元ロケット団のしたっぱは穏やかな暮らしを夢見ている。   作:瑠璃色砂糖月

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 とりあえず気力とネタがある間は書きます。1章は次のお話で終わる予定。
 すごい難産でした。


SANチェックのお時間です。

 アーナム地方には廃墟が多い。

 昔はそれなりに人口(ほぼ犯罪者)が多かったらしいが、今では限られた都市や町にしか人がいない。

 その理由は、ポケモンが町を襲ってくるからである。そのせいで多くの町が復興不可能まで追い詰められ、最終的には捨てられ廃墟と化した、というわけだ。

 

 正気を失ったポケモン達が暴れ出し、敵味方関係なく、殺戮と破壊を繰り返す現象。

 それを「サニティア現象」と呼んでいる。

 私達はよく「発狂」した、とか言っているのだが、これがまあ厄介だ。「発狂」したことで自身のポテンシャル以上の力を無理に引き出すので一定時間暴れたら文字通り命が尽きる。

 そのため、「発狂」したポケモンの存在が確認されたら、すぐさまポケモンの鎮圧と現象を引き起こす原因の対処が必要だった。放っておいてバタバタ死なれたら、ポケモンの種族とか生息地に変動が起きる可能性がある。それは余計な作業になって面倒だ。

 

 サニティア現象を引き起こす原因は、「外」から漏れ出る狂気である。

 

 カルト宗教団「ベスティア秘密教団」。

 彼らはこの世界の「外」に繋がる「門」について研究していた。

 何故なら彼らは「外」にいる神を盲信していたから。嫌いな現世に存在していない、世界の外側にいる存在なら、きっと我らのような信心深い信徒を新たな世界へと導いてくれる。と、そう信じていた。

 そして、「外」と繋がる「門」を開いた瞬間、この地方に「狂気」が降り立った。

 

 その時から「外」と繋がる「門」がアーナム地方のあちこちで開き、周囲のポケモンを発狂させて暴れさせている、というわけだ。

 非常に迷惑な話である。

 迷惑ではあるが、「サニティア現象」を乗り越え、正気を取り戻したポケモンは普段なら覚えないわざを覚えていたり、特性が珍しい方……つまり、夢特性と呼ばれるものに変わっていたりするので……まあ、実力者からすればそこまで忌避するものでもない。

 

 町を襲わなければ私もそこまで嫌いではない。

 手持ちのいい運動にもなるし。

 

『嬢ちゃーん。モンスターパーティー IN シュマシュタウーン』

「よりによってそこかぁ……」

 

 アーナム警察よりココロモリ通信。

 発狂したポケモン達がシュマシュタウンの近くにいるらしい。

 シュマシュタウンは四天王のジャノメさんが所属するカルト宗教団「ベスティア秘密教団」の本拠地だ。

 本来ならジャノメさんが対処すべき問題だが、ジャノメさんは嬉々として発狂したポケモンを受け入れる(・・・・・)だろう。

 

 ベスティア秘密教団は世界の「外」を信仰する宗教団体で、「外」から漏れ出た狂気を恩恵と捉えている。

 そのため、狂気で犯されたポケモンは、信徒を「外」へと導く、「外」からの使徒だと思っている節がある。撃退は愚か、正気を取り戻させることさえ良しとしていない。

 彼らにとっては異常こそが正常で、正常こそが異常なのだ。

 ……このような人間がアーナム地方のあちこちにいたから、町は次々と廃れていったとも言える。ベスティア秘密教団に所属している人は防衛するどころか、発狂したポケモンの加勢して町を壊滅させる手助けをしていたらしいし。

 

 なので、シュマシュタウンなどのベスティア秘密教団と密接な関係を持つ町には私が出向くことが多い。

 

『んじゃあ嬢ちゃん、よろしくなー』

「はーい」

 

 理由は、アーナム警察とベスティア秘密教団の仲がよろしくないからである。

 顔を見合わせると殺し合うことさえあるくらい。

 

『バイト代はちゃんと出すから』

「やったー」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉憎憎憎憎憎憎肉肉肉肉肉憎肉肉肉肉肉憎憎憎憎憎肉肉肉肉肉憎憎憎憎。

 

 肉い。憎い。憎い。肉い。憎い。憎い。憎い。憎い。肉食い。肉食い。憎い。肉食い。肉食い。肉食い。憎い。

 

 肉を食いタい。憎い。肉を噛みちぎりたい。憎い。水を血で赤く染めたい。肉食い。血で喉を潤したい。憎イ。なんでもいい。憎い。とにかく肉を。憎い。血を。憎い。憎い。喉が渇く。肉食イ。ニクイ。喉が。喉。喉。喉。熱い。アツ。憎い。憎いいいいいいいいいいイイいいいいイいいイイ。

 

 周りの肉を食っても食っても食っても食っても憎しみが収まらない怒りが終わらない憎しみが肉食染味が欲しい欲しい欲しいのに喉が渇くんだ渇いて渇いて皮がベリベリ剥がれて痛い痛い痛い脳味噌が溶ける頭が割れる骨が軋む目の前が点滅するぽくぽくぽくちーんキラキラキラキラじゅうじゅうジュワジュワ沸騰して沸騰して肉が食いたくなる憎くて憎くて憎しみが見下されるのが嫌で嫌で嫌で嗤われたくなくて嫌で嫌で嫌で嫌で強くなりたくて強くなりたかったから魚肉が不味くてそしたらキラキラ光がいやどこまでも暗くてやはり人の肉が1番美味しいってあの御方が囁いて真っ暗闇から手が触手が唾液が溢れて溢れて撫でられて止まらなくなって地上にたくさんいるからそれを食いたくて食いたくて生け贄が来ないから食べたいなって食いたくて食いたくて囁かれて食いたくて食いたくて張り裂けそうで食いたくて食いたくて食いたくて食いたくてお腹が空いたなぁって食いたくて食いたくて食いたくて食いたくて食いたくて食いたくて囁かれたんだ。

 

 肉ガ食いタイんダ。

 

 美味しいお肉。

 

 肉食染味のお肉。

 

 お肉。お肉。お肉。生のお肉。

 

 赤い血ガ滴ル肉がイい。

 

 吼えタ先に()がいル。

 

 嬉シい。嬉しイ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、先程サニティア現象を引き起こすのは「外」と繋がる「門」から溢れる「狂気」だと説明したが、もう1つサニティア現象を引き起こすものがある。

 

 それが「グレート・オールド・ワン」の存在である。

 

 「(ふる)き支配者」や「(いにしえ)のモノ」などにルビを振ることもある。

 昔、ベスティア秘密教団がはじめて「外」から呼び出した「狂気」と共にやって来たモノ達のことで、「狂気」と違ってアーナム地方に棲みついているモノ達を指す。

 

 グレート・オールド・ワンは全部で4体。

 棲みついている場所は以下の通り。

 

 最も鬱蒼としている死樹海「マドネス山脈」。

 地底世界ピュンゲンの最下層「ンガイ」。

 古代遺跡と廃墟で形成される迷宮「サコルカ」。

 アビス海に沈む海底神殿「イェルル」。

 

 以上、4ヶ所。

 この近辺に生息するポケモンはサニティア現象を起こす可能性が極めて高く、またアーナム地方でも滅多に人は足を踏み入れない禁足地扱いされている。

 

 私は諸事情で全部巡ったけど。

 

 別に立ち入り禁止の看板とかも立ってないから入ろうと思えば入れるんだよね。入ったら確実に目をつけられて発狂させてくるからあまりお勧めはしないけど。

 あいつら破滅への導きと書いて慈愛の心と読むような奴らだから。散々弄んでくるから。本当に。それでいて「別に悪いことしてませんけど?」って首を傾けて不思議そうにしているから、本質が邪悪なんだよね。確実に。

 

 閑話休題。

 

 現在、私がいるのは最後のアビス海の深いところである。

 まあ、つまり、そういうことだ。

 

 目の前のギャラドスはおそらく、「門」から漏れた狂気に触れた訳ではなく、「イェルル」に近づき過ぎた結果、サニティア現象を引き起こしたのだろう。

 影響を受けた相手と接触したのか、青い鱗は剥がれ落ち、その下から蛸のような触手がびっしりと生えている。辺り一面に血の臭いを撒き散らしながら体を激しくくねらせているため、近づくのも一苦労だ。

 

 

『る、ルるル、るールるルー』

 

 

 なんか頭に響く嫌な声も聞こえるし……。

 これ絶対あいつ起きてるな。起きたうえでちょっかいかけてきてるな。いつも寝てるくせになんてタイミングが悪い……。

 でしゃばってくんなよ頼むから。出てくんな引きこもってろ本当に。

 

「ギャオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッ!!!!」

 

 ぱちんっ。私が乗っているポケモンの体を叩いて合図を出せば、固定するために私の体に巻きついた触手の力が強まって、体にかかる圧がぐんと強まった。

 ギャラドスの撃ってきた『はかいこうせん』を避けるように泳いでいく(・・・・・)

 

 ここはアビス海の深域。つまり、水中。

 私が生身で海に潜れば呼吸ができず、また水圧でぺちゃんこになるのは確定である。それにポケモンのわざを避ける程度の速度を保つことができない。

 なので、専用ウェットスーツと水中呼吸用機材(水中でも喋ることができるお高いやつ)を装着したうえで、水中で自在に動けるポケモンに乗っているのだけど……。

 

「『10まんボルト』を撃つ訳にもいかないしなぁ……」

「りゅーぅ」

「振りじゃないよ? 私が感電する」

「りゅぅ?」

「『耐えられるでしょ?』じゃないんだよなぁ」

 

 耐えられるけど。

 

 でも、他のポケモンが耐えられないんだよ。水中だから周りのみずタイプポケモン全員ひんしになる。

 あと、イェルルの中にいるやつまで刺激したらヤバイ。あれがでしゃばってくると流石にこんな風に悠長に戦えなくなる。

 

 手早く追い込んで捕獲しよう。

 

「らしをおこす、『パワージェム』」

「りゅ!」

 

 らしをおこすの周囲に青白い煌めきを灯す拳大の(つぶて)が現れる。

 それがギャラドスを滅多打ちにした。

 

『るールるルー』

 

 頭の中で面白がる声が聞こえてきてげんなりした。

 私達は見世物じゃないんだが?

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 シュマシュタウンは海の近くにある町であり、漁業が盛んだ。

 釣れた新鮮な魚をハーブや柑橘類でマリネしたセビーチェやアグアチレなどの魚料理は絶品である。

 まあその包丁で時折人肉を捌いたりしていると聞いた時には食欲が落ちたが、魚は美味い。気にしない気にしない。倫理観が欠如しているのはいつものこと。アーナムの民の特徴である。

 

 ……でも、人肉用と家畜の肉用とで分けて使ってね。私の食事の時だけでもいいから。人肉って食べるとなんか病気にかかる時があるみたいだし。詳しく知らないけど。

 

「お疲れ様でございます、アセビ様」

 

 陸に上がると、すぐさま駆け寄ってくる女性がいた。

 修道服をきっちりと着込んで、ウェンプルという白い布で顔の周りの皮膚を、黒いベールで顔を覆っている。

 ジャノメさんだ。

 姿はシスターのコスプレではなく、ベスティア秘密教団の正装がこれらしい。女性の修道服は綺麗だが、男性の修道服も格好よくて私は好き。

 

「ラシヲオコス様も、ありがとうございました」

「りゅー」

 

 ずるりと長い体を陸地にあげて、ふわりと宙で身をくねらせるのは、らしをおこすというバグポケモン。

 見た目はハクリューを大人っぽくした感じ。ハクリューよりも胴体は長く、体色は深みの強い藍色で、非常に滑らかな皮膚をしている。きめ細やかな竜鱗というよりは、液体金属のような不思議な輝きを纏う体皮だ。まるで夜空色の皮膚に星が産まれたように光が煌めいているのが美しい。

 水でも宙でも泳ぐように、胴体にはヒレじみた竜翼が3対あり、膜の色が暗い赤色なのも非常に格好いい。

 宙を揺蕩う長い竜髭。頭部に生えている角や更に長く鋭利なものに変わり、人でいう耳の位置にある翼はどちらかといえばミニリュウのそれや、カイリューの飛膜のあるそれとよく似ている。

 

 これではがね・フェアリータイプなのだから、本当にバグってるんだよなぁ。

 きみ、一応カイリューのたまごから生まれたんだから、ドラゴンタイプくらい残せば良かったのに。せめてみず・ドラゴンだろ。はがねはまあ良しとして、どこからフェアリー連れてきたんだ本当に?

 

 らしをおこすが頭を私の腕と脇の隙間に突っ込んで、掌にぐいぐいと鼻先を擦り付けてくるので、首に腕を回して喉をくすぐってやる。

 ドラゴンであった名残か、逆鱗が残っている喉元に触られるのはあまり好きではないらしい。だが、私が触れている時に牙を剥いたり唸ったりすることは無いので、許されてはいるのだろう。

 

 思う存分撫でられて満足したのか、ボールへと戻ったらしをおこすを見届けた後、ジャノメさんから差し出されたタオルを感謝を述べてから受け取る。

 その代わりにギャラドスの入ったモンスターボールをジャノメさんに渡した。

 

「これ、発狂したポケモンが入ってますから、丁重に扱ってくださいね」

「承りました」

 

 やけに恭しく受け取られるが、これがいつものことなので気にはならない。

 

 信仰している「外」からの使徒をぶちのめして捕獲するというのは、本来ならベスティア秘密教団へと敵対行為に他ならない。

 事実、アーナム警察なんて立てた親指を下に向けて「ゴートゥーへル便利屋集団」からの首を切る動作をされていた。

 アーナム警察(向こう)も中指立てて「おファッキューカルト集団」なんて煽っていたからお互い様と言えばそうなのだが。

 

 しかし、私はベスティア秘密教団からわりと丁寧な扱いを受けている。

 

「アセビ様、あの御方のご機嫌はいかがだったでしょうか?」

「あいつ?」

 

 理由は、彼女達が信仰しているグレート・オールド・ワンの1体、海底神殿「イェルル」で微睡んでいるやつに気に入られているからだ。

 そして、人間の中で唯一「外」と行き来して生還しているから。

 つまり、ベスティア秘密教団からすれば、私は「外」にいるモノと自由に交信ができる憧れの存在なのである。

 

「んー……まぁ、良くもなく、悪くもなく、じゃないですかね。お腹が空いているようなんで、供物を多めにあげてください」

「ああ、我らが救世主様が空腹だなんて、そんな……! すぐに神殿へ供物を捧げましょう!」

「人は捧げないでよー」

 

 なんか人肉を所望してたけど、多分お肉多めにあげたら落ち着くよ、きっと。




・サニティア現象
 ガラル地方でいう「ダイマックス現象」、パルデア地方でいう「テラスタル現象」のようなもの。
 「外」と繋がる「門」や、グレート・オールド・ワンから放たれる狂気が原因で発狂したポケモン達が暴れ出す現象のことを指す。
 発狂したポケモンを静めると、時折体に特殊な刻印が刻まれていることがある。
 アーナム地方ではそれを「エルダーサイン」と呼んでいる。

・シュマシュタウン
 モデルはクトゥルフ神話で出てくる「インスマス」という村より。ただネットで調べただけの知識なので、どんな村かは作者の捏造と妄想なのであしからず。
 漁業が盛んで、魚料理が美味しい。ただし、シュマシュタウンに住む人間はほぼ全員がベスティア秘密教団の一員。信仰しているグレート・オールド・ワンへの供物として人肉やポケモンをシメて捌き、捧げていた。

・らしをおこす
 分類  :バグポケモン
 タイプ :はがね・フェアリー
 通常特性:???
 夢特性 :???
 ネットでバグポケモンとして名前があったやつを魔改造したのがこちらになります。いつかバグポケモン全員とアセビが出会った時の話とか書きたい。
 アセビの水中要員。カイリューのたまごから産まれた。火力が高く、アネ゛デパミ゛に続く第2のアタッカー。耐久力もあるので頼りにされている。唯一不思議に思うことがあるとすれば、タイプからどうしても水を連想ができないということだけ。
 実は600族。

・海底神殿「イェルル」
 モデルは海底都市「ルルイエ」。分かりやすいね。
 アビス海に沈んでいる神殿。グレート・オールド・ワンが棲んでいる。というか、微睡んでいる。
 神殿内にはポケモンがいないため、もし神殿に入ればすぐさま気づかれて暇潰しに発狂させられるため注意。

・ギャラドス
 暇潰しで発狂させられた。元々はコイキングだったが、無理矢理レベリングさせられてギャラドスに進化した。元気に暴れていたのが面白かったのか、直接「印」を刻まれて狂気が加速した。
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