「ユニークスキルについてとは言っても、俺たちがこのことについて分かってることはほとんどないのが現状だ」
バスケットからひょいひょいとサンドイッチを取り出して頬張りがらお兄ちゃんは話を続ける。
「それはどうして?」
「そもそもこの名称で呼ばれるスキルを持ってるプレイヤーの数が少ないからだな。公表せずに隠してるやつなんかを含めればまだいるかもしれないが……」
「今、このアインクラッドでユニークスキルを持ってて、名前まで知れてるのはキリト君くらいなんだよ」
アスナさんがお兄ちゃんの説明に一言付け加える。お兄ちゃん一人しか持ってないスキル……ユニークスキル、か。
お兄ちゃんが『攻略組』の中でもトップクラスの腕前であることはログインする前から知っていた。他のオンラインゲームなんかでも催し物の優勝者などには固有スキルや称号が与えられることがある。そのユニークスキルもそう言った類のものなのかな。
「このユニークスキルには他にはない特徴がある。それは、スキルの発現条件が全く分からないこととそれぞれが唯一無二のスキルだってことだ」
「え、どういうこと?」
「例えば俺の持つユニークスキルはスキルは『二刀流』だけど、これは『全プレイヤー中最高の反応速度』を持ったプレイヤーに与えられるらしい。それ以外のことは一切分かってないな」
お兄ちゃんの説明に目を見開く。そんなもの、聞いたこともない。
「は、反応速度……? そんなのどうやって?」
「ナーヴギアの機能の一つなんだろうな。それを装着している人から伝えられてくる脳内信号を解析してデータを取ってるんだろうさ。こんなことができるのもフルダイブ技術ならではってことか」
神妙な顔でお兄ちゃんは言う。手に持ってるサンドイッチのせいで雰囲気が台無しなのがちょっと……。
でも、ナーヴギアってそんなこともできるんだ。痛覚と言いデータの解析と言い、VR機器にはあたしたちが知らないことが本当に多い。
「そして恐らくはその条件に最も見合ったスキルが与えられる仕組みなんだろう。それが俺にとっての『二刀流』だったわけだ」
お兄ちゃんはそう言ったあと「この説明で分かったか?」とあたしに尋ねてきた。今言われたことをちょっとおさらいしよう。
とりあえずユニークスキルの何たるかは少しだけ分かった気がする。ナーヴギア、というかSAOには個人の仮想世界における戦闘データ? みたいなのを解析する機能があって、そこで優秀な記録を持ってる人だけに贈られるスキル。それがユニークスキルというわけだ。だとしたらそれらから勝手に導き出される結論は……
「リーファさんも分かったみたいね。あまりにも発現条件が特殊すぎて誰にいつ現れるかが分からないの。そのスキルの効果を類推することはできてもね」
「……ですね。納得です」
「もしかしたら結局現れないままのユニークスキルもあるのかもしれない。それを決めるのはユニークスキルが発現したプレイヤーの意志次第だから」
アスナさんとフィリアさんの言うとおりだ。レアなスキルを持つプレイヤーが妬まれるなんてことはよくあることだし、発現条件がGM以外分からないとするなら隠すのも容易い。
「おかげで俺がエネミーに相対するときに出せるDPSは単純に片手剣使いの二倍だ。防御力を度外視すればバランスブレイカーに近い瞬間火力と機動性を見出せる」
「……それがお兄ちゃんの強さの秘密だったんだね」
なかなかに強引な納得の仕方だけど、あたしはとりあえず事実だけを受け入れることにした。いやーこうもサプライズが続くと対処法も雑になってくるよね。
「これ、一応他言無用で頼むぞ。まあここで他のプレイヤーと出会うなんてことはまずないと思ってるけど」
「もちろん分かってる。誰にも話したりしないよ」
あたしは笑ってお兄ちゃんとの約束を受け入れた。
お兄ちゃんはユニークスキルを手に入れられるほどの実力の持ち主で、それを隠すことなく戦うことを選んだ人だ。そうじゃないとフィリアさんがお兄ちゃんをあんな風に例えることはなかっただろうから。
その決断にはきっとたくさんの葛藤があったはず。あたしとの約束もそんな決意の表れなんだな、ってことは分かる。
――だからこそ、お兄ちゃんとの約束は守れない。嘘をついてごめんね。お兄ちゃん。
「だって、お兄ちゃんからのお願いだもんね!」
お兄ちゃんは苦笑いを返した。
その苦笑いはあたしが手に取った分でサンドイッチが尽きてしまったからかもしれないし、あたしの役目を少なからず察しているからかもしれない。あたしがあんまり嘘が得意でないことはフィリアさんもお兄ちゃんも分かってるだろうから。それはそれでもいいかな、なんて。
ユニークスキル。確かにすごく変わったシステムだ。プレイヤーたちの間から公平さを奪うあたり、あまり良い機能とは思えない。
でも外から来たあたしから見てみれば、ユニークスキルはこのゲームだからこその仕様のような、そんな気もしてしまう。流石にそれを言いはしなかったけど。
このゲームをクリアしたとき、その立役者となった人は多分リアルでも注目される『英雄』になる。ここにいる人たちはリアルから二年以上遠ざけられてしまっているから感覚が薄れてしまっているかもしれないけど、この事件が世間に与えたインパクトは凄まじかった。そんな事件の被害者がある人たちの手によって与えられたというのなら、注目されないわけがない。
ユニークスキルはそれを模した、『英雄』を自他ともに認めさせるためのシステム……なのかもしれない。考えすぎだったらいいな、とあたしは心の片隅で思った。
「――リーファ? どうした?」
ちょっと目線が何処かへ行ってしまっていたみたいだ。あたしは今の思考を気取られないように最後のサンドイッチを口の中に放り込んで言った。
「ううん、なんでもない。お兄ちゃんみたいにあたしも強くなれるかなって思って」
「なれるさ。どうせこれからも攻略を進めていくんだ。その中で自分の戦い方を見つけていけばいい」
お兄ちゃんはそう断言する。それはそれでなんだかむずがゆいような! でもそれを深く考えると埒があかなくなるので、あたしは今受けたアドバイスについてちょっと真面目に考えることにした。
「……戦い方、かあ……」
「リーファはここに来る前にも別のVRゲームで遊んでたんだろ? そのこと自体も驚きだったりするが……そのゲームのスタイルを踏襲してみるとかか?」
「うむむ……実はあの世界だとあたし片手剣使いだったからなぁ……。あ、でも普段の戦闘スタイルくらいは模倣できるかも」
アルヴヘイムにいたころの記憶を引っ張り出す。いや、つい何日かくらい前のお話なんだけどね。その間にいろいろありすぎて咄嗟に思い出すことができなくなってる。
…………うーん……。
「――殺し合い?」
「ん、なにか言ったか?」
「な、なんでもないっ!! 気にしないで!」
不意に口から出てきたのはとんでもない一言だった。き、聞こえてなくてよかったー……。
なんでそんな物騒な第一印象が浮かんでくるのか。魔法攻撃のこととか、空中戦のこととか、もっと話せることはあったはずなのに。どれもこれもこの前あのにっくきサラマンダーたちに延々追い回されたせい……ってだめだ。この話題は避けるべきだとあたしは判断する。
「今の探索とアルヴヘイムでやってることはほとんど変わらないよ。ところでさ。お兄ちゃんがさっきのホロウミッションで最後に使ってたソードスキルってなに?」
半ば強引に話題をそらす。当然お兄ちゃんはそれを察したみたいだけど、それ以上言及するつもりはないみたいで話に乗っかってくれた。
「あれか? あれは『エンド・リボルバー』っていう二刀流専用のソードスキルだ。二撃目が全範囲攻撃だから密集してる敵には有効なんだよ」
「おぉー、全範囲攻撃かあ……かっこよさそう! やってみてよお兄ちゃん!」
「か、かっこいい……? でもここじゃちょっと無理だな。かなり範囲が広いから他の皆を巻き込みかねない」
「そんなに広いの!? でもそう言えば、エネミーたちを横一線に切ってたあの光はただの剣閃じゃなかったような……」
「あれは二撃目の余波だな。威力を調整すればああやってエネミーたちだけに届かせられる」
威力の調整って……今までソードスキルは全力ぶっぱなしだったあたしはまた一つこの世界の常識的なソードスキル運用法(?)を学ぶ。
ということはつまりあのときお兄ちゃんは、自分からどれくらいの距離にフィリアさんがいてエネミーがあとどれくらいHPを残していて、という状況判断を完ぺきにこなしたってことか。
「なんかあたしの中でお兄ちゃんがどんどん別次元の人になっていく気がするよ!」
「ひどくないかそれ?」
お兄ちゃんの非難をあえてスルーして、あたしはおねだりする。これくらいなら大丈夫だよね?
「ね、ね。形だけでいいからさ。お兄ちゃんの剣裁き速すぎて見えないからそれくらいがちょうどいいよ!」
「そこまで言うなら……」
あたしのお願いにお兄ちゃんは頭をかきながら頷いた。立ち上がって背中に提げた二本の片手剣を鞘から抜き取る。
「形だけなら、こう、だ」
そして身体を弛緩させて立ち尽くすような構えを取り、言葉を発すると同時に挙動に移った。
ひゅん、ひゅんっとなにもない中空を剣が走る。身を翻しつつ二本の剣を平行に切りあげ、そのまま加速して一回転。交差するように切り下げられた剣が追随して隙間を埋めて、綺麗な円の軌跡を描いた。
――そしてあたしは一瞬でその動きに見惚れた。
「きれい……」
「そ、そうか? ソードスキルの動きを真似しただけだからそこまで迫力はなかったと思うけど……」
「全然そんなことないよ! えっと、なんて言えばいいんだろう……」
そこまでまくしたてて、あたしは言い淀む。この感覚を伝えるいい言葉は……
「……隙がない、かな。うん。お兄ちゃんの今の剣の振りかた。隙間なく完成してる感じがするよ。ソードスキルのアシストがあるときよりよっぽど分かりやすいっ!」
「完成、か。確かにこのソードスキルは二刀流を手に入れてからずっと使ってきてるしな。リーファはそういうのが分かるのか」
お兄ちゃんは感心したような、どこか嬉しそうな顔で笑った。それがあたしに向かってだということに気付いたとき、ぼんっと顔が赤くなるのを感じる。な、なんだかドキドキする……。
でも、さっきの剣舞を見た興奮はまだ冷め止まず、あたしを口を軽くする。
「あたし自身がそれに困ってるからかなあ。やっぱり経験がものを言うってやつなのかも。素振りでもやってみようかな……」
「リーファの感覚が本物だとするならそれはそれで効果があるかもな。まだここに来て間もないし、身体を慣らす目的でも悪くない」
「お兄ちゃん。いろいろ剣を振ってみてもらっていい? 見て勉強したいんだ!」
「俺のか? 武器種が違うから参考にならないと思うんだが……。まあいいか。」
別に断る理由もないようで、お兄ちゃんはまた別のソードスキルの真似をしてくれる。あたしがそれについてまた感想をつけてお兄ちゃんと談議して……と、休憩時間のはずだったのにあたしたちは大きく盛り上がってしまった。
そんなあたしたちを何も言わずに見守ってくれたアスナさんとフィリアさんには感謝しているし、二人で何か話していたようだったから窮屈な時間を過ごさせてしまったわけでもなさそうだった。後々ちょっと申し訳なくなりそうだったけど、安心かな。
「……リーファちゃん、実はかなり上手いんじゃない?」
リーファたちがソードスキル談議を繰り広げるなか、そっと声をかけてきたアスナにフィリアは同じく音量を抑えて返答する。
「……うん、上手いよ。このゲームにまだ、慣れてないだけなんだと思う」
「そうみたいね。キリト君の戦い方を見た人って、特になんにも感じないかレベルが高すぎるっていう感想しか抱けないかのどちらかに二極化しちゃうから。どう凄いかを説明できるだけでも相当出来ると思うわ」
盛り上がる彼らをアスナは見やる。リーファを全く侮っていない眼差しがそこにはあった。
流石は『閃光』だ、とフィリアは思う。一緒にボスクラスの戦いをして気付けたことを、今となりにいる人物はあのやり取りだけで悟ってしまったのだから。攻略組ギルドの副団長なだけのことはある、といったところか。
「ふふっ、このゲームに来たばっかりの人に後れを取ったら私たちの面目が立たないわね」
「私ももっと強くならなきゃ……あの子を放っておけないし」
「そうね、私からもお願いするわ。訳あってここにずっと留まってるわけにもいかなさそうだから」
「……戻るの? アインクラッドに」
フィリアの問いかけにアスナは少し間をあけてから言った。
「そう言うあなたは戻らなくていいの? アインクラッドから来た迷子さん」
「…………」
「さっき管理区で情報を見てたんだけどね、アインクラッドからホロウエリアに来た人は管理区から戻れるらしいの。リーファちゃんは残念ながらダメみたいなんだねどね」
フィリアは黙りこくり、その場にはリーファたちの盛り上がる声だけが届いた。アスナは嘆息してその沈黙を破る。
「――今は何も問い詰めないでおくわ。正直に言えばあなたに対してもまだ疑いが晴れない。けれどのっぴきならない事情かあってのことなんでしょう?」
「……うん」
「じゃあそれが一段落するまでは何も言わない。リーファの付き添いをお願いね?」
そうお願いするアスナに対し、今度こそフィリアは頷きを返す。
その頭上に浮かぶオレンジのアイコンを思い浮かべて、フィリアはアスナに感づかれない程度に、そっと口元を歪めた。
今度こそ脱線を繰り返さなかった気がします。
次回はセルベンティスの攻略にメインを置いていきたいですね。
さて、この小説の舞台となっているゲームのリメイク版『ソードアート・オンライン Re:ホロウフラグメント』が発売されるみたいですね。PVを見ましたところ、クオリティが上がっているだけでなく、新ストーリーも追加されているとか。是非皆さんも手に取ってみてくださいね(ステマ)
ゲーム版SAOをやったことがない人はヒロイン関連でSAOの五割は損してると思います。いや、冗談ではなく。
【設定・用語説明】
・エンド・リボルバー
二刀流の熟練度0で習得可能(最初から使用できる)
右回りに一回転しながら二本の剣を振り回す二連撃技。二撃目は全範囲攻撃。その利便性から威力は低めに設定されているが、それでも同レベル帯以下の敵には十分通用する。
・サンドイッチ
アスナ特製の一品。バスケットにいれておけばアイテムストレージを圧迫することもなく、手軽にたくさんの量を持ち込むことができる。
アスナのサブスキル『料理』のスキル熟練度はかの事件後もロストせずに残っていたらしく、今でもその味でキリトを虜にしている。