主役になれなかった者達の物語   作:沙希

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ヴェント・カンパネラ

 

 

 

 

 

 脱獄してから、数年が経つ。その間に俺は前世の知識を頼りに、『亡国企業』と接触し、仮初ではあるが俺は奴らと仲間となった。最初の頃は仲間としては見られなかったがISの装備の開発に献上したり、俺が『新人類創造計画』に関与していたこともあって時間をかけることなく、受け入れられるようになった。亡国企業は、ありていに言えば戦争屋に近いところもあるが、根本的にはISに恨みを持つ者達の集まりであるため新人類創造計画を企てた糞野郎共とは大差はなかった。俺のいる立ち位置、明らかに悪役ポジじゃねぇかと嘆いていただろうが今の俺の有様を考えれば、悪役の立ち位置だろうが主人公だろうが知った事じゃない。こんな糞みたいな世界に逆襲という名の八つ当たりをするんなら、むしろ悪役になったほうがやりやすい。手に入れた掛け替えのない幸せを壊され、空っぽになり人生の負け犬になった俺には丁度いい役割だ。

 

 

 そしてある日、俺はある命令を課せられた。日本にいる、織斑一夏の行動を観察しろとの命令である。織斑一夏、インフィニットストラトスにおいての主人公だ。もう俺の認識では、作画と声だけの人間としか覚えていない。過去に姉のIS世界大会の日に誘拐したらしいのだが、俺は誘拐する理由が全く以て『意☆味☆不☆明』だと感じた。何でも織斑千冬の優勝を阻止するためだったそうだが、優勝しようが優勝しまいが埃程度のメリットもない。寧ろ、無駄な時間を使ったとしか言いようがないのだ。まぁ、そんなこと言っては織斑千冬がドイツに行くと言う切っ掛けがないではないかなんて言われるが、現実的に考えれば織斑一夏を誘拐して優勝妨害する理由はもう一度言わせてもらうが、『意☆味☆不☆明』である。書いた奴の自己満足、もしくはヒロインとの出会いやマドカというキャラを作るための切っ掛けを作るための裏付けだろうか。さて話を戻すが、正直織斑一夏の監視など、する意味など皆無だろうに。平和ボケするような日常で生きてきた人間が実はとんでも超人なんて設定、ある訳がない。織斑一夏を監視しろだのと、いったい何の嫌がらせなのだと思った。まぁ、結果的には引き受けるしかないんだけどな。

 

 

 日本の学校、織斑一夏が通っている中学に通い始めた。企業の連中からは目立つ事は避けろと言われており、幹部であるスコールからは『貴方は顔が良いんだから、隠した方がいいわよ』と言われているので、髪の毛を伸ばして出来るだけ顔を隠すようにした。まぁ、案の定誰もが予想できたと思うが入学して数日後に女どものパシリ扱いである。やれジュース買って来いだの、宿題を代わりにやれだの、意味のない暴言や責任の押し付けにマジでキレそうになったのは言うまでもない。そんな女に限って織斑の前では顔色変えて媚びを売っているのを見ると、反吐が出る。更には媚びを売られている本人はその女の本性すら知らないとまできたものだ。ほんと、糞くらえの世界である。正義感が強い?曲がったことが嫌い?ほんと反吐が出る。ISの世界にアンチヘイトが不要とかぬかす奴はいっぺん脳みそ取り換えた方がいいだろう。女尊男卑の設定があるのにアンチヘイトじゃないとかぬかす時点で、そいつ脳みそに蛆が湧いてやがる。

 

 

 

 

 そんで織斑一夏の監視から1年が経った。正直に言って面倒だ。織斑一夏に特に変わった現象が起こったわけでもなく女どもに囲まれてチヤホヤされ、くだらない事で友人らしき人物たちと燥いでいる光景を無限ループしているかのごとく目に焼き付けながら、上に報告していた。織斑一夏の監視になんの意味があるのか問いただしてやりたいくらい、面倒だった。月に2,3回くらい報告を済ませれば『引き続き、監視をしろ』などと言われ、月々報告していくたびに壊れたテープレコーダーの様に『引き続き、監視をしろ』と繰り返される。亡国企業の幹部共の頭もきっと蛆が湧いているのだろう。いや、年を考えれば普通に湧いていてもおかしくはないな。これがまだ続くのかと思うと、鬱になってしまいそうだ。

 

 

そんな事を口に出さず嘆いていたら、やたら隣の席の奴がブツブツと呟いており、そういえばクラス替えしたんだったなぁとか思いながら隣でぶつくさ言ってる奴に視線を向ければ、意外にもそこにいたのは凰鈴音だった。凰鈴音、ISでは主人公の二番目の幼馴染であり、ヒロインだ。作中では、あまり良い扱いを受けていない不遇なキャラ扱いされており、一部では『実は本気出していないだけだ!』とか言われている。そんな奴が、なぜ織斑のクラスではないのかと疑問を抱いたが、いまはこの女がブツブツと喧しい。何やら口ぐちから『一夏のバカ。……少しは寂しいとか言いなさいよね』、『わたし、魅力ないのかな』とか言っている。大声ではなかったものの、苛立ちの原因の名前を何度も呟かれれば、嫌でも声を掛けたくなる。とりあえず俺は―――――――

 

『少し、自分を変えるのもいいんじゃないか?』

 

 凰鈴音にコンタクトを交わすのであった。

 

 

 

 

 

 

『こ、こういう服は流石に初めてなんだけど』

 

『印象を変えるんだから、まずは形からだろ。普通に似合ってるぞ』

 

『そ、そうかな?』

 

 どうしてか、俺はいつの間にか凰鈴音と過ごすようになっていた。あれだけ主人公やヒロイン関連を毛嫌いしていたのにも関わらずだ。いや、此奴を毛嫌いする理由はどこにもないと思い始めたからだろう。思っていたよりも素直で、健気で、話せば分かる様な女だったからである。あと、時折見せる笑顔が可愛い。アイツがイジメられているところを助けた時、更に可愛くなったからな。キャラクターに良い印象は無かったのだが、二次元と現実とではかなり差がある程のヒロインしているのだ。そして俺は、そんな鈴の事が好きになっていた。

 

 

正直、苦悶した。四六時中、これからどうすればいいのか悩んでいた。自分の命が長くない事は分かりきっている。俺は正義側ではなく悪役側で絶対に倒されないといけない存在だという事も、好きになった女と共に生きてはいけないことさえも分かり切っている事だというのに、俺は苦悶した。俺がいま裏切れば、俺だけではなく鈴や周りの奴らまでもが被害に及ぶ。鈴だけでも連れていきたいが、アイツはそれを望んですらいないし、ましてや好きでも無い男から無理やり連れていかれても、嬉しくもなんともないだろうし、俺だって嫌である。

 

 

 アイツが織斑一夏を好いている事は分かっている。アイツの好意が俺に向けられていないことも当然だ。このまま逆襲という名の八つ当たりをして、鈴諸共傷つけることになるのは嫌だ。もう俺は、失いたくないんだよ。孤児院の人たちや子供たち、そしてエリーを失った気持ちをもう味わいたくはない。俺はそんな思いが頭を巡り狂わせ、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっと……………どれだけ分からない程長い間悩み続けた。

 

 

 うじうじと考えて女々しいにもほどがあるのだが、そうは言っていられない。俺が長生きすることが出来る様な可能性など万に一つもない。一人で亡国企業を相手に出来る力なんて、持ち合わせちゃいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――俺は決意するしか、選択肢がなかった。

 

 

――――――――だからこそっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、いいんだよ…………」

 

「―――――――え?」

 

 

 

 

 ISが存在する限り、いつの日か男女バランスが完全に崩れてしまうだろう。その可能性を限りなく小さくするために、俺はISという兵器の危険性と世界がどれほど汚いと言うものなのかと証明し、そして…………子供の未来が途絶えぬような出来事を起こさない為にも俺が完全な悪役になって、そして死ぬことで自分自身がそれを教え、伝えなくちゃならない。

 

「いやっ、ダメ!お願いっ、ヴェン!目を瞑っちゃダメ!誰か!誰かヴェンを、ヴェンを助けてっ!」

 

 ………………はははは、あぁ、ダメだなぁ本当に。カッコつけたつもりだけど、思い返してみればバカみたいだな俺って。だけど、もう伝える事は全て伝えた。これから先は鈴が先人となって、他の奴らに教え伝えていくはずだ。鈴一人じゃどうしようもないけど、時間が掛かってもいい。何時間、何日、何十日、何年経ってもいい。生きている限り、俺が伝えた全てを、お前は伝えればいいんだ。それで俺の役目は、終わる。

 だから最後に言わせてくれ。

 

 

 

 

 

「り……ん……。……………愛してる」

 

「―――――――あっ」

 

 

 

 

 

 愛しているよ、凰鈴音。他の誰よりも一番、愛してる。途切れ途切れの最後の言葉を囁き、小さな身体に引き寄せられ抱きしめられる温もりを感じながら、目を閉じた。

 

 





誰しも都合よく、平等ではない。

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