陸でもアビサルハンターを作ろう!(先史文明人監修)   作:最大の敵はウルピ

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カジミエーシュ旅行後編です。


観光、あるいは将来の算段

 端末で入力したこともあって、払い戻しも電子上で行われる。これで窓口での払い戻しであれば、あるいは大量の龍門幣を持ったカモとして絡まれたかもしれないが。平穏であることはありがたいけれど、ヘルガはどうにも退屈を持て余すらしい。

 

「素人の殴り合いを見てもつまらぬだけだ。資金の確保は済ませた故、ホテルに戻るぞ」

 

 団体混戦。様々な騎士団から騎士が出場することから、会場に集まる者の目的も多様となる。観光、騎士に賭けて金を稼ぐこと、騎士の応援。特に最後のひとつは、こと試合終わりに騒乱を持ち込む点で優れていた。ふたつの騎士団のファンがそこにいれば、試合の熱狂から抜け切れていない彼らは容易く言い合いを始める。あとは、どちらが先に手を出したかなんて関係なくなる程度の乱戦だ。

 

「普段なら関わる理由も無いが……いや、訂正しよう。こと此度に限れば、少しばかり体を動かしても良いやもしれぬな」

 

 少なくとも、手袋を着けて源石結晶を握る人物を見た以上は。

 カジミエーシュの騎士競技会に感染者の参加が認められるのは、1094年とまだ先のことだ。そして、この制度については感染者であるとされて騎士競技を追われた耀騎士の影響があることは推測に容易い。つまり。

 

「騎士の追い落としに、鉱石病はちょうどいいわけですね!」

 

「素人よりは気配の消し方に慣れている。されど、その程度か」

 

 元か現在もかは知らないが、あれが騎士であることは間違いない。目的は……

 

『灰嶺騎士の感染が目的です。同じ騎士団の同期のようですね。動機は嫉妬。私怨であることから、無冑盟からの依頼というわけではなさそうです』

 

 軽く演算すれば、ターゲットと動機は分かる。人混みに紛れて、今まさに会場を出てきた灰嶺騎士に源石結晶を刺さんとしていることも。

 

 灰嶺の騎士称号の通り、彼のアーツは灰を使う。主に盾や壁として用いており、団体混戦でも一対一の状況を作り出すことを好む"騎士らしい好青年"。

 

「アイドル売り、が正しいでしょうか。演出が上手いですよね」

 

 騎士として誇りある決闘と厳粛な決着を。そう高らかに叫ぶ彼は、ムーンクラスタ騎士団の人気騎士の一人だ。

 ムーンクラスタ。食品会社のスウォマーやファッションブランドのマルトなどがスポンサーを務めている騎士団であり、騎士競技よりもアイドルとしての活動に力を入れているところだ。

 

「勝利記念のステージであったか? そのためにも、ファンに顔を見せる必要がある。そこを狙われたのだろうな」

 

 広告料とスポンサー料がメインの、商売人の集まりと言われることもあるが。騎士団百強に入る程度には実力を示す必要がある。ムーンクラスタ騎士団の団長と並んで、灰嶺騎士は騎士競技で力を示す役割を担っているわけだ。

 

 それが、市街での不意打ちに対応できるかは別の話だが。

 

「目障りなんだよ!」

 

 叫びながら源石結晶を振り下ろす男性。……難点は、そうして暴力を行使すれば、より大きな暴力に制圧されるという点だ。

 

「な……っ!?」

 

「斯くの如く動機を口に出してくれたこと、感謝するぞ。吾自身は気にせぬといえど、罪を押し付けられれば些かに面倒なれば」

 

 動揺する灰嶺騎士と、下手人の手首をつかむヘルガ。一瞬あれば距離を詰めるのに十分であり、そのまま投げて制圧するまでが一連の動作になることを止められる人物は誰もいなかった。

 背を強く打ち付けて、呻き声を上げる犯人。源石結晶が落ちる音を聞いて我に返ったのだろう。ひとときの静寂は掻き消え、周囲のざわめきが激しくなった。

 

「トーラム……なぜこのようなことをする!」

 

 同じ騎士団に属する者として話す両者は、ステージのセンターを飾ることへの嫉妬やらなにやらと語っている。ゴーティやヘルガは興味を無くしてその場を後にしたが、ちょっと面白そうな会話だった。

 

 

 カジミエーシュの首都、カヴァレリエルキ。その夜景は実に都会的で、代り映えのしない景色に窓の外を長く眺めようとは思えない。

 

「ここより辺境に繰り出し、騎士陵墓より財宝を探すことなどせぬぞ。吾がそのようなことを言い出すやもすれぬと思っていそうであるから、こうして言葉にするが」

 

「まあ、必要であればお願いしますが。私達に必要なものはありませんからね。ブレガオンの鍵も、私達には不要ですから」

 

 ゴーティの言う通り、必要であれば滴水村やモティカ山に赴いてブレガオンの鍵を確保するが。エーギルやシーボーンに関する技術という点では深海教会から奪った資料などで十分に得ている。

 

「同行者として助言するのであれば、後ろ暗い場面に踏み込もうとするのは観光客の悪い癖だ。それがスラムであれ、社会的な暗部であれな」

 

 現地民は踏み込まないような部分に好奇心で突っ込んで死ぬ。そんな様子を数多く見てきたのだろう。実感の伴った声音で言うヘルガに、ゴーティは苦笑いを返す。最終的に文明そのものに喧嘩を売ろうとしているのにと笑みがこぼれるが、変に目を付けられては動きにくいのも確かだ。私達の計画においてカジミエーシュ内に回収しなければならないものはなく、かつて銀槍のペガサスがイベリアの裁判所と接触したことを考えれば、あるいはシーボーンに関して基本的な知識を有している可能性はある。であれば、不要な行動はリスク足り得る。

 

『黒騎士の将来的な三連覇や感染者騎士の参入で変わりゆく制度や力に対する気風を考えれば。強くなれる手段への需要は高まると考えられます。社会の不平に付け込むのは、宗教の得意とするところでしょう?』

 

()()()()()()()()()に、カジミエーシュでの活動を提案してみてもいいかもですね!」

 

 研究に重点を置く深海教会であれば、その成果を奪うが。布教に重点を置くのであれば、別の使い道がある。適切な環境に専門家を紹介すれば、後は成果を待つだけだ。あるいは適当な会社を作るか投資してもいいだろう。他社もするような、企業イメージのための慈善事業。そんなカバーストーリーは、ありきたりだからこそ隠れ蓑にちょうどいい。

 

「であれば、黒騎士の引退前には準備を整えておく必要があるな。スラムを中心に、社会的弱者を対象とした騎士へのスカウト。感染者の騎士競技出場が認められてしまえば、各騎士団が劣悪な待遇でも雇える人材として彼らに目をつける。その前に地盤を築いておいた方が良い」

「祝福を施せば、一端の競技騎士に相応しい力は与えられる。かの最後の騎士と同じものになれると言葉を弄せば、それは栄誉となるのであろう?」

 

 祝福。それは深海教会の言うところのものと、大君の祝福をかけたのだろうか。

 適当な企業の実権を握るか、新たに会社を興すか。カジミエーシュにおけるそうした制度を調べたりするうちに夜は更けていく。最後は石碑を使った演算で利益と目的の達成が可能な手段を選択すればいいが、それはそれとしてこうして話すことは重要だ。効率だけを突き詰めてしまえば、私達の目的の最後で行き詰る。歌うこと。話すこと。生存には非効率的なことを愛することも私達には大切だ。

 

「ともかく、此度の目的である資金の確保は完了した。帰るとともにトリマウンツに拠点を移し、インテリアを揃えるぞ」

 

「リターニア風だったり、イェラグ風だったり、色々ありますからねー」

 

 文明を侵す算段と、明日の生活を楽しむ相談。別にどちらか一方だけを考え続けなければならないわけでもないし。傍から見れば邪悪であろうと、こうして過ごす日々を否定するつもりはない。私だって、店長のところでバイトするのは楽しかったから。




独立血族騎士
ブラッドブルードの大()による祝福を受けたカジミエーシュの独立騎士。きわめて高い生命力を持ち、騎士競技の荒波をかき分けるに足る力を得た。この新たな力を得た者は、大()の慈悲に感謝すべきだろう。
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