元ロケット団のしたっぱは穏やかな暮らしを夢見ている。   作:瑠璃色砂糖月

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 次で終わるといいな。もしかしたらもう1話続くかも。


いあ! いあ! あか!

「シャーーッッ!!!」

「ゥる゛ル゛、る゛ル゛、る゛」

 

「ア゛ァ?」

 

 ニャルテップとクトゥールが威嚇音を出し、地面をバシバシと触手で叩く。地面が割れてるからもうちょっと威力を抑えて貰うことは……できなさそうだね、うん。

 ハスラマが私の頭を撫でてくれた。労ってくれているのかな、ありがとう。

 

 

 

 

 

 さて、次に着いたのは鬱蒼と繁った森の中。

 

 肌にじっとりと纏わりつく気色の悪い赤霧と、よく育ち生い茂った大樹で、日光がほとんど遮断されて薄暗い。

 うーん……山嶺じゃなくて中腹地点の遺跡の扉から出たらしい。あのコポコポと煮え滾っている沼地は覚えがある。

 

 到着したのはマドネス山脈だった。

 

 ここにもグレート・オールド・ワンが棲みついているが、彼は大体山脈の最も高い場所にある遺跡を根城にしている。

 それなのにこの遺跡に出たということは、ニャルさんがこの辺りでアザトボスの気配を強く感じ取ったということ。

 

 とりあえず頂上までアネ゛デパミ゛で一気に登って話を聞きに行くか、それとも近くで魔法陣を探してから話を聞きに行くか……と、考えていたら、辺りの温度がグッと上がったのが肌で感じ取れた。

 辺りの霧が消し飛び、真夏日のような肌を焼く暑さがやって来る。同時にニャルさんとクトゥールが唸り始めた。

 

 近づいてくるのは青白い擬似太陽。

 死んだ巨人の頭蓋骨が燃えているような火の玉。蛋白質が燃焼する匂いがリアルで、眼窩に残った眼球がギョロリと動いている。

 そして、それに腰かける首の無い人型のナニカ。首の無い彼は、燕尾服に似たポンチョを身に纏い、私達を見下ろしている。

 

 ここ、マドネス山脈に光を与えるグレート・オールド・ワン。

 せいえんポケモン、クトゥーガ。

 

 彼は首を傾けた後、自身の頭から飛び降りた。そして、自身の胸に手を当てて軽く無い頭を下げる。

 うーん、礼儀正しいというかなんというか。わりと人らしい身振り手振りをしてくれるから助かるというか……。

 

 ポンチョの中から出てきた腕は、紅炎でできている。クトゥーガは炎の塊が人型を取っているだけで実体が無いので、触れてもすり抜けるだけである。

 唯一実体を持つ頭も移動手段兼熱光源に使っている。

 ……よく自分の頭を移動手段にしようと思ったよな。閃きが凄い。

 

 と、思っていたら、地面を叩く音がした。地響きに聞こえるほど、地面にひびが入るほど強い力で。

 

「ヴる゛ル゛、る゛、ル゛る゛ル゛る゛」

 

 クトゥールの威嚇だった。

 名前の響きから分かるように、この2体は兄弟に近しい関係である。その割りには仲が悪いなと思うが、どこの兄弟も仲良しであるという訳ではないので、これはこれでいいのかもしれない。

 

 クトゥーガはめちゃくちゃ面倒くさそうに肩を竦めているが。

 

「んに゛ぃぃぃい゛」

 

 それプラスニャルさんの威嚇。

 クトゥーガは1度ニャルさんを消滅させかけたことがあるらしいし、まず反りが合わない。

 

 ニャルさんはお猫さまらしく自由気ままで悪戯好きなところがある。

 クトゥーガはその逆で、意外にも義理堅く、情に厚い性格である。

 

 他のグレート・オールド・ワンは自身の縄張りに入ったポケモンなどの生き物を全て面白半分で殺すが、クトゥーガはそれ程でもない。目障りなら勿論殺すが、それ以外には寛容と言うべきか。

 そのため、マドネス山脈にはポケモンが普通に存在している。まあ、クトゥーガの狂気に影響を受けてリージョンフォームしているものが殆どではあるが、生き物が滅されず放置されているということが異端なのだ。

 それに、光がほぼ通らないこの山脈で太陽の代わりを引き受けるくらいには、身内に対して甘いところがある。敵判定されたらマジで容赦ないけど。

 

 だから、私はそういうところは情に厚いと捉えてもいいのではないか、と思っている。

 クトゥーガに直接言ったら照れ隠しで殺されかけたけど。ツンデレめ。

 

 話を戻して、威嚇しているニャルさんとクトゥールを回収して、クトゥーガに今日何度目かも分からない問いかけをしてみる。

 

「クトゥーガはアザトボスは見てない?」

「……?」

「迷子になったみたいで、今皆で探してるの」

「……」

 

 火の玉の頭蓋骨がジト目になった。

 さっきのクトゥールと同じ顔をしている。クトゥーガのところにも来てないね、これは。

 

「それで、ニャルさんにアザトボスのところまで案内して貰っているんだけどね、なんか魔法陣からもアザトボスの気配を感じるみたいで、ここに着いたの」

「……ボボ、ボボボ」

 

 クトゥーガは少し考えるように動きを止めた後、炎が弾けるような音を出した。いやまあ、実際に炎が弾けてるんだけど。

 彼は着いてこいと言うようなジェスチャーをする。

 

 燃える頭蓋骨に飛び乗ったクトゥーガに着いていけば、そこには魔法陣があった。

 どうやら把握はしていたらしい。

 

 クトゥーガ曰く、少し前に人間がやって来て、この魔法陣を残して消え去ったらしい。

 縄張りを汚されたが、魔法陣に使われたのは血液で、少し時が経てば消えるものであり、またそれ以外で癇に障るようなことをしなかったので見逃したのだという。

 

 うーん、グレート・オールド・ワンのくせにマトモでなんだか凄い違和感がする。

 殺せよそこは。

 

 理不尽すぎるツッコミを心の中で入れていると、ニャルさんは魔法陣を嗅いだ後、「んにぃ」と不機嫌そうに鳴いた。

 ここも外れらしい。

 

 じゃあ、次は……と、考えていると、ココロモリが『テレポート』で跳んで来た。

 足のバッジからして、アーナム警察のバカナスさんだ。

 

「もしもし、バカナスさん。さっき伝えた件についてですか?」

『おー。あんな大金貰っちまったら手前さん動くしかねぇよなぁ』

 

 バカナスさんは自嘲気味に鼻で笑った。

 アーナム警察に裏帳簿に大金を送った甲斐があるってもんよ。

 

『んで、確認したけど……最近この地方で見かけねぇやつから賄賂を受け取ったとか、そういう話は聞かなかった』

「そうですか」

『ただ、気になる話は聞いたよ。最近グレート・オールド・ワンの棲み処を調べているグループがいるらしい』

「へーえ?」

 

「菴輔↑縺ォ? 遘√ち繝√ヮ隧ア?」

「るル?」

「……?」

 

『うおおびっくりした』

 

 「呼んだ? 今呼んだよね?」と私の背後からココロモリの作ったスクリーンを覗き込む3体に、バカナスさんはギョッとした。手に持っているお猪口に注がれた酒の水面がちゃぷんと揺れる。

 

『……え、なんでグレート・オールド・ワン揃ってんの?』

「まだ1体いませんよ」

『4分の3揃ったらそりゃもう揃ってんだろ……』

 

 バカナスさんが頭を抱えてしまった。

 

『嬢ちゃんアザトボス捜すって言いながらナニ、アーナム地方きっての激ヤバスポット巡りでもしてんの?』

「アザトボス捜してたら揃っちゃいまして」

『揃っちゃいましてじゃねぇんだよ揃っちゃいけねぇんだよそいつらデフォルメでバチクソに仲悪いだろ。特にクトゥーガとニャルテップは会わせちゃ駄目だろうが』

「あー……」

 

 クトゥーガはニャルさんを消滅させかけたことがある、というのは、実はアーナム地方の歴史書に載っていたから知ったことである。

 クトゥーガの縄張りで殺戮を愉しんでいたニャルさんに、縄張りを荒らされたと思ったクトゥーガはブチギレた。

 彼はニャルさんを殺そうと執拗に追いかけながらアーナム地方の実に半分以上を焦熱地獄に落とした火力馬鹿である。よく生き残ったな過去のポケモンと人間達は。ゴキブリ以上の生き汚さを持っているのもアーナム地方のらしさ(・・・)である。

 クトゥーガもこういう周りの被害を考えないところはグレート・オールド・ワンと呼ばれるだけはある。

 まあ、そんなこともあって、クトゥーガとニャルテップは「混ぜるな危険」ならぬ「合わせるな視線」のような冷戦状態。

 だって、目を合わせた瞬間クトゥーガ絶対にニャルさんに殴りかかるもん。私がはじめてクトゥーガのところに来た時ついでで殺されそうになったし、この歴史は事実で相違ない。

 

 じゃあ、何故今クトゥーガは殴りかかってこなかったのか、というと、私の存在があるからである。

 端的に言えば、クトゥーガは私を庇護すべき存在と認識しているからだ。もっと言えば「おもしれー女」や「友達」枠といったところか。

 

「まあ、私が間に入っていれば大丈夫じゃないですか?」

 

 入ってなかったらクトゥーガは間違いなくニャルさんを殺すために全力出すから。

 バカナスさんから『マジで頼むぞ手前さんまだ酒飲みてぇから』と念を押された。

 今度違法輸入した外国のお酒持っていきますね。

 

「じゃあ、最後のンガイに行こうか。クトゥーガも来る?」

「……?」

 

 通信を切ったココロモリが『テレポート』で消えた後、クトゥーガに問いかける。

 彼は少し体を傾けて首をかしげる仕草をしてみせた。

 

「いや、来たくないならそれでもいいけど。なんか流れ的に皆来てるし」

 

「ぅル゛る゛」

「に゛っ」

「縺翫>縺ァ~、縺翫>縺ァ~」

 

 「来んなよ。絶対来んなよ」とニャルさんとクトゥールがクトゥーガを睨み付ける中、ハスラマは「来い来い」と手招きをしている。うーん、愉快犯。

 

 当のクトゥーガはというと、顎に手を当てるような仕草で少し考えた後、「まあ気分転換も悪くねぇな」と着いてくることにしたようだ。

 

 クトゥールとニャルさんが盛大な舌打ちをした。

 ハスラマは愉しそうにクスクスと笑っていた。

 温度差が酷い。




・マドネス山脈
 モデルは「狂気の山脈」。勿論どんな山脈かは詳しくない作者の捏造と妄想で作られた山脈です。
 太陽光の届かない樹海で、かつ森の中を赤い霧で満たされているため、視界がとても悪い。また、他のグレート・オールド・ワンの棲み処と違って、ポケモンが普通に生息している。

・アセビ
 あと1体で旧支配者コンプリート。

・ニャルテップ
 昔、クトゥーガの可愛がっていた人間を殺してブチギレさせて死にかけた。それ以来、クトゥーガとは犬猿の仲。ちょっと遊んだだけじゃん……。
 ほんと事故って死なないかなといつも思っている。

・クトゥール
 クトゥーガとは兄弟のような関係。クトゥーガは昔から優秀というか、周りに意外と好かれるというか、一目置かれているというか、そういうところがなんか嫌いで距離を置いている。食わず嫌いとも言う。1回腹割って話し合うといいよ。
 ほんと1回ミスってアセビから怒られないかなと本気で思っている。

・ハスラマ
 愉快犯。

・アザトボス
 多分そろそろ会える。

・クトゥーガ
 分類  :せいえんポケモン
 タイプ :あく・ほのお
 通常特性:あかのきょうき
 夢特性 :???
 グレート・オールド・ワンの常識人枠。キレやすく我が儘、放置主義なところはある。また、情に厚く面倒見が良い性格をしており、マドネス山脈に光が届かないことを知った彼は自らが熱光源になり、生物が少し生きやすい環境を整えている。
 紳士的な立ち振舞いはかつてマドネス山脈の麓にあった集落の人間達に教わった。彼らを気に入っていたのに、彼らを遊び半分でニャルテップに滅ぼされた。気分としては大事に使っていたオモチャを横取りされた挙げ句に壊されて返ってきた感じ。当然ブチギレた。
 当時のアーナム地方の半分以上を焼け野原にして、這う這うの体で「外」へと逃げ出したニャルテップをアザトボスごと焼却しようとしたが、生き残りのポケモンに宥められて、「彼らの居場所を消さないために」とどうにもできない怒りの落とし所をなんとか見つけて、拳を降ろした。
 現在進行形で許していない。ニャルテップと死合う機会とかないかな、とどさくさに紛れてキルを狙っている。
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