元ロケット団のしたっぱは穏やかな暮らしを夢見ている。 作:瑠璃色砂糖月
そして、あと1話で終わると言ったな。まだ続くぞ。あと3話くらい。多分。いやもっと早く終わるかもしれない。
気が遠くなるような長い時間、わたしは独りだった。
永遠と黒が続く世界。何もない虚無の世界。
そこで生まれたわたしは、それが当たり前だったから、何も思わなかったのだ。何もせず、何も考えず。思考は停止してただ意識だけを持ち存在しているだけの存在だった。
「誰か」に求められるまでは。
黒い虚無の世界にはじめてひび割れができた。その振動が「音」だということを、当時のわたしは知らなかったけど、黒以外のものをはじめて見たわたしの体内の奥は確かに激しく動いていた。「心」が動いていた。
そこから漏れ出てくる振動に……「音」や「声」というものにひたすらに感動したことを覚えている。
素晴らしい世界だと思ったのだ。
美しい世界だと思ったのだ。
この世界はこんなにも、未知のもので溢れていることが、羨ましくてならなかった。
だから、わたしを呼び出した「人間」と「ポケモン」という種族に感謝の心を伝えるために、わたしの力を寄越した。
はじめて他の存在に力を渡したものだから、加減を間違えてしまったけれど、彼らは嬉しそうに「目」という器官から赤い汁を垂らして全身を激しく揺らしていたから、きっと大丈夫だ。喜んでくれて嬉しいなぁ。
ああ、この世界に来て本当に良かった!
ありがとう、人間!
ありがとう、ポケモン達よ!
わたしはきみ達のことを「心」から愛しているよ!
*****
クリミナルシティに警報が鳴り響いた。
警報にも種類があるが、大抵は「モンスターパーティー」と呼ばれる発狂したポケモンが町を襲うイベントが起こった時の避難警報、もしくは「外」からやって来たモノが町を訪れた時の避難警報だ。
今回のは後者で、しかもやって来たモノがかなりヤバイ。
海外で言うところの
「にあ~」
ふと、背後から鳴き声がした。
首だけで振り替えると、そこには顔のない猫型ポケモンがいた。
顔の部分だけくり貫かれたように空洞になっており、その中心に赤く輝く丸い宝石が浮いている。
黒く艶のある毛並み。その体毛を綺麗に剥いだような、グロテスクな肉色をした、頭部から生えた長く太い1本の触手。
3つに分かれた尻尾の先端も同じように濡れた赤色で、蠢いている。
「ニャルさんじゃん。ちゅーる食べる?」
「にぃっ!」
こんとんポケモン、ニャルテップ。
「外」もこの世界も自由に闊歩する彼は嬉しそうに鳴いて私に飛びついてきた。
顔がないということは、口がないということ。いつもどうやってちゅーるを食べてるのかな、と毎回不思議に思いながら少しずつチューブからちゅーるを出してニャルさんに与えている。
彼は嬉しそうに三股の尻尾を揺らし、または私の腕に絡みつけながらちゅーるを食べていた。
消えていくちゅーるを眺めながら、ふと気になったことをニャルさんに確認してみる。
「そういえばニャルさんや。一緒に……」
「ころころ!」
「うん?」
「にあ」
ココロモリが部屋の中に現れる。
足のバッジからして、アーナム警察のココロモリだった。ココロモリに頷いてみせると、すぐさま鼻のドクロマークが輝く。
『あー、嬢ちゃん。今ちょっといいか?』
映ったのはバカナスさん。
目の下にクマがあるけど夜更かしでもしたのだろうか。こころなしかげっそりしている。
『そっちにアウトレイダーはいるか?』
「いませんよー。ニャルさんはいます」
「にあ!」
『……は? そいつだけ?
バカナスさんの目が丸くなった後、剣呑な輝きを灯した。焦っているのが見て取れる。
しかし、もう1体?
多分ニャルさんとセット扱いされているあの子のことだろうが……。
「アウトレイダーの反応はここで合ってるんですか?」
『いや、手前の方で監視できるのはあくまでアウトゲートが開いた時に発せられる
「……そういえばそうでしたね」
『エネルギー量的にあいつで間違いないと思うが……嬢ちゃんは何も聞いてないのか?』
多分、ここに
私は肩を竦めてみせた。
「聞いてません。今、ニャルさんに聞こうとしたところです」
『嘘だろマジか手前の仕事増えるじゃねぇか……』
「どこいるんでしょうねー、アザトボスは」
「にぁ~」
ばんぶつポケモン、アザトボス。
「外」の世界の頂点にして、この世に狂気を振り撒く元凶である。
その最狂のポケモンから産み出されたニャルさんは、脚先で器用に頭をかしかしと掻いていた。
『すまんが探してきてくれるか? 手前はアウトレイダーが
「どこで何をしているのかまでは人間では分かりませんからねぇ……。道案内お願いね、ニャルさん」
「にあ!」
「アネデパミ、『どこかしらドア』開いて」
「ギュワ゛」
玄関のドアを開けば、その先にあるのは当然外。……ではなく、どこまでも深く真っ黒な空間だった。
『どこかしらドア』は言うなれば『テレポート』とよく似ているわざだ。扉を通じて別の扉へと距離を無視して空間を繋げることができる。その応用で途中で空間を裂けばその場所へと降り立つこともできるので、遠くへ移動する時にはとても便利である。
真っ暗な空間へと飛び込むニャルさんに続いて、私とアネ゛デパミ゛も黒い空間へと脚を踏み入れた。
アザトボスははじめて「外」からこの世界に降り立った存在だが、グレート・オールド・ワン達と違い、アーナム地方に棲みついていない。その理由はアザトボスが発する狂気があまりにも強すぎるからだ。姿を見るだけで狂気に蝕まれる程度には。
はじめてアザトボスがこの地に降り立った時、周囲の人間やポケモンを発狂させて阿鼻叫喚の地獄絵図になったらしい。
そうして壊れた人間とポケモンを愛でて、土地を血で真っ赤に染め上げた後、アザトボスは次の地方へと目を向けた。
さて、アーナム地方の外にも行ってみようかな、とアザトボスが1番近いイッシュ地方に目を向けたところ、アザトボスがやって来たことを感知したアルセウスがアーナム地方に降り立ち、アザトボスを撃退した、という、嘘か真か分からない伝承が残っている。
まあ、アザトボスもただでは倒されず、アルセウスにも
アルセウスから追いやられ、「外」の世界でアザトボスは考える。
人間やポケモンでまだたくさん遊びたいけど、この世に降り立てばまたアルセウスが邪魔をしてくるかもしれない。……そうだ、ならば代理を立てよう。自分の代わりに自分の意思を彼らに伝えるモノを造ろう。
それで出来上がったのがニャルさんことニャルテップ。
アザトボスが造り出した、この世界を自由に闊歩する人間へのメッセンジャー的存在だ。そして何より、この世界を自由に堪能するために生まれたため、狂気を振り撒くのではなく中に溜め込み周りに影響を及ぼさないようになっている。
つまり、アルセウスでも感知はできない仕組みになっているらしい。詳しくはよく分からん。
そして、ニャルさんは自身の創造主であるアザトボスの位置を常に把握している。
今回はそれを利用してアーナム地方のどこかに居るであろうアザトボスを探そうという訳である。
真っ黒の、そして時折ピクセル画のようなものが迸る世界。そのくせ、世界各地にある無数の扉と繋がっている世界。本来ならば、入ってはいけない世界の裏側。
ニャルさんは私達を先導してくれる。
揺れる肉色の触手が良い目印になっている。
「にあ」
「このドアでいいの?」
ニャルさんが立ち止まる。
石造りの扉だった。石を削り出したのか、繊細なのに絢爛な彫刻が浮き出ている。
ニャルさんがカリカリとその扉を引っ掻くので、扉を横にスライドさせれば、真っ白の空間が広がっていた。
間髪いれずに白い空間へと飛び込むニャルさんに私も続く。
「いや全然違うじゃん」
「にあ~?」
「縺翫d。繧、縺ィ繧キ繧エ繧ク繝」繝翫う繧ォ」
壊れかけた石像から私達を見下ろすのは黄色の狂気。
見た目としては、ボロボロだが鮮烈な黄色の衣と布を纏っている蝙蝠もどきと言ったところか。
上半身は緑色の宝石が散りばめられた黄色の布で隠れていてよく分からないが、下半身は完全に獣のそれだ。近いのは蝙蝠の脚部。鋭利な鉤爪が石像に深く食い込んでいる。
グレート・オールド・ワンの1体。
きごろもポケモン、ハスラマ。
……なんで?
ニャルさんや、サコルカに来てもいるのはグレート・オールド・ワンなんだけど。
そのグレート・オールド・ワンである彼は少し驚いたような声を出して、黄色の布で蝙蝠のような翼を作る。
そして、私達の傍まで降りてきた。着地の瞬間、乾いた石造りの畳を鉤爪が掻き毟る音が響く。
「アザトボスを探してるんだけど、見た?」
「繧「繧カ繝医⊂繧ケ? 隕九※縺ェ繧、繝ィ」
「見てないかぁ」
「霑キ繧エ?」
「迷子? ……うん、まあ、それに近いかな」
「繧「繝ゥ繝槭ぃ」
ハスラマは驚いたような声を出した後、不思議そうに首をかくんと傾けて、ニャルさんを見た。
ニャルさんも首を傾けている。
「……繧「繧「、縺昴≧繧、繧ィ縺ー」
「? なに?」
ハスラマは黄色の布を私の腹部に巻きつける。それと同時にニャルさんが私の肩に飛び乗った。
何事かと思っていると、ハスラマは再度翼を作って宙に浮き上がった。
巨大な石造りの廃墟と遺跡で作り上げられた自然迷宮。上空から見るとその入り組み具合はまさに圧巻。私も1度この迷路に挑戦したが、できればもうやりたくないなと思うくらい面倒だったことを思い出す。
そのまま少しの間、風に当たりながら空を飛んで場所を移動する。そして、速やかに着地。
「……なんだこりゃ」
場所はサコルカの端。本当に端っこ。
そこに赤黒い染料で描かれた奇天烈な魔法陣があった。染料の原材料は言わずもがなである。
ハスラマ曰く、数日前に人間が来て、ここに変な模様を残した、とのこと。
魔法陣に使われた文字や紋様などから、「外」からナニカを呼び出す召喚陣に近いものらしい。
「外」からの召喚……ベスティア秘密教団の誰かだろうか。でも、召喚の儀式をするという報告はジャノメさんから受けていない。
……無断で儀式を行なっている? それともまた別の要因があるのか……。
「その人間はどうしたの?」
「谿コ縺励◆繝ィ」
「生かしといてよ」
「蝣輔▲縺ヲ隧ア繧定◇縺丞燕縺ォ繝九ご繧医≧縺ィ縺吶k繧薙□繧ゅs」
「あ、話は聞こうとしてくれたんだね。ありがとう」
「縺ゥ繧ヲ繧、縺溘@縺セ縺励※」
ハスラマはグレート・オールド・ワンの中ではわりと話が通じる方だ。知的だし。利口だし。私達と意志疎通を図るために言葉を覚えて発しようとしているところも、私としては好感度が高い。
理屈が好きというか、実験が好きというか、そういうナゼナニを追求するのが好きな子である。
まあ、研究好きが行き過ぎて人間やポケモンを解剖したり改造したりするマッドサイエンティストだから、結局のところ近づかない方がいいだろう。
まあ、でも今回はアザトボスはここにはいないということだ。
ニャルさんは魔法陣をくんくんと嗅いでいる。
……そういえば、ニャルさんがどうしてここに連れてきてくれたのかも気になるな。
「にっ!」
「ニャルさん、アザトボスのところまでもう1回案内よろしくね」
「にあ!」
「じゃあハスラマ、私達はもう行くから、……ん?」
『どこかしらドア』を開いて、ハスラマに別れの言葉でも言おうとしたら、腕に黄色い布が巻きついた。
「遘√b繧、縺」邱偵↓諞代>縺ヲ繧、縺」謇九Δ螟ァ荳亥、ォ?」
「……。一緒に来るの?」
「鬲疲ウ暮劵縺ィ縺区ー励↓縺ェ繧九@」
どうやらハスラマも着いてくるらしい。
魔法陣のことや、ここまで来た人間のことが気になるとのこと。
……まあ別に、着いてきても問題ないか。グレート・オールド・ワンはあくまでそれぞれの場所を寝床にしているというだけで、アーナム地方内であればどこに行こうとも問題ないだろう。
「じゃあ行こうか」
「縺ゅj縺後→繧ヲ!」
ハスラマは嬉しげに私達に続いて扉の中へと潜り込んだ。
・アウトレイダー
「外からの侵略者」という意味。「外」の世界からやって来たナニカの総称であり、基本的に「外」にいるもの達を指す。一応グレート・オールド・ワンもアウトレイダーの分類になる。
アローラ地方でいうところの「ウルトラビースト」と似たようなもの。
・アウトゲート
この世界と「外」の世界を繋げる「門」の正式名称。
・WOW
ワールド・アウト・ワールド(World Out World)の略。「世界の外の世界」という意味。
アウトレイダー達の棲み処であり、狂気が空気のように充満しているため、人間が足を踏み入れたら即座に発狂するヤバい場所。
今のところ「外」に行って生還しているのはアセビだけである。
・サコルカ
モデルはクトゥルフ神話の「カルコサ」というハスターが眠っている場所の近くの古代都市。
古代都市や廃墟によって巨大な迷宮のようになっている。ポケモンは存在しないが、ハスラマの作った何かが闊歩しているので注意。
・ニャルテップ
分類 :こんとんポケモン
タイプ :あく・エスパー
通常特性:トリックスター
夢特性 :???
アセビと1番付き合いの長いアウトレイダー。アザトボスから造り出されたポケモンで、世界と「外」を「門」を介さずに自由に行き来できる。最近のマイブームはぽけちゅーる。なんかクセにある美味しさがある。
アザトボスの居場所が分かる。……のだが、何故か今回は外れてしまった。
……あれぇ?
これにはニャルさんもびっくり。でも確かにアザトボスの気配は残っているから、外れているわけでもなさそうだ。とりあえず次行こう、次次。
・ハスラマ
分類 :きごろもポケモン
タイプ :あく・ひこう
通常特性:きいろのきょうき
夢特性 :???
グレート・オールド・ワンの1体。サコルカに棲みついている。
研究者気質で旧き支配者達の中では1番の博識。サコルカ内にいたポケモンや時折迷い込んでくる人間のことを知りたくて識りたくてたまらなくなって、解剖したり改造したりと実験している。未発見のポケモンがサコルカ内で発見されたら大体ハスラマの実験によって産み出された個体なので、速やかに排除することを推奨する。
アセビのことはお気に入り。大前提として触れ合っても発狂しない人間は珍しいし、サコルカに
・アザトボス(まどろむすがた)
分類 :ばんぶつポケモン
タイプ :あく
通常特性:もうもくはくち
夢特性 :───
現在進行形で迷子。ぴえん。
アーナム地方内にはいる。
・どこかしらドア
タイプ:ゴースト 分類:変化
威力:── 命中率:100
対象:1体選択
アネ゛デパミ゛の専用技。必ず後攻になる(優先度:-6)。相手の最大HPの1/4のHPを削った後に相手のポケモンを強制的に交代させる。