勇戦のアルヴヘイム   作:葵衣なつ

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第10話『私は』

 星歴10017年7月27日午前11時24分、メルタタウン。

 

「ひえぇ…この町、高低差が凄い激しいですぅ…」

 

「ごめんね、メイ…私の怪我が酷いばかりに…」

 

 私とメイは今、メルタタウンの領主に殴り込みに行ったアルと白炎の二人を止めるために領主邸に向かっている。

 

「いえいえ…その怪我でご主人様を歩かせる訳には行きませんし、重力操作である程度は軽くしてるので問題はありませんよ…へへへ」

 

 私は歩いて向かいたかったのだが、メイが怪我が悪化するといけないと言うので背負ってもらっている。

 

「…にしても領主邸が渓谷の上にあるとは…。ぜぇぜぇ…」

 

「重力操作で上まで行けないの?」

 

「あ…それはできません…。重力操作…『グラビティ・ゼロ』は原則真上もしくは真横、真下に重力を発生させることはできるのですが…途中で重力の発生場を変えることはできないので…。訓練すればできるらしいですが…ごめんなさい」

 

 たしかにこの場でグラビティ・ゼロで真上に浮いても何かに掴まらないとそのまま落ちるだけだ。

 

「…てことはこの坂を少しずつ登っていくしかない…か」

 

「ですね…はい…」

 

 ◈◈◈◈◈

 

 あれから30分ほど歩いた後、お腹が空いてきたので近くにあった定食屋にお邪魔した。

 

「ここのご飯、知らないものばかりです!」

 

「メルタ草の山羊肉包みに東渓谷鳥の南蛮焼き…。これは迷うね」

 

 どれも美味しそう…。

 

 全部頼もうかな、と悩んでいると後ろから何やら硬いものを投げられた。

 

 なんだ?と振り向くと年端もいかない少年がこっちを睨みつけながら立っていた。

 

「お前、外の町からきたんだろ!」

 

「…?まぁ、そんな感じ…かも?」

 

「やっぱりそうなんだ!あいつの仲間なのか!出ていけ!」

 

 仲間…?アルか白炎がなにかしたのだろうか、と呆然としていると少年は続けて発する。

 

「この、人殺し!僕の父ちゃんを返せ!」

 

「え…」

 

 人殺し…その言葉を聞いて忘れようとしていた記憶が脳裏から引っ張り出される。

 

 お父さん…お母さん…義理とはいえ私のせいで死んだ人。

 

 記憶はないけれど私の…唯一の親。

 

「あ…え…」

 

 なにか、目の下を水のようなものが伝う。

 

「ごめ…んなさ…い、お父…さ」

 

「…ご主人…様?」

 

 ◈◈◈◈◈

 

 ご主人様が何やら泣き始めました…。

 

 お父さん…?何か、あったのでしょうか…。

 

 そういえばわたしはご主人様の家族構成などを知らないので何故泣いているのか、推測でしか判断できません。

 

 でも、ご主人様はきっと…。

 

 とわたしがご主人様にかける言葉を模索しているとカウンターの奥からこの店の店主らしき女の人が見えた。

 

「何やら騒がしいと思えば、またあんたかい」

 

「あ、おばちゃん」

 

「カンタ…あんたまた…」

 

「だって!あの今の領主がきて…僕の父さんは…!」

 

「あ!…あの、そのことについて少し…」

 

 聞いた話によるとどうやらこの…メルタタウンの領主はつい最近、二週間前に変わったと言っていた。

 

 そして、その後すぐに男は全員が鉱山で働くようにいわれ、その一週間の間に全員が不慮の事故で亡くなったらしい。

 

 その証拠に確かにこの町で見かけた男性は年端もいかない少年たちと老人のみだ。

 

 この事故は噂では現領主の仕業と言われており…というかおそらくそうだろう。

 

 なら、何故そんなことを…?

 

「…メイ?」

 

「あ!ご主人様、大丈夫ですか?」

 

「うん…」

 

「ではこのパンを…」

 

 ご主人様は結局店の中で泣いた後、寝ていたので何も食べていない。

 

 なので店を出る時店主にお願いしてパンを少し分けてもらったのだ。

 

「…私って、生きてていいのかな」

 

 ご主人様は、パンを食べながらわたしにそう聞いてきた。

 

「…」

 

 わたしは、ご主人様のことを何も知らない。

 

 だから、綺麗事を言ってもきっと無意味だ。

 

 ご主人様は…もし、わたしが思った通りなら…きっとご主人様はそれほどまでに親へ罪の意識を感じているのだから。

 

「ご主人様…は、どうしたいんですか?」

 

 今は、ご主人様の意見を尊重する…それがわたし、メイ・クロスフォードにできる唯一のことだから。

 

 ◈◈◈◈◈

 

「私は、どうしたい…」

 

 私はきっと、どこまで行ってもきっと私自身のことを許さないだろう。

 

 だから、私ができる親への贖罪はなんなのだろうか。

 

 生きることなのか、死ぬ事なのか…私には分からない。

 

「私は…、小さいことに親を亡くして、親と言っても義理の、なんだけどね…。」

 

 メイはただ黙って頷いてくれる。

 

 私のことを聞いてくれる、それが今はただただ嬉しかった。

 

「親は…その当時、村が不作で金もない。そんな時に私を拾って、私に数少ないお金で…。その後に親は死んじゃって、そしていつの間にかスラム街にいて…」

 

 私は、そのまで言うと一度口を閉じた。

 

 そして、私は今まで私自身に思っていたことを吐露した。

 

「なんで私は生きてるんだろう!幸せになっちゃダメな人間なのに…なんでこんなにみんな優しくしてくれるんだよ…!私はっ!人殺しなのに…っ!」

 

 とそこまで言ったところでメイが遮るように話を始めた。

 

「…ご主人様、この世に…生きちゃダメな人間なんていません。それに…ご主人様の両親はきっと、小さかった頃のご主人様に生きて欲しかったから…じゃないですかね…わたしにも、両親の本心はわからないですが。でも、きっと生きて欲しくてそうしたんじゃないですかね…」

 

「生きて…いいの…?」

 

「いいもなにも…わたしが、ご主人様に生きて欲しいと…。そしてきっと義理とはいえ両親も同じ気持ちだと思いますよ」

 

 そうか…私は、許して欲しかったんじゃない。

 

 生きていいと、言われたかったんだ。

 

 誰かに、生きていいと。

 

 この、私の罪悪感は一緒消えないだろう。

 

 だけど…今はただ、生きていこう。

 

 生きていいと、言ってくれる人がいるから。

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