陸でもアビサルハンターを作ろう!(先史文明人監修)   作:最大の敵はウルピ

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某バス会社のコラボで海イベ関連情報が出てくる可能性があるので、場合によっては新情報でプロットが爆散します。


引っ越し、あるいは秘密基地作り

 先行研究は、当然ながら公的に認められていなければ意味をなさない。イベリアの錬金術師たちの遺した資料もまたそうであり、適切な機関に提出することが必要となる。

 

「検証データも添えて、住所も……ちゃんと変更した方を書いてますね」

 

 机に置いた封筒には、そうした紙束の原本が入っていた。宛先はマイレンダー歴史協会。鑑定依頼ではあるが、その実態は寄贈に近しい。

 イベリアの黄金時代が大いなる静謐によって終止符を打たれた後、錬金術に関する資料は散逸の傾向にある。それは裁判所が深海教徒と思しき人物を捕らえるにあたって彼らの資料を接収しただとか、あるいは研究を継ぐ人間がいなくなって放置されたままとなるだとかが主な理由だ。ゴーティは集めた成果を公的な物として引用できて、マイレンダーは検証データ付きの資料が手に入る。双方に利益のある取引だと思う。もちろん後に精査はされるだろうが、資料の出処を家の倉庫と言って追及されない程度には。担当者がブリキの探偵かどうかは知らない。

 

 こうして送付するのは、高校卒業に際して論文を出すつもりだからだ。薬学分野である程度の知名度を得たので、遺伝子嵌合研究がこれからのテーマだと公に示す段階に移る。論文の提出先としては、マイレンダー基金学術フォーラムが広く受付を行っていたのでそこを利用。

 

「マイレンダー歴史協会の方からも、案内が来てましたからねー」

 

「どのような内容なのだ?」

 

 引っ越しの準備も終えて、広々とした部屋の中。ふとヘルガが話を振った。

 

「そうですね。本論文では先行研究として、サリアがマイレンダー基金学術フォーラムに提出した論文を扱います」

 

 サリアのYモジュールで書かれていたあれだ。

 

「『バイオマテリアルによる生物の部分的機能の置き換え、或いは再生誘導による方向性改変を用いて、長期的なサイクルで超遠縁の性質を備えた新生物種を創造する』という構想の発展として、SPCTが教えてくれた養育者計画の『集団的進化を個体の突然変異により促進し、個体が抱える難題を集団的知性により解決する』というモデルを提案するという構成で文を組み立てるところまでが前提ですね」

 

「本題はその活用。遺伝子嵌合……論文として公表するのであれば、進化による適切なゲノムの制作と移植による治療か」

 

「はい! ヘルガさんは理解が早くて助かりますね。話していて楽しいです! 嵌合体実験に関してはパルヴィス先生の論文からだいたい引いていますね。あとは、エーギルが行った計画の一つに人口生命関連のものがあったので」

 

 エーギルがアビサルハンター計画を採用する以前、人工生命を用いたシーボーンの行動分析が試みられた。グレイディーアの母であるホラーティアがその計画の支持者であったそれは、細胞融合の臨界点に達した人工生命が急速にシーボーン化したことにより、最終的に研究ドームごと完全に消し去られることになったわけだが。考えるべきは、この動きを深海教会の手先が掴んでいないはずがないということだ。それらの資料の一部は、偶然にも深海教会への襲撃で奪うことができていた。

 長々と語ったが、つまりはありがたく利用させてもらったというわけだ。こっちの資料は表に出せないので、あくまで参考にした程度だが。

 

「随分と完成を急いでいたようだが。卒業に間に合わせるのであれば、まだ猶予はあろう。……学術誌として公表される時期に意味があるのか?」

 

「そうですね。就職を見越して考えると、1083年までに査読が終わるのが理想なんですよ。どれだけ成果を上げても、それ以上に目立つことがあると埋もれちゃいますから」

 

 こればかりは、私の方で1082年内に提出するようにと指示する必要があった。1083年、ライン生命医科学研究所設立。クルビア科学界の新星ふたりが立ち上げたラボとなれば、どうしてもそちらに注目が集まる。

 

「それを送ればそのままトリマウンツの住居へ行くぞ」

 

 


 

 玄関を開けて目に入るのは、エーギル風の照明とヴィクトリア製の家具。かつて栄華を誇った頃のイベリアを思わせる真鍮の色合いが、外界と隔絶した雰囲気を纏わせていた。

 

「さて、ここが吾等の新居だ」

 

 燭台風の装飾用ライトが並ぶ廊下を歩くうちに、その装飾はエーギルの様式へ比重が傾いていく。錬金術師の遺した資料のいくつかには、エーギルについての記録もあった。それを頼りに作られたインテリアの数々は、資料提供者の恩恵として揃ったものだ。

 

「大反乱の後も燻る火種は消えず、ウルサスの家具は値上がりの傾向にある。そうした政変はリターニアも同様に言及できるであろう。そも、リターニアの家具のいくつかはアーツの適性を要する。故、他のインテリアとの組み合わせを考えるのであれば、必然的にヴィクトリアのものが基調となる」

 

 客間も含め、結果的に旧イベリアの様相を呈していることに意味はない。大いなる静謐で滅んだ故郷へのコンプレックスからかつての偉大なるイベリアへ回帰を求めているだとか、そうした感傷は全くゴーティにはない。

 

「以前のイベリアは大地の多くに手を伸ばしましたから。いろんなブランドの家具を合わせて統一性を出すと、かつてのイベリアみたいになっちゃうってだけなんですけどね」

「だから、特に私に気を遣わなくても……って、わざわざ言う必要もないですか」

 

「汝がそうした過去に興味を示さぬことは既に知っておる。強いて意味を見出だすのであらば、エーギルの技術を幾つか用いるのもまた"イベリア"風と見做せるという利点か」

 

 自動分類機能を有するファイルラックなど、エーギルの科学技術を再現した品もいくつか散見される。とはいえ他者に見られても問題ない水準のものだ。

 前のアパートから持ってきた書類をまとめて置けば、分類が始まる。研究に関連するものは客間ではなく別の部屋に纏めているので、こちらに置くのはあくまで日常生活に関連するものだけだ。

 今はまだ、私達の進路にとって重要な情報──ライン生命医科学研究所が立ち上げられたというニュースが届いてはいない。ただ、進路と区分された空の棚が最初に使われるのは、その情報であることは確かだった。

 

 

「それじゃ、始めますね」

 

 ゴーティが意識を向ければ、土は融解するかのように変質する。微生物操作能力による分解と環境改変。それによって家の地下に空間を作り出し、壁を固着させて崩落を防いだ。

 次いで、光のないその場所に溟い青の光が灯る。ヘルガを起点として広大な空間を覆うそれは、前世における粘菌コンピューターが近いだろうか。溟痕そのものを利用した回路が、地下へつながる道の開閉を含んだすべての機能を統制する。溟痕に干渉して床をずらしたりしているので、外から見て不自然さもない。その場にふたりのどちらかがいて開けようという意志が無くては絶対に開かないこともあって、セキュリティとしては万全だ。

 

「吾も完了だ。群として権限を付与……これよりが大変であるな」

 

 ふたりが大きな鞄から取り出すのは、これまで深海教会から奪った実験機材の数々。エーギルの技術のうち、陸上文明の技術水準を大きく超えるもの。それらがこの場所に組み立てられ、環境が構築されていく。

 

「グラビティレールの形成を完了した。機材は全てこのレール上に置くがいい。配置は後で変えられる」

 

「SPCT、これの組み立て方って……」

 

『共有を実行』

 

 こうして作業をしていると、思い出すのはあの船だ。──ロドス。私とルゥ先輩で訪れたこともあったっけ。

 バベルが発掘を完了するのは、1086年だったと記憶している。そのときにはもう、テラの陸上文明のレベルにあった《《改装》》をされてしまっているのだけど。

 

『さて、設備の配置は完了しましたね』

 

「終わりましたー! せっかくですし、ちょっと使ってみましょう!」

 

 休眠ゾル入りのベッドへ飛び込めば、ゴーティはそのまま眠りに落ちる。今までここまで大規模に自身の機能を行使したことがなかったせいか、多少なりともゲノムへの侵食が見られた。溜息を吐きながら椅子に座るヘルガは、横たわる少女の顔に視線を向ける。

 

「……不便なものであるな。吾と汝が思考と意識を密接に共有するには、斯くの如く触れ合わなければならぬというのは」

 

 つう、と。呼吸で上下する胸に爪を立て、指を動かす。赤い線となった傷口に口をつけて血を啜れば、彼女の記憶と思考が重なった。

 

「理解はしているとも。汝はその石碑と繋がるよう作り直された。故に大量の情報の処理をこなせるのだと。仮に我が汝と同等の権限を得たとして、意識の消散を迎えるのが先であろう」

「だからこそ。吾はあの計画に乗るのだ。ライフボーンといったか。あれを用いて、ファーストボーンと成る。そうすれば、吾は汝と同じ視点で共に在れるだろう?」




新居
だいたい狂人号。

地下の秘密基地
インテリアの『アビサルハンター研究所』がベース。
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