俺、星野賦埒那は今、受験に落ち高校に入ることができず、母から縁故採用で兄弟のマネージャー(アルバイト)をすることになっていた。
「死にたい」
「大丈夫よプラチナ。あの二人のマネージャーをできるのは貴方しかいないと私が判断したのだから、自身を持ちなさい」
運転も会話もできないマネージャーに何の意味があるんだ。そう問いかけたら母は「大丈夫、がんばりなさい」としか答えてくれなくなった。それでいいのか、よかねえよ。しかしいつまで愚痴を吐いていても何も進展しないし、母から言われたタスクをこなしていく。どうやら兄は登校初日で再開した学校の先輩の伝手で仕事をもらってきたらしい。急にできた予定をパソコンのスケジュール表に打ち込む。
「3日後、本読み飛ばしてリハーサル当日撮影。社長、この仕事受けるの止めましょう」
「大丈夫よ、がんばりなさい」
何が大丈夫なんだよ。ダメだろこれ。後頑張るのは兄さんであって俺じゃない。兄さんの演技は好きだ。普段の静かな兄が声を荒げたり、満面の笑みで喜んだりところころと表情が変わるさまは見ていて飽きないし、兄さんをよく使ってくれる五反田監督の作品はストーリーが良く練られていて面白い。だが今回兄さんが出演する「今日は甘口で」という作品は漫画は面白いらしいが、少なくとも母さんとアイと共に見たドラマは…まあ、良くは無かった。
「それじゃあ今日の仕事はこれで終わりだけど、まだ二人が帰ってくるまで時間があるからそれまでは此処にいてちょうだい。お給金は出すから」
「ちょっと待てよ。今日俺がやったことと言えば朝食と昼食を作って、二人とドラマ見て、さっきの1日分のスケジュールを入れただけだ。こんなことで仕事をしたって言えるのか」
「そう、十分すぎるわね。ちょっと色を付けておくわ」
「やれやれだぜ」
母さんは身内贔屓が過ぎる。
撮影は無事終わり、今回の撮影で演出をしっちゃかめっちゃかにし、共演者に暴言を吐いたりとやりたい放題の兄さんと合流した。
「どうだった?」
「それっぽく話題には出してみたけどスカだった」
他のスタッフにそれとなく弊社のアイの話を聞き、場を離れた後に壁越しに悪霊を出し盗み聞きをする。今まではアイの話を振るのは兄さんの役目だったが、マネージャー(仮)となった今回は堂々と現場に入れてそれとなく話題を出すのも俺ができるようになった。今作のプロデューサーである鏑木勝也はアイの話にもたまに出てきたし、何らかの情報は持っててもおかしくなさそうだったが、情報は得られなかった。
代わりに兄さんは恋愛リアリティーショーに出演することを条件に何か教えてもらえることになったらしい。復讐という点で見れば牛歩ではあるが、進んでいると言えるだろう。だが本当に兄さんの人生がこれで良いんだろうか。まっとうに生きれない俺と違い兄さんは復讐から足を洗うこともできる。なら今やってることは間違ってるんじゃないだろうか。
「アクア、これからは俺がやるから、アクアは…」
「何言ってるんだよ。別にたかだか恋愛リアリティーショーだし無理とかしてないから。それに俺が出演減らしたらお前がこういう現場に出ることもなくなって話が聞けるチャンスも減る」
そうやって兄は優しく俺の頭をなでてくれた。帰りの車の中で俺と兄は一言もしゃべらなかったが、その心は同じ方向を向いていた。すなわち、母さんを狙った犯人をやるまで自分たちは一蓮托生だと。
俺は車を降り兄さんと別れて運転手と同じ事務所の方へと歩いていく。しかし俺と彼の間に一切の会話は無かった。なぜならその人は俺にアクアのマネージャーを奪われたその人なのだから。