「私は、ラヴクラフトって人の娘…そう、なんでしょ?」
今まで分からないふりをしてきた。
だけどもう、分からないふりはできないから。
だから、彼にだけは…違うと、嘘でもいいからそれを否定して欲しかった。
「…ああ」
そんな都合のいい返事が返ってくるとは期待していなかったけれど、彼の目は何処か、遠くを見つめているように感じる。
「…っ」
じゃあなんで、私を連れ出してくれたのか。
それを聞こうと口を開こうとしたが、動かなかった。
いや、知りたくなかったんだ。
彼の深淵を、覗いてしまいそうな気がしてしまったから。
「…ルナ。いつか話すって、俺は前に言ったはずだ」
「覚えてる、だけど知りたいと思ってしまったから」
「ルナは俺を怒らないのか?」
「…は?」
怒る?
「俺のせいなんだよ、全て」
彼の顔が心なしか、怖く感じた。
「ルナの母が死んだのも、ルナがあんなスラム街で生きていたのも」
「え?」
「…どうだ、失望しただろ?俺はこんな人間なんだよ」
わからない。
言っていることが全て本当なら、なんで私を連れ出したのか。
なんでよくしてくれたのか。
…分からない。
「失望って…そんな」
分からないよ、アル。
本当にアルのせいならなんで…なんで、泣いてるの?
「…そっか」
アルがその一言を口に出した瞬間、私の身体は宙を舞っていた。
「いっ」
地面に倒れた私に向かってアルが近づいてくる。
「な、なにす」
「…ごめん」
アルが私を殴ろうとした時に小声でなにかを呟いたような気がしたが、私にはそれが何だったのかまでは分からなかった。
「っ!」
不思議と痛くはなかった。
どちらかといえば悲しさを感じる、そんな拳が私の顔面スレスレのところを掠り、地面にめり込む。
「消えてくれ、
「…ア、ル…?」
「お願いだから、消えてくれ」
何故、そう理由を聞こうとしても私の口は開かなかった。
その言葉を紡いでしまったら、大事なものが一つ…零れていきそうだったから。
「…私って、そんなに頼りない…かな」
「…」
アルは何も言わない。
「私は、アルにとって…いらない子だったんだね…」
「…」
黙らないでよ。
「私が、嫌いなら…最初からっ、そう言ってよ…」
違う、アルはそんなこときっと思ってない。
「…さよなら」
ぷつり、と何かが切れる音がする。
この時はまだそれが何なのか分かっていなかった。
私は身体を起こし、逃げるように走り出した。
◈◈◈◈◈
「…やりすぎじゃぞ、妖精龍王」
「わかってる」
「本当に、これで良かったのか?」
「よかったんだよ。彼女は、ルナはこんな血みどろの戦いに身を投じてはいけないから」
「…ルナはそんなにやわじゃないだろうに」
「わかってるさ、だけど…この心がそれは許さなかった」
「…そうか」