用いなければならないわけではありませんよ。あなたたちも、掲げる目的が先史文明の人間である私と一致しているが故に道を同じくしているのであって、先史文明を崇拝しているわけではないでしょう』
「使えるものは使いましょう! 私たちは、面白そうだったり目指す先がだいたい同じだったりするから一緒にいるのであって、別に先史文明に対して食事の前に祈りを捧げたりはしないんですから。文明そのものにイメージなんてないですしね!」
目を閉じ、なにかを考えこむヘルガ。それも数秒後には終わり、いつもの表情に戻る。
「……よかろう。下らぬ戯れであるが故、吾も共に行こうではないか。暇つぶしにはなろうて」
「一つ忠告しておくのであれば。カジミエーシュにおけるゴシップ誌ほど読む価値のないものはないぞ」
トランクケースに荷物を積めて、だいたいの用意は完了。都市部なので、貨幣も龍門幤のままでいい。
「遠出するのにドローンを持って行かないのが久しぶり過ぎて、これでよかったか不安になりますね」
「過激なファン同士の諍いに巻き込まれたとして、吾や汝は身一つで容易く制圧できるだろう。あるいは騎士の一人でも嵌める為に作り出された混乱でもあれば、無聊を慰めるにはちょうどよいがな」
ゴーティは普段着にしているMARTHEのスポーツウェアを。ヘルガはEPOQUEシリーズニューモデルの服を着て準備完了。改めて見ると、『次のおやつは』と『我即ち潮汐』の服だということに気付いた。
「さて。結果の分かり切った賭けであるが故、道中を楽しむほかあるまい」
カジミエーシュ観光中に、先史文明の力で騎士競技団体混戦の三連単を当ててクリーンなお金を稼ぎます。
文明に対するイメージのプラスマイナスにこだわる必要はないって、『生活の死』に寄せられたコメントに書いてあったから……