自分の汚さが嫌いだった。それは転生してウマ娘「カツラギエース」になったとしても変わらない。ただ...変えてくれる光は、昔に見つけていた。

1 / 1
ネガティブな人間がカツラギエースに転生したせいで、ウマ娘として走るのが精神的に難しくなってしまった。シービーはエースのことを一番に考えながらも、また一緒に走ることを夢見て今日も理由をつけて彼女の部屋に赴く。


アタシのことを好きになってよ!エース!

 フードが邪魔だが、今これを脱ぐわけにはいかない。人混みの中に...何とか逃げなきゃ...何とか...。

後ろを振り向きたい欲望に駆られるが、もしかしたらすぐ後ろに居るかも、今まさに肩に手が伸ばされているかもと思うと、どうしても恐怖が勝る。

 

 何人の肩とぶつかった?その度に相手に睨まれて、舌打ちされる。だが誰も罵ることをしない。怖いからだ、見知らぬフードを被った女に喧嘩を売ることが怖いからだ。

 

...臆病者どもが。

 

違うな、私が汚いから、みんな私を避けるんだ。そんなことわかってる。でも...他人のせいにしたい、落ち度を、負けを認めたくない。私は汚くなんて...ない。

 

 

はぁ...はぁ...はぁ...

 

 またここだ...ネオンが光る路地の裏、路地裏で生きてきた私には、ここがふさわしい。

煌びやかで賑やかな路地、綺麗な場所。その裏の薄い光が届くだけの...暗くて、汚い場所。

 

...

 

 

 「おい!君!君!起きたまえ!」

 

っ!?警察!?嫌だ...嫌だ!!

 

「!?待て!...逃げた、対象で間違いない。追うぞ!」

 

...

 

 

 はぁ...はぁ...はぁ...

また息切れだ。廃ビルの非常用階段、たかが五階分登っただけで心の臓が張り裂けそうなくらい痛くなる。

 

 屋上に着くと、朝焼けの空がネオンの光と不思議にも調和して、幻想的な美しい風景となっていた。廃ビル故に、落下防止の柵は錆び付いて茶色...!ウッ...ぐ... はぁ...はぁ...。私と同じで、汚らしい色に劣化していた。

 

綺麗。

 

 

 ボロッ...

 

え?...あぁ、...。 劣化していたのは、柵だけじゃなかったみたいだった。

ひび割れたコンクリート塊と共に、ネオン輝く街の方へと落ちていく。

そう言えば、国際宇宙ステーションとかは常に落下することで無重力になっていると聞いたことがある。

みんなも一度経験してみるといい。できれば、真っ当な方法を使って欲しいが...。

 

 

 「きゃあああああ!!!」

 

 ああ...生まれ変わっても...多分私は汚らしい人間のままなんだな...

汚い...汚い...汚い...汚い...

 

 

 

...

 

 

 

 「おはよう!おはよう!!」

 

 そうか、また夢だったのか。

 

「おはよう!エース!」

 

 

 いい加減、毎晩のように見るこの悪夢にも飽きてしまった。しかし、何度見ても、飽きたと心底思っても、その生々しさは私の心の中の汚れを露にする。

 

「おはよう、シービー。いちいち起こしにこなくたって良いのに...私は、一人でいいよ...」

 

「だって...『同部屋の人がすっごくうなされてて、起こしても起きない〜』って泣き付かれたんだもん」

 

、、、私はそんなにうなされていたのか、まぁ、無理もない。あんな夢...あんな夢...。

 

 黒鹿毛の長髪、毛先が跳ねてはいるが整えられた髪の毛。奥が覗けそうなほどに澄んだ、緑の瞳。私とは違って...見惚れてしまうほどに美しくて綺麗なウマ娘。それが今目の前にいるミスターシービーだ。

そして、純水かのような、澄んで純粋な心が極めつけだろう。

 

 対して私はどうだ?

 

今更だが、よくわからない理由でウマ娘という謎の存在に転生し、天性の美貌を手に入れた。が、相変わらず心の中はあの時の汚らしい自分のまま...。そしてシービーに多大な迷惑を...

 

 「はい!」 パン!!

 

私は唐突に目の前で勢いよく合わせられた手に驚き、見たくもなかったシービーの可憐な顔を見上げた。

 

「エース、前に言ってたよね?『自分が醜くて、嫌いで嫌いで仕方ない』って」

 

 私はそんなことをシービーに言った覚えはない。が、常日頃から私が心の隅で思っていたことだった。

 

「考えたんだ...。自分が好きになれないなら、無理に好きにならなくていいんじゃない?」

 

...っえ?

 

「まずは他人から!、身近な人から好きになってみたらいいんじゃない?そうしたら、その人となら、また走れるんじゃないかな!」

 

 意外なことを言われた。と思ったが、よく考えればシービーがそんな結論に至ることくらい、共に過ごした時間が短くてもわかる気がする。

そんなやつだ、ネオンの街の気持ち悪い明るさじゃない。あの日見た朝日のような...ネオンの光まで包み込んで、見惚れてしまいそうなものに変える力を持つやつだ。

 

「まずは、アタシのことを好きになってよ!エース!!」

 

 目の前に、綺麗で美しい手が差し伸べられる。思わず掴みたくなる。そんな手が。

 

「...」 しかし、掴もうとしたところで我に返る。

 

やっぱりだめだ。私の...罪を犯した汚れた手、汚物に塗れた汚れた体。シービーを汚してしまうのは、なによりも嫌だった。

 

 

 ガシ!!!

 

「!?」

 

 そうだった。ネオンの光を包み込むなんて、生やさしいものじゃなかった。

汚らしい影でさえ照らして包み込んで、綺麗な景色にそのままの姿で置いてくれる、優しい光。

 

 

 「そしたらさ!勝手に自分のことも好きになってるよ!だって!」

 

その光の象徴。私に向けられる、最高に綺麗な笑顔。

自分の顔も、思わずそれにつられて久方ぶりに綻ぶ。

 

「だってね!  アタシは...」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

END




読んで頂きありがとうございます!

シービーがエースの気持ちを知っていたのは、前に部屋に行った時に寝言で「私は...汚くて醜い私が嫌だ...嫌いだ...」と言っていたのを聞いたからです。

エースの過去ですが...ちょっと重すぎるので割愛しました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。