勇戦のアルヴヘイム   作:葵衣なつ

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第29話『月の光に咲くは星』

 スラム街で生きていた頃の私は何者でもなかった。

 

 でもあの日、アルが私を連れ出してくれてから私は『私』になれた気がした。

 

 それからメイや白炎、ヨナさんに出会って人の温もりを感じて、これからもずっと一緒にいたいと思えた。

 

 ─────だから、みんなに危害を加える者は全員倒さなくちゃ。

 

 私から全てを奪おうとする者を殺さなくちゃ。

 

「月ノ神ガ命ズ」

 

 あの黒い服の人たちはアルを殺そうとしてた、殺さなきゃ。

 

「黒キ服ヲ着ル者ハ攻撃ヲ辞メヨ」

 

 これで一方的に殺せる、撃とう。

 

「…めろ」

 

 私が人差し指を黒い服の人達に向けた瞬間、頭の中に誰かの声が響いた。

 

「やめろルナ。ただ感情のままに、月詠命を制御しきれんお主に撃たせる訳にはいかぬ」

 

 その言葉と同時に指を鳴らす音が聞こえ、目の前が光で包まれる。

 

 光が消え、恐る恐る目を開けるとそこにはアルと黒い服を着た人達、メイが時が止まったかのように止まって映っていた。

 

「…ここは」

 

「ここは精神世界。今この場で動ける者はお主と、妾だけじゃ」

 

 思わず後ろを振り向くと、そこには先程頭の中に響いた声の主が立っていた。

 

 白いパッツン髪に倭ノ国の服装らしきものを着た少女が立っていた。

 

「あなた…は」

 

「妾の真名は月詠命。日本神話が一柱『月』を司る神じゃ」

 

 月詠命、私にはその名前に聞き覚えがあった。

 

 それは鉱山の町『メルタタウン』での1幕、確かあの時…。

 

「うっ」

 

 頭にあの時の記憶が流れ込む。

 

 私がいたぶるのを楽しんでいた記憶、そして人を殺したかもしれない記憶。

 

「はぁ…はぁ」

 

 吐き気がする。

 

 自分が自分じゃなかったようなあの日の行いを思いだす度に胃の中にあるものが口から溢れ出しそうだ。

 

 しばらくして私の吐き気が治まった頃、月詠命と名乗った神様が話を始めた。

 

「あの時のお主は好いておる少年に危険が及んでいることを感じとり、左眼に施されし妾の神具『月詠命(ツクヨミ)』が暴走。抑えられなくなった結果があれなのじゃ」

 

 何故左眼にそんなものが施されているのかはさておき、神様曰く私が制御できなくなったことによる結果だったらしい。

 

「えっと、じゃあなんで私の眼に…」

 

「兎に角、妾がわざわざ精神世界に干渉してまで出向いたのはお主に制御させるための言霊を教えにきたからじゃ」

 

 眼のとこを聞こうとしたら案の定流されたがどうやら制御する方法を教えてくれるらしく、その事についてはいつか聞くことにした。

 

「1度しか言わぬ、よく覚えておくのじゃ」

 

 と神様は咳き込みをした後、こう続けた…。

 

 ◈◈◈◈◈

 

 神様から制御する方法を教えてもらい、精神世界から戻ってくる。

 

 そこは私が攻撃を消した直後のところだった。

 

 アルがこちらを驚いた顔で振り向いているが今は気にしないとこにし、黒い服を着た人達…神様が言うには『宣告者(デクレアラー)』と呼ばれる人達の動向を見る。

 

 一瞬、攻撃が消えたことに慌てていたがすぐさまこちらを振り向き一斉に向かってくる。

 

「はぁ…」

 

 私は攻撃という名の殺意を感じ少し汗をかいたが冷静にある為に息を吸い込む。

 

 息を吸い吐いた後、神様に習ったように詠唱を始めた。

 

「夜を照らすは数多の星。水満ちし時天に現るは、この星を守りし守護者なりて。降らんとするは彗星、其の星を喰らうは月。咲たもえ、星々よ。目覚めよ神よ。その真名『月詠命』をもって、いざ目覚めよ…左神眼『月詠命(ツクヨミ)』」

 

 その詠唱が終わると同時に左眼に一瞬の痛みが走るが耐える。

 

 月詠命が覚醒した直後、『宣告者』の1人が攻撃を繰り出そうとするのを見て勝手に薬指が下に向く。

 

「我に刃を向ける者、月の裁きを受けよ!」

 

 その無意識のうちに出た言葉と同時に、天からそのものに光が降り注ぐ。

 

 その光が線になって消えると、そこにいたはずの『宣告者』がいなくなっていた。

 

 その光景を見た『宣告者』たちはしばらく静観していたが次第に騒ぎ出し、何か呟くと同時に消えてしまった。

 

「はぁ…はぁ…、やっ…た?」

 

 彼女たちが消えたことに安堵したのか身体全体の力が抜けていくのを感じ、それと同時に視界が真っ暗になった。

 

 星歴10017年8月15日正午。

 

 世界樹祭で起こった出来事の全てが終わった。

 

 …そして私が次に目覚めるのはこの日の夜である。

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